2022/12/02 のログ
ノーフェイス >  
「思い出ばなし……ねえ。
 ……ンー、ひとりで考えるのって、にがてだからな。
 だれか、そういう話ができそうなヤツ探してみるね?」

考えようとすると、やめてしまう。
思い出したくないのか、おもしろくないのかは、わからないが。
だから、きっと誰かが必要なのだ――ひとりでできることなんて、
ニンゲン、そんなに多くないのがあたりまえだから。

「お、スタンプカード。 
 こういうのスキだなー、なくさないようにしなきゃ。
 サービス……どんなサービスだろ。フフフフ、楽しみ……」

くるり、オモテウラを確かめて、鼻歌。
財布がスられるなんて日常茶飯のあの街で、守り通さなきゃいけないものが増えた。

「それ、あるって言ってるようなもんじゃないカナ……?えっち」

個性的だね。と言うのは、何の悪意も害意もないことば。
創るモノは、そういうことが多いのだ。
笑おうとして笑えているなら、得手も不得手も気にならない。
ピッチとリズムにだけこだわった演奏を、巧いとは思わないように。

不器用なようで器用そうで、謎めいているようで真っ直ぐで。
そのくせ押し引きがすこし巧そうで、
この奇妙なミステリアスさに、ころっといってしまう者もいるんだろうな。
そよりと聞こえたこの店の風聞、彼女のファンもいたのかも、なんて。

「――フフフ。 たのしい"ひさしぶり"だった。
 つぎは"また会ったね"くらいにしとこっか。
 お茶ごちそうさま――つぎはこの分もめいっぱい、お客サマとして。

 キミを歓ばせられる、創作のお手伝いを」

扉の前にて肩越しに振り返り、笑った。
その自然で隠すことのない笑みを冷たく隠すこと――……

外に出る。首筋に吹き付ける寒風。
思ったほか、彼女が調香師でいられる場所は暖いらしい。
また来よう。遠くないうちに。

ご案内:「Wings Tickle」から調香師さんが去りました。
ご案内:「Wings Tickle」からノーフェイスさんが去りました。