2020/08/16 のログ
レイチェル >  
「いや、良い。華霧が安心できる場所に居るなら、それで――」

『オレは、いいと思う』。

――本当に?

声が段々と細くなる。
バレットタイムと恐れられる彼女の姿はそこになかった。
自らの感情に迷う、ただ一人の少女の姿がそこにはあった。

胸の内の感情と向き合いながら。
目の前の華霧と向き合いながら。

懸命に前を向いて、語を継いでいこうとするのだが、
喉まで出かかった言葉は、曇って音にならない。

「刑事課ね、そいつは嬉しいな」

そこで、刑事課の話を聞いて、驚く。
まさかキッドがそんなことを言っていたとは、
思わなかったのだ。正直、一緒に働けるのは本当に嬉しい。
一緒に居られる時間が、増えるから。
しかしレイチェルは、それを言葉にできないでいた。


頭を掻きむしりたい気持ちだった。
こんなに、言葉が出ないことなんて、
これまで、一度だって、なかったのに。

「……いや、堅磐寮は別にまずかねぇが……」

『オレは、良いと思う』。

――本当に?

頭を振る。

――そうじゃない。

華霧と向き合うんだったら、
居場所になりたいんだったら。
オレが正直にならなくてどうする、と。
彼女にばかり正直であることを強いて、
自らが自分を偽って、どうするのだ、と。

正面を見据えて、穏やかに言葉を紡ぐ。

「もし良かったら、オレの部屋に来てくれたら……
 嬉しい、オレは」

はっきりとした言葉だった。
弱々しい言葉では、既になかった。

園刃 華霧 >  
「……安心。安心、か……まー……うん。」

ぽつり、と口にする。安心……安心とは、違う。
単に、慣れている。分かりやすい。困らない。其の程度の話。
むしろ、安心とはなんだろう。

よくわからなかった。

「いやー、ムカついたから蹴っ飛ばしてやろうかと思うんだけどさ。
 アイツが惨めったらしく言うもんだから、まあ考えてみようかなってね?
 ただ、ほいほい場所替えってワケにもいかんし。
 そもそも、アタシはムショ上がりみたいなもんでしょ? そんな話とおんの?って気もするしさ。」

だから、まあ意見を聞いてみたかったりしたのだ。
割と軽く返事されているけれど、大丈夫そうなんだろうかな。
……なんとなく、いつもの切れ味がない気がする。
なんというか、精彩に欠けるというか。

「……チェルちゃん、調子悪いんだったら……」

そこまでいいかけて、提案。
ふむ。それは考えて……いなかったわけでもないが、そこまで甘える気はなかった。

「んー……チェルちゃんの部屋か。まあ、それなら悪くない……の、かな。
 すっごいファンシーそうだけど。」

けらっと笑う。
意外に少女趣味な友人の部屋は、踏み込んだことはないがきっとそんな感じだ。
思わず楽しくなる。

「ってか、チェルちゃん。まじで調子悪い? なんかさっきからおかしい気がするけど。」

ツッコミを再開。
そういえばさっきからある刺し身、食べてなかったな……

レイチェル >  
「体調、心配してくれてありがとな。でも――」

心の底から穏やかに笑いかけて、レイチェルは口にする。


「――大丈夫」

もう、嘘なんてつかないから。
もう、偽りなんてしないから。
もう、突き放すようなことはしないから。

だから、大丈夫。


しっかりと、彼女の目を見て、
レイチェルは言葉を伝える。
胸の内の思いを、音にして。

「……華霧。あのさ、聞いて欲しいことがあるんだ――」

この薄汚れた嘘だらけの道を、
正しい道《おもい》へ繋ぐ為に。


「――あの日さ。落第街で、オレが言った我儘、まだ覚えてるかな?」

園刃 華霧 >  
「ん……まあ、そういうなら……
 でも前の話、忘れてないかんな?」

大丈夫。本当に大丈夫だろうか。
特に、体調については。
以前もそれはつっこんだ覚えがある。

その時は、大丈夫、なんとかする、と。そういった事を言われている。
しかし、あんまり酷いようならいっそ無理矢理にでも休ませた方はいいのではないか。


「我儘? ああ、うん。覚えちゃいるけど……」

『親友』でいてくれ……いや、違った。
『お前と一緒に未来を生きたい』……だった、か。

なんだろう、改まって。
やっぱなし……って話、でもない……よ、な?

なんだろう、また何処かが痛む音がする。

レイチェル >  
「前の話、そいつはオレだって覚えてるさ。
 でも今回のこれは、そういう訳じゃねぇ」

体調の話。血を分けてくれるという話。
それの意味することだって、伝えなくちゃいけない。
でもその前に。
 
「……あれからずっと、考えてみた。
 やっぱ、あれが本当のオレの気持ちだった。
 オレ、華霧とずっと一緒に居たいんだ。

 親友っていうか…… 
 華霧の本当の居場所になれたら……
 いや、なりたいと思ってる」

真剣な表情で、レイチェルは言葉を紡ぐ。
それはとても拙かったかもしれないが、それでも紡ぐ。
今日までのこと、そしてこのレストランでの会話も振り返って、
その言葉を紡ぐ。

同時に、窓の外で光が放たれた。
音を立てて、閃光が広がる。
それは、夜空を彩る七色の花火だった。

園刃 華霧 >  
「……」

本当の居場所
未だに、考えることがある

――友達、とは、特定の行為を指すものではない。単なる『居心地の良さ』の名前だ

それなら、友達が増えれば居場所はなくならない、のだろうか。

居場所とは、なんだろうか。

まだ、答えはない。

だから、親友の其の申し出はとてもありがたかったし。
これ以上無いものなのだろう。

けれど だから

「うん、ありがと。
 無理はすんなよ。」


真剣な表情の其の宣言を、へらり、と受けた。

レイチェル >  
「いつものお前らしいな、その反応」

へらりと笑う華霧に、レイチェルもまた、ふっと笑い返す。
そうして、言葉を紡いでいく。きちんと、紡いでいく。

「オレがちゃんとした居場所である為にも、
 オレはお前のことをもっと知りたいし、
 きちんと話して欲しい。
 
 でもって、オレは、お前に色々なことを話したい。
 オレのことを、もっとな」

居場所になる為に。
一緒に居て。
お互い、もっと素直になりたい。


「今日、色々オレに話してくれたけどさ――
 ――本当の所、話してくれてないだろ?」

次の花火までの間、暗闇の中を。
うっすらとした光が静かに照らしていく。

園刃 華霧 >  
「ん?そお?
 そりゃまあ、いつも通りだもん。」

けらけらと、いつも通りに笑う。
何も変わらない。いつも通りに。
目はしっかりと前を見ている。

「ああ、うん。そうだね。
 『オハナシ』は大事。其の通りだ。」

うん、と頷く。
こればっかりはさんざんな目にあって覚えてきたことだから。
流石に違えることはない。
……といいたいところだが、さっきちょっと逃げようとしたのは事実なので反省はしたい。

だから、まあ素直にうなずいた。


「本当の、ところ……?」

あれ?
また なにか まちがえて、る?

レイチェル >  
「いつも通りだよな、本当に。安心するぜ。
 でもって、いつもより向き合ってくれてる気もする。
 正直、嬉しいぜ」

同じように、いつも通り笑う。
変わらずに、しっかりと華霧の方を見て。

「さっきさ、オレが華霧の心配してた時……
 何処居たのかって、話した時にさ。
 誤魔化し入れてたろ」

怒る素振りは微塵もなく、ただ申し訳無さそうに、レイチェルは
柳眉を下げて語るのだ。

 「あの時、すげー申し訳なく思ってさ。
 お前が端末持って落第街に居たあの日から。
 華霧の安心できる場所で居ようと思ってたのに、それが
 オレには出来てなかったって、改めて気づいたんだ」

胸の中の思いを、目の前の相手に零す。
なぜなら今、華霧は向き合ってくれているから。

園刃 華霧 >  
「あれ? アタシそんな向き合ってない感じしてる……?
 おぅ……ショック……」

サボって誤魔化して逃げてる辺り、だろうか。
それともあれやこれや……いや、普通にいつものことだろうか。
そう……だろうか。

ふと、テーブルに目が行く。
まだ手がついていない食事。
律儀に、持ってくるタイミングを図っているのか次は来ない。

……おなか、すいたな

「あ、ぐ……いや、それは……んぐ……あー……」

ああ そういうこと か
それなら安心した

「ちがう…… いや、その……変な、誤解与えそうで……言えなかったんだよ……
 要らない心配させそう、だったし……」

もごもごと、それでもなんとか口にする。
この件については、一番の大きなところは……"今"なのだから。
しかも、こんなところで口にしていいのか、という気もする。

レイチェル >  
「自分の胸に聞いてみな……マジで」

ずばっと真正面から言ってやりつつ。
肩を竦めるレイチェル。

次の食事が来ないな、と思っていたところに。
やって来たのは若鶏の味噌チーズ焼きだった。
結構なボリュームがある。
食いたきゃ食っていいぜ、と促しつつ。
自分も口にしながら、語っていく。
味噌とチーズ、合わないと思っていたが、これが結構美味い。

食べながら、言葉を繋げていく。

「『要らない心配』だろうが何だろうが、歓迎だっての。
 遠慮は要らねぇからさ。言ってみなって。……っていうか、
 言ってくれたら嬉しい、が正解かな。
 オレもお前にはもう、遠慮しねぇからさ」

遠慮しない。
それは先にも話に挙がった、かつての申し出のことも含めてだったろうか。
上手いこと『行為』を行う方法を、レイチェルは見つけていたのだった。
幾つもの本の山を崩した先にようやく、であったが。

園刃 華霧 >  
「うぐっ……いや、えっと……えー……」

ずばっとやり返された。
抵抗の声を上げようとしたが、途中で声は途切れていく。
うん、だめだこれ。無理。
この状態のチェルちゃんには勝てない。


「お、肉!」

鶏と味噌とチーズらしい。かぶりついた。
鶏と味噌とチーズの味がする。旨い。

ようやく一息がつけた。
やれやれ……

あとは……

「……あー、うー……わかったよ。
 そんかわし、変な誤解してひっくり返んなよ?」

一応、警告入れる。
内容が内容だし、どう思われるか……

「……今いんの、落第街の娼館だよ。普通にこっちの学生も来てるらしいし、多分誰か目こぼししてんだろうね。
 ……念の為いっておくけど、商売とか、してないかんな? ただ、ちょっと泊めてもらってるだけだから。」

大事な付け足しをつける。
言っておかないとどんなことになるかわかったものじゃない。

レイチェル >  
「……そっか、娼館ね」

レイチェルの中で全てが繋がった。
そりゃ言えない訳だと、レイチェルは申し訳無さそうに笑う。

「ま、正直なところちょっと驚いたけどさ。
 そういった施設に何も思わねぇ訳じゃねぇけどさ。
 
 けどま、何よりも嬉しいよ。
 それ、娼館に泊まってたのは本当のことなんだなって、
 しっかりと華霧の言葉から伝わってくる。
 そんな風に、本当のことを教えてくれるのが、
 オレは本当に嬉しいんだ。
 向き合ってる感じがしてさ」

ま、でも悪かったな、と。今一度謝る。
うん、本当に申し訳なかった。ごめんな、華霧、と。

「じゃあオレもちょっと恥ずかしいんだが……一つ、
 『申し出』の件で……その、伝えたいことがあるんだけど、
 いいか?」

そう口にして、華霧を見やる。
これまでだったらきっと、もっと言い淀んでいたのだろう。
しかし、レイチェルの心からは、既に壁がすっかり取り払われていた。

園刃 華霧 >  
「そういうこと。 あんま声高に話してもちょっとあれだしね……
 あと、まあ……純粋に違法かもしれないし……」

なんか小太り野郎だかが噛んでるらしいので簡単にお取り潰し、とかはないだろうけれど。
それでも、流石に恩人たちに不利になるようなコトはできるだけ慎みたい。
なにしろ、昔から色々な世話になっている。

「まあとにかく。ちょっと縁があったから風呂と寝床だけ借りたんだけど……
 ああ、そうそう。それでな。姐さんたちがうるさくて……お陰で、この有様ってわけ」

くせっ毛がちょっとだけ残ってはいるけれど、すっかり整えられた髪。
それをいじりながら、ぼやいた。困った姐さんたちだ。

「まあいいよ、隠したのはアタシだし。
 って……ん?」

『申し出』。
そんな言葉で思い出せるのはたった一つしか無いはずだ。
なにしろ、アタシからレイチェルちゃんに差し出せるものなんてそうはない。


「……なに? 」


少しだけ、姿勢を正して顔を見る。
やっぱり上手くいかなかった、まずい……とか、ではない……とは、思う……けれど。

レイチェル >  
「その、な……ぐっ」

そう言いかけた所で、店員が寿司と天ぷらを運んできたものだから。
一瞬、レイチェルは飯を噴き出しそうになる。
寸でのところで止めた。


「まぁ、その……何だ。これはさ、この場で
 お前が正直に言ってくれたから、そのお詫びっていうか、お返しな。

 オレの吸血ってさ……その、多分華霧が想像してるような吸血じゃ
 ねぇんだ。その何というか、それこそ娼館で行われてるような、
 アレに近いんだ。アレだよ、アレ……うん、アレ……。
 お互い気持ちよくなるっつーか、そういう……アレみたいな、うん」

流石に。流石に。
こんな素敵な水族館のレストランで直接的な発言はできなかったが、
それでも、相手にはきちんと伝わる筈だ。そう信じて、
恥ずかしさを振り切るように天ぷらを口にするレイチェル。
ぱりっと、衣がサクサクとしていてとても美味しい芋の天ぷら。

「……で、だ。そういうの知らずに、お前は血をくれるって、
 約束してくれたけど……それでも血、くれるか?」

こればかりは、視線を逸してしまう。
逸しながらも、しっかりと伝わるように声には出す。
大声という訳にはいかないが、最低限伝わる声量で、伝えた。

園刃 華霧 >  
なんか一回吹き出しそうになったぞ、大丈夫か?
そんなことを思いながら……

いや、流石に真面目な話に飯食いながらはダメだな。
ちょっと恨めしそうに天ぷらを眺めながら話を聞く体制

……あぁ……アタシのエビの足……


そして、語られる話に静かに……

「………」

静かに……
黙って、静かに、話を、き……く……

やっば、話の内容よりあわあわしてるレイチェルちゃんの方が面白すぎてダメだこれ。
いや、内容はちゃんと耳に入ってくるんだけど笑いがこみ、あげ……んぐ、んふっ、ぐふぁっ

「ひゃはははははは!!!!」

あ、やっべ。笑いが出ちゃった。
だって可愛すぎるだろう、これ!

「いや、ごめっ、れいちぇる、ちゃ、げほっ、んぐっかはっ……
 ま、まじめ、に、きいっっ……げは、ごほ、ごほっ」

ダメだ、落ち着けアタシ。だが、現実は非情である。
視線をそらし気味のレイチェルちゃんを前にして笑い転げてしまった。

ひとしきり笑ってから……なんとか呼吸を整える。

よし、笑いは収まってるな?
いいな、真面目にいけるな、アタシ。


「……いや、まじでゴメン。馬鹿にしたりとかするつもりはなかったんだけど……」

いや、これは本当に済まない、と思っている。
だから、割と真面目な顔で喋っている、はずだ。
……笑い、もう消えてるよね?

「今更、言ったこと撤回すると思う?
 アタシ、『馬鹿』なんだからさあ。其の程度で考えは変わらないよ?」

なんだ其の程度、である。
一回で命がなくなる、とかだとちょっとだけ困るけれど。
なにしろ、約束がある。
でもそうじゃないなら、まあ大したこと無い話じゃないか。

レイチェル >  
「だーっ! クソ! 笑いすぎ! 
 笑いすぎだっつーの! バカ!」

両手をぶんぶん振って慌てるレイチェル。
落第街の違反部活生が見たら、気を失ってしまうかもしれない。

しかしそんな姿を見せるのも、ほんの一瞬。
真剣な口調と眼差しで、次の語を継ぐ。 

「……本当はな、お前の生命を奪っちまう可能性もあったんだ。
 だから、頼れなかったんだ。
 でも、何とか方法は見つけたからさ。……あとはその、うん、
 アレ……してもいいのかなって……それだけ聞きたくてな……
 おう……」

アレ、の時だけやはり目を逸らすのだが。

本当は。
長い間血を吸っていない彼女の吸血は、
命を奪う危険性があった。
それを、書物を漁って漁って、何とかする方法を見つけたのだった。

「いいや、実のところな。お前が撤回するなんて思ってねぇ。
 とんでもねぇ『馬鹿』だから、きっと受けてくれるだろうと
 思ってた。でもさ、伝えなきゃフェアじゃねぇって思ったんだ。
 あそこまで真剣に、オレに声かけてくれたのに、そのへん全部
 誤魔化して甘えるのは、オレの性に合わねぇ」

天ぷら、食べてくれていいぜ、と促しつつ。

園刃 華霧 >  
「いっや、笑うでしょうそれ。
 あんまりにも可愛すぎ! 動画撮って公開したいくらいだった、うん」

やったら確実にしめられるのは間違いない。せめてファイルに収めたかったな……
それも無理か。無理だな。うん。

「はぁ……なるほどねぇ……
 そこで悩むってのはレイチェルちゃんらしいけれど。」

ひひひ、と笑う。
やっぱ恥ずかしいのかなあ。
まあ、そういうとこ可愛いっちゃ可愛い。

「あー……フェア、ね……そう、ね……
 フェアじゃない、か……
 まあ、そうかもしれない。」

フェアじゃない……か。
そうか。
そういうものか。

レイチェル >  
「動画は勘弁してくれ、マジで……」

やめろやめろ、と本気で拒否の姿勢を示すレイチェルであった。


「ああ。知らせないままじゃ、華霧を利用するようなもんだろ。
 オレは絶対そんなことしたくねぇからな」

重みのある声色で、華霧にそう伝える。
彼女の善意を利用したい訳ではない。だから、伝えられることは
全て伝えた上で、お願いをしたかった。

さて、少しすれば。
『デザートをお持ちします』と、店員が口にする。
喋ってから結構、時間が経っていてしまったのか、と
驚きながら腕時計を見る。


「いやー、喋ってたらすぐ時間経っちまうな。
 悪ぃ悪ぃ、手つけてない料理、あるだろ?」

申し訳無さそうに、レイチェルは謝る。
そして、それから今一度、真剣な表情をして。


「華霧。時間もねぇ。
 今日の内に、オレから今一度、しっかり伝えておきたいことがある」

そう、口にするのだった。

園刃 華霧 >  
「んー……まあ、レイチェルちゃんのことだから利用したって悪いようにはならんでしょ。
 ま、そこは義理堅いんだからしょうがないねぇ」

へらへらと笑う。
本当にこういうところ堅いんだから。
だから、アタシのほうがよっぽどロクデナシなんだ。

「ンぐ?」

さあ話は終わり、とパクつき始めたところで言葉がかかる。
さてはて、なんだろうこれ以上。

もうだいぶ話は尽きたと思うが……

レイチェル >  
「居場所だとか、随分と格好つけてたけどさ。
 そうじゃねぇな。
 お前を失いかけた時、本当に怖かった。
 二度と離したくねぇって、そう思った。

 オレの『全て』をくれてやってでも、
 お前が困ってたら助けたい。支えたい。
 そんな気持ちなんだ。
 
 だからきっと、これは……多分、その……
 オレ、お前のことが――」

流石にその言葉は、言い淀む。
先に言った、特別な居場所になりたい、という話――正直に話し合える関係でありたい、などと。
そんな枠組みをずっと先まで越えてしまっている。

正直、自分の中でもまだ、完全には決着のついていない
想いだった。それでも、この思いの端っこだけでも、伝えたいと
思っていた。いたはずなのだが。


ガラガラッと。
勢いよく個室の扉が開けられる。
そこに立っていたのは、皿に乗った大きな、苺のホールケーキ。

何が問題かと言えば。
そこにはでかでかとハートマークのチョコレートが乗っており、
そこには。



『華霧へ レイチェルより愛を込めて』



と書かれていたところだろうか。


『特別プランのケーキになります~。それでは、
 ごゆっくりお楽しみください~』

店員はケーキを置いていけば、にこやかな笑みを見せて去っていく。
その背中を見送りながら、レイチェルは遠い目をしていた。


――相手の名前を聞かれたのは、おかしいと思ってたぜ。
  この特別プランって……『そういうこと』か……

ぎぎぎ、と。
ぎこちなく首を動かして、華霧を見る。
同時に、花火が上がるものだからもう、この場に立っていられない
くらい恥ずかしかったのであった。

「……すまん、これはリサーチ不足だ」

園刃 華霧 >  
「おいおい、レイチェルちゃん。滅多なこと言わないほうがいいぞー?
 そういうのは馬鹿のやることなんだから。『全て』なんて」

へらへらと、笑う。
『全て』を求めるのは『馬鹿』のやること。
そんなに一杯あってもしょうがないっていうのにさ。

まったく、まさかそんな話だとはね。
けど、なんかまだ続きあんの?


と、待ち構えようとしたけれど。
なんかチェルちゃんが言いよどんでいる間に店員が来た。
デザート、さっきあったよな……?
ケーキ?


『華霧へ レイチェルより愛を込めて』

なるほど。


「ケーキじゃン。うまソうね。
 リサーチ不足ってことは、サプラーイズ、とかいうヤツなんかね?
 ひひ、ありがとな。愛してんよ」

けらけらと笑う。
いや、確かに驚いた、まさかデザートの後にケーキが待ってるとは。
いい親友だ。大好きさ。

レイチェル >  
「……オレも愛してるよ、馬鹿華霧」

――ま、このもやもやした気持ちは持ち帰りだな。

ふっと、笑うレイチェル。

『お前のことが』のその先。

続く言葉は、もう1度自分の気持ちと向き合って。

本当に伝える必要があったら、その時は、必ず。
きっと、伝える。そう決めたから。


本当に、爽やかな気持ちだった。
とても、嬉しかった。
こんなに華霧と正面から話し合えたのは、きっと初めてだったから。
今まで知らなかった、華霧の一面を知ることができた。

それだけで、本当に嬉しかった。
またこれからも、お互いに色々な話をして、過ごしていきたい。
そう、感じていた。
最後のアクシデントを除けば、良い食事ができたと言える。
満足だった。


それから二人で、水族館を見て回ることができたろうか。



そうして、別れ際。水族館の前で。

最後に、本当に最後に、
レイチェルは一言だけ伝える。

「さっきの話。オレの部屋、片付けとくから」

自分の部屋の合鍵を、掌の上に置いて差し出す。
受け取るにしても受け取らないにしても、レイチェルはそのまま
笑って去っていくことだろう。

園刃 華霧 >  
「んダよぉ……ま、『馬鹿』は認メるけどサぁ……」

ぶつぶつと文句を言う。
いい加減、髪の毛もしっとり感が抜けていつもの感じに戻ってきていた。
まあ、時間的にも頃合いかな。


でも、結局いったんだけど。
水族館は……うん、ダメだ。
アタシ、真っ先にうまそう……とか思っちゃう。
つくづく、向いてないねえ……

さて、そんな締まらないおデートの締めは


「ン……とりあえず、預かっとク」

差し出された合鍵を受け取った。
しげしげと見つめ……

「どースっかなぁ……」

ふむ、と考えたのだった。

ご案内:「空中水族館「星々の庭」レストラン 個室」からレイチェルさんが去りました。
ご案内:「空中水族館「星々の庭」レストラン 個室」から園刃 華霧さんが去りました。