2020/06/28 のログ
ご案内:「歓楽街の一角 裏寂れた駐車場」に神代理央さんが現れました。
神代理央 > 風紀委員の同僚――という程、付き合いがある訳でも無いが――の主催した会議の帰り道。
自動運転によって歓楽街を疾走していた自動車の端末を操作し、行きつく先は人気の無い駐車場。
静かに停止した車の後部座席から降りると、懐から取り出したのは鮮やかな青色の紙箱と、精巧な彫刻が施されたオイルライター。

「……まさか、此の島でこんなものに頼る羽目になるとは思わなかったな。全く」

日本において「平和」と名付けられた煙草を咥え、小気味よい金属音と共にライターの蓋を開く。
カキン、と鮮やかな金属音と共に開いた火種を近付け、ゆっくりと吸い込み、吐き出す。

「……菓子で出来た煙草があれば良いのだがな。これは、まだ苦過ぎる」

ふは、と紫煙を吐き出し、燻らせながら車に背中を預けて夜空を見上げる。
けばけばしいネオンによって掻き消えた星が、静かに瞬いているのだろう。

神代理央 > 毎日吸っている訳では無い。風紀委員として、ある程度の自制は出来ているつもりだった。
しかし、偶にはこうして。ぷかぷかと紫煙を燻らせたい時もある。この駐車場は、そんな己の隠れ家とも言えるのだろうか。

「…何にせよ。落第街では存分に動きやすくなった。あの提案が飲まれようと飲まれまいと、何方でも構わない」

吐き出した紫煙が僅かにバニラの匂いを含ませて夜空へと消えていく。

「まあ、快く思わぬ連中もいるだろうが……それはそれで、愉快な事になるだろうし」

ご案内:「歓楽街の一角 裏寂れた駐車場」にフィーナさんが現れました。
ご案内:「歓楽街の一角 裏寂れた駐車場」に紫陽花 剱菊さんが現れました。
フィーナ > 「うーん…」
今日あったはずの会議に出遅れ、来たときにはもう解散してしまっていた。
「どうしようかな……」
誰かに話を聞ければ良いのだが。

神代理央 > 何処かからか響く足音。煙草を口に咥えた儘、素早く腰に下げた拳銃に手を伸ばし――

「……迷子の類、という訳では無さそうだな。此の街の住民か?」

視界に映るのは、随分と小柄な少女。しかし、見え隠れする入れ墨やその姿形から、一般生徒では無いのではと思考を走らせる。

腰の拳銃からは手を離し。しかし、何時でも魔術や異能を発動出来る様にしながら、眼前の少女に尋ねるのだろう。

フィーナ > 「あぁ、ええと。近くで会合があったのですが、遅れてしまいまして。なにか知ってませんか?」
魔術の構築を感知する。まぁ、普通は警戒するよね、と思いつつ。
杖に術式を込めておく。

紫陽花 剱菊 > 歓楽街の喧騒から外れるように、男がふらりと駐車場へと迷い込んだ。
既に"精神統一"を終えて、付近へ"降り立ち"今に至る。
男は二人の人影を目視すれば、自らの公務遂行もかねて
二人へと声を掛けようとした。
少年と少女。少年の方は些か剣呑な雰囲気だ。
男は少年の動作を見逃す事はなかったが、事が始まる事は無いようだ。
一安心、胸を撫でおろし、二人に頭を下げて会釈する。

「……どうも。未成年喫煙と見受けるが……余り感心はしないな。」

「其の方等は、迷い子か、或いは遊び帰りかな?」

神代理央 > 「会合……ああ、日ノ岡の主催した会合の事か」

となれば、彼女はやはり違反部活生か落第街の住民か。とはいえ、正々堂々と風紀委員に話しかけてきたのだから敵意は無いのだろうか。

「知っている、というよりも参加していたよ。何か聞きたい事があるなら――」

と、投げかけられた声に気が付けば。

「これは失礼。些か精神的な疲労を溜め込んでいたものでね」

最後の一服、と言わんばかりに紫煙を吐き出すと、コンコンと己の車の扉を叩く。
静かに開く窓。車内に設置されていた灰皿に煙草を押し潰すと、小さく肩を竦めて男に視線を向ける。

フィーナ > 「えぇ、では会議の内容について伺いたく。情報が欲しいのです」
そう言って頭を下げる。

『単独勢力』となっている自分には情報が必要だ。今、この島の動向がどうなっているか。
敵意があるわけではないが、分かり合えることはないであろう相手に、頭を下げてでも。

神代理央 > 「喧々囂々としていたが、内容は単純。『落第街の住民を風紀委員会のメンバーとして迎え入れる。参加するもしないも自由』
ただこれだけだ。一応、数に限りはあるという事らしいがね」

頭を下げる少女に、固くなる必要等無いと言わんばかりに手を振りながら会議の内容を伝える。
本当に要約。日ノ岡の告げていた要件を伝えただけだが、そこからの選択は正しく彼女にとっての『自責』である。

どうするか、と言いたげに首を傾げながら、彼女の子御場を待つのだろう。

紫陽花 剱菊 > 「…………。」

思わず眉間に皺が寄った。
なんともまぁ、杞憂していた波紋は此処まで広がっていたか。
双方の身の上は知らずとも、余り広げるべき内容ではない。

「……横から口を挟んで申し訳ない……。
 当方、治安を治める身と成れば、あまつさえ根深き話題
 双方が如何様な者か存じ上げぬが、余り事を広めるのは控えてくださらぬか?」

場所が場所とはいえ、余りこの手の話題が広がるのはよしとしない。
関係ない一般市民の怯えに繋がり
やがて、大ごとに繋がりかねないからだ。

「……お疲れの所、声を掛けた事は申し訳ない。
 余計な世話をは存じ上げるが、御身を大事にして頂きたい。」

男の少年に対する気遣い、口には出さずとも
その華奢な体は、体に毒な煙草は些かきついのではないか?
という考えのもとだ。

フィーナ > 「…いいえ。むしろ広めるべき事だと私は思いますがね。ソレこそ広告代理店なんかを使ってでも。不当を軽減し、且つ手が入りにくい落第街に現地人を使ってメスを入れやすくする。良い案だと思いますが。」
獅子身中の虫を産む事を鑑みなければ、だが。

「とはいえ私は遠慮しておきます。たとえ風紀といえど、庇えない事をしてしまっていますから。」

嘘は言っていない。殺人を犯している自分は引き上げられることはない。

神代理央 > 「…随分と心配性な事だ。此の歓楽街において、他者に余り世話を焼くのは良い事だとは言えんぞ?」

気遣うような口調の男に、愉快そうな色合いの笑みを緩やかに浮かべて答える。

「御身を大事に、とは言われてもな。元より風紀委員ともなれば鉄火場へと赴く事にもなる。
偶には、こうして身体に害のあるものを取り込んだ方が良いというものさ」

其処まで言い切ると小さく肩を竦め、静かに男を見上げるのだろう。

神代理央 > 「庇えない、となれば殺人や強盗。或いはそれに類似する事件でも起こしたかね?まあ、私は何方でも構わんよ。発案者も実際に行動する者も、私ではない。無理に来いとも、何故来ないのかと問い詰めもせぬよ」

庇えない事をした、と告げる少女には、淡々と事務的な口調で己の思索を伝える。
実際、己からすれば何方でも良いのだ。残ろうが残らまいが、己に取っては全て、金属と火薬の豪雨を落第街に降らせるだけなのだから。

「まあ、選択肢が与えられたとだけ、思っていればいいさ」

そうして、二本目の煙草を取り出し、静かに紫煙を吐き出した。

紫陽花 剱菊 > 「…………。」

「其処に在る一切合切を考慮せねばな。然れど、あれはあれで
 泥に塗れた"秩序"が在る。其処を今の今迄見て見ぬふりをし
 此れを機に介入等とは、最早冒涜其のもの。
 "在るべくして在る"、のではなく、あそこは"出来てしまったから在る"と私は思うよ。」

それこそ誰もは吹き溜まりで暮らしたいと思うものか。
お天道の陽日に照らされ、土薫平穏を大多数の民草が望む。
全てがそうとは言わない。望んで宵闇と暮らすものもいる。
だが、それ以外は?それを考慮しない限り、独裁と変わらない。

「……均衡は、得てして出来るものに非ず。必ず誰かが、礎を作る。
 ただ悪戯にそれを崩すのは、罷り成らぬ。」

それこそ、下手をすれば島一つひっくり返る大事態だ。
少女の言葉に、男は苦言を呈した。



「……不快に思われたのならば、素直に謝罪しよう。」

そして男は、少年に静かに頭を下げた。
真面目な性分が在り在りと出ている。

「然れど、性分故。お為ごかしでは無く、若人で在れば尚の事。
 自らの肉体の事を考えられよ。将来を棒に振るべきではない。」

「……嗜好で在れば、必要以上に止めよとは言わん。
 ……戦場を"毒"と捉えるならば、別である。其方は
 戦場を"毒"と言問うならば、何故必要以上に肉体に毒を取り入れる?」

少年の言葉には一理あった。
男は如何様な場所か、其処を知っている。
だからこその疑問。そして、其れは純粋な心配。優しさだ。

フィーナ > 「そうですね」
紫煙を吐く人物に同意する。
選択肢を与えられただけだ。今のままが良いならそのまま居ればいい。変化を求めるなら縋り付けばいい。ソレだけだ。

「でもまぁ」
一つ、間を置いて。

「変化を恐れるのは、得てして今ある現場に甘えてる人だけだよ」

神代理央 > 「別に不愉快等とは思っていないさ。それが正しい人の道理である事は私も理解している。ただ、此の場所。此の街では、それは幾分生き難いやり方だと告げただけ。そういう姿勢は、嫌いでは無いよ」

カラカラと愉快そうに笑みを零し、頭を下げる男を見つめる。

「何故毒を取り入れるか、か。それは私が人であるから。理性を持ったまごう事の無い人だからだ。
理性も知性も無い獣が、態々毒を嗜好の物にする事は無い。自らの意思で自らを害するものを愉しめるのは、理性を持つ者だけだ。
だから私は、些細なストレスを毒と一緒に飲み込んで、吐き出すのさ」

男の心配を、気遣いを。決して否定はしないものの、受け入れる事は無い。己にしては珍しく敵意も警戒心も男に向ける事は無いが、それでも、その優しさこそが己にとっての毒だと言わんばかりに。
愉快そうに嗤うのだろう。

神代理央 > 「だろうな。何事も、現状に満足しているのなら。或いは、変化に依る負債を恐れるのなら。決して動こうとはせぬだろう。変わろうとはせぬだろう」

緩やかに笑みを浮かべた儘、今度は少女へと視線を向けて。

「であれば、貴様はどうだ?後ろ暗い事があるからと。自分はきっと無理だからと。諦観し諦めるのなら、それは貴様の言う所の現状に甘える人になってしまうのではないかね?」

彼女に返す言葉には、侮蔑も侮辱も含まれていない。
ただ、確認するかの様な。彼女の選択はそれで良いのだなと問い掛ける様に、小さく首を傾げるだろう。

フィーナ > 「私が行っても、利はないので。ソレはただの言い訳ですよ」
そう、自分に利がない。風紀に入れば、ソレに伴う業務が発生する。
自由でありたい自分にとっては利がない。
それに、『トカゲの尻尾』にもなりたくはない。
「自分以外の誰かがやればいいです。選択は『自由』なんですから」

神代理央 > 「ふむ。風紀委員会からの保護というのは理想的な餌足り得ぬか。
であれば、それらも考慮した案が必要だろうが…」

少女の言葉に納得した様に頷きつつ、穏やかな儘の口調で言葉を続ける。

「だが、選択には、自由には責任が伴う。貴様のその選択が、貴様自身にどの様な結果をもたらすのか。それを考えてみる時間くらいは、あると思うがね」

勧誘している訳では無い。しかし、あっさりと諦める訳でも無い。
正しく、本当にその答えで良いのかと尋ねる教師の如く。僅かに首を傾げたまま、小さく笑みを浮かべた。

紫陽花 剱菊 > 「……人は……。」

男は知っている。
均衡が崩れた結果に起きた戦火の果てを。
無論、今回の件がそれに繋がると決まったわけではない。
良き変化と言うのも必ず存在する。
だが、段取り失くして、急速な均衡の崩れが何を成すか……。

「人は、人で在り、盆栽に非ず。命とは、歪の形も在るものぞ。」

悪戯に枝を手折る事は、罷り成らぬ。
それが甘えと言われればそれまでだが
形を整える為に剪定し切り捨てて、何になる。
須くそれは、命である。
男の表情は始終変わらぬ仏頂面だが
その声音はとても穏やかであった。



「……其処に暮らし在れば、人も在る。其処に身を置く以上
 人には人の、礼節には礼節を以て当たるのみ。」

生きやすいかどうかは、二の次だ。
その様に生きる事に意味がある。
見返りを求める訳でも無く、生き様を"刃"と定めても
獣と成らない、心だけは忘れてはならない。

「───────……。」

少年の言葉に首を静かに横に振った。

「一度入れた毒は、身に沁みるもの……其方の全てを吐き出す事は出来ぬのだぞ……?」

「其方……自らを穢れとし、何とする?其方を思う人間を、苦しめるばかりではないか?」

其れを毒と言われようとも、男は態度を変える事は無い。
少年を見る視線に、憐れみが宿る。
余りにも真っ直ぐな優しさ<毒>が、少年へと問いかける。

神代理央 > 「私を思う人間、だと?」

その言葉に、向けられる哀れみに。僅かに眉尻が上がる。
向けられた表情は、既に嗤ってはいない。

「下らん事を。例えその様な者がいたとしても、私が私の身をどのように遇するかは私の自由だろう。
自らを穢れとしてどうするか、だと?決まっているさ。より多くの穢れを掃うだけ。
必要無いモノを。場所を。リソースを。正常な世界の為に剪定する為なら、多少毒を飲み込まねばならん時もある。それが、私の風紀委員としての仕事だからな」

必要無いものとは、場所とは。
敢えて口にせずとも、言外に男に伝わるだろうか。それが、歓楽街の奥深く。落第街。その住民を注している事に。
犯罪者を捌くのではなく、その苗床を剪定すると告げる己の瞳には、向けられた憐憫に対する仄暗い怒りが滲んでいるだろうか。

フィーナ > 「…人であるからこそ、選択するべきではないのですか。」
コートの男に、問う。

「情報を隠匿し、選択を奪うことは、『礼節』に当たるのですか?」

そして、言う。

「貴方は、変化を恐れているだけです。他人にソレを成してほしくないから、そうやって言い訳をしている。人を人と尊重するなら、選択肢は奪うべきではありません。真に礼節を弁えるならば。」

紫陽花 剱菊 > 「…………。」

静かに男は頷いた。

「"人"とは呼んで字の如く、互いに支え合う成れば、一人では生きられぬ……。
 其方の毒は、其方自身のものに非ず。組織、友人、家族……何れ伝播する。
 自ら風紀に属すると言うので在れば、身の上を弁えられよ。」

一人で毒に倒れるのも悲しい事だが
何よりも恐ろしいのは毒は伝播する。
人から人へ広がり、気づいた時には手遅れだ。
人が、国が最も亡びる瞬間は、その毒気が回り切った時。
──…そう言う意味では、あの少女の会合は猛毒であるとも言えた。

「…………。」

……嗚呼、此の眼差し、怒り、覚えがある。
覇道を行く人間を、乱世の中で見てきた。
何に燃えている?その怒りは、何を燃料にしている?
仄暗い炎を燃やす赤を、穏やかで静かな黒が見据えている。

「────焦土の先に、緑は出来ぬ。全てを綺麗事で片付けられぬ事も知っている。」

「……然れど、罪を憎み、人を憎み、炎の跡に何を残す。毒の大地に、命は芽吹かん。」

男の言葉は、止まる事は無い。
火にくべる、牧の如く。




「────人であるからこそ、最後までそれを尊重すべきである。」

事は始まったばかりだ。
そして、もし少女の言う変化が始まれば、大小なり命が灰と消える。
例え何であっても命である以上、男は其れを見捨てる事は出来なかった。

「……奪いはしない。物事には段取りが必要と在れば、あかねの"それ"は余りにも早計と語った迄の事。」

「……然るに、私が恐れを抱いているのは間違いない。不快に思われたので在れば、謝罪しよう。」

命が消える事が変化というなら
致し方ない犠牲と言うのであれば
返す言葉も無い。男は静かに、少女へと頭を下げた。

神代理央 > 「だが、人理の発展は焦土の中にある。我々は、大地を燃やし、空を穢し、水を濁らせて此の地に立っている」

「毒の大地にすら歪な命を強引に芽吹かせる。枯れ落ちた木々を踏みしめて、アスファルトの神殿は聳え立つ」

「それらは全て。全て闘争の果てに得た人類の栄華であるならば、私もそれを習うまで。一人では確かに生きられぬ。しかし、ヒトは、組織は、常に支配者を欲するならば」

その穏やかな漆黒の瞳を、紅に染まる己の瞳が見返す。

「私は、有象無象を従えて。その身を毒の化身としてでも、戦い、選択するまでだ」

強い意志の籠ったしかし何処か歪んだ様な声色で。
己の前に立つ男に答えるのだろう。

フィーナ > 「人の歴史は戦にあり。正義の反対は、それまた正義であって。争いが起こるのは当然のこと。だから。」

頭を下げる男を見据えながら、言う。

「『より良き明日を見据えて提案した彼女』を、無下にしないで欲しい。」
本心から、そう言い放つ。
「明日は今日より良くなる。人は幸せを求め続けるから。彼女も、そう願ったから、早急とも呼べる提案をしたのでしょう?」

紫陽花 剱菊 > 「…………。」

「……尤もだ。」

この身を以て知っている。
其の結果出来る可能性のある太平の世があった事も知っている。
乱世の世、男が駆け抜けた世界の事を知っている。
────聞き飽いた、うんざりだ。
男は静かに、目を閉じた。

「────然るべき行為に、然るべきものが付いた。人理の在り方は否定しない。」

其処に立つものも、自らが一つで在るが故に。

「……然れど、毒の大地に命は芽吹かず、焦土には、緑が宿らず。」

脳裏に今でも焼き付いてる。
戦地で焼き付いて寂れた土地を
人の血に犯されて変わりはててやせ細った大地の姿を。

「……闘争が起こり得たのは、結果的に必然だったかも知れない。
 ともすれば、兆しは"平和の願い"やもしれなかった……。」

確かに闘争と人理は切っても切り離せないもの。
だが、誰もが望んで起こしたばかりならず
それは、最終的に"起こってしまった"もの。

男は静かに、目を開けた。

「……張り子の虎に怯える事は無く、覇道に続くものはない。」

「────其方のやり方では、其方自身を含めて悪戯に人を苦しめるだけの事だ。」

「其方のやり方は、間違っている。」

この身に染みて知っているからこそ、歪みを見据えて
それを真っ向から否定した。



「……私はあかねを否定した訳ではない。だが……疑問はある。」

些か失礼では在るが、彼女は幸せを願うような人間かは真思案には行きづらい。
彼女を二度、この目で見たからこそ、思える当然の疑問だ。

「────賽を投げた意味は、或いは……。」

己の為か。彼女の居場所、いるべき場所。
いわんや、それは憶測であるが故に、男はそれ以上口に出さなかった。

フィーナ > 「正解なんてない」
政治にベストなんて存在しない。より良き「ベター」を追い求めて、議論するのだ。
「それが良くないと思うのなら…貴方も、行動をするべきだ」
自ら動かなければ、自らが望む変化など起こり得ない。

神代理央 > 「成り立つさ。闘争の果てに、焦土の果てに。島が、大陸が、大地が海が空が。全て全て焼き尽くされようとも、我々の栄華は築かれる。例え世界が滅んでも、我々は世界を"滅ぼした"偉業を讃えるべきなのだから」

それは、歪んでしまった思想の成れの果て。教育か、環境か、家族か。或いはその全てか。または、それ以外のナニかか。
何にせよ、闘争を謳う己の表情は、尊大で傲慢で、闘争の焔を揺らめかせ。それでいて、何処か空虚な声色を含ませていたのだろう。

「私は、多数派の為に行動する。100人が犠牲になって101人が救われるなら、私は100人に銃口を向ける。
201人が救われる手段など、御伽噺に過ぎない。確実に多数が助かる手段を、私は取り続ける。
私が間違えているというのなら、貴様はその手で全ての人間を救えると言うのかね?」

己の思考を真っ向から否定する男を。歪んだ笑みで見上げながら言葉をぶつけるのだろう。

紫陽花 剱菊 > 「──────……嗚呼。」

思想の相違。すれ違い。
其の結果に、闘争以外の手段が残らなければ、其れしかない。
わかっている、分かっているとも。

「…………。」

<紫陽花さんは、人を斬っちゃダメだよ。>

自らの異能で悩み、背丈を自在に操る少女の言葉が、脳裏で反芻される。
口元が、思わず緩んだ。浮かぶ色は、"自嘲"

「(────済まない、ありす殿。やはり、行きつくべき先は────。)」

男は静かに、空を一瞥した。
……此の謝罪は、雲と流れ、彼女に届くだろうか……。


「……滅びが大儀と言うので在れば、其方の成すべき事こそ毒で在る。
 ……何故だ?自ら人の上に立つ思想を持ちながら、何故"覇道"を選ぶのだ?」

何時までも、少年に向けるのは憂いと、憐れみ。
刃たる男に、刃に不釣り合いな優しさ。
少年の思想の一部を尊重し、だからこそ其の間違いを、歪みを指摘し、問いかける。

「……覇道に残るのは血と焦土。百も千も残りはしない。
 全ての民草が、其方に刃を向けるだろう。……私は其れが、見るに堪えぬ……。」

そして、結局彼の兆し優しさ。
少年にとって毒だと唾棄したものは
全て、少年の、彼への心配へと兆している。
刃に人は救えない。ただ出来るのは、斬って捨てる事。
それが挑発だろうと、何であろうと。
男の返事は、ただ一つ──────。

「……出来るさ……。」

根拠も確証も、在りもしない。
だが、太平の世を望むのであれば
修羅道を歩んだ身としても、今一度業を背負う覚悟は在る。
男は二人に、踵を返す。

「……公安の刃、紫陽花 剱菊(あじばな こんぎく)。何れ、相見えるだろう……。」

だからこそ、逃げも隠れもしない。
その時立つ立場が、"対立"だとしても。
自らの名を残し、男は静かに、穏やかな風と共に去っていく。

ご案内:「歓楽街の一角 裏寂れた駐車場」から紫陽花 剱菊さんが去りました。
フィーナ > 「…んっ」
ぶるり、と震える。
そろそろ、帰らないと。

「それじゃあ、私も御暇させてもらいます。お話、ありがとうございました」
そうして、浮き上がって駐車場を後にするだろう。

ご案内:「歓楽街の一角 裏寂れた駐車場」からフィーナさんが去りました。
神代理央 > 「それが私の道。それが私が選んだモノ。それが私の踏み砕くモノだからさ。覇道でも何でも構わない。私は、私が成し遂げるべき事をするだけさ」

憂い、悲しみ、哀れみ。
最も唾棄すべき感情が、己に向けられている。そうならない様に、必死に努力し、力をつけ、他者を踏み付けてきたというのに。

「…私に刃を向けるならば、そ奴等は少数派。切り捨てるべきもの。私は、あらゆるモノと戦って、戦って、戦って……そして、焦土の王となり、其処で繁栄の都を築いてみせるさ」

何れ、彼とは相まみえるのだろう。彼がそれを望まないにしても。
己と彼の道は、余りに違い過ぎている。
だが果たして、彼は己に刃を向ける事が出来るのだろうか。

「……風紀委員、神代理央。覚えておけ。貴様が何れ討たねばならない男の名前をな」

背を向けて立ち去る男に、己の名を告げて見送る。
近いうちに、彼と交えるであろう刃に思いを馳せながら。

「……貴様も、選択肢を狭めず様々な事を見て、聞いておくことだ。何れその行動が新たな選択肢を生む事もあるだろうしな」

歩き去る男と、飛び去っていく少女を見送り。
己も再び車に乗り込むと、主を乗せた車は静かに走り出し、此の場を後にするのだろう。

ご案内:「歓楽街の一角 裏寂れた駐車場」から神代理央さんが去りました。