2022/02/09 のログ
ご案内:「落第街 閉鎖区画」に神樹椎苗さんが現れました。
■神樹椎苗 >
――落第街。
そこは対外的には、存在しないとされる街。
しかし、そこにも当然、生きるヒトが居て、死んでいくヒトが居る。
――閉鎖区画。
暴動が起きたとして風紀委員らによって封鎖隔離されたこの場所。
すでに関わった多くのヒトが知る事になった通り、真相は暴動などではない。
違反部活が製造した生物兵器、その流出事故によって起きた、バイオハザードである。
■神樹椎苗 >
「――まあ、不愉快なのは同意しますよ」
帽子に耳当て、マフラーと、ちょっと不細工なネコのマスコット――ネコマニャンのポシェット。
そこにロリータ調の、ひらひらとした服装で、椎苗は閉鎖区画の中に居た。
「―――――――」
「いえ、今回はしい達の役目ではねーでしょう。
もちろん迷ったものが居れば送りますが――意外なほどいねーですね」
椎苗は足元に屈みながら、地面に落ちた小さな『種』を拾う。
この種こそ、この閉鎖区画が産まれた原因だった。
■神樹椎苗 >
――椎苗の恋人(本人はこの呼称があまり好きではない)に、閉鎖区画に関わる情報が渡ったのが、つい先日。
この一年近く、委員会の仕事から遠ざけてはきたものの、彼に情報が降りてこないわけではない。
心身共に万全とは言えない彼に、公安委員としての仕事をさせたくはなかった椎苗は、自分が代わりに調べてくると言って(かなり強引に)彼を説得したのだ。
「――まあ、適材適所、今回はしいが適任と言えますしね」
区画内の殲滅ではなく、調査というのであれば、それこそ椎苗は複数の意味で適任と言えた。
区画内を徘徊する無数の寄生体たちは、椎苗にはまるで近寄ってこない。
遭遇しても、遠巻きに迂回して離れていくだけだった。
■神樹椎苗 >
「それにしても、実に合理的ですね。
自由に動けない植物は、外力によって花粉や種を運ぶものですが。
たしかにこれは、効率のいい繁殖方法でしょう」
しみじみと感心する。
この種類は生物兵器となる様に過度な調整をされているようだが、そもそも寄生生物というのは、非常に理にかなった生態をしているモノが多い。
この植物もその例にもれず、とても効率的な繁殖を行っている。
「まあ、もちろん寄生される方にはたまったもんじゃねえですが」
椎苗が見上げれば、目の前には聳えるように大きく育った、赤い花。
すでに花には実を着けていて、まさに成長盛りと言った所だろう。
ご案内:「落第街 閉鎖区画」にノアさんが現れました。
■ノア >
区画内を徘徊する寄生体たちの動きが妙だった。
「……あ?」
音か熱にでも反応しているのか。その辺りは分かったもんじゃないが
人がいれば見境なく襲ってくるもんだと思っていた。
そんな寄生体たちを割るようにして一人の少女が歩いていた。
――あいつも寄生されてるって感じには見えないが。
「寄るもんじゃねぇぞ、そんなもん」
何かの要因があって襲われないとしても、実や種に直に触れればそうはいかないだろう。
お節介かも知れないが、細く小さなその肩を叩くようにして声をかける。
■神樹椎苗 >
「ん」
こんな場所でも、声を掛けてくるヒトはいるらしい。
声を掛けられ肩を叩かれれば、気だるげに振り返り――見上げる。
「気にする事はねーです。
それより――近づくとあぶねーですよ」
目の前にある赤い花――そこに実った実が、小さく震えだす。
次の瞬間には、その実は弾けて、無数の種をばらまく事だろう。
■ノア >
"あぶねーです"その言葉が聴こえたのと殆ど同時、赤く育った実が僅かに震える素振りを見せていた。
幾度となく観察しては焼いてきたが故に身体が勝手に動く。
「あぶねーのはテメェもだろ!?」
目の前の怪我だらけの少女を殆ど反射で抱きすくめるようにして、
装着した人工筋肉スーツのアシストに任せて地面を蹴って後ろに向けて飛びのく。
加減が効かずに後方の建物に背を叩きつけるような形にはなるが、種の届く範囲は脱するだろう。
■神樹椎苗 >
「あ――」
っという間に、椎苗は青年に掴まえられていた。
ぐん、と離れた赤い花は種を撒くが、残念ながらその飛距離は足りない。
「――ふむ、大陸系の軍用補助スーツの複製品ですか。
この島の人間にしては、なかなか上等な装備をしてますね」
抱きかかえられたまま、特に緊張も驚愕もなく、淡々と喋る。
なお、抱えられたまま壁にぶつかった結果、コキン、とやけに軽い乾いた音が鳴ったが、椎苗の右腕が半ばから折れただけである。
■ノア >
背を打った弾みで脳が強く揺れる。
軽い脳震盪に近い症状を引き起こしながらも意識は何とか手放さず。
「――生きてるか?」
怪我は無いか、と問う暇すらも無かった。
耳に届いた小枝を折るような音に腕の中の少女をみやれば半ばから折れてダラリと伸びた腕。
泣いたり叫んだりという素振りを見せず、淡々と喋る少女はどこか機械的で。
それでもしかと、腕の中に温度があった。
「まぁ、借りもんみたいなもんだけどな。
しかしこんなもん知ってるってぇと、アンタ何者だ?」
ここまでばっきり折れてっと添え木程度でどうこうできる物か?
……まぁやるだけやってはみるか。
■神樹椎苗 >
「死ねたら苦労はねえですね」
左手でぐい、と青年の腕を押しのけて抜け出すと、小さな足でとん、としっかり立つ。
「何者と言われても、しいはしいでしかねえです。
――ああ、右手は気にしなくていいですよ。
元々使い物にならねーもんですから」
包帯でぐるぐるに撒かれた右腕は、まるで何の意思も通っていない様に、力なくぶらぶらと揺れている。
折れて曲がってはいるが、血も出ていなければ、痛みを感じている様子もない。
「しかし、酔狂なヤツですね。
そんな装備をしてまでこんなところに来るなんて。
収支が釣り合わねえんじゃねーですか?」
高品質の装備には、それ相応の維持費というものが掛かる。
だからこそこの島ではそう言った高級装備というものはあまり浸透していない。
なにせ、異能と魔術が幅を利かせている島なのだ。
無能力向けの高性能装備は、そう多くの需要はないのである。
■ノア >
「死ねたら、な。最近の子供はどいつもこいつもませすぎなんだよ。
もっとてめぇを大事にしやがれってんだ」
腕の中から抜け出した少女を見やる。こいつも"不死"って奴か。
真夜といいコイツといい、死なない奴は自分の事を軽んじすぎる節がある。
「飾りみてぇなもんか……そんなら悪ぃけど手当は無しだ」
ぶらぶらと揺れる手を前にコートの内から取り出していた包帯の束を収める。
やるとしても急務じゃなけりゃ外に出てからだ。
「仕事だよ仕事。収支も何もそもそも大赤字だっての。
ただ金を惜しんで命を落とすなんてやってらんねぇだろ?」
知らねぇのか? 人って簡単に死ぬんだぜ。
死ねないと語る少女にとってはあまりに酷い皮肉になるかと思い、言いかけた言葉は飲み込んで。
刃物の類は分かりやすく無能力者や異能が非力な者達が好んで護身用として使う。
次いで銃器。わざわざメンテナンスの手間を考えれば落第街の連中や歓楽街のアウトローでも無ければ不要なものだが。
そんでコイツは、紅龍のおっさんが用意している物の複製品。
メンテナンスの手間も費用も並みの装備とは比べ物にならない。