2020/07/08 のログ
ご案内:「常世総合病院 VIP個室」に神代理央さんが現れました。
ご案内:「常世総合病院 VIP個室」に柊真白さんが現れました。
神代理央 > 穏やかな風が、病室に吹き抜ける。
応接室を兼ね備えた病室。全ての家具が高級、と呼ばれるブランドで固められ、ベッドのサイズは何とキング。一人なのに。

そんな無駄にだだっ広い病室で微睡む少年の姿。
腕には点滴を繋がれ、他にも良く分からないコードが数本、少年の身体からベッドに備え付けられた機械へと繋がっている。腹部に巻かれた包帯は、先程変えたばかりの新品。

規則正しく鳴り響く電子音以外に物音のしない空間で、少年はただひたすらに、微睡んでいた。

柊真白 >  
コンコン、とノック。
返事を待たずに部屋に入る。

「――うわ、無駄に豪華」

余りに広い病室に、思わず言葉が漏れる。
ただ怪我を治すためだけなのに、こんなに豪華な部屋を作る必要があるのだろうかと思う。

「生きてる?」

そしてベッドの上の友人に声を掛ける。
死んでいたらここにはいないだろうけど。

神代理央 > 穏やかな微睡は、訪れた来客によって中断される事になる。
ことん、と首を傾けて視線を動かせば、来客の姿に少し驚いた様に瞳を瞬かせるだろう。

「……生きているさ。残念だろうがな。そんなに、大した怪我では無かったから…っ…」

彼女を迎え入れようと横たわっていた身を起こせば、腹部からの鈍痛に僅かに顔を顰める。
しかしそのまま起き上がり(何と自動で)背もたれ代わりに起き上がったベッドに背中を預ける。

「…何か用か?部活の資金なら、必要なだけ振り込むが」

柊真白 >  
「お腹撃たれたのは大したことある」

ほふ、と溜息を一つ。
寝てていいと言おうと思ったが、自動でせりあがるベッドに呆れた様な感心した様な。

「なにって、お見舞い。はいこれ」

抱えていたお見舞いの花を、ナースステーションで貰っていた花瓶に差してベッドサイドに。
一応ソレイユの菓子も持ってきたが、腹を撃たれたと言うことで食べられるかどうかわからなかったので、焼き菓子などの日持ちするものである。
それも花瓶の隣に置き、勝手に椅子を出して座って。

神代理央 > ぱちくり、と。
花瓶に活けられる花を見て。隣に置かれた菓子を見て。

「お見舞い」

初めて聞いた外国語をオウム返しにする様な口調で答えた後。
ベッド横に腰掛けた少女に視線を向ける。

「えーと…その、よく、きたな?」

致命的なまでに『お見舞い』だの『心配』だのという単語から遠ざかっていた己としては、少女が訪れた事実そのものが驚きである。
ぽかん、とした表情の儘、取り合えず歓迎する様な言葉を彼女に投げるだろうか。片言で。

柊真白 >  
「お見舞い」

そりゃ部活の友人で店のオーナーが怪我で入院したならお見舞いぐらい来る。
人をなんだと思っているのか。
店はオーナーが居なくても回っているので平気です。

「助けた子供に撃たれたんだって? いつかは、って思ってたけど、ちょっとそれは予想外だった」

持ってきた焼き菓子の包みを開け、一つ頬張る。
うん、今日も店長はいい仕事をしている。

神代理央 >  
「いや、何ていうか。お前がどうこうっていう訳じゃなくて、お見舞いって来てもらえるもの、なんだなって」

と、少しだけ相好を崩す。
誰かに来て貰える、というのは意外と悪く無いものなのだな、と思いかけて。
軟弱な思考に走りかけたかと緩く首を振る。

「……随分と耳が早いな。まあ、事実その通りなのだから何も言えぬが。笑うなら笑え。今は反撃する気力も無い」

治療中で焼き菓子は食べられない。少なくとも今日は、食べられない。
ジトっとした目線で焼き菓子と真白を交互に眺めた後、深々と溜息を吐き出した。

柊真白 >  
「言ったでしょう。私は君を友達だと思ってるって。これからきっと忙しくなるね」

すんとすました表情。
彼がそう言うと言うことは、部活の面々はまだ来ていないのだろう。
きっとこの後次々とこの無駄に広い病室に押し掛けることになるのだろうな、と考えて。

「風紀委員が子供に撃たれた、なんてあんなとこじゃ大ニュースだから」

怪しげな情報屋だっているのだ、そう言うニュースは表より回るのが早いことだってある。
恨めしそうな顔をする彼に、君のはこっちと未開封の焼き菓子を見せる。
今食べているのは自分用に買ったやつだ。

「それで。まだ続けるの」

神代理央 > 「…そうか。友達、か。…何というか、いざこうして自分が弱ってみると、不思議と心に響くものだな。そういう類の言葉というのは。
……忙しく?まあ確かに、報告書の類はぼちぼち書かないとなとは思っているが」

はふ、と息を吐き出してベッドに体重をかける。
無駄に予算のかかったベッドは決して軋む事もなく、己の体を受け止める。
彼女の言葉の意味に気付かぬ程度には弱っている――というよりも、弱っていなくても気付かなかったかもしれないが。

「出来れば、伏せておきたい情報ではあったのだがな。曲がりなりにも、落第街に過度な制裁を行っていた私の不在が知られれば、調子に乗る連中が現れてもおかしくはない。
――それも、何時もなら理解した上で、行動出来た筈なんだが」

と、視線は一度焼き菓子に向けられた後、ぼんやりと虚空へと向けられる。
磨き上げられた純白の天井が、嫌に眩しく感じる。

「……続けるさ。続けなくてはならない。止まるには、些か遅すぎた」

ポツリ、と静かに言葉を零す。

柊真白 >  
「そうじゃなくて。私だけじゃないよ、ってこと。お見舞いに来るの」

そう言う友人関係に疎い彼の言葉がなんだかおもしろい。
表情には出ないけれど。

「人の口には、って言うでしょ。ああいう街だし、情報の早さはそのまましぶとさにつながるから」

知らないことが多いと色々と乗り遅れる。
それは金脈への直通トロッコだったり、ノアの箱舟だったり。
それの真贋の見極めも含めて、情報と言うのは最終戦の武器なのだ。

「そう」

彼の呟きに短く返事。

「じゃあ、あの店、無くなってもいいんだね」

神代理央 > 「…む?そう、だろうか。いや、そうだったら嬉しいとは思うが…」

半信半疑、と言った色合いの視線が彼女に向けられる。
それは、訪れてくれる"誰か"を信じていない――のではなく、己が見舞いされるに値されるのかという自信の無さ。

「……成程。まあ、あれだけ派手に包囲していれば、隠し通すのも無謀というものか。何事も無ければ良いのだが」

吐き出した言葉と、先程よりも大きな溜息。
早く怪我を治さないと、とワーカホリックな決意を固めていた時――

「…何?」

彼女の言葉に鋭い視線を向けると。

「そんな訳があるか。アイツらは関係無い。私個人を恨むというのなら、私があの店から手を引けば良いだけの話だ」

「アイツらのやりたい事を、私が邪魔立てする訳がないだろう」

向ける視線は、剣呑な色を湛えている。

柊真白 > じ、と彼を見る。
きっとまだ彼はわかっていないのだろう。
いや、もしかしたらわかっているのかもしれないけれど。

「――君が、風紀委員だと言うことは当然、落第街の連中は知っている」

彼の言葉を無視するように。
いつもの口調で。

「君を恨んでいる二級学生がいるとする。風紀委員にケンカを売るには覚悟も力も足りない。でも君にはどうにかして復讐をしたいと思っている。そこに、あの店で楽しそうにしている君を見かけたら」

淡々と。
教師からの問いかけに答えるように、友人に話しかけるように、あの店で指示を出すように。

「もしその二級学生が君なら、どうする」

神代理央 > 「…言いたいことは分かっているさ。だが、それはもう"起こり得る可能性"だ」

剣呑な視線は消え、サイドデスクのコップに手を伸ばす。
設置された機械にコップを置けば、涼やかな音と共に冷水が注がれる。
それを一口。喉を潤して――

「仮に、私が落第街への取り締まりを緩めたとしよう。任務そのものには熱意を持って取り組むが、過剰な火力と精圧を控え、住民も守る様にしたとしよう」

「だが、私は其処に至るまでに殺し過ぎた。私を恨む二級学生など、最早幾らいるかも分からぬ」

「……先程の質問に答えようか。いや、答えにはならんな。
結局、私はもう今更立ち止まる事など出来はしない。
ならば私は。私の敵を全て滅ぼす。それだけだ」

柊真白 >  
「だから君は子供なんだよ」

ばっさりと、彼の答えを切り捨てる。

「自分がやれば、自分が背負えば、自分が犠牲になればそれで全部片が付くと思っている」

青い瞳で、じっと彼の瞳を見据えながら。

「これからあの店に何事もないとしても。今回君が撃たれたことでどれだけの人間が心配したと思う? あの店のみんなや風紀の同僚もきっと心配したでしょう。君が殺した人じゃなくて、君に助けられた人だっているでしょう。その人が、命の恩人が命を落としたと知ればどう思う?」

諭すように、ではなく、失敗した子供に言い聞かせるような。

「君の命は君だけが好きにしていい命じゃない」

彼に何かがあれば、どこかの誰かに影響が出る。
彼を心配した人や、同僚だったり、もしかしたら彼が命を救った誰かに。

「だから、そういうことは私にでも投げればいい。何のための人脈だと思ってるの。君はもっと人を使うことを覚えるべき」

神代理央 > 「・・・子供だとも。それを良い訳には決してせぬが、未だ未熟な所が多々あるのは認めるさ」

「私が背負って何が悪い。私が背負うべき理想と業を、私自身のものとして何が悪い。私は、それに怯えたりはしない……!」

彼女に答えを切り捨てられても、それでも。
それでも己には、その生き方しかないのだから。そうあれかしと、期待し、己の内面に刻んだ者がいるのだから。

「……俺が撃たれたところで…とは、流石に言わないさ。ああ、そうだな。心配を、かけた。それは認める。
心配されるなんて、思ってもみなかったけど」

ほんの一瞬。向けられた彼女の青い瞳を見つめ返すが、直ぐにその視線は逸らされる。
心配してくれる人がいない、とは決して言わない。それを言うには、己は陽だまりに居すぎてしまった。

「……貴様に、か?投げてどうするというのだ。貴様が私の代わりに、違反部活と戦うとでもいうつもりか。
潰しても潰しても湧き出る様な連中と、渡り合うつもりか」

それこそ、己の望むところではないのに、と。
視線に再び宿った強い意志が、彼女を見つめるだろうか。

柊真白 >  
「そう言うのは、大人の仕事。子供の未来も理想も業も、背負って抱いて、そうやって子供を未来に進めていくの」

自分だって殺してきた。
沢山、殺してきた。
けれどそれらは自分で背負えるようになってからだ。
それを代わりに背負ってくれた人が、自分には確かにいたから。

「戦わない。私は暗殺者だから。派手にはしない。人目にも付けない。言われた組織を確実に殺していく」

変わらぬ瞳で彼を見つめる。
殺気も慈悲も何も宿らぬ仕事人の目。

「けど、うん。そうだね。――私は、君に死んでほしくないと思ってるから」

少なくとも、今彼が直接動いている現状よりは、彼が命を狙われる危険もないだろうし。

神代理央 > 「…そうやって、大人は都合の良い事ばかり言うものだ。別に貴様を信用しないという訳では無い。しかし、無条件で他者を信用する程、穏やかな人生を送れた訳でも無い」

煙草が、吸いたくなった。
勿論病室は禁煙だし、そもそも彼女の前で未成年の己が吸う訳にはいかないのだが。
それでもふと。此の胸の中に溜まったものを、紫煙で吐き出したくなってしまった。

「……そうだな。貴様なら上手くやるだろうさ。その実力は、直接戦った俺自身が良く知っているとも。それは、信用する」

そして、暗殺者としての彼女の瞳を静かに見つめ返すと、ふ、と小さく笑みを零す。

「……良い友人を持った、と言っておこうか。そこについては、他者と同等の幸福が得られた事を喜ぼう」

「だが、俺はお前が俺の代わりに争う事を望まない。強いて言えば…そうだな。部活動の面々を。あの場所を守って欲しい、とは思う。……これは、俺の我儘だけどな」

「…どのみち、暫く動けぬ身だ。なら、せめてその間だけでも、守って欲しい。俺の、代わりに。こんな事頼めるの、お前くらいだし」

言葉を締め括ると、静かに。穏やかに笑った。

柊真白 >  
「大人は多少ずるい方がちょうどいいの」

昔テレビか何かで聞いたセリフ。
けれどそれはその通りだな、と思う。
きっと彼も大人になればわかるだろう。

「それはどうも。私としては、君にはもっと幸せになってもらいたいところではあるけどね」

彼女でも作れば考え方も変わるだろうか。
しかしこの性格では付き合う方も苦労するだろうなぁ、なんて思いながら。

「信用に関しては、仕事に関して手は抜かない。争うことも、そもそも私は戦闘が本業じゃないし、それに、君の何十倍も殺してる」

数百年――途中で間があったとはいえ――殺し続けている身だ。
今更一人や二人分増えたところでどうとも思わないけれど。
無理に荷物を奪うのも過保護と言うものだろう。

「それは、私の友達の神代理央として? それとも怪我した風紀委員の鉄火の支配者として?」

神代理央 > 「……はっ。貴様のその見た目で言われても、説得力皆無だがな」

クスリ、と小さく笑みを零す。
しかし、その通りなのだろうなとも思うのだ。己の周りの大人達は、大体が卑怯で狡い存在だったのだから。それを悪い、とは言わないけれど。

「幸せ、か。俺が人並みに幸せになれるイメージが今一つ掴みかねるところではあるがな。俺個人としては、貴様にも幸せに。幸福に過ごして欲しいと思っているよ」

幸せ、とはそもそもどういった定義を注すのだろうか。
金は或る。異能や魔術といった力もある。己に欠けているものは無い筈、なのだが。それでも、満たされているかと言えば。
彼女の想い等露知らず、小さな苦笑いと共に肩を竦める。

「恐ろしい事だ。今此の場で、貴様が敵でないことを心底感謝するしかない。神様など信じていないから、何に感謝すべきか悩むがな」

と、緩やかな笑みを零して。

「――成程。少しだけ、ほんの少しだけだが、何となく合点がいったよ。ああ、そうだな。風紀委員としての俺と、そうではない俺が、面倒な事になっているのかも知れないな。
――お前に託したい願いは、友人としての俺からの。唯の神代理央からの我儘だ。…本当に、我儘でしか無いんだが」

柊真白 >  
確かにこの格好では説得力はないだろうけれど。
これはこれで便利なのだ。
対象が油断してくれたりするし。
怒ってない。
別に怒ってない。

「私は幸せだよ。友達がいて、仲間がいて、弟子がいて、優しくてちょっとえっちでヘタレでおっぱい大きい方がいい彼氏がいるから」

そして惚気る。
幸せそうに小さく笑いながら。

「ん。じゃあ、報酬はご飯奢ってくれることと、怪我を早く治すこと――あぁあと、店の買い物する時は『絶対』に私を通すことも追加で」

特に最後。

「――でも、私も良かった。もし君がもう少し強情だったら、君を殺さなきゃいけなかったから」

神代理央 >  
「…胸が大きい方が良い。はあ、何というかその。まあ、お幸せに……?」

彼女に視線を向ける。少し考え込む。窓の外の青空を眺める。もう一回彼女に視線を向ける
ちょっと悩んだが、当人同士が幸せなら問題ないだろうと勝手に理解した。
恋人かー、等と、ちょっと遠いものを見つめる様なぼやきつきで。

「…構わないさ。何なら、エンピレオで好きなだけ食べさせてやるとも。
え。……ああ、いや、うん。はい。分かった……」

店の買い物の件は、露骨に残念そうな顔をした。
しながらも頷くが、多分これからも彼女に怒られる事になるのだろう。

「……俺はな、柊。俺を撃った子供に、生き延びて殺しに来い、と言ったんだ」

ふと、彼女の言葉に返し紡ぐ言葉には、驚く程感情が籠っていない。
無感情、とか。機械的な。という訳では無い。強いて言えば、無色透明な。そんな口調の言葉が続く。

「あの少女にも。そしてお前にも。アイツにもコイツにも、俺は殺されなければならない。俺が弱ければ、違えれば、死んでやらなきゃいけない。なあ、柊」

深々と、ベッドに身を預ける。
重心の位置を察して、ゆっくりとベッドが倒れていく。

「――楽しみにしているよ。何れ誰かが、俺を殺してくれるのを」

そういって、ふわりと笑みを浮かべた。

柊真白 >  
じっと見る。
今までの感情のない瞳ではない。
視線だけで彼を殺しそうな目。
――それはいいんだ。

「駄目だよ。君は生きなくちゃならない。今まで君が奪ってきた人の命を背負って、寿命で死ぬまで生き続けなくちゃならない」

感情の消えた瞳に戻り、冷酷な言葉を継げる。
罪から逃げるな、楽になるなと。

「実は、君に恨みを持つ人から君を殺してくれ、って依頼をされてた。保留したけど。でも、今君から依頼を受けたから、その人には依頼主は殺せない、って伝えておく」

椅子から立ち、彼のそばによって頭に手を伸ばす。

「生きなさい、神代理央。誰かに殺されるなんて、そんな楽な結末は許さない。君に命を奪われた人ではなく、君に家族を奪われた人でもなく」

そのまま、彼の頭を優しく撫でながら。

「君と同じく人の命を奪ってきた、私が絶対に許さない。だから、ちゃんと生きてちゃんと死になさい」

柊真白 >  
「それでもどうしても辛くて生きていけなくなったら、私に言いなさい。
 誰かのためじゃなく、仕事のためでもなく。
 私が私の意志で、君を君のために殺してあげるから」

暗殺者としての矜持を曲げてでも。

神代理央 > 一瞬、ものっそい殺意を向けられた。何処が悪かったんだろう。気を遣ったつもりだったのだが。

「……随分と、重い宿題だな。此の俺に、寿命まで生きろというのか。それはまた…難儀な宿題だ」

罪から逃げる。そうか、己は楽になりたかったのかも知れない。
気付いてしまったから。揺らいでしまったから。理想を求めるだけの機械から、一歩遠ざかってしまったから。
『鉄火の支配者』から『神代理央』へと、一歩進んでしまったから。

「……それは…残念だな。そして、依頼主は歯噛みしただろう。今の俺は、こんな有様。誰にだって、殺されるかも知れないというのに」

と笑っていれば、伸ばされる彼女の手。
ひんやりとした掌に頭を撫でられる。失った血液と体力も相まって、瞳は次第に力を失い、ぼんやりとしたものへ。

「……その、お前の優しさが。お前の慈悲が。後悔に変わらない事を祈るよ。お前にの決断を、ないがしろにしたくはないからな」

そうして、再び微睡始めた意識の中で、最後に彼女が告げた言葉。
その言葉が耳を打てば、心底嬉しそうに微笑んだ。

「ばーか。お前に、友達を殺させてやるものか。そんなこと、したら、お前の彼氏に、恨まれる…だろう…」

「……死なないよ。辛くても、足掻いてみせる、さ。お前が俺を殺すのは、友達じゃなくなったとき、だけだ。そうなりたくは…ない…けど……」

そして、押し寄せる睡魔に押し流される様に、彼女の掌に少しだけ身を寄せる様にして眠りに落ちる。
その表情は――案外、穏やかなものだったのかも知れない。

柊真白 >  
「誰かの命を奪うって言うのはそう言うことだよ」

優しく彼の頭を撫で続けながら。
彼は機械じゃない。
考えて、悩んで、理想を追い求めて無様にあがく人間だ。
彼に限った話じゃなく、誰だってそうなのだ。

「ちょっと私情も入ってたけど」

自分は人間じゃないけれど、自我もあるし感情もある。
友達を殺すようなことは出来るだけしたくない。

「変わらないよ。三つ子の魂百までって言うでしょう。三十で変わらないなら千年変わらない」

そして自分は今まで変わらずに生きてきたのだ。
一生変わらない。

「君はあの場所を守れ、って言ったけど、あの場所には君も含まれてるから。だから、君は私が守るよ。友達として殺す日まで、ずっと守る」

意識を手放した彼へと優しく声をかけ、立ち上がる。
扉へと向かい、その前で立ち止まり、

「――そう言うわけだから。手を出すなら殺す以外のあらゆる手段で地獄を見せると、伝えておいて」

それだけ呟き、応接室のソファで本を読み始めるだろう。
面会時間が終わるまで、そのまま寝ている彼の邪魔をせずに静かに過ごす――

ご案内:「常世総合病院 VIP個室」から柊真白さんが去りました。