2022/12/01 のログ
ノーフェイス >  
「仮面……」

彼女の言葉のなかに潜んでいた単語が、いたく気に入ったようで。
みずからの細い顎に手が移動して、指がするり、と動く。
唇が笑んだ。据わりが良かったらしい。

「ああ。
 有名人、かどうかはともかくとして」

知ってる人は知ってるし、知らない人は知らない。
世界には娯楽が溢れ、安価、時には金銭すら問わずに選択肢が無数にある世界。
そんななかでふとみたチャンネルに映っていた存在。

「ちょっと廃墟を占拠して、ライヴをね――こう見えてミュージシャンなんだ。
 そして犯罪者であり、違反部活の一応の代表でもある。
 やってることは主に興行、商売の仕切り。
 前者はアーティストによるショウ、後者は表では売れないちょっといけないモノ。
 ショウの主役はボクがやることもあるがそうじゃないことのほうが多い。
 で、ちょいとハロウィンの近くにその模様を配信したらそれなりに顔が売れたの」

からからと笑った。
犯罪者なので大手を振って歩けません、とそれだけの話。
いま通報されればおおわらわ。そんな時でも鷹揚に。

「部活の名前は《夜に吼えるもの》。
 ボクの名前は《ノーフェイス/Knowface》。
 あの時キミと出会ったのは、あの時もいったように偶然。
 ――"仮面"が欲しくなったのは、ちょっと前に"作法"を教わったから。
 それがなきゃ、普通にボク用の香水をオーダーしてたかな」

埃っぽいやつを――なんて。

調香師 > 「部活の名前は《夜に吼えるもの》
 あなたの名前は《ノーフェイス/Knowface》

 その両方、私の知らないもの
 あなたは新しい人、なんだね?」

彼女の言葉は、少女の姿に収まらない程度の意味はある
違法部活。指を重ねて考え込む仕草には、嫌悪よりも懐古の雰囲気を含んでいた。当然、この場で通報するような素振りなんてない

「そっか」

『自分は落第街から随分と離れていた』と。思ってしまえば、自身の過去も不思議な事に『思い出』として浮かんでくるものなのである
あの街は、常に形を変えている。今の自分には、知らない事だらけ


その一方で、貴女の仕草や言葉遣いにもつぶさな観察を重ねる
ミュージシャンと言うからには、口にする言葉も無自覚ながら好悪が選別されるらしい
口が笑み、繰り返すのはその表現がいたく気に入ったから。うん、そのくらいはきちんと読み取れる

「ノーフェイスさま。あなたが欲しいのは、『似合わないもの』とはちょっと違うかもね
 本当の意味は『想像できないもの』。似てると思う?私は違うと思ってる

『想像できないもの』を想像しても良い、或いは可能性とも言い替えていい。例えば、『音楽と出会わなかったあなた』を想像してみてもいい

 今はもう、決して起こりえない可能性を香りは導き出す事が出来るよ。その仮面をどう生かすのか、どれ程本気でのめり込めるかは...あなた次第、だけれどね?」

ご案内:「Wings Tickle」からノーフェイスさんが去りました。
ご案内:「Wings Tickle」から調香師さんが去りました。
ご案内:「Wings Tickle」に調香師さんが現れました。
ご案内:「Wings Tickle」にノーフェイスさんが現れました。
ノーフェイス >  
「ついこのまえ、万聖節の前夜、二年生になったばかりさ。
 フフフ……そろそろ新人面が厳しくなってくる頃かなぁ」

新しい人、と言われれば、包み隠さずみずからの来歴を伝えた。
彼女の識る場所にはいなかったモノ。つい先日、一周年をむかえたばかり。
それを新たな風というのなら、そうなのかもしれないな、と――時の流れの違いがみえた気がして。
あくまで女にとって彼女は、『Wings Tickle』の調香師でしかなく。

「キミは、いつからやってるの?」

首を動かし、視線を店内へ巡らせた。
すくなくともあの時、来たばかりの自分よりは長く居るのだろうと。

「さま」

そわそわと肩が左右に揺れる。
ちょっと呼ばれ慣れない名前だ。

「――……」

続いた言葉に対して、笑顔がふっと消えた。
しかし開いたままの瞳は、一瞬のとまどいのあと、好奇心に爛々と輝き始める。

「ボクが欲しがってたのは、『似合わないもの』――要するに。
 "ノーフェイス"から遥かに遠いモノ、正反対のモノという"仮面"だ。
 キミはよくひとをみている、キミの瞳で……だから、
 その瞳に"仮面"のデザインをお願いしようと思っていたんだ、拝借する形になるケド……
 空想という石膏を削り出すナイフとしては、最適なヒトだと思ってた」

包み隠さない。
のは、彼女に問われるから。そして真摯な眼を観る。
創るモノに対してはこちらも真っ向から向き合って。
言い終えると、ひといき。

ぱん、と両手をあわせてから指を組む。
そのむこうには、信仰心があればOMG!とでも言いそうなほどの満面の笑顔。

「――その方向性は考えもしなかったよ!
 やっぱりだれかとのフリクションがなけりゃ、いいモノは産まれ得ないな。
 『想像できないもの』、ことば通りいまのボクにはまだ掴めてもいないケド、
 イイね! めちゃくちゃやり甲斐があるし、愉しそうだ――でも。

 だいじょうぶ? ボク自身、『音楽と出会わなかったあなた』なんて、
 お言葉通りに、まるきり想像ができないんだぜ……?」

ずい、と覗き込むように再び間合いを詰めた。
彼女はどのようにして、"決して起こり得ない可能性"の輪郭を示してくれるのだろう。

調香師 > 「生まれた時からやってる。本当はそう言いたかったんだけど」

困ったような、感情を誤魔化すような笑みが本当に上手な子供の姿だった
本当に忌むべき過去の記憶。それでも先程思い出した、懐かしさはあの臭いと共に

「私にも、『調香師』でなかった頃はある。その時の時間を先に延ばすように、そのような調香もきっとできる。やりたくはないけれど
 簡単じゃないのはその通り。私だって、口にするのは可能でも感覚として落とし込むのは苦労をする。だってやっぱり、ノーフェイスさまとはお久しぶりでしか、無いからね?」

このほの暗い部屋の端には棚がある。赤褐色の瓶の小瓶の羅列、彼女はそこには向かわない
彼女が立ち上がるとすれば、香りの方向が定まった時であって、今はまだまだ真っ暗闇

「今回でその全てが終わるとも思えない、かな
 あなたの好き嫌いからあなたの根本を探るように、言葉を読み取る必要があって

 ...でも、今日のあなたの目を見て確信したよ。この香りが完成するまで、きちんと付き合ってくれるんだなってね」

ノーフェイス >  
「いーんじゃなーい? ヤりたいこと、楽しいことだけやってりゃ。
 おさえつけられたり、抑制したりしてると、どうせいつかは爆発しちゃうもんだ。
 ……ボクがそうだ、ってだけなんだけどね」

組んだ脚をぷらぷらと揺らしながら、冗談めかして笑う。
少しだけ感情表現が極端だ。大仰なアクション。
何を考えているのか伝えようとすることで、却って真意が遠ざかるかのように。

「いま『調香師』であるキミは、人生の絶頂にいるかい?」

真に迫った問いではない。ただの世間話。

「三回くらい、来店する必要があるのかな?」

自分の唇を、指先がふれて、笑みの形をなぞった。
いったいどんなサービスを受けられるのだろう――なんて考えながらも。
当然だ。彼女はずいぶんと、面白い気配を提示してくれたのだ。
お互い生きてたら、最後まで。

「すききらいかぁ。
 ――ボクは自分がそこまで複雑な存在だ、とはおもっていないんだケド。
 挑むコト、試すコトはだいたいスキかな。言語化するのってむずかしーね……?」

なにをどういえばいいのかな。
逆にいえば、彼女が輪郭をおもいえがくのに、なにが必要なのだろう。

調香師 > 「三回で済むようにしないとね。お金と時間は大切だもの」

寄せた手帳に書き込んでいく。あなたは挑戦が好きな人
手帳から目線を上げる。先程から目に見える癖がある

ノーフェイス、感情は口元と手によくあらわれる
メモを重ねて像を作る。たとえ想像できなくても、
この香りは『あなたのために』。変わらない

「誰かの為に仕事ができる今
 私にとって、間違いなく一番大事な時間だよ

 逆にあなたはどうなんだろうね?
 違法部活であるくらいだから。それだけやりたい事だったのかな?」

違法部活。その言葉に怖気づく事もなし
これも今回知らないといけない一部分

ノーフェイス >  
「――誰かのためが、自分のためになる、か……」

ほう、と不思議そうに、少女を視た。
その後にすこしだけ得心したのは、出逢いの風景を思い出した。

――埃っぽい/廃墟で/拾い上げる、

「あぁ」

そのフラッシュバックに続いて、色々と納得して、フフフ、と一人で笑った。

「いまの部活をやることそのものがやりたい事だった、てのはちょっと違うかな」

返答に淀みはなかった。

「もちろん、素敵なショウをたくさん観られてお金もコネクションもつくれるなんてのは、
 出来すぎてるくらい有り難い状況だし、手伝ってくれてるヒトらやショー・マン、お客さん……
 みんなのおかげであるわけで、いい劇場がつくれている……とは思う」

続いて、内省に入る。はたして彼女の返答に対して適当ないらえは何か。

「地図にない日陰の街。 ボクはそこにまず向かった。
 いくあてのない美少女を優しい風紀委員が拾って正規学生にしてくれるかしら?
 ――て思ってたんだけど、まぁひどい有様だったよね、一年前はさ。
 風紀委員会とどっかの違反部活が戦争ごっこの真っ最中だった。
 ごっこ遊びに巻き込まれて、いろんなヒトが傷ついたり死んだりしてた。
 関係のないヒトたちもね。よくある話だ。本当に、今まで、どこにでも転がってるような話だ。

 ――まぁそれに胸を痛めたってワケじゃない。 
 ああこいつらこの時代でも変わらないなとは思ったけど。
 それを横から観てて思ったのは、
 "この島、どこに属してても本質的には変わらなさそうだ"ってヤツ」

表と裏、黒と白、なんて分けてはいるが――ナンセンスだ。
常世島。もっといえば、島を包括する地球。
変わってしまった、この惑星。境界線は、至るところにあるようで、ない。
表に在るものが正義で善、裏に在るものが不義で悪、なんてルールはない。
どちらかに帰属意識を持つ者からこそ、この島を腐らせる淀みが出てくるんだろうな――という思考は、
ミルクティーとともにひとくちで飲み込んだ。

「――そんななかでみかけたとあるコの、つまんなさそうな顔が。
 ボクがまずやりたいと思った"挑戦"の切っ掛けかな。
 いま、目の前が面白くなればいいっていうニンゲンであるボクが。
 あの地図にない街を、より楽しい場所にできやしないか――ってのが」

そして同様の、あるいは似た方向を向いてる連中を巻き込んでいくのが。

「ボクがやりたいことで、いまやってることでもある」

それは、彼女のように誰かのためではなく。
自分のためだけに行われている、命がけの本気の遊びだ。
満面ではなく唇に浮かんだ笑みに、
揺るぎない意志と、鎖に戒められているような炎のような活力が、ある。

調香師 > 「一年前は覚えているよ。多くの人は、きっと覚えてはいないけど」

少女は確かに認識する。この世界の、記録の無い場所
立ち入りの制限された向こう側の、人間を飲み込む場所の事

大きな破壊があった。それもただの一面にて
あの街の急所は何処にもない。そこは何事もなく、今日も生きている、知っている

「様々な営みを呑む場所で、より一層の輝きを求めていた
 理由は単純。そうしたいから。そうあればより楽しいから?

 あなたはとっても難しい事を志すんだね。自分が特別って訳じゃない、出来る限りをしようとする。ノーフェイスさまの目は、本当に熱いんだ」

調香師が探すのは『IF』
人生の転機が無かった貴女の姿

いま語られたそれらが、今目の前に居る道の手繰り寄せ
指を重ねる。幾度か見せた、考える態度

「あなたはきっと、なんにでもなれたんだよね
 きっかけがあったから、今があるんだろうね

 私の香りは、あなたの『人生』を剥奪する事を心掛ける
 でも分からないんだ。その目の輝きを奪えるか、隠せるか
 分からなくないんだ。きっとその色は奪えない事

 うん。ここは本質、香りの根柢。変えられないんだよね」

少女は納得する。『想像できないもの』であっても、それは貴女の人生の可能性だったから

ノーフェイス >  
「志とか願いとか、そういう大層なものじゃないかな。
 なにかやだれかを変えてやろうだなんて、思い上がることもしない。
 でもなにかを成し遂げたときは、ばかになっちゃうくらいにきもちよくなれるでしょ。
 キミだと、会心の出来、お客サマの……たとえば笑顔、ありがとう、だとか?」

自分にとって、"それ"がそうなのだと。
壮大なサーガを描くつもりも、なにかを背負うつもりもなくて。
心の求めるままに生きているだけなのだ。

"挑戦"は、大局的にみたときに些細なものだって、いいのだ。

「生きることを、ルーティンワークの連続にしたくないんだ――今は、ね。
 多感な十代、激しく熱く生きたいじゃない。せっかくなんだから」

いつか、そうなってしまうのだとしても。
なにかを懐かしむようにして、少しだけミルクティーの水面のむこうになにかを覗いた。

「どうだろう」

なんにでも――何色にもなれたのか。
それは分からなかった。
いま、他の何色かになろうとする前には、自分以外になりたいなんて考えもしなかったのだ。

「――うん」

切っ掛け。間違いなくあった。
人生のなかで、転換点となった"事件"。

「ボクの積み重ねてきたものを剥ぎ取った先に残るものが、
 キミが"もしも"を削り出すアリアドネの糸になるのか……、なんかアレだな……
 いまから解剖されますーって動物に意識があったらこんな気持ちなのか……?」

別に嫌ではないのだが、なんか少しむずむずする。
キャトル……ヒューマン・ミューティレーションか。

「…………そうだなぁ」

この瞳の色、輝き。
変えられない本質。

「奪われず、これがボクのうちがわの宇宙に燃え盛るままだとしても。
 たとえ、これがボクのものであることを誰にも変えられないのだとしても」

そこにもしもがあるとすれば。

「抑えつけることはできるよね」

本質を隠して、あるいは抑えて生きているニンゲンも、沢山いるだろう。

「在りたいことを望まれず、こう在ってくれと望まれて。
 きっとアレが起こらずに……いや。
 そのまえから、音楽に出会えない可能性を歩んでたら?
 みずからを鎖で戒め続けてたボクがいたのかもしれないな」

天井をみあげた――はじめて視た気がする。

調香師 > 「抑圧、制限。したくないって言ったのは、あなた自身だよ
 でも確かに、コンセプトとしてはきっと悪くないのかもね

 あなたの爆発がより大きな活力になるのなら。それを呼び起こす為に、あなたの為の仮面を、封印を、香りを作る事も出来る
 私の香りを過去からの刺客として、鎖としてノーフェイスさまを縛る」

『今』は勿論変わらない。故に、その沈黙の香に火薬は必要ない
それが必要ないと、自分は直感した。調香師は自分の感覚を信じている

「解剖も確かにしているけど、私が心掛けている事はあなた自身の反省なんだからね?
 そのカップの中に、今見上げた天井に、何が見えているのだとか

 私は判断するけれど、解釈の基準はいつも相手の人だもの
 だから。意外と感謝って興味が無いんだよね。私はいつだって、私の満足を優先してるもの」

くふふ。また笑う声

ノーフェイス >  
「ロックミュージシャンってのは不当な抑圧に抗うものだからさ。
 ……そういうひともいます。ボクもそう」

したり顔で言ってみせてから、慌てて補足。
全員が全員そうではない。うっかり誤った認識を植え付けるところだった。

「ただ、したくない――しない、と決めたのは、ボク自身。
 キミは、キミ自身が望んでそこにいる?」

漫然とそうしているのではない。
抑圧、という選択肢があると認識した上で、していない。

「ふぅん……?
 つくりだすことそのもので、キミが満たされることで気持ちよくなれるなら。
 それじゃあ、もっとイイものがつくれるように協力は惜しまない。
 でも反省ねえ、実のとこ、あんまり過去を顧みたりって経験もなくて。
 ……最近ちょっと体調が参っちゃった時には、そういう風にもなったけど」

思ったよりも難航する。彼女には、自分が見えている以上に輪郭が見えているのか。
音楽に出会えなかった自分。抑圧を選ぶ自分。周りを気にする――――……

「…………香り、って凄いよな。
 やっぱりニンゲンも動物だからかな。
 ほんの僅かでも、すきなひとのそれに包まれるとぐっすりねむれたり」

顎に指がかかる。じっ、と彼女を見据える瞳。
だからきっと、彼女の言葉は比喩ではない――それだけの力を持っている。
そんな作品を"創る"ヒトなのだろう、と――。

……うっかり喉まで出かかった言葉を呑む。今、自分はお客サマ。

「冷たいんだろうな。きっと。鎖のような、霧のような――香り……整然としていて。
 それを纏うとき、ボクはキミに縛られる感覚を覚えるのかな……ゾクゾクするね」

獰猛な、生物的な躍動が、表情に宿る。
謳歌する、というのはこのことだと、体現するかのよう――
そこで視線が下がった。ポケットから端末を抜き出して。

「……つぎまでに、何を用意しておけばいいカナ」

いい時間だ。今日はお茶と面談で終わってしまった――時間の流れがずいぶん加速していたようだ。
白い調香師のもたらす、とても愉しそうな予感、ついつい"次"を期待して。
彼女が形作る作品のための宿題を、おねだりしてしまうのでした。

調香師 > 「持ってきて欲しいもの。それは決して多くはないかな
 あなたの無事と思い出話と。今回プレゼントするこのカード」

机の引き出しの中から、貴女の前にすっと差し出した
三つを数えるポイントカード。一つは羽根のスタンプが押されて、残り二つは空欄のまま

「私はここに居るから調香師で居られるの
 今の私がとっても好きだよ。あなたをゾクゾクさせるような、そんな趣味があるのかは

 うーん。きっと秘密の方が、楽しいよね?いぃひひ」

首が傾いて、声が笑って。そのくせ相変わらずの下手な口元
貴女が妖しく唇を変える姿を見ていると、自分の周りは笑うのが下手な人ばっかりだったかな?
内心そんな事を思い出していたのだとか

「またね。私は待ってるよ
 あなたの望む香りが作れる幸せを、きちんと享受したいから

 今日はありがとうございました、だね」


彼女は見送る。店の外まで、この歓楽街の路地裏で香りと共に