2022/02/28 のログ
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』」に『調香師』さんが現れました。
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』」に黛 薫さんが現れました。
黛 薫 >  
きぃきぃからり、閑静な路地裏に車輪の音が響く。
月半ばには期末試験も終わり、解放感に満たされた
学生たちで賑わう歓楽街。しかし路地裏に入れば
表の喧騒も霞んで遠く。

賑わいから逃れるように、或いは静寂の先に待つ
香りに逸る気を抑えるように。自分のモノであり、
同時に心を持つ1人の友人が営む店へ。

「メロウ、いる?」

親しき仲にも礼儀あり。とんとんと2度音を立てて
ドアをノック。相手の返事を待ってから扉を開いて
ドアベルを囀らせる。

また1度の『3回目』を迎え、新しく願いの欠片を
貯め直す今日の来店はいつもと少し異なる節目。
区切りの『お願い』を自分が聞く番。人のためを
想う彼女が珍しく請うことを仄めかしていた。

同時に、長らく取り置いてもらっていた香水──
自分から見た彼女ではなく、彼女から見た自分を
イメージしたそれを購入すると決めた日でもある。

黛薫の装いは以前連れ立って買い物に出た日と同じ。
金糸の刺繍が入った黒ブラウス、いつものパーカー、
ベージュのコルセットスカート。普段より少しだけ
おめかしした形。

『調香師』 > 「居るよ」

今日もまた、ほんの僅かな隙間から香りが漏れる
それはあなたが知らない名前を持った芳香

扉の向こうから足音が聞こえる
車椅子が進むより、賑やかな程度
開かれるとともに、小さな音で鈴が鳴る

「来てくれたんだね。今日の為に」

お願い事をしたい、でもそれは学校ではダメかも
そんな風に伝えた訳だから、今までその内容は伝えてなかろう

普段は察しの良い貴女でも、勘付けないものだろうか

「前も見た。いひ、ちょっと大人に薫様
 香りもすぐに準備するね。だから、中に入ろっか」

誘おう。まずは、二人だけの空間の中へ

黛 薫 >  
「ん」

声を掛けて、声が返ってくる。特別な当たり前で
当たり前な特別。短く漏れた声は音の印象だけを
思うなら素気なく。けれど扉を開けた貴女からは
満足気に笑んだ口元が見える。

「そりゃな。折角メロウから誘ってくれたんだし」

密やかなお願い。人前では躊躇われること。
けれどお店の中なら──2人きりならば、と。
黛薫に秘めた言葉の内容を察した様子はなく。

それは迂闊に声を交わせない暗がりにいた期間が
長過ぎたからだろうか。或いは薄々察しているのに
予想と期待を取り違えたくなくて押し隠したのか。
いずれにせよ、見た目の上では平常を保っている。

「今日の要件は、まー事前に確認した通りだけぉ。
 学校で聞けなかったコト、メロウの『お願い』を
 聞きにきたのと。取り置いてもらってた香水の
 購入、あとマッサージに付随する色々、かな?
 あとコレお土産な」

『人の為』を旨とする店主は人の身体について
良く知っている。だから勉強すればリハビリも
手伝えるはず。前回はそんな話もしていたから
マッサージ周りの注文はやや曖昧に。

ついでにお土産はショコラショー用のミックス
スパイス。2月中頃のイベントに託けた土産だが、
安易にチョコレートを持参したとて知っている
香りしか提供出来ないのでは、と悩んだ結果。

『調香師』 > 「つまり、色々したいんだね。いひ、欲張り」

傾けた首で彼女は振り返り、笑う
そうして呼んだ意図とはと

平穏に事は進む。彼女が棚から香りを探している間に、
作業机にいどうした貴女は、机の上には不思議なものが
梱包の上からでも、このお店の香りの中でも、
目聡く、鼻聡く、彼女はそれを認識する

「薫様、それって?香辛料みたいだけど」

知ってる香りだが、知らない配分
これに合う物は...さて、何だろうか

考えて、棚を探る手が数秒止まる

黛 薫 >  
「欲張ってかなきゃもったいねーかんな、ひひ」

誰に似たのか、あまり上手でない笑みを漏らす。
それも本音だが、声音は少しだけ揺れてもいる。
欲張り過ぎたら相手の負担になるかもしれない、
控えめな躊躇いも心の内に。

「ホットチョコレート用のスパイスなんだって。
 常世渋谷に出かけたときシナモンもスパイスの
 一種だって教ぇてくれたろ。それ思い出してさ」

店を営む主人であり、友人であり、所有物であり。
特に貴女を『店主』と見ていた時期は毎回のように
お土産を持参する客は変ではないか、なんて悩みを
溢していたこともある黛薫。

色々理由を付けつつも、結局は日時を決めて会いに
来ようとすると、そわそわして何かしら準備したく
なってしまうから。これもまたひとつの楽しみ。

「今の時期……は、ちょぃ過ぎてっけぉ。
 この季節ってチョコが安くたくさん買ぇんのな。
 んでも、値引き品を土産にすんのは何かヤだし。
 そしたら丁度良く珍しぃ香りのが売ってて」

『調香師』 > 「バレンタイン、って言うんでしょ?最近聞いたんだ
 人を想って、贈り物を届ける日だって

 私はお店をしているし、届けられる物は香りしかないけれど
 あなたもあなたで『出来る事』...ううん、なんだかの感想

『したい事』として、そういうものを選んでくれてるのかな?」

ホットチョコレート、溶かし浮く甘めな芳香
言われれば、あぁと。確かに丁度良く合致する
口に入れずとも、調合は為される。彼女の特性

作業机の前に戻ってきた彼女は、小さな小さな瓶を机の上に
もっとも大切な場所に保管されていた瓶の中身は言わずもがな

「私の中で作られたあなた。今はまだ、名前もない
 生まれる前の香りだけれど、私は愛してるよ」

貴女に対して。だから、彼女は簡単に勘違いさせてしまうのかもしれない
『左目』をまっすぐと見つめる時は、前髪に隠れた向こう側でも捉えていた

黛 薫 >  
「そ、バレンタイン。大切な相手への贈り物の日。
 慣習的にはチョコを贈るのが正しぃんだろーけぉ、
 どーせ贈るならあーたが喜んでくれそーなモノが
 イィなって。だってチョコの香りはあーたなら
 大体把握してそーなんだもん」

机の上に置かれた小瓶。きらきらとひとつの色に
定まらないそれは『何も無い』を見る瞳を映した
水面を揺らめかせている。

黛薫は小瓶に向けていた視線を貴女へと移す。
何処となくじとっとした、物言いたげな目付き。

「それは作った香り、ひいては『人の為』に在る
 意味合いを愛してるって話?今だからイィけぉ、
 色んな客にそれ言ってたら、ふーん?ってなるな」

見つめ返すは透き通った蒼、南国の海底の白砂を
思わせる色の瞳。黛薫はただ目の前の美しい物に
惹かれてその色を選んだけれど……きっと2つの
瓶を並べたら、その色味は彼女の両目に似る。

「名前、考えてきてるよ。ちゃんと」

生まれる前の香りは、自分のためになる時を、
或いは貴女のためになる時を前に微睡んでいる。

『調香師』 > 「言っちゃダメなの?それはまた、どうしてかな...くひひ」

彼女の中には『意味』なんて物は無いのだろう
ただ、薫の感性をくすぐるように、目線に指を逆撫でただけ

このタイミングで笑う彼女は、きっと透き通る色でありながら、
その透明であるが故に。底の深さも、計り違える

待ち遠しいと、彼女は立ちあがって。てんてんてんと
一定のリズムで歩き出す。ゆっくりと、胎をあやす手の様に


「ねぇ、聞かせて。その名前」

黛 薫 >  
「ダメじゃなぃ。ただ、あっそ?ってなるだけ」

不機嫌さを交えた言葉は相反する気持ちの表れ。
留めおき、己の物として飲み干してしまいたい
独占欲。それなのに透き通ったその色を自分で
染めてしまうのが勿体ない。

揺らぎ、消えて、何もかも無かったことに出来る
透明な貴女を繋ぎ止める、虚空の瞳が瞬いた。

「"cohullen druith"」

「水底に沈んで、泡に消ぇるコトを可能にする物。
 手の内にある限り、消えてしまう誰かでさえも
 留めておける、約束の証」

歌声のように甘い香りが波に溶けて消えないように。

『調香師』 > 「忘れない?私の事を」

その距離は、その足音はいつの間にか隣まで
屈んだ目線は車椅子に乗る貴女と重なり

笑みはいつもより、彼女の『本当』を映してか、無機質な形

「ただの物に、いつかなってしまっても」

『心』が『メロウ』たらしめるモノならば、
それを失っても、貴女は果たして彼女に色を見出せるものなのだろうか

これは則ち、名付けに対してほんの僅かな抵抗でもある
その色にその香りに、その名前を付けて後悔は無いだろうか
自分の名前より、慎重に試すその姿。確かな『生』の足跡

貴女には、引き継げるだろうか、と

黛 薫 >  
「その覚悟がなかったら」
「あーしはきっと違ぅ名前を考えてたよ」

パーカーのフードに長い前髪。いつも視線を嫌って
顔を隠しがちな彼女の瞳はしかと貴女を捉えたまま。
彼女の心も、表情も『本当』を映して返すように。

交錯する視線の間を縫うように、傷だらけの指が
持ち上げられて──貴女の唇に、生まれた香りを
祝福する場所に、香りを覚えて刻むための場所に
そっと触れた。

『調香師』 > 「いひ。そう言ってくれてありがとう
 分かってる事だけどね。薫様、きっとずっと悩んだって事」

その指先に、祝福の形は甘えるような動きを感じさせはしたけれども
ニンフはそっと、その指先を払う

今回の香りで決めていた事。その『祝福』は、
貴女に直接、して貰うって決めていた事なんだ
冷たくも難解、それでいて雪の様に解けてしまいそうな、
人を飾る為の香りとは言えない位に儚さを抱くこの香り

唇から唇へ、直接伝う事は出来ようか

黛 薫 >  
「……カッコ付けさせてくれても良かったのに」

飾らない言葉で答えたのはどれだけ真剣に悩んだか、
その泥臭さを悟らせないためでもあったのだけれど。
己の態度の雄弁さを自覚しているから、目を伏せて
呟くだけに留めた。

退けられた指を目で追って、そこに確かな意図が
存在すると見て取った。食い下がることなくそっと
手を下ろし、机の上の小瓶と貴女を交互に見つめて。
貴女の視線が向かう先を追いかけて。

僅かな逡巡。傷付いた手指、薬指の先に巻かれた
絆創膏をそっと剥がす。小さな呟きと共に淡い光が
灯り、噛み傷を消し去った。

綺麗になった薬指の先を小瓶に浸す。あの日見た
貴女の仕草を真似るように、紅を引くように香りで
己の唇を柔くなぞって。

これで合ってる?と問うように小首を傾げた。