2020/07/10 のログ
ご案内:「歓楽街 ラブホテル」に群千鳥 睡蓮さんが現れました。
ご案内:「歓楽街 ラブホテル」に鞘師華奈さんが現れました。
■群千鳥 睡蓮 > 時節柄しょうがないとはいえ、急な雨だった。
豪勢な建物の軒先を借り受ける形で、傘を持たぬ身はそれを凌ぐこととなる。
本日分の考査が終わったばかりの昼過ぎだ、こんな時間じゃ客も来ないだろう。
おひとりさまの入店はお断りされてしまったが、
フロント入り口の軒下で雨宿りは許してもらえた。
「当分、止む気配もないか……まいったね、どうも」
薄曇りだったんだけどなあ、と、それなりに強い雨足に煙る景色を眺めた。
すぐそばが公式的には『ない』ものとなっている区画であるため、人通りも少ない。
やむまでひまだな、と瞑想できる環境でもなし、壁に背を預けてぼんやりと時が過ぎるのを待つ。
■鞘師華奈 > (やれやれ、天気予報も存外宛てにならないものだね…まったく)
そんなぼやきを心の中で漏らしつつ、同じく傘を持たぬスーツ姿の女が小走りに街を往く。
公安としての調査任務…と、いっても比較的簡単なものだが…を、終えて報告を済ませた途端にこれだ。
折り畳み傘の一つすらまともに持っておらず、しかも雨脚も意外と強い。
と、視界の先にあったのは――ラブホテルだ。丁度いい、あそこで雨宿りさせて貰おう。
先客の姿を目に留めつつも、そのまま女も軒先へと滑り込むように駆け込んで一息。
「…やれやれ、すっかりびしょ濡れだ」
多少の撥水性がある生地ではあるが、それでもじんわり雨が染みこんで重いし冷たい。
その下のワイシャツも程よく濡れており、髪の毛に至ってはツーサイドアップの左右が重く垂れ下がっている。
ネクタイを軽く緩めながら、何気なく先客へと視線を向ける。挨拶くらいはしておこうか、と軽く会釈をしてみるが…。
「―――……?」
違和感。最初に感じたのは言葉にするならそれだ。初対面で偶然雨宿りが重なっただけ。
なのに、彼女から目が離せない…と、いうよりもその”在り方”が何か――…。
■群千鳥 睡蓮 > ご同輩がいらっしゃった。
そこまで狭いわけじゃないが、邪魔しないように端に寄ろう。
そうして隣に滑り込んだ彼女に向けた視線は、
ごく当たり前に、そこに居る者を視認する、という、特別な感情の乗らないものだ。
そこにあるのは殺意や敵意というものではなく、恐怖や警戒というものではない。
ただ、分析するだけ。死への道筋、天命の在り処。
金剛石が月魄の形を成した刃鎌で、そっと首筋を撫でるような――
それは刹那にも及ばぬ一瞬のうちに、睡蓮の脳裏に叩き込まれるものだ。
「………どうも」
視線に対して、こちらは会釈を返す。
その、ただ確かめるだけの死神の『眼』の在り方を、
気取られることは――ままある、だから、何事もないことを装うのだ。
そして何事もないことを装っていることが気取られることも、またあるだろう。
たっぷり雨水を含んで服を体に張り付かせたまま、首を傾げてみせた。
「日ノ岡先輩の『話し合い』にいたひとだよね」
■鞘師華奈 > 赤い瞳に熱は無い…強いて言うのならば、熱はあるとしてもそれは燻り続けて未だ燃え盛らぬ残り火に過ぎない。
一目、彼女を見て感じた感覚に――だが、特にそれに言葉を付け加える事は無い。
暗黙の了解、というほどのものではないが…視認には視認を、ただ合わせ鏡のように返しながら。
こちらを眺める瞳、首筋を撫でる死神の鎌――相対するは無慙の刃。
死への道筋を切り、天命を引っくり返し、それに恥じもしない、そんな――
「――どうも、お互い雨にやられたね」
何事も無かったかのように、ただ死神の”目”を受け止め続ける。
慣れたものだ、身に染みたものだ、何故なら――ずっと、そんな視線を昔は受け続けたのだから。
だから、”似て非なる”視線を返す事は造作も無く…ちらり、濡れ鼠の女の姿を自分と重ね、緩く肩を竦めてみせた。
彼女のそれに気付きはしても、指摘はせず…だが、気付いているよという風なさり気ない仕草。
「…ん?ああ、元から見学予定だったからね。…まぁ、大した発言も意思表示も出来なかったけどね…。
正直、周りの連中の顔もうろ覚えだけど…君も居たのかい?」
そこは本音だ。だからついつい苦笑じみた笑みを低く漏らして。
■群千鳥 睡蓮 > 「彼氏さん待ち……ってわけじゃないんだ」
自分もだけど、と苦笑する。
本来の用途のためにここに来たのかと思ったと、とむき出しの肩を竦めた。
「ああ、わざとじゃないんだ……ごめんね。
染み付いてるっていうか、こういう眼なの。
……逃げずにいてくれるならあたしとしちゃあ嬉しいかなー、ひまだから」
彼女の無言のいらえには、すこしばかり、申し訳無さそうに眉を顰めた。
眼を閉ざすことを選ばなかったのは自分だが、不快感を与えるのは望むところではない。
とはいえ、こちらも動じはしない。
密やかながら、何があってもどうにかできるという自信の顕れ。
その静けさを湛えた己の表情に、掌、指先を這わせて仮面を表現する。
「ホッケーマスクとレインコート。これでもおとなしい一般生徒で通ってるから。
あんたは剥き出しだったね――発言したいことがあったの?
二級とか違反部活とか。 見たトコ、そこまでそんな感じはしないけど……」
■鞘師華奈 > 「…残念ながら、そういう人は特に居ないかな。別段必要とも思ってないしね。
それに、私より君の方がどう見てもモテそうじゃないか。スタイルも良さげだし?」
実際彼氏とか別にどうでもいい、とばかりに答えながら濡れたスーツの懐から煙草の箱を取り出す。やや湿り気があるのは覚悟していたが。
中身を一瞥すれば、10本程度残りはあるが半分ほどは水分が染みこんで湿気ている。
小さく吐息を零しながらも、無事な煙草を一本抜き出せば口の端に咥えてからライターで火を点ける。
「――視線にはそれなりに敏感だけど、私は別に気にしないさ。
君のその…見透かすような、見極めるような目は嫌いじゃあないしね。
…まぁ私なんぞを見ても面白いものでもないだろうけど」
不快感は特に無い。そして動じもしないのはお互い様だろうか?
ちょっとだけ似ているな、と思うのは彼女に失礼だろうか?と、煙草の紫煙を燻らせながら思う。
「――大人しい?…いや、君の発言を馬鹿にする訳じゃあないんだけどさ。
確かに物静かな気配はするけど…ああ、私は別に隠すつもりもないし、変装とか面倒臭いしね。
――いいや、あった気もしたけど今は過ぎた事さ。それにあの場は結局、場に出た時点で流れは決まっていたようなものだしね」
”話し合い”だったのだから。煙が彼女のほうに流れないように、と最低限の配慮はしつつ煙草を蒸かして笑う。
「――しかし、お互いこのままじゃ風邪を惹くしそれは困る。…どうだい?ちょっと”冒険”してみるのは?」
と、少しだけ悪戯っぽく口の端を歪めれば…くいっ、と親指で軽くホテルの出入り口の向こうを指差して。
■群千鳥 睡蓮 > 「モテてしまうから、普段は美少女であることを隠して生活しているんだよね。
世の男子諸君にあらぬ期待をもたせてしまわないように、これは慈悲。
……とどのつまり、あたしも男にキョーミなし。
他にやんなきゃいけないこと、たくさんあるしな」
恋愛遍歴、脛に傷。彼女の過去を掘り起こそうとするような茶化した言動は避けて、
驕り高ぶった冗句のあとに肩を竦める。
本性がおとなしくないのは、自認しているところでもある。
視線、と言われると、少しそれを反らして考えてから、
「――それなりに修羅場潜ってて場数踏んでるのにその物言いと態度は、
なにかやめたり諦めたりしたことがあるのかな、とは思う――かな。
韜晦っていうのには自嘲っていうのかな、そういうのが様になりすぎてて、
でも確かあんた書類には興味示してなかったよな……?
日ノ岡先輩の物言いに噛み付くような素振りも言う通りなかったし、
身綺麗なあたり二級か違反部活って感じでもないか、『今は』。
とはいえここらへんうろつくってことは友達が居る、か……
二級上がりか、あたしと同じで日ノ岡先輩当人に興味があった一般生徒……
――ああ、もしかしたら風紀か公安の仕事で捜査とか、そんなかな、とは」
ぶつぶつと、癖なのか、唇を指でとんとん、と叩きながら『観た』ままを口にする。
もちろん、素人の当て推量。たまに『節穴』になる眼は、
彼女が、彼女で在る成り立ちを、答え合わせを求めるように再び視線を戻した。
「あー、そうだね、たしかにふたりでなら入れるみたい。
じゃあ行こ。ここほら、洗濯乾燥機もついてるって」
未開の場所には心踊る性質。口端を釣り上げると軽い足取りで自動扉を潜った。
女ふたりさっきの客。フロントの係員には顔を顰められたが鍵は受け取れた――『ご休憩で』。
「鍵もらったー。 201号室ですって。 それまでに止めばいいけど、そしたら伸ばせばいっか。
ちょっと羽振りがよくてね、奢るよ。
――ああ、なまえは? あたしは群千鳥(むらちどり)。 一年の」
くるくると綺麗な四角柱をほった番号札を手にカギを回しながら、
浮足立った様子でエレベーターに。
■鞘師華奈 > 「――ああ、それはまた…実際、確かに”今の君は”美少女だと思うよ、本当に。…むしろ、私としては”普段の君”がどういう感じなのか気になるけどね?
――おや、やらなければいけない事が山積みとは羨ましいね。君は活発なんだな」
少しは以前のように前向きになったとはいえ、未だに怠惰で面倒臭がりの面が抜けない自分とは大違いだ。
勿論、彼女の冗句は冗句と理解しつつも、普通に美少女じゃあないか、と思う訳で。
「――あーーまぁ当たってる所も多いけど、そう分析されると私も恥ずかしいんだけど。
――まぁ、そうだね…一つだけ端的に答えるなら、私は公安だよ…新人だけどね」
本来、もうちょっと秘匿するべきなのだろうがあっさりと口にして緩く笑う。
じっ、と彼女の目を見つめながら…成る程、矢張り面白い”目”だなぁ、と思う。
「――そもそも、私があの場にいたのは友人の話し合いの顛末を見届けるつもりだったのと。
…”私の物語”を始める切っ掛けを掴みたかったからだよ。
…何せ、最近まで傍観者気取りだったものでね…能動的に動くのにはまだまだ臆病な訳さ」
と、嘯くが必ずしも全てが戯言でもない。この女には別に話しても構わないか、と何となく思ったから。
ともあれ、積もる話の前にまずは服を乾かしたりしないといけない。
「うん、話が分かる人はいいね。それに衣服を乾かせるのは有り難いし」
微笑んで頷きながら女二人連れで中へ――店員に訝しげな顔されるが、それはそれ。
こちらが服装から男役、みたいなものかもしれないが当人達にそんな意識など欠片も無く。
ご休憩、という訳で店員からキーを貰ってエレベーターへと歩きながら。
「私かい?私は2年の鞘師華奈(さやし・かな)…カナでいいよ。先輩呼びとか敬語もパスでね。えーと、むらちどり…んーー」
そこで少し悩む素振り。おそらく苗字なのだろうが少し呼び難いというのが本音だ。
「私としては君の名前のほうで呼びたい、というささやかな我侭があるんだが教えてくれたりするのかい?」
と、浮き足立った様子でキーをくるくる指で回しながらエレベーター前に赴く彼女に続きながら。
利用者が少ない時間帯だからか、直ぐにエレベーターは開いて二人して乗り込もうか。
どう呼ぶべきだろうか?と、いう逡巡をしながら
■群千鳥 睡蓮 > 視線を彼女に向けたまま、懇切丁寧な返事にはふうん、と息を返すばかり。
今此の場で問い詰めても仕方がないことだった。エレベーターに乗り込む。
「公安新人の、さやし……さん? さやし、かな。どうやって書くの?
……わたしもここらへん来たばっかでね、よくわかってないんだ、公安とかは特に。
なんとなく警察とかスパイとか……そんな、あれ、あたしも調べられちゃう?」
あまり聞いた覚えのない名字だな、と興味がそちらに向く。
自分が知っている公安委員の女性とはまた違った風格に、冗談めかした問いかけを重ね。
「え、下の名前で呼ぶの。 呼びたがるひとおおいな……」
少し戸惑ってからんー、と悩む。しかし、話し相手を希ったのは此方側だ。
ぽたり、と搾りきれていない水滴がチェスターコートから床に落ちる。
「睡蓮(すいれん)。 仰々しいでしょ。9文字だもん。
じゃああたしも華奈さんで。さやしさん、は、『さ行』多いし」
滑舌は非常に明朗だが、呼びやすいのは有り難い。
冒険を共にする者だ、それくらい距離は近くてもいいはず。
エレベーターの移動はほんの短時間で、清潔な印象の廊下をしげしげと。
旅行の経験は多いから外泊経験はあるものの、ラブホははじめてだ。
「マニッシュな格好してるからマッチョな趣味でもあるのかと思ったけど。
意外とロマンチストだね。さっき言ってた、『わたしのものがたり』ってのは――?」
先導する。視線を向けぬまま201号室に鍵を通す。
気安い調子だが、なんとなく、そう、話し相手になろう、という意識で。
開いた先は――なるほど高額なだけはある。
大きいテレビにダブルベッド。硝子張りの入浴フロアにはジャグジーも見える。
モノトーンを基調にしていて、想像していたけばけばしさはない。
少し上機嫌に踏み込みながらチェスターコートを脱いで身軽になる。
「うっわーすごい。ちゃんとホテルだ。
気取ったリゾートホテルって感じ。もっと汚れてるもんだと思ったけど。
うっわ懐かし、有料の冷蔵庫!――あ、トイレのほうに乾燥機ある。
バスローブもあるから――お風呂。 どっちから入る?」
あちこち興味深げに観察しながら、くるりと振り向いて。
■鞘師華奈 > 「あぁ、刀の『鞘』に師匠の『師』で鞘師、だよ。由来は確か刀の鞘を作る専門の職人、だったかな?
――さて、どうだろうね?君は色々と興味深いから調べたくはなるねぇ」
と、本気か冗談かそんな言葉を彼女の問いへの答えとする。矢張りこの子は面白い。
「…あぁ、もしかして嫌だったかい?それなら無理には聞かないけど……睡蓮?成る程、確かに”綺麗に咲いてる”ね。
…あはは、サ行が多いのは確かに。別にさん付けも要らないけど、まぁそこは睡蓮の好きにするといいさ」
と、名前が聞ければ僥倖とばかりに笑いながら、早速彼女の名前を呼んで行く。
睡蓮…良い響きだ。自分みたいに平凡な名前ではないのが少し羨ましいかもしれない。
何はともあれ、これも何かの縁かもしれないし…それに、仕事の息抜きにもなる。
「格好?ああ、私は昔から女っぽい格好が苦手というか嫌いでね。こういう服装が好みなんだよ。ついでに香水やアクセサリーも基本苦手さ」
だから煙草なんて吸ってる、と右手で煙草を蒸かす仕草をしてみせながら楽しげに。
男装というには中途半端だし、そもそも女というのを隠してはいない。
ただ、如何にも女の子っぽい格好や仕草というのが生来苦手意識が強いのだ。
綺麗に清掃が行き届いた廊下を抜け、目的地の201号室へ…鍵は彼女が持っているので、そちらに任せつつ。
「――ああ、つまらない事だよ。私は傍観者気取りで今まで居たからね。
…で、ある日とある友人に指摘された訳さ。そのままでは何度も”取り零す”ってね。…まぁ、恥ずかしながら思い至る事もあったし。
――そろそろ、自分の道をちゃんと自分の意志で歩いていく時期なのかな、ってさ。
…ほら、つまらない話だろう?」
と、苦笑を浮かべて。彼女がこちらに振り返らずとも、ついでに肩を竦めているのが想像できるかもしれない。
ともあれ、彼女に続いて部屋の中に入れば…彼女と違って落ち着いてはいたが。
「…おや、これはまた…最近のラブホテルはそこらのホテルより綺麗で落ち着いているとは聞いてたけど。
うーん、むしろこっちの方が雰囲気的には私好みかなぁ。このモノトーンな感じとか」
と、彼女に続いて部屋の内装を確認しながらへぇ、と感心したように頷いていた。
流石にそろそろべったりして気持ち悪いのもあり、スーツの上着とネクタイを外して上はワイシャツ姿になりながら。
「有料の冷蔵庫か…この際、お酒とおつまみでも持参するべきだったかな。
おっと、じゃあ衣類はそっちで纏めて乾かそうか――ふむ?」
風呂。当然ながらお互い濡れ鼠で体も冷えている。風呂に入るのは必然だろう。
睡蓮に先に風呂を譲ろうと思ったが…ふと気紛れに笑ってこう答えようか。
「――順番を決めなくても、私と睡蓮が一緒に入ればいいんじゃないかな?女同士だし問題ないと思うけど?」
と、ジーーッと睡蓮を見つめながらニコリ、と笑顔。別に何も企んではいない。
いないが、どうせなら興味深い子と一緒に温まるのも悪くないと思えて。
■群千鳥 睡蓮 > 「鞘に、師……あー、なるほどね。じゃあ、ご先祖様が実際につくってたのかな……?
――ほらあ!だから嫌なんだよ、名乗るの!
……ったく……こっちは、華奈さん、で。 年上でしょ?」
どこか気障な言い回しに、僅かに頬に朱を乗せて噛み付いた。
両親からもらった名前がきらいなわけではないけれど、花の名前となると、
少し擽ったいのだ。それに相応しい振る舞いができているかというと、自信もない。
「つまらなくはないよ。 だれかのことを識れるっていうのは、
あたしにとってそれだけで価値があることだからね。
――とはいえ聞いてばっかりだと不公平だよな……
なにか気になることがあれば、……こたえられる範囲で?」
洗濯機にコートを放り投げる。バスローブをアメニティ入れから引っ張り出して、
彼女のほうに突き出しながらなにげない会話を続けた。
落ち着いた装い。なるほど、仰々しい浴室を除けば、
彼女の私室って言っても通じそうな感じ。ちらりと視線を送った。
「ああ、そだね――――――いや、
いやいやいや。 初・対・面! 会話したのはさっきはじめて!
あんた意外と距離詰めてくるな……? そりゃ温泉とかならよくあるけど……
――ごく個人的な問題で、それは却下で、お先いただきますっ……!
お酒はいってるし、おつまみも買えるんじゃない?
寝ちゃったら延長しとくから、先にはじめててください……」
頬の朱は一層濃くなった。物怖じしない大胆さに少しだけ後退る。
いきなりの裸の付き合いを承諾できなかった敗北感と顔の熱さを感じながら、
ノースリーブのシャツを脱ぐ。雨のにおい。洗濯機へ。
黒い下着はデザインも気取ったものだ。普段は秘め隠す自信のあらわれ。
そちらに視線は向けないまま、声をかける。
「……で? その指摘してきたお友達ってのが、日ノ岡あかねなの……?
口ぶりからすると、けっこう効いたみたいだね、それ。
どっちつかず、傍観者……そうなったのはなんでか、とか。聞いてもいいのかな」
■鞘師華奈 > 「いやぁ、私のご先祖様がそれかどうかは流石に分からないよ。家系図とか言い伝えとかも無いし。
それに、私はこう見えて異邦人街生まれだからね。あまりご先祖様とか意識した事もないさ」
気障な言い回し、をしたつもりは特に無い…無いのだが、本人がそのつもりはなくても相手がどう思うかは別だ。
名前を名乗るのを彼女は嫌がっていたのだろうが、素敵な名前なのは事実だから撤回する気も無く。
「――別に素敵な名前なんだし、何より…君が君である事を示す名前なんだ。
恥ずかしがらずに誇っていいと私は思うよ――睡蓮。」
それが、両親から貰った贈り物ならば。既に今は亡き己が両親の面影が脳裏をちらつき、僅かに微笑みながら。
「――つまり、君は”知りたがり”なのかな?私の事でそこまで君の興味を惹くものはないと思うけど。
――そうだね、じゃあ君のスタイルはとてもすばらしいと思うけど、サイズはどのくらいかな?」
気になる事、と問われたならば敢えて普段の緩い無表情で睡蓮の3サイズをストレートに尋ねていく。
そのほかに聞きたい事も無くはないのだけれど、真っ先に挙げるならそれになるだろう。
――だって、露出度が地味に多いのだから自然と目に留まるのだ。致し方あるまい。
彼女からバスローブを受け取りつつ、こちらも先にスーツの上着とネクタイを乾燥機に放り込んで。
ちなみに、実際の私室は――端的に言えば殺風景だ。あまり物を置かないタイプというやつで。
「……ん?確かに初対面だけど、そこまで驚くような事かな?別に男から迫られた訳でもないし。
――へぇ、個人的な問題ね…それは”興味深い”。」
と、睡蓮とは”似て非なる”目でじっと彼女を見つめる。さて、どんな問題なのだろう?
ともあれ、こちらはワイシャツにスラックス姿のままで彼女が終わるまで待つ事にする。
とはいえ、その間も洗濯機に残りの衣類を放り込む姿は普通に赤い瞳で眺めていた。
――うん、何気に大胆な黒下着だね睡蓮って。これは自己主張…いや、”自信”だろうか?
実際、スタイルは自分なぞより数段上なので、同性から見ても羨ましい限り。
「そうだね――まぁ、あかねは割と相手の言動や態度から、そういうのを的確に見抜いて指摘してくるから。
…いや、指摘と言うか…本人が見て見ぬフリをしているものを暴き出す、というか引っ張り出すイメージかな。
…まぁ、友人だけど私は彼女には絶対敵わないだろうね。そもそも、あかねからすれば『私』を貫いているだけだろうさ」
と、そう答えながらぽすっ、と睡蓮から視線を逸らして無駄にでかいベッドの上に寝転ぶ。
天井をぼんやりと見つめながら、届く睡蓮の言葉に天井へと顔を向けたまま。
「――別に大した話じゃないから構わないけど、一度に話すのもつまらないだろう?
私としては、君の事をもっと聞かせて欲しいかな…話せる範囲で構わないけどね」