2022/02/03 のログ
レイチェル >  
そうして、彼の涙を見守りながら。
いつしか、『私』も、少しだけ気持ちを――瞳から零していた。
それは、何だっただろうか。

可哀想だと思う気持ち?

きっと、違う。そんなのじゃなくて。
もっともっと、こうして鼓動を重ねることで――
彼の中から伝わってくるもの。

そして、『私』の中で、共鳴するもの。
それが、何処までも悲しくて、何処までも切なくて。

何処までも、痛くて。

それでも。

何処までも暖かくて。

だからこそ。



少ししてから、涙ぐむ英治の耳に聞こえてくるのは、唄だ。
聞いたことのない、言語だろう。
それでも、恐らく子守唄らしいことは分かる筈だ。

口ずさむそれは、異国の――レイチェルが生まれた世界の、子守唄。
心のささくれを一つひとつ、優しく抜き取っていくような
メロディは、いつか母親が唄い聞かせてくれたもの。

雨が窓の外で激しく降っている。
屋内に響く雨音は何処か、落ち着いていて。
メロディと合わせて、穏やかに、ただ、穏やかに。

時を、気持ちを、流していく。

そう、降りしきる雨に唄えば――。

レイチェル >  
  

「――雨、朝まで止まないんだってさ」

響いてくる雨音。それを耳に聞きながら。
彼の痛みも虚しさも、涙の音に聞きながら。

ただそれだけを、口にするのだった。
 
 

山本英治 >  
優しい歌が。
慈しみの歌が。
泣いている子供のための歌が。

空虚な部屋を満たしていった。

 
世界は恐ろしい。
ふと気が抜いた時に牙を剥き、俺から何かを奪い去っていく。

それでも。
人生は失うばかりじゃない。
俺は色んなものを失ったけど。

───絆まで失ってはいないんだ。

レイチェル >  
時計の針は進む。ゆっくりと、しかし確実に。
朝日がやって来れば、吸血鬼の抱擁はおしまい。
子守唄は、いつしか鳥達の歌声に取って代わる。


去り際に言葉はない。
ただ、窓から差し込む光の中で、
ちょっと恥ずかしげに感謝の笑みを。


日が昇れば――また、明日はやって来る。

それでも、忘れないでいよう。
お互いに生きてるってこと。
いつだって、みんな繋がってるってこと。



彼は――山本 英治は知らなかっただろう。

空虚な心や失うことの痛みが満たされたのは、
決して男だけではなかったということ。  
 
 
さぁ、一緒に歩もう。夜は終わりじゃない。
新しい朝は、輝きと共に今日もやって来るのだから。
 

ご案内:「雨、降りしきる中で。」からレイチェルさんが去りました。
ご案内:「雨、降りしきる中で。」から山本英治さんが去りました。