2020/09/10 のログ
ご案内:「森の中の月夜見邸」に月夜見 真琴さんが現れました。
月夜見 真琴 >  
住宅街の外れ、森のなかに築かれた瀟洒な邸宅。
見目も内装も凝らされた職人入魂の一作。
川のせせらぎを聞きながら、閑雲孤鶴が棲まう場所。
一階のアトリエの他に、二階にはバーカウンター付きのLDK。

同居人が出来たいまこそにぎやかな居宅だが、
子女のためと買い上げた名家の手が入るまでは、
『出る』という噂もあったらしい。

ご案内:「森の中の月夜見邸」に園刃 華霧さんが現れました。
月夜見 真琴 >  
――見つけてしまった。

同居人。ルームメイト。
ひとつ屋根の下で暮らすにあたって、血縁も何もない他人同士が。
"相互監視"という題目があるとはいえ、領分の線引きは必須だ。
お互いを尊重し、過干渉を控えるからこそ共同生活は成り立つ。

ゆえに。月夜見真琴は大いに悩んだ。
自分の趣味にはくちを出されたくはないし。
たまに聞かせられないような寝言だっていう自分だ。
熟考に熟考を重ね、それから目を背けるか思い悩んだ。
しかし。

最近は、すこし。
暖かみを覚え始めた関係だからこそ。
彼女には、問わねばならない、と。

――そう思ったのだ。

月夜見 真琴 >  
二階リビング。
バーカウンターつきの小洒落たリビングダイニングキッチン。
暇つぶしにうってつけの、かつての家人が残した撞球台の横、
心地のよいソファセットにかけている同居人の前に。

「――なんだ、これは?」

神妙な。それでいて心配そうな顔で。
月夜見真琴は、"それ"を示した。
ハンガーにかけられた一式は先刻このリビングで見つけたものだ。

たとえば、そう。何か――共同生活で積もり積もった不満なのかな、とか。
片手には涼味の心地よいカクテルのグラスを手に、
傍らに立ちながら、そう切り出した。
からん、と。氷が擦れるとともに、紫色のマラスキーノが泳いだ。

園刃 華霧 >  
急に呼ばれた。
一緒に暮らしていればお茶でも飲もうか、とか
そういったこともよくあるし、特に警戒もなくそこに行ってしまった。
そして――

「……」

座り心地のいいソファに座っているはずなのに……
なんだろう。
まるで正座でもさせられている気分になる。


「い、イや、そレは……そノ……」


答えがしどろもどろになる。

"ソレ"が別に悪いものだとは思っていない。
もちろん、不正に手に入れたわけでもないし、罪の意識があるわけでもない。
ただ、その……
相手の静かな迫力に、なんだか押されてしまっていた。

月夜見 真琴 >  
「たとえば――おまえが」

首をゆっくりと横に振る。
冬の滝のような真っ白い髪がふわりと踊った。
そして、真っ直ぐ彼女を見据えた。

「こういう趣味だとかで、たまに発露するだろう。
 ああいう、心的な不安を和らげているだとか。
 それならそれで――いいんだ。人の趣味に口は出すまいさ。
 思考が霞む合法ドラッグ、および喫煙習慣などよりは全然いい。
 過剰な心配と言うならそうなのだろう、だが――」

ソファの背もたれにそっと手を添えて。
ちなみにアトリエ及び邸宅は禁煙である。吸うならテラスだ。
顔を近づけた。整ったその風貌。もう見慣れた同居人の顔。

「――正直に話してくれ。
 やつがれがおまえに、無用なストレスをかけてしまっているなら。
 すこしだけ、話しあおう。美味しい飲み物はまたつくるし。
 そうではないというなら、ただ、"趣味だ"と、いってくれるだけでいい。

 バニースーツが――すきなんだな、華霧?」

園刃 華霧 >  
「……いヤいやイや!?」

ちょっと待った、なんでそんな話に!?
おかしいおかしい。
趣味じゃない。いや、面白半分で着るのは嫌いじゃないけど!?


「ストレスなんて無いシ!
 ソレは、前!仕事で!手に入レたダけだっテ!?」

思わず力一杯主張してしまった。

月夜見 真琴 >  
「レイチェルと凛霞と三人ででかけたあとに、
 従容不迫に帰ってきて安心はしていた。
 件の"ことば"を言われずに事が済んだのだと安心はしていたが。
 やはりもうすこしおまえのことには、
 気を配っておくべきだったと――なに?しごと?」

しごと?って首を傾いだあと、持ってて、ってバニースーツを渡して。
デバイスを起動し、指を動かして当該の資料を探す。
どうやら見つかったらしく、わかりやすく「あ」って声を出して。

「なんでこんなおもしろそうなことを黙っていた!」

怒った。デバイスを置いて肩を掴んで顔を寄せた。

「ああもう――! これは不義理だぞ?
 こんなことなら担当委員にレイチェルを推奨していたものを!」

園刃 華霧 >  
「うひゃ!?」

え、まって
なんで
いま あたし なんで おこられてるの?

あ わかった
そりゃ あたしだって それ あう

「いや、待っテ、アタシも、急に、振ラれた、カら、
 マコトに、言え、ナく、て」

ぐわんぐわんぐわん
ゆれるゆれる
たす けて

月夜見 真琴 >  
「あ、いや――ちがう、そういうつもりではなくて」

驚かせてしまった。
落ち着かないと。グラスを傾けてから、ソファの隣に座る。

「声を張り上げてすまなかった。
 ……おちついて、ね」

落ち着かせるため、肩に手を置いた。
彼女はいろいろとまだ不安定だった。
つとめて柔らかく声をかけた。気をつけなければいけない。
もともと偏屈で、対人能力に難がある自分だ。
共同生活。相互監視。

「うん。そうだな。うまくいったようでなにより。
 おつかれさま、華霧――うん、任務のこと。そうそう言えまいな」

そういうと、バニースーツを改めて取り上げた。

「――なつかしいなと思って、な。
 変装して潜入とか、むかしはよくやってた」

園刃 華霧 >  
「ぁ、いや、平気……」

びっくりした、のは確かだけれど。
すぐに落ち着いたし平気平気。
まあ、アタシだって可能だったらチェルを巻き込んだりしたら楽しそうだとは思うし。


「ァ―……そーナんダなー……
 マコト、そンなイメージ……いや、あルっちゃあるか……
 マ、アタシも"演技"とカは得意だカら、たマーにやルけど……」

と言っても情報収集能力が高いかと言われれば微妙ではある。
あくまで潜入が得意、なだけである。

月夜見 真琴 >  
「うん」

微笑んで、うなずいて。
少しの間に、無言でみつめた。
――平気の、一歩、二歩くらいまで足を勧めさせる合間。
そうしていつもの調子を取り返すと、
筆を繰るように指先を振って、うたうように語りだす。

「――なるほど」

その言葉の一点に、それでも穏やかな微笑みが宿る。
ぽんぽん、と黒髪を軽くなでてやりながら。

「なにせ、変装して潜入する。それだけでまわりを騙すということ。
 ふだんと違う立ち居振る舞いをして、ばれるかばれないかの境をさまよう。
 じつに楽しい。 見て盗むのは、やつがれも得意とするところだから。
 ――そうだ、すこし待っていてくれ」

と、ハンガーを持ったまま不意に立ち上がると。
しずかにつぶやいて、自室のほうへ戻っていく。

月夜見 真琴 >  
 
 
「――たしか、あれがあったな」
 
 
 

園刃 華霧 >  
「ン……なンか……悪い。」

頭を撫でられながら、神妙にする。
些細なことかもしれないけれど、この同居人を不安にさせたのは確かだ。
もう少し気をつけないといけないな。


「ァー……マコト、そうイうの、好きソうダね……
 ばれるかばれないか、の境、ネ。
 アタシは、あンま気にシないけド……」

そして、待て、と言われれば。
ソファにちょこん、と座ったままおとなしく待つ。

月夜見 真琴 >  
 
 
「待たせたね」

バニーガールが戻ってきた。
 
 
 

月夜見 真琴 >  
キャスター付きの衣装ケースを彼女の近くに置いて。
撞球台の上に腰掛けて、タイツに包まれた細い御脚を組む。
兎のヘアバンドがぴくんと揺れた。
手袋の嵌められた手指で、そのケースを示した。

「開けてみろ」

そもそも酒が入っていい気分になっていたのも事実だった。
興が乗った。

園刃 華霧 >  
「……ハ?」

流石に、これは、予想外。
まさかの、バニー……
いや、でもちょっと可愛いな……?

同居人の思わぬ一面が見れたのはちょっと楽しい。



なに、この衣装ケース。
やたら大きいんだけど、どれだけ入ってるの……?
面白そうではあるけれど、反面、なにか怖い。

思わず恐る恐る開けてみる。

「……うワ」

月夜見 真琴 >  
「すこしばかり寸尺は違うが――概ね背格好がおなじとなると。
 こういう遊びもできたものさ。 うさぎさん、すきだし。
 おまえがもう少し服装に気を遣うなら、着回しもできようが。
 どうだった? ああいう格好も、新鮮だったろう?」

レジャー施設に遊びに行ったらしい時のめかし込みを思い出しながら。
組んだ脚をぱたぱたと揺らしながら、愉しげに。
やるとなればノリは良いほうだ。どうせ誰の目もないし。
キューを取り上げて、途中で終わっていた撞球を再開しようと。

「"うワ"はないだろう、"うワ"は。
 一回着たきり、クリーニングしてそれっきり。
 なんだか急にもったいない気がしてきてな?」

多くの衣装の数々――市井に紛れるための多種多様なラインナップだ。
たとえば一番上にはいかにも。
アングラなライヴハウスにでも居そうな、
露出の激しいレザーファッション。

「それとか、似合うと思うよ?」

キューにチョークを塗りながら、首を傾げて微笑む。

園刃 華霧 >  
「ァ―、まー…新鮮、だった、け、ど……」

少なくともあの格好自体は仲間には好評だった。
見た感じも……たぶん、まあ……悪くなかったんだろう。
まあ、着心地とか、そういうのは悪くなかった。

仕事以外で普通な服を着るのは割と初めてに近い経験だった。
正直、なれない感じもあって違和感は多かった。
……今後、なれたほうがいいのか。

「ァ―、いヤ。思った以上に、メちゃクちゃ、アるな……?」

示されたのは露出の激しいレザーファッション。
別に露出は気にしないし、まあアリ、なのか?とは思う……んだけど、
なんだろう。
センス、というか……ううん?

そして、ちらっと見る。
ナース
ファミレス店員
レースクイーン

……いかがわしい店の常連だったりしないか?

月夜見 真琴 >  
「仮面は多いほうがいい」

立てたキューを鋭く打ち込み、キューボールが空を舞う。

「というと、むずかしいかな。
 制服姿も、"園刃華霧"らしくて、よく似合っているけれど。
 いろいろとたのしめることを、ふやして、さがしていくといい。
 かわいらしかったし、あの二人と出かけるなら服選びなんかもあるだろう。 
 いずれはじぶんで選べるように――"じぶん"をみつけていく」

ガンッ、と高い音を立てて散らばったボール――ポケットに吸い込まれる。
それなりに巧い。暇だからよくやっているからだ。

「ゆっくりで、構わないから」

時間はたっぷりある。どうせいなくなりはしない。

「はっはっは。なかなか楽しい思い出ばかり、さ。
 むしろこんなもの、そうでもなければ着ないものばかりだが」

刑事課は荒事が多い。
大抵の潜入は諜報――というよりは摘発、逮捕のため。
であるのに解れ破れほとんどない数々を、
キューの先で指し示した。

「ほら」

月夜見 真琴 >  
 
 
「どれから着るんだ?」
 
 
 

園刃 華霧 >  
「ン……ぅ……んンー……
 ァー……そッカ……そウいう考エ方、あるカ……」

持ち物を増やすのは、あまり好きではなかった。
必要最低限を大事に抱えていればいいと思っていた。
でも……そうか。

増やすのも、ありか……?


「なンか……ナんだロ……ホント、節操ナいな……?」

なぁにこれぇって顔で眺める。
一体どれだけ仕事してるんだこの人。
あと、意外と楽しんでるだろう?

「ンー……」

仕方ないので、色々調べ始める……
んだけど、別に、「欲しい」ものはない。
というより、何を求めればいいのか、という思いもある。
そんな風に考えていると


――どれから着るんだ?

……なんだって?

月夜見 真琴 >  
「強制はしないさ。 でも、やってみてもいいと思うなら。
 やってみたら意外とたのしい――と、おもうよ。
 服選びは楽しいよ。それにおまえは、
 私服を着る暇がないほどの"風紀中毒"でもないだろうし」

さて、と撞球台から降りると、絨毯の上をヒールが叩く。
こつこつと近づいて、少し高い背丈になった腰を屈めた。

「事件はどこでも起きる、ということさ。
 刑事課も――いまはどうなっているかは資料で読むばかりだが。
 荒事もあるが愉快なことも多かった。 それだけ、ではないがな」

近くレイチェルがまた作戦行動に出るという話は聞いていた。
後ろ髪を引かれるわけでもないが、もう、そうして他人事のように語るものになった。
笑みは少しだけ、静かになり、そしてキューをくるりと回し。

「それで」