2022/08/13 のログ
ご案内:「夜の職員室-更に働く者達-」にシャルトリーズ・ユニヴェルさんが現れました。
ご案内:「夜の職員室-更に働く者達-」に東山 正治さんが現れました。
シャルトリーズ・ユニヴェル >  
常世学園の夜。

暗闇が続く廊下の中で、
ガラス窓からぽうっと唯一の光を灯している扉があった。

数々の机が並べられたその職員室は、
既に殆どの人間が去っており、残された者は僅か――いや。

窓ガラスから中を覗き見るのであれば、、
ぱっと見は人影が無いことが分かるだろう。

一見無人のようであるがしかし、職員室の
明かりはついたままとなっているようだ。

加えて、話し声などは聞こえないが、
時折、小さな物音が聞こえる気がしないでもない。

それにしても廊下から見る限り、どの席も空に見えるのは不思議である。

職員室で物音をたてているそれは、本当に職員なのだろうか――。

東山 正治 >  
東山は教員の中でも働き者だと自負している。
公安と教師の二足わらじ。目に出来たクマは伊達ではなく
これはれっきとした寝不足の証。
そして滅多に職員室に戻ることはない。
大抵は公安の仕事で缶詰だからだ。
つまり、大抵戻るとしたら、用がある時くらいだ。

「……?(明かり……誰か残業でもしてんのか?)」

廊下の奥に漏れる光。
間違いなく職員室の位置だ。
正直さほど珍しいとは思わないが
何気なしに覗いたガラス窓から人影は見えない。

「(誰もいねェ……けど、音はするな……)」

扉越しにでも聞こえる物音。
おまけに扉にカギはかかってない。
間違いなく誰かがいるだろう。だが、"誰"なのかが問題だ。
東山は面倒くさそうにため息を吐き、中へと入っていく。
昼間は跳梁跋扈の空間も、今や静かなものだ。
とりあえず、聞き耳を立てつつ物音へと歩み寄ってみよう。

シャルトリーズ・ユニヴェル >  
さて、職員室へと足を踏み入れたのであれば、
真っ先に目にすることになるのは珍妙な光景である。

『しゃーしゃー』
『るーるー?』
『りー! りー!』

扉を開けた東山の足元に、何やら小さな人影が――
直径20cmほどの人型をした者達が3体、口々に何かを言いあいながら
騒いでいる姿が見えるだろう。

その一つ一つの姿は、同僚のシャルトリーズに大変よく似ているが、
本人よりも更にぷにっとした顔や大きな瞳は、
かなりデフォルメがきいているように見える。

魔術の類について知識があるのであれば、眼前の光景が、
少々応用をきかせた分身魔術を行使した結果であることが分かるであろう。


さて、それらミニシャルトリーズが何をしているかと言えば、
床の上に小さな台を複数設置して、
その上で赤ペンを持っては丸をつけたりバツをつけたりしている。
どうやら、テストの採点を行っているらしい。

そして彼女たちは、東山が職員室に入って来たことに気づけば、
一斉にそちらを見上げるだろう。

『『『ひがしゃーま! ひがしゃーま!』』』

歓迎、なのだろう。
ミニシャルトリーズ達は元気いっぱいの笑顔で手に持っていた
赤ペンを放し、そちらを見て手を振っている。

『るー、るるー』

お疲れ様、とでも言いたいのだろうか。
各々が頭を下げてはまた手を振っている。

東山 正治 >  
「…………」

さて、誰もいない職員室の物音の正体。
それはもうミニチュアの同僚。しかも三匹。
なんだこれは、何を見せられているのだろうか。
顰めた眉のまま、思わず口元が歪む。

「シャルちゃんの子ども……な、ワケないか。
 ある意味子どもっちゃ子どもか?アイツ、孫悟空か何かかよ……」

幾ら人外と言えど流石にこんな瓜二つな三つ子がいるものか。
サイズで言えば妖精と相違無いし、子どもとは言えまい。
魔術に専門知識があるわけじゃないが、恐らくそれだ。
分身か、使い魔か。何にせよ確かに分身にやらせれば"楽"だろうな。

「はいはい、どうも。で、そこのちっちゃいの。
 でっか……くはねェけど、シャルちゃんは何処?」

何か微妙に舌足らずなのは多分仕様だと思う事にした。
一々、ちっちゃいのに目くじらを立てるほど子どもではない。
とりあえず、軽く手を振って小さいのに会釈すれば、ついでに尋ねる。
心配とかではない。当の本人の職務を分身にやらせ
その間、その当人が"何をしているか"が問題だ。
忙しいのはお互い様だが……。

「(なんとなーく想像はつくけどなァ……)」

普段の素行については、やや一考の余地あり。

シャルトリーズ・ユニヴェル >   
さて、東山がチビシャル達に会釈をしている最中、
背後から聞き覚えのある声がする。

「あら~、どうしたんですか? 東山先生!」

後方――そして不自然なほどに地面に近い方から声が聞こえることだろう。

「……って、あぁすみません。校内に生徒が残っていないか、
 巡回をしていたものでぇ~……」

職員室の扉を閉めれば、とことこと眼前へと回り込むシャル。
手に持った樽のジョッキに改めて口をつければ、
ぷはーと一息。
中身は、シャルトリーズが魔力回復の為と言って普段から飲んでいる薬だろう。

「夜の校舎って怖いですよねぇ~。
 東山先生が居るなら、一緒に行けば良かったですよぉ~!
 
 暗闇の中で二人きり……! 
 あぁ、なんてロマンチックなんでしょう~~!」

(飲酒もとい服薬により)赤く染まった頬のまま、
シャルトリーズは頬に手を当ててそんなことを口にしている。


「そう思いませんかっ! 東山せんせっ!」

謎の同意を求めてきている!

東山 正治 >  
そうこうしているうちに背後から聞こえた聞き覚えのある声。
無意識に苦笑いを浮かべたのはある意味脊髄反射だ。
振り返り、視線を落とせばミニーズの母たるご本人がそこにいた。
相変わらず、随分と小さな視界に不釣り合いなジョッキがお似合いだ。

「……幾ら残業中だからって、アルコールはどうかと思うよ?俺」

多分中身はそうじゃないが、敢えてそういう冗談を吹っかけておく。
とはいえ、傍から見ればこっちの常識で言えば立派な飲酒。
飲むな、とは言わないし東山自身も嗜むもの。
何より誤解されるようなことを教師をするのは如何なものか。
そう、思うところがないわけではなかったりする。

「別に。俺はちょっとモノを取りに来ただけ。すぐ帰るよ」

「見回りはご苦労さん。言っとくけど、俺は一緒にいかねェし
 大体何の同意だよ。寧ろ、暗がりの学校って普通は不気味って言わない?」

一体何処にロマンの欠片でもあるというのか。
こういうのは、特にこの時期は怪談など
背筋が冷えるようなものが相場と思っていたが……。

「小せェクセにキモは座ってんのな」

そういう意味でロマンを感じるなら豪胆と言わざるを得ない。
そう、本当にしれっと。しれっと言ってのけたのだ。

シャルトリーズ・ユニヴェル >  
「えへへ~、まぁ硬いこと言わず言わずぅ~。
 あまり真面目にやり過ぎてるといつかヒビが入っちゃいますよ?
 実際結構、東山先生のことは心配しているのですよ~」

てへ、と舌を出して後頭部に手をやるシャル。
御年68の女が繰り出すポーズであることは、
気にしてはならない。

「いやいや~、暗がりの中で男女が二人きりですよ!?
 密着ドキドキタイムですよ!?

 『シャルちゃんさぁ、怖いのか? 俺がその震えを止めてやるよ』

 『きゃっ、東山せんせっ……素敵……!
 そんなのダメです、もっと震えちゃう……!』

 みたいなトキメキトークが繰り広げられる最高の時間ではないですか!?」

ちょっと声を低く出して、彼の声色を真似ながら、
位置を入れ替えて一人で状況を伝えようとしている。


「ま~、真面目な話。暗がりとか薄気味悪い場所とかは、 
 結構慣れっこですから~。若い頃……
 特に20年ほど前は、結構そういう所に行ったもんですよ」

ふふん、と腰に手をやって胸を張る。
いや、胸を張っているのだろうが、体型的にお腹を突き出しているようにしか
見えないのだが。

そして。

「えっと……?」

彼がしれっと発した一言。それを受けて。

「東山先生? 今、何か……?」

夜の職員室の空気が、一変した。
彼女に『小さい』『チビ』はNGワードである。

慌てだすミニシャルトリーズ達。
髪の毛が逆立たんばかりの怒気が、
シャルトリーズの中で膨れ上がり始めている……!

東山 正治 >  
「余計なお世話だよ。テメェの体の事はテメェがよく知ってるって」

しっかりとギリギリの範囲でこっちは仕事をしている。
激務なのは自分が選んだ事だ。気にしてもいない。
文字通りの余計のお世話だ、と煙に巻くように肩を竦めた。

「…………」

苦笑。

「広がらないから安心しなよ。そう言うのが通じんの、互いに意中とかでしょ?」

それならワンチャンすらない。
無理無理と手を振って真っ向から否定。
そもそも、そう言った場所で距離を縮めるつり橋効果、だったか。
狙い目と言えばそうだが、そんな事をせずとも青春を目指すなら
夏はイベントが目白押し。教師として、あまり危険なイベントは進められない。

突き出しているない胸を見て軽く首を振る東山。
言ってしまえばそう、この空気を凍らす雰囲気。
そして、怒髪天をつくような怒気。
そう、人それを"地雷"というのだが……。

「『チビ』って言ったの。デケェのはキモばっかりで、それ以外はちいせェちいせェ。
 俺は別に、シャルちゃんの趣味にケチはつけねェけど、ちったァ鏡見て口説く相手考えたら?」

くつくつと喉を鳴らして笑う東山。
東山はこういう時煽ってくるタイプ────!

シャルトリーズ・ユニヴェル >  
「ふっふっふ、これから意中の相手になれば良いんですよぉ~。
 この夏はシャルトリーズの魅力をたーっぷりお伝えしますから~。
 ほら、どうですか? 夏祭りデートとかしませんか~?
 風船釣りとか射的とかしている内に、互いの魅力をキュンと感じて、
 そこからフォーリンラブ! みたいな?
 そして、あわよくばハッピーウェディング!」 

小さな顎に手をやって、ふふふと笑うシャル。
酒(薬)を入れすぎているのか、心の内に秘めるべき言葉がいつも以上に漏れ出ている!

 
「って、だぁぁぁれがチビですってぇ!? 
 この▲○○※■ーーーッ!! オラァーー!!」

地雷を踏み抜く東山に向けて、
小さい手をブンブン振り回しながら、子どものように怒るシャルトリーズ。
それを慌ててなだめるミニーズ達。

「ぜぇ……はぁ……
 ま、まぁ……職員室なので、この辺りにしておきましょう……」

胸の辺りを押さえながら、一息。
何とも忙しい奴である。

「ふふふ、まぁ……いつか東山先生をこのプリティさでギャフンと言わせて
 あげますから……覚悟していてくださいねっ!」

びしっ、と指を突きつける!
怒りはポジティブなアピールへと変貌した!

「あぁ、それから……ま、体調についてはしっかり自己管理されているとは
 思いますが、それでももし体調が悪くなったりお怪我をした時は、
 遠慮なく私の所に来てくださいね~」

そうして最後に、少しだけ真面目な様子でそう伝える。

東山 正治 >  
「まァ、言ッちまえばその通りだが万一にないから安心しろよ」

仮にもそう、意中の同士であればあるだろう。
だがそれがよりにもよって自分で、尚且つ人外(バケモノ)ときた。
万一に奇跡すら置きはしない。続く怒声にも、何処吹く風。
涼しいかをしながら嫌味な笑顔を絶やすことなく、内ポケットに手を忍ばせる。

「見たまんまだよ。……何処からそんな罵声のバリエーション出てくるワケ?」

これはきっと大勢のお子様にお聞かせできないようなものだった。
宥めるミニーズをしり目に、内ポケットから取り出したのは白い箱。
しっかりと銘柄が刻まれた古くからある地球製のタバコだ。

「はいはい、ご苦労さん。そんだけ元気がありゃぁ、残業も精が出るわな?
 というか、そっちのミニシャルちゃん達はちゃんと採点できるワケ?」

まだまだ夜も長い。
どれほど仕事をため込んでるかは知らないが
此れなら放っておいてもよさそうだ。

とは言え、残業するならするで仕事はキチンと終わらすべきである。
その術の精度が如何ほどかは知らないが
もし、採点ができるほどの知能がなければ朝までコースもあり得るかもしれない。
此処は嫌味ついでに言っておいた、というものだ。

どれほどそれが真の好意かは興味がない。
目の前でタバコを咥え、ジッポライターで火をつけた。
立ち上る煙と瞬く間に広がるタバコの匂い。
東山は、くつくつと喉で笑う。

「──────余計なお世話だって言ったろ?」

何を以て人間(オレ)を心配しているんだ、冗談じゃない。
こうなったのも、こうなってしまったのも、全部人外(オマエラ)のせいだというのに。
どろりとした悪意を喉奥に押し込めた笑顔に、立ち上る煙は不健全の証。
保健教師である相手にとっては、これでもかというほどの"拒絶の意思"に他ならない。
ポケット灰皿にタバコを落とせば、ちらりとテーブルを見やった。

「……で、実際仕事は終わるの?ちょっとだけ空いてるし、朝までじゃなければ手伝うけど?」

……まぁ、それはそれ。
東山は公私混同はせず、律を準ずる。
教師同士の職務の手助け位は自ら買って出たりはする。
どうするの?と、タバコを咥えたまま首を傾けた。