2020/07/04 のログ
■群千鳥 睡蓮 > 解きほぐされた手の柔らかさ。
自分から強く絡めることはなく、ただ添わせるように相手の意志に応える。
「都合のいい話だとはわかってるんだけど、さ……
……あたし、その……、おとうさんと、おかあさんに……泣かれて。
だから……このままじゃだめなんだって、それで……」
とどのつまりはそれだった。学費は親が出してるし、群千鳥家の息女である。
そして、恐らくは思った以上に愛されていたからこそ、
鬼は鬼であることをやめた。人間としての輪郭をすこしだけ取り戻した。
恥ずべきことを、告げようとする声は、未だか細く……。
だからこそ、紫苑の優しさも、受け入れることができたのだ。同種の色を、そこに見て。
「そう、在ろうとすることが――大事なんだと思ってる。
考え続けなきゃいけないんだ。そうじゃなきゃ、さ。戻っちゃうから。
でも……疲れた時は、そーだな、甘えちゃおうかな……、っと……」
優しさに包まれた。じっとりと熱を持った体だ。
少し恥ずかしかったけども、こちらもまた腕を回し、肩に顔を埋めて。
「ううん……いや、別にそんなに恐がってもいないし。
紫苑さんを……がっかりさせたり、悲しませたらイヤだなって。
あたしのほうはさ、実際ガキだし、頼れとか……
あんまり強くは言えないけど、今度からは……しんどいときは、ね?」
少し拗ねたように誤魔化した。
壊れそうなのはどちらなのだか。軽く背中を擦ってやる。
――まあ、こんな場末の密室で、女同士抱き合っているという空気に、
そんな穏やかさは長くは保たないのだ。なんか気恥ずかしくなって顔を離すと、
抱き合ったまま封筒を手にとって、ぺちぺちと眼鏡を叩きながら声あげた。
「――……ってゆーか、情報! 買わせてよ!これ!本題!
そのために服賭けて、高いレートで巻き上げてきたんだかんな……っ!
やっぱ買うよ!もらいっぱなしはイヤだ!そこは紫苑さんとは対等!」
■Nullsector > 「お父さんとお母さんにね……良い事だよ、愛されてるじゃない。」
「愛されてる事に気づいてるなら、アンタ親孝行もんだ。恩の返し方は自分で考えなきゃいけないけど……。」
「睡蓮は優しい子だからね、大丈夫さね。」
それにいつ気づいたのか、あるいは初めからなのか。
心に鬼を飼う少女は必死に人であろうと
強くあろうとしている。両親は此れを知っているか否かは知らない。
それでも人の愛を知る者が鬼になるとは思わない。
いい子だ、とその髪を、頭を指先で撫でた。
母の様に優しく、愛でるような手つきで。
「ああ、存分に甘えていいよ。」
それが大人の役割だから。
「……馬鹿だね。そんな事で一々目くじら立てるものかい。子どもなんだから、余計な事は考えなくていいんだよ。」
子どもだからこそ、余計な事を考えさせたくはない。
大人のちょっと悪い事なのかもしれない。
……子ども相手だからこそ、"自分の事"には関わらせようとはしない。
薄氷の上で、ずっと一人でいるしかない。
彼女はもっと、ひだまりにいるべきだ。
そんなこんな浸ってたらぺちぺち眼鏡を封筒で叩かれた。
「…………。」
目をぱちくりしてたら、ふぅ、と文字通り気の抜けたため息が漏れる。
目もすっかり胡乱になって気だるげモードだ。
「はいはい、わかってるよ……で、何だっけ?異能集め?」
「どうせ、最終的には片っ端からなんだろうけどさ……どう言うのと会いたいとか、希望はあるのかい?」
■群千鳥 睡蓮 > 「ちょ……ちょっと!そういうのやめろよ!擽ったい……!
優しいとか、なんとか……そゆんじゃない。強く在ろうと、してるだけで。
――それに、こどもだから、考えるんだよ。
おとなって、年食ったら自動的になれるもんじゃないだろ……たぶん」
大丈夫、と、彼女の肩を軽く叩く。
無意識下のコンプレックス――彼女はなくした子供を、他者に視るきらいがあるのだろうと。
喪失を埋めようとする行為。それはごく自然の成り行きだ。
だからこそ、子供は成長する、しようとするのだと。
きっかけがなければ、変わろうとさえ思わなかった過日の己のように。
「そうしなきゃ、あんたの助けにもなれないだろうに」
力なくふにゃっと笑って、そう告げた。
大人になって、恩を返したいと思う。親にも、この人にも。
こんな突然変異の悪性に、愛を向けてくれる酔狂が居るこの世界に、
今はまだ、普通ではない精神も、価値を見出していられる。居たいと思える。
「元気でいて欲しいんだよ。笑ってて欲しい……紫苑さんに。
だからってあれしろこれしろ、とは言わないけどね。
無理しがちな大人には、そういう風に思ってくれる子供がいることを、
しっかり弁えていて欲しいもんだわ……なあ?」
体を離し、再び椅子にもたれた。ふう、と息を吐く。空調は効いてない。
汗ぐっしょりで出てきたら、要らない勘違いをされないだろうな、と苦い顔をしつつ。
肩を竦めて、出会った時の不敵な笑みを取り戻す。
カフェオレは――ぬるくなってた。それでもするする入ってくるから不思議なもんだ。
「んー、そーだね……とりあえず理央とやりあったってやつ。
あとは……そう、だな――『面白そうなやつ』を、見繕ってよ。
そしたら、なんか食べに行こ。お腹減っちゃったし」
封筒から取り出した札束を、くるりとトランプのように回転して卓上に広げた。
仕事とその後のことを、楽しげに。シャワーも浴びたいが、肉を食えば汗もかく。
その後でいい。 今は、あえて紫苑の価値感に触れようとするように、
数より質を求めた依頼。きっと、会話も弾むはずで、
幸いここには金もあるしな、と笑った。
■Nullsector >
「一丁前に照れるじゃないか。お可愛い事だね。」
「……歳だけとればね。けど、本当の大人になれるかは当人次第だよ。」
「少なくとも、睡蓮みたいに何か考えておかないとね。大人って言っても中身が伴わない連中が多くて適わないさね。」
「睡蓮は、いい大人になれるよ。」
体がでかいだけのガキ。特に落第街にはそう言う連中も多い。
ただ漫然と歳をとるだけではいけない。それはいけない考えだと諫める。
けど、間違っても正しくても自分で考える事が出来る子だ。
きっと、彼女はいい大人になるに違いない。
伊達に歳は食ってないらしく、子どもを褒めて、窘めるべき部分を知っているようだ。
「……ふ、言ってな。期待しないで待ってるよ。」
そう言う言葉の裏腹には、とても嬉しそうに口元を緩めていた。
恩を返したいという気持ち時代を無碍にする気は無い。
つまり、からかったようだ。
「…………。」
「……そういう台詞は、汗を拭いてからいいな。」
なんて、ため息交じりに言った当人もよく見ると汗をかいている。
ぐっしょり、とまではいわないが薄らと全身暑さでしけっており
それでも涼しい顔をしていた。
……密着したからこそわかることだが、煙草を普段から吸っているのか少し煙草臭い。
それでも、何だか穏やかで、陽の匂いがするだろう。
「ああ……紫陽花ね。いいよ……。それと、他の連中なら……。」
再び空に手を翳すと現れるホログラムモニター。
映し出されるのは無数の名前と写真の数々。
謂わば、"名簿"とも言うべき人物一覧がそこには並んでいる。
「紫陽花 剱菊。異邦人。理央……風紀委員の鉄火の支配者でいいんだよね?ソイツとやりあったのなら、コイツ。」
「他に適当にピックするなら……。」
「ソフィア=リベルタス。学園の教師……だったか?異邦人で、アンタも知ってる奴だろ?霊的異能の持ち主……。」
「四方 阿頼耶。コイツも公安の人間。ヘラヘラしたにやけ面が特徴だけど、実戦的な身体能力に時間関係の異能もち。」
「ルナアイズ・ラーゲンフォルエル。異界から学園に飛んできたお姫様。なんでも、王族っぽい剣術と水と光を操る異能を持ってる。」
「……まぁ、敢えてピックするならそんな感じさね。見たい奴があればどれでもどうぞ?」
画面にはタッチした相手の詳細情報が上がっており
その異能からパーソナルデータまでずらりと並んでいる。
途方も無い人数を未だデータをそろえ更新し続ける手際の良さ。
伊達に情報屋は名乗っていないようだ。
「……飯くらいなら払ってあげるよ。何食いにいくんだい?」
パチンッ
指を鳴らせばハックされた扉の鍵が解除された。
そう言う所まで対等にしてこようとする彼女には天晴と思う一方
下手すると大人の立つ瀬が無くなりそうだ、と苦笑している。
■群千鳥 睡蓮 > 「へたをうてば、あたしもそうなりかねないわけだ。
だから、考え続けるよ、問い続けるよ。
いつか死ぬ時、あたしは良い大人だったとも、と。
……笑って運命を受け入れられるように」
それでも、彼女の太鼓判には、ありがとう、と微笑を返した。
彼女が大人という立場であることも、また否定はすまい。
自分は他者に是非を問う人間ではない。
だからこそ、受け入れて、受け止めて、どうするかを考えたい。
大きい金色の瞳は、相手を映し出し、糧にしようと。
そうして問い続けるのだ。本当に、それでいいのかと、自他に。
「……今度から会うときは、もっと涼しいとこにしよっか。
いやーだってさあ……! 古い映画とか、小説だとさ。
合言葉とか密会とか、そういうのあるじゃん! やってみたくて…
……こんなとこにいても、太陽の匂いがするんだね」
格好がつかないのは確かに、ところころと笑いながら。
ポーチから取り出したフェイスタオルで汗を拭う。
化粧も流れちゃうな、と、緊張から真夏みたいな発汗に苦笑して。
「――え、なに?あいつ公安と喧嘩したの?
よっぽどソリが合わなかったのか、はたまた同族嫌悪かな。
ふん、ふん……いいね。どいつも、面白そう。
ひとくせふたくせもあって――ソフィア先生は、良い人だよ。
いや、化け物っていわれたいのかな、あのひとは――
……ン。 いや、いいや。 残りは、次の機会に」
覚えきれないし、と微笑み、告げられた四名の名は胸に刻んでおこう。
それはある意味、子供らしい抵抗でもあった。
「だって、また会うじゃん。その時のためにね。
――そーだなあ、肉! がっつりめの、猫をかぶってるとありつけなくてね。
どーせシャワー浴びるんだ。ケムくなろうじゃん。煙草も吸いたいでしょ?」
再会するのだから、すべてを識る必要もないだろうと。
勢いよく立ち上がって、行こ、と先導する。
彼女は偶然と言うかもしれないが、これも意味のある必然の出会いなのだと弁えている。
■Nullsector > 「……子どもの口からは、あまり聞きたくないことだけどねぇ。」
それでも彼女は、多くの死を見てきた、作ってきた。
人生の到達点である、ピリオドであるその話題が真っ先に出てくるのは
些か大人としては、やるせない気持ちではあるが
笑って死ねるならそれに越した事はないのは事実。
困ったように、軽く肩を竦めた。
「……アンタ、そんな理由でここにしたのかい?呆れた……。」
てっきり情報面の問題かと思った。
今度はため息が漏れたぞ。
「さてね、人間ソリが合わない奴は必ず一人か二人いるもんさ。」
「……まぁね。全く……はいはい、はしゃがない。」
今夜くらいは、彼女に付き従うとしよう。
先導されるままに動いて
娘を見守る母親の様に、背中を優しい眼差しで見守っていた……。
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