2020/06/17 のログ
ご案内:「魔術学部棟第三研究室」にヨキさんが現れました。
■ヨキ > 人を殺してそう。
近寄りがたい。
その他血腥い噂の数々。
それらの評判を欲しいままにする魔術学教師・獅南蒼二の研究室。
その扉を、あっけらかんと叩く者がある。
「そーうーじーくーん」
抑揚を付けた呼び掛けと共にノックする、長身の美術教師。
その手にはワインのボトルが入った細長い紙袋と、小振りなケーキの箱を提げている。
ご案内:「魔術学部棟第三研究室」に獅南蒼二さんが現れました。
■獅南蒼二 > 鉄製の扉は固く閉ざされている。
多くの生徒はその扉を叩きたいとさえ思わないだろう。
けれど貴方はいつも,あまりにも気安く,あまりにも軽率にその扉を叩く。
生徒が目撃すれば,ちょっとした話題くらいにはなりそうだ。
「鍵は開いている。」
扉の向こう側から,そうとだけ声がかかる。
■ヨキ > 短い返答。
あまりにもぶっきらぼうな一言に、しかしヨキは無遠慮に扉を開ける。
「お疲れ様、獅南。祝いに来たぞ。誕生日」
これ見よがしに腕を突き出し、ケーキの箱を見せつける。
普段からヨキはこの部屋へありとある料理を届けにやって来る。
カレーに煮物、揚げ物に麺類。
それが今日は、とっておきのケーキという訳だった。
■獅南蒼二 > 部屋の中は,相変わらずの荒れ果て具合だった。
それでもソファとテーブルだけは辛うじて使える状態を保っている。
それはこうして,貴方が差し入れを持ってくることが増えて,いちいち片付けるのが逆に手間になったからだ。
「……誕生日…?」
一瞬,その顔に疑問符が浮かぶ。きっと,自分でも忘れていたのだろう。
ここ数日は研究のためにこの部屋に籠りきりだった。
相変わらずの不健康そうな瞳が,貴方を真っ直ぐに見る。
「……あぁ,今日だったか。」
小さく息を吐いて,身体を貴方の方へと向けた。
■ヨキ > まるで自分の家のように立ち入って、テーブルの中央に荷物を置く。
獅南と向かい合ったヨキの顔が、少年のように明るむ。
それはいかなる女性と浮名を流そうとも、他の誰にも見せることのない表情。
「そうだぞ。忘れもしない6月11日だ。
この日が誕生日と知ってから、ヨキにとっては大事な一日になったのだからな」
うきうきとした様子で、ケーキの箱を開け、ワインのボトルを取り出す。
中身は手作りの苺のショートケーキに、やや甘めのスパークリングワイン。
いずれも食べ切り・飲み切りサイズで、ささやかな誕生日パーティーらしい量だった。
「蝋燭も持ってきたが、吹き消してみるか?」
四本のカラフルなミニ蝋燭を取り出す。
■獅南蒼二 > 溜息を吐きながらも,机上で何やらまとめていた紙を纏めて,魔術書を閉じる。
立ち上がってテーブルの方へと歩み,貴方が持ってきたものを見下ろした。
ケーキなんて,貴方が持ってこなければまず食べない。ワインもそうだ…それも,甘口のスパークリングワイン。
感謝の言葉を述べることはしなくとも,文句を言うようなこともしなかった。
「まったく…こんなことになるのなら,誕生日など教えなければよかったか。」
苦笑を浮かべていたが,蝋燭を吹き消すかと問われて,あからさまに,眉に皺が寄る。
「…お前は私を何だと思っているんだ?」
■ヨキ > 「これから毎年、ずっと祝うのだからな。
お前の方こそ、ヨキの誕生日は覚えていてくれよ。
9月18日。ヨキが人間になった日だ」
それは忘れもしない、大事な朝のこと。
獅南と見た“本当の朝日”が今でも焼き付いているかのように、目を細める。
が。
蝋燭についていかにも渋い顔をされると、むしろ叱られた犬のような顔になった。
「え? 誕生日……ケーキの蝋燭を吹き消すのが楽しみではないのか……?」
これだから誕生日がない人外は。
そそくさと蝋燭を仕舞い込み、気を取り直す。
「だが味には自信があるぞ。研究続きの疲れた頭に、たっぷりと糖分を摂るがよい」
15センチサイズのミニ・ホールケーキを切り分けて、ワインを二人分の紙コップに注ぐ。
「さあさあ、乾杯しよう。
お前の産まれた日に、変わらず生きていてくれることを感謝したい」
■獅南蒼二 > 毎年祝う,と,その言葉には溜息交じりに,好きにしろ。と呟く。
しかし,貴方が口にした日付を聞けば…
「…なるほど,まぁ,確かに今のお前にとっては,そうかもしれんな。」
…小さくそうとだけ言って,頷いた。
早いものだ…あれからもう,随分と長い時間が経っている。
「まぁ,そう感じる者もいるだろうが……小さな子供か,老人くらいだろうな。」
溜息交じりにそうとだけ告げる。
「もっとも,お前には似合っているかも知れん。」
なんて肩を竦めて笑いつつ,ソファに腰を下ろした。
貴方の手作りの小さなケーキに,紙コップに注がれたワイン。
…40にもなる男のために開かれた誕生日会にしては,随分と可愛らしい。
ワインの注がれた紙コップを手にして…小さく掲げる。
「感謝されるような覚えは無いのだがね。
………妙なことに感謝を述べる,物好きな男にも。」
■ヨキ > 蝋燭が似合うかも、という皮肉にも、素直に喜んで。
「では、四本の蝋燭は今年のヨキの誕生日に使おう。
人間になってから、ちょうど四年だ。
毎日が新しいことばかりで、あっという間に過ぎ去ってしまったな。
いつまでも新鮮なことばかりだ」
紙コップを掲げて、にやりと笑う。
「お前に覚えがなくとも、ヨキが覚えておる。ふふ、乾杯だ」
言って、ワインを一口。
甘酸っぱい苺の風味に合わせたワインは、この二人の酒飲みの前では今日くらいしか飲む機会はないだろう。
「それと……、誕生日の贈り物も、きちんと用意してあるのだよ」
ケーキを一口頬張ってから、荷物の中からもう一つの包装を取り出す。
手のひらに載るほどの箱に収まっているのは――深い海のようなきらめきを持つ、青い万年筆だ。
■獅南蒼二 > 貴方が素直に喜べば苦笑しつつも…
「なるほど,それなら無駄にならなくて良い。火くらいは付けてやるさ。」
そうとだけ言って…続けられた言葉に頷く。
「4年か……早いものだな。」
獅南はどこか遠くを見るように,そうとだけ呟いた。
人間として初めての4年を過ごした貴方と,獅南とでは時間の感じ方もきっと,違っていたのだろう。
停滞をしていたというわけではない。けれど,大きな進歩があったかと言えば,それも否だった。
乾杯,と,小さく呟くように告げて,ワインを口にする。
貴方と時間を過ごす時でなければ絶対に飲まないだろう,甘い苺の香り。
苦笑を浮かべつつも,それを半分ほど飲んで紙コップを置く。
「……本当に,マメというか何と言うか…。」
苦笑交じりに貴方の取り出した小さな箱を見る。
開けて構わないか?と聞いてから,その箱を開けば…入っていたのは鮮やかな色の万年筆。
それを握ってみて,手首を動かして,一言。
「…案外と重いのだな。」
■ヨキ > 「そうだよ、四年だ。その間にヨキは、バイクに乗るようになって、新しい作品を創って、魔術の勉強をして……。
沢山のことが変わった。お前がくれた人生だ」
獅南からもらった命。ヨキは恥ずかしげもなく口にする。いつだって。
「お前が書く字が好きだと思ったのでな。
それでもっと、書くことを楽しんでもらえたら嬉しいと、そう思った。
ふふ、お前の手によく似合うよ。
使っているうちに、その重みがよくよく馴染んでくるだろうさ」
筆跡はシックなブルーブラック。
万年筆を手にする獅南の姿に、満足げに目を細めながら。
ケーキを食べる。ワインを口にする。遠い話をせがむように、声を落とす。
「…………。こうやって人から誕生日を祝われたのは、いつが最後だった?」
ぽつりと尋ねる。
■獅南蒼二 > 「そうか…だが,私は切っ掛けを作っただけだ。
お前が何かを得たというのなら,それはお前の努力と研鑽によるものだろう。」
そして獅南はそれを認めつつも,得たものは貴方の成果だと返す。
「書くことを楽しむ…か,お前のようにそれそのものが作品なのであれば,そういう考え方もあったのかも知れんがな…。」
くるりと回して,それを胸ポケットへと。
決して派手ではないが,白衣から僅かに覗く万年筆は,ちょうどいいワンポイントになっている。
「…楽しむかどうかはさておき,大切に使わせてもらおう。」
そう告げてから,ケーキをひとかけ,頬張った。
甘すぎない優しい味は,貴方の配慮だったのかもしれない。
「…………ん?」
貴方の問いに,手を止める。
小さく肩を竦めて,苦笑を浮かべ…
「…もう記憶にも残っていないな。それがどうした?」