2020/08/15 のログ
ご案内:「空中水族館「星々の庭」レストラン 個室」にレイチェルさんが現れました。
ご案内:「空中水族館「星々の庭」レストラン 個室」に園刃 華霧さんが現れました。
レイチェル >   
空中水族館「星々の庭」。
近頃話題のこの水族館に今日、レイチェルは華霧を誘っていた。
温泉旅行で声をかけたあの後に、電話で彼女とスケジュールを合わせて、
何とかこの日を空けることができた。

このレストランは館内の入口からすぐ入れる所にある。
時刻は夕方過ぎ、空が暗くなって少し経った所。
館内は夜の部に向けて館内放送を流している最中だ。

今、レイチェルが居るのは館内にあるレストランだった。
この水族館のレストランは、通常のオープンなテーブル席もあれば、
少人数でじっくり話せる個室も用意されている。

店員に案内されて入ったのは、店の奥にある個室。
入れば手持ちのバッグを置いて、備え付けの椅子に腰掛ける。

レイチェルの服装は普段の制服と違い、ちょっと特別なものだった。

黒のTシャツに、スモークピンクのチュールスカート。
いつものツーサイドアップではなく、ポニーテールの形で髪を結んでいる。
完全なオフの日の、彼女の私服である。
いつもより少しばかり、大人っぽく見えるだろうか。



そわそわしながら腕時計を見れば、華霧との
約束の時刻まであと10分といったところだった。

待っている間、周囲を見やる。
中央に備え付けられた黒を基調とした木製のテーブルの上には、
少し暗めの照明を受けて光る白の皿とナイフ、そしてフォーク。

個室の奥には、大きな円形の窓がある。
そこからは見えるのは天を覆う深い黒の海を華麗に泳ぐ魚達と、煌めく星々。


――こりゃ、すげぇな……


正直なところ、レイチェルは少し気圧されていた。
星々の庭のレストラン。最近人気で、雰囲気が良いとは聞いていた。
こういった店に来た経験もそうそうなく、慣れぬ電話でおそるおそる
2名プランの予約をしたのだが。

まさかここまでのものとは。

特別なプラン、などと言う電話先の店員に対し、
とりあえずそれでお願いしますと、逃げるように電話を切ったのは、
1週間前のことである。

さて、そろそろ華霧は来るだろうかと。
レイチェルは腕時計と、閉められた個室の入り口を交互に見つめている。

園刃 華霧 >  
今日も今日とて風呂をねだったら、髪の毛を弄くられてしまった。
いや、待ってほしい。違和感しか無いからホント。
微妙にゲソっとした顔でも"そこ"にたどり着いた。

そして――

「いヤー……」

うわーと、間の抜けた声を上げてしまう。
こんな光景は初めて見る。

ガラス張りの天井。
漂う不思議な生き物たち。
幻想的、という言葉はまあまさにこんなのに言う台詞なんだろう。

そこに放り出されたいつもの制服姿の猫一匹。
……流石に場違いでは?
大体のことに無頓着な彼女も、流石にちょっと引け目を感じた。

そもそも制服って。
いや、私服なんて持っていないし学生なら制服が正装だしー、
とちょっと心のなかで言い訳。

まあなんにしてもトモダチに呼ばれて、OKしたのだ。
今更引くわけにも行かない。
始めてしまったら『続けるしかない』

……いや、今使う台詞か?これ

よし、女は度胸、とか言うんだっけ。
まあとりあえず、園刃華霧も度胸ってことで!

「よいっしょっとぉ! ……まだ間にあってルよね?」

案内されてたどり着いた、目的地の扉を開け放った。

レイチェル >  
場違い。そう考えているのはレイチェルもまた同じであった。
いつもなら安い店で、食事など済ませてしまうのであるが。

――ま、でもせっかくだし、いいか。

華霧を待つ10分の間。
色々考えて、やっぱり観念することにしたのだった。

窓の外に目をやれば、見飽きることのない幻想的な光景が
広がっている。輝く星を見上げながら、昨日の夜にひたすら
頭の中で浮かべていたことを思い返していた。

そうして。
勢いよく開け放たれる窓。

そちらを見やれば、レイチェルはいつも通りの笑顔を浮かべる。

「よっ、華霧。……いやー、ごめんな。何かもうちょい気軽に話せる……
 所だと思った……んだけど……」

申し訳無さそうに笑いつつ、座れよー、と声をかける。
そもそも、個室だというのも聞いていなかったのである。
動揺はさておいて、普段通りに相手と向き合うのだった。

「……って、あれ? 髪型変えたのか?」

園刃 華霧 >  
部屋の中は、外と変わらずやはりなんというか……豪華だ。
正直、質より量、とまでは言わないけれど。
食べられるならたくさんの方が良いや、な自分からすればまるで別世界なようなのは否定できない。

流石レイチェルちゃん。世界が違うぜ……って思ったんだけど。

「ァー……チェルちゃんも、よクわかラんで予約シたのネ……
 ま、新しいトコだし、仕方ない仕方ナい。」

ひひひ、とようやくいつも通りに笑う。
いつもの制服、いつもの笑い。
本当にいつもどおりである。

「……髪……そコは……触れナいで……
 いヤな思い出ガ……」

新鮮な髪型であったが、なにやら本人にとってはトラウマのよう。
なにか妙にげっそりした表情を見せた。

レイチェル >  
「ま、そういうこと。人気だって聞いたから予約してみたんだけどな。
 オレもこういうの慣れてねぇけど、楽しむことにした。
 今日はせっかく華霧と一緒に話せるんだからさ」

そう口にする。私服だろうが何だろうが、彼女は彼女。
いつも通りの笑顔と声色だった。

「っと、悪ぃ悪ぃ……でもいきなり髪型変わってたらびっくりするだろ?
 珍しいし。オレはその髪型も、似合ってると思うけどなー……」

と、ちょっと冗談混じりに、悪戯っぽく笑うレイチェルであった。
ひとまず、触れないでと言われたなら深くは触れないのである。


店員が水を運んで来て、メニューの説明をする。
やはり、出てくるのはコース料理らしかった。
最初は『生ハムのグリーンサラダ』らしい。
店員が去っていったところで、レイチェルは話を切り出す。

「そういや華霧、最近何処に居るんだ?
 女子寮も出て行っちまったし、どこで寝泊まりしてんの?」

素朴な疑問だった。
飛び出していって、牢獄に入って、それから。
まだ彼女の姿を、女子寮で見かけていなかった。
気がかりだったレイチェルは、心配そうな表情で彼女に尋ねる。

園刃 華霧 >  
「まーッタく、レイチェルちゃんにシちゃリサーチ不足ダなー?
 働きスぎじゃナいの? たまニは手を抜きナって。」

その原因の一つはおまえだ。
と言われそうであるが、そんなことは構わずに忠告をする。
相変わらず、猫は気まぐれでいい加減なのだ。

「ァー……ま、うン。
 別にアタシの趣味じゃナいしね……」

普段から髪の手入れなんかしないから、そりゃ確かにびっくりするだろうなあ。
今日も一応、人に会う用事があるからって風呂借りたらまあもう、ノリノリでいじくり回されたからこうなだけで……
相手は女だから!と言わなければ、控えていた妙な服まで着せられたかもしれない。

ああ、考えるだけで恐ろしい……

「お」

さて、そんなことよりも食事だ。
『生ハムのグリーンサラダ』、ということらしいが……
うん、生ハム。うん、サラダ……
……うん、高級なのはよく分かる。
……わ、わかるやい。

ちょっと悲しみを背負っていると

「え? いま?」

あちゃ、しまった。
そこ聞かれるか……

「ァ―……うン、まあぼチぼち……なんトかうマい感じニ?
 ヤってる。うん」

事実であって誤魔化しでもないが、なんとも歯切れの悪い解答。
そもそも適当な嘘をついても絶対にバレる。
なら、適度に誤魔化していくしか無い。

なにより、いまは落第街の娼館で寝泊まりしてます、とか言ったらヤバい。
絶対にやばい。

レイチェル >  
「ほんとごめんなー、次はもうちょっと軽い店にしとくから。
 ……まぁでも。ほんと綺麗だよな……」

そう口にして窓を見やれば、ふわふわと空を舞うクラゲが、
光りながら空を泳いでいる。薄っすらとした赤、青、緑、黄色。
仄かに色を放つそれらは、暗闇の中にあっても主張しすぎずに、
窓の外で漂っている。


「へー、ぼちぼち、上手い感じに……って。
 華霧~、なんか隠してるだろ、お前」

軽い口調で笑みを見せながら、
人差し指で華霧をピンと立てるレイチェル。
目の前の少女を、レイチェルはしっかりと見ている。
見ることにしている。あの時から、特に。

さて。そんな言葉をかけた後。
レイチェルは少しばかりの沈黙を紡ぎ、そして
こう問いかけるのであった。

「……あー、もしかして……彼氏の家、とか?」

園刃 華霧 >  
「ン―……マ、たまニはイんじゃナい?
 見た目は……マぁ、確かニいいシ。
 時計塔の夜景トはまタちガ……おット。」

あそこは生徒立入禁止でしたね。危ない危ない。
時既に遅し、な感じもするけれど。
うん、それにしても綺麗だなー……っと、ちょっと誤魔化しながら見回す。

いや、確かに見たこともない魚……いや、魚か?
なんかよくわからない生き物が、ピカピカとしたりしながら浮かんでる。
……うまそ……いやいやいや。

「ェ、いヤ。隠しテなンか……」

やばい、バレてる。いや、バレるってこんなもん。
そりゃそうだ。でも適当な嘘ついてもそれはそれでバレるし、後が怖い。
どうしたもんかなあ、と心のなかで冷や汗。

「……は? 彼氏の家?」

思わず間の抜けた声。
どうしてそういう発想になるのか。
あー……でも、そうか。りおちーが前にそんなこと話してた記憶もある。
そういうこともあるんだな。

情報更新、と

レイチェル >  
「……そうだな、たまには良いよな」

時計塔の夜景、という言葉にはおいおい、とだけ返しつつ。
二人で、幻想的な夜景を眺めるのであった。
その瞬間に、何となく。
きゅっと、胸が締め付けられるような感覚がして、
レイチェルは少し頭を抱えたのであったが。


「冗談だって、冗談」

思わず間の抜けた声を出す華霧を見て、レイチェルは可笑しそうに
微笑んだ。彼女の胸の内でふっと芽生えた、
あたたかな安心感。それを感じながら、少し視線を華霧から逸らすレイチェルであった。
あはは、と口で笑いつつ。



そんな話をしている内に、生ハムのグリーンサラダが到着する。
皿は二つ。分けずとも、そのまま食べてしまえるようになっていた。
なるほど流石、二人用の特別プラン。
こういう所に気を利かせてるんだな、などと。
一人納得するレイチェルであった。


「……で、実際の所はどうなんだ?」

それまで悪戯っぽく笑っていた彼女も、ここに来て再び
心配そうな表情を浮かべて、華霧を見やる。

園刃 華霧 >  
「そウそう」

夜景。昨日見たのは夜空だったか。
煌く星の眺め、というのも確かに悪くはなかった。
路地裏で眺めるよりかはよっぽどいい。

そして今は……
友達と眺める不思議な風景。
こういうのも、悪くはない。

「ったク。冗談きっツいナぁ、チェルちゃん。」

へらっと笑い返す。
前に温泉で彼氏話なんてしたもんだから、つい思い出に浸っちゃったのかねえ。
流石にそこに突っ込むのは野暮な気もするのでやめておく。
メシが不味くなっても悲しいものがある。

「ふー……ン?」

よし、本命、食事が……とど、いた……
うん。皿が一つずつ。量がまあ、微妙なのはこの際、いい。うん。

葉っぱにハムにチーズ……うーん。
高級……いや、高級なんだろう……うん……

「いっただキ……むグ」

早速手を伸ばしていただきます。
遠慮のえの字もないけれど、別に此処なら良いだろう。
で、一口いったところで、核心の質問。
ク、なんてタイミングだ。

あ……うま……
ごほん

「……ンぐ。ンー……知り合いのトコ。
 ちょっと、泊メてもらっテる。」

色々なところをすっ飛ばしているが、事実は言う。
「今は」確かに、泊めてもらっている。
嘘ではない。
「知り合い」まあこれも微妙なラインだけど嘘ではない。
何処、とは言えないが……

レイチェル >  
華霧がグリーンサラダに手をつけるのを見て、
自分も手をつける。一口、ぱくり。

――おお……うま……

思わず、胸いっぱいに幸福感が湧き起こる。
量はちょっとばかし少ないが、それも気にならない程だった。


「知り合いの所ね、そいつは良かった。
 もしそこらで野宿してるとか……最悪落第街の路地裏で寝てるとか、
 そういうことしてたらと思って、心配だったんだ。
 知り合いの所なら、まぁ……安心だな」

良かった。
本当に、心の底からそう思った。
目の前の相手には、危険な所に居て欲しくない。
そう、この相手は何処までも『危なっかしい』から。


「じゃあ、今度遊びに行っても良いか? 
 華霧の知り合いとも、会いたいからさ」

そう口にして、微笑むレイチェル。

昨夜。布団の中で随分と思い悩んだ。
牢獄の前でも、思い悩んだ。
星空の下の落第街でも、思い悩んだ。
ずっと、彼女のことで思い悩んでいた。

これまで、
自分は目の前の相手のことをどれだけ知らなかったことか。
だから今は、少しでも彼女のことを知りたいと思ってこその、
問いかけだった。

彼女の、本当の居場所になりたいから。

園刃 華霧 >  
とても純粋な反応。
ちょっと心苦しくもあるけれど、そんなところで心配もかけられない。
まあそのうちなんとか上手いことやって、平和に住めるようにするからちょっと待ってね。
そう思って、次の一口。

……ハムが薄っぺらいくせに、妙に塩気と旨味がする。
上にかけられてる粉チーズ? これもなんか其の辺のレストランとかのよりよっぽど味が濃い。
そのくせして、葉っぱ分であんまり塩っぱくなりすぎなくなってる……

く……これが、高級の力だとでも言うのか……!
まあでも、幸せだな……と問題を一瞬だけ投げ捨てて思っていたら。


「う……っ」

遊びに行っても良いか?……だと……?
しまった。其の攻撃は予想してなかった。
やめてくれ、其の攻撃はアタシに効く。やめてくれ。

……これは、誤魔化しきれないかなあ……
仕方ない……怒られ覚悟で白状するか……


「ァー……その、えっト……ァの……
 そレは、ちょっと……無理……ってカ……ぇっと……」

もごもごと、うまい言い方を探しながら口にしてみるが、
やはり何も思いつかない。
いや、此処で下手に誤魔化してもまたさらなる追い打ちが来るだけな気がする。
言えないところまで剥がされるのは本当にヤバい。


「ごめン……ッッッ!! 実は、ぇと……落第街の……古馴染みンとこ……いル……
 い、イや、ここ2日クらいの話で、もうコッチに戻るつもリだったンだ!」

凄い言い訳がましいな、と自分でも思ったけれど事実は事実だもん、と主張したい。
それ以前は、と突っ込まれるとヤバいんだが……ヤバいなあ……
これは、ちょっと色々覚悟をするべきか……?

さようなら……美味しいご飯……

レイチェル >  
「ちょっと無理って何だよ~……?」

彼女の言葉を受ければきょとん、と。
不思議そうな顔をするレイチェル。
華霧の事情を知らないレイチェルは、ただ純粋に心配する気持ち
で問いかけるのみである。

「落第街……か。
 そういや、昔、落第街に居たんだもんな、華霧は。
 ごめんな、さっき落第街で寝泊まりするのが心配、
 だとか言っちゃってさ。
 言い出し辛く、なっちまったよな……」

牢獄で彼女から聞いた話を思い出す。
何も無い状況から、足掻いて戦い続けて、
今のポジションを勝ち取ったのだと、そういう話だった。

「2日くらいって、その前は何処に居たんだよ?
 ……華霧。やっぱ、オレには話せねぇことなのか?」

そこまで口にすると、レイチェルは少しだけ視線を落とす。
ほんの、少しだけだ。

すぐに取り繕うように笑って、サラダに手をつけ始める。

園刃 華霧 >  
「ウぐ……っ」

ずきり、と何処かが痛んだ。

ああ……まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい
なんだ
アタシは何を間違えた。

まずい だめだ

「いヤ、ちが…… 一回、寮出て…… なンか、もう、戻らナい、みたイな、空気だシて……
 だカら、戻り、づらクて…… そノ、新しい、とこ…… 考え、て……
 探して、ルん、だけド…… そ、そロそろ見つカるはずダから、サ」

なんだかむちゃくちゃになっている気がするが、とにかく説明する。

嘘ではない。其の気はあった。
ただ、なんだか新しい所ちゃんと探す気にもなれなくて、なんとなくなあなあの宙ぶらりんのまま。
トゥルーバイツで過ごしていた時のノリのままに、ついつい過ごしてしまっていたのだ。

そんな半端な話、できない……と思っていたんだが。

レイチェル >  
「……華霧――」

ただ、名前を呼ぶ。
彼女の名前を、呼ぶ。

穏やかな声色。
しかし、真剣な表情でレイチェルは彼女を見ていた。

狼狽しているのは、見れば明らかだ。

きっと、どうしても言い辛いことがあるのだろう。
自分という存在は、まだ居場所になれていないんだ、と。
フォークを持つ手に、少し力が入った。
それは、自分自身への憤りだった。

それでも。だとしても。

積み重ねていくしかない。
今日は。今日から。

彼女の、本当の居場所になる為に。

守りたいと思ったから。
失いたくないと、そう思ったから。
だから、自然に言葉が紡がれる。


「――華霧」

もう一度だけ、彼女の名を呼んだ。
余計な言葉など、必要ない。
そう信じて、目の前の園刃 華霧と向き合う。
彼女と、向き合いたいから。
約束を、果たしたいから。

そうして、じっくりと目を見据えて、言葉を待つ。
彼女が言葉を紡ぐ時間を、レイチェルから送る。

ふわふわと漂うクラゲが、暗闇の中、光りながら二人を見守っている。

園刃 華霧 >  
「……っ」

なまえを よばれる
じっと みつめられる

ああ だめだ
これは よくない
まずい
まずいまずい
まずいまずいまずい
まずいまずいまずいまずい
まずいまずいまずいまずいまずい

……………
…………
………
……

園刃 華霧 >  
ゴッッ
 

園刃 華霧 >  
鈍い音が響いた。
頭が、テーブルに打ち付けられた音。
……静かに、顔を上げる。

「……悪ぃ。ちょっと頭冷やした。」

すっかり静まり返った部屋。
ただようクラゲの光だけが己を主張しているようだった

わずかの後――
物音に驚いてやってきた店員をぞんざいに追いやって、
それから静かに言葉を継ぐ。

「……で。ああ。
 出てからだっけ。しばらく、あちこちしてた。
 どこかいいとこないかなって思ったんだけど、いまいち真面目に探す気もしなくてさ。
 トゥルーバイツの時に、良いねぐらはいくつか見繕ってたからそこ使ってたよ。」

レイチェル >  
「お、おい? 大丈夫かよ……!」

突然頭をテーブルに打ち付けるものだから、
レイチェルは慌てて駆け寄ろうとするが、
すぐに頭を上げた彼女を見て、その動きを止める。

「そっか、トゥルーバイツの時のねぐらを、ね……
 そうか、分かった。ごめんな、トゥルーバイツの時の
 こと、そんなに言いたくなんか、なかったかな」

その言葉には、納得したように頷くも、内心は違う。

何処か『引っかかり』を覚えている。
いや、大きな『引っかかり』を目の前の少女から覚えている。

だから探るように、それでも向き合いながら言葉を続けていく。
今までだったらきっと、見てみぬフリをしてしまっていたのかも
しれないけれど、それでも。


「華霧。戻り辛いって言ってたけどさ。
 気にしなくたっていいぜ、そんなこと。
 こっちに戻ってこねぇか?」

そうやり取りをしている内に、次のメニューが運ばれてくる。
サーモンのマリネだ。パプリカも添えられている。
ことり、と置かれた皿を挟みながら、
レイチェルはそう語りかける。

園刃 華霧 >  
「ん、気にしない。へーきへーき。
 あとまあ……探すつもりだったのに、あんまやる気がしなかったっていう
 サボりっ気の方がいいにくかっただけだし。
 トゥルーバイツは……まあ、うん。悪くない。」

トゥルーバイツ。その過去は悪いものかもしれない。
それでもそれを否定したくはない。あれは、アタシの誇りの一つだ。
だから、結局つまるところは、それ。

自分の情けなさが身にしみるだけなのだ。

「んー……
 流石に、ちょっと同室の連中がな、ぁ……
 いっそ堅磐寮あたりが丸いのかなって思ったりはするんだけど。」

これも、そう。
なんだか綺麗に身辺整理した風に出てきたのだ。
流石に、顔を合わせるのは…… 同じ部屋に居なければいいんだろうか。

で。気づいたら、なにか魚っぽいものが置かれていた。
……刺し身?

「ああ……こっち、か。
 こっちといえば、アタシも後で話があったな。」

少し思い出したように口にした。

レイチェル >  
「そっか、それなら安心だ。
 トゥルーバイツでの経験だって、
 お前の歩いてきた道だもんな」

妙に気を遣って、らしくないことを言ってしまった。
調子が、狂っている。どうしようもないくらいに。
昨晩の『気づき』が。レイチェルの歯切れを悪くさせていた。

だから、改めてそう告げる。
彼女にとって、トゥルーバイツに居たことはきっと、
今の彼女にとって『かけがえのない』経験の筈だ。
彼女の過去を否定したくは、ない。


「堅磐寮ね、そいつも良いかもしれねぇな」

オレとしては、お前にこっちに戻ってきて欲しいけど、と。
小さく。本当に小さく、呟きつつ。


「オレに話? いいぜ、何でも聞くからさ」

話をするというのであれば、耳を傾ける。
思えば、これまでこちらから問いかけてばかりだったから。

園刃 華霧 >  
「ま……情けないお話。……あー……まあ、うん。
 正直、半分野宿みたいなもんだから……そこは。
 ごめん……心配かけた。」

改めて謝る。
だいぶ頭が冷えてきた気がする。
うん。ちゃんと話せる。

「……ま、寮問題は早く決めないとまた心配かけちゃうな。
 今のとこも長く居るのこわ…… 長く居ると悪いし。
 早々に決めることにはしたいね。
 ってか、堅磐寮、なんか不味い?」

堅磐寮、と言われてなにか表情が変わった気がする。
あかねちんが住んでたっテ記憶があるから、ちょっと候補に挙げてただけなんだけど……
それならちょっと考え直さないといけないかもしれない。


「あー……いや、な。クソ……キッドのやつが、人の頬叩いといて
 『刑事課に来ないか』なんてナンパしやがるからさ。
 どうしたもんかなーってね?」

流石に、それなりの案件なのでほいほいと行きまーす、なんていえない。
何処はに話を通すべきだろうし、それならまあ気安い相手が一番いいだろう。