2020/07/25 のログ
ご案内:「【ソロール】Shadow Runner」にハルシャッハさんが現れました。
ハルシャッハ >
――特殊な鍵によって守られた空間が、ある場所にある。
その場所を知ること自体なかなかどうして難しい場所ではあるが、
そこはある盗賊の男の私室であり、セーフハウスでもあった。
――その空間の中に一人、最低限の明かりのみ灯して身を横たえる男がいる。
「……」
沈思黙考する男の目線は天井の上。
薄汚れた天井のシミをじっと見つめて思考をただ練るだけの時間。
それは、男にとって僅かだが気の抜ける時間であるとともに、
同時にクズなりに将来を考える時間でもあった。
――様々な思考が巡っては消える。
『異能』と呼ばれる様々な能力、そしてそう簡単に死なない連中と。
特別な能力を一切持たない男からすれば、それは一種の『疎外』であり、
同時に戦いのステージからすれば階級違いとさえ思える実力差だった。
「……。」
深い溜め息が、呼吸として漏れる。
ハルシャッハ >
男にとっては装備の選択と、情報の取捨選択だけが唯一の拠り所。
この、無能力者から思えば地獄めいた戦場で生き残るためには、
『使えるものは全て使う』しか無い。
だが、それが意味するものは。
男が意識して掛け続けた『一つのロック』を外すことも意味していた。
――裏通りの法において、
『その色』を着るということは『死を厭わぬ覚悟』を意味する。
男には、それをするだけの覚悟がまだ無かった。
だからこそ、裏通りでは目立つ『白』を。安全を意味し、
正面からの戦闘を助け、支える『白』を纏い続けた。
その禁を外す、ということは。
闇の中を駆け抜け、死と闇の中に身を浸すという覚悟をしなければならない。
この世界に来てから、男が一度も袖を通さなかった『絶対の色』を纏う。
その意味する物は『戦闘色』であり、同時に死を纏う覚悟の色だ。
「……。」
いくつかに分けられた装備単位のコンテナの中に、
明らかに手を付けていない物がある。
透明なそれから透いて見えるのは、明らかな影そのものだ。
――喉が鳴る。
男の覚悟を何処か知らせるように。
ハルシャッハ >
――ゆっくりと、コンテナの封を開ける。
箱から浮かび上がる、影そのものを縫い合わせたかのようなローブ。
黒とも、濃紺とも言えぬ。影そのものの色。
これこそが、夜の闇に完全に溶け込む覚悟の色だ。
忍び靴、濃紺に染め上げたレザーアーマー、タンニン染めの黒のナイフ。
消音型鋼鉄製ガントレット。 スローイングナイフ、ギャレット。
――そして、一切の表情を伺わせぬ漆黒のマスク。
テラーマスクと呼ばれる、恐怖の仮面。
「……。」
マスク以外は一度見せたことがある。
ただ、紹介だけに留めたがゆえに、ローブだけはレプリカだった。
今目の前にあるのは、スタイルで使う、本物だ。
「……決めるか。覚悟。」
ポツリとだけ空気を震わせれば。
男は己の手足に装備そのものをフィッティングさせていく。
すべてが隠密に特化した装備だ。音に繋がる緩みなど一切許されない。
きつすぎず、緩すぎず。動きに支障がないように。
ハルシャッハ >
――最後に纏う宵影を着る時、男の姿は完全に消えるだろう。
秒単位の透明化、そして影そのものに極めてよく溶け込むその色が、
この部屋そのものから存在を消してくれる。
僅かな光明さえ消し去り、流水さえも凍らせる殺気を静かに纏う。
それは、一つのスタイルの形――。
――部屋から人影が、消える。
ご案内:「【ソロール】Shadow Runner」からハルシャッハさんが去りました。
ご案内:「教会の裏に繋がる狭い路地」に山本 英治さんが現れました。
■山本 英治 >
教会のすぐ近く。
生活委員会の一之瀬 元気さんと風紀委員の酒井 佳代さんの結婚式が行われている。
終われば、酒井さんも一之瀬 佳代か………
煙草に火をつけて、路地で青空を見上げた。
蒼い空が憎い。
塀の中にいた時にあった、唯一綺麗なものだったからだ。
それでも。
今は……二人のために晴れてくれていることに感謝した。
■チンピラ >
ぞろぞろと。ハレの日に相応しくない武装で。
教会へ続く道を歩く大勢の男たち。
目の前にいるのは、風紀委員の腕章をつけたアフロの男。
「ああん? てめぇ、山本か……邪魔だ、どけよ」
「つか、どこで情報が漏れた? テメーを消すしか道がないだろうが」
男たちがヘラヘラと笑う。
■山本 英治 >
酒井さんを強引に自分の女にしようとしてフラれ。
今は不良をやってる男、熊田拓海がトップのチンピラどもだ。
先に捕まえた一人がつい数十分前に情報を吐いた。
他の風紀委員が来るのは、もっと後になるかも知れない。
それでも……俺は届いた。
今度こそ、届いた。
ふぅ、と紫煙を吐き出す。青空に溶けて消える煙を見て。
携帯灰皿の中に煙草を入れて火を消した。
「今日という日の教会ってのは」
「祝福されるべき人と、祝福するべき人しか入っちゃいけない」
「汚れた手の人間は入れない────俺たちみたいなのはな」
結婚式の邪魔はさせない。
上虚下実。上半身をリラックスさせ、下半身で大地を踏む。
拳法の構えを取った。
■チンピラ >
「バカがぁ!! 死ねや!!」
刃物や釘の刺さったバットを思い思いに持ち、山本を殺しにかかる。
殺意すらない。ただ生意気な奴を排除するという。
後戻りの効かない悪意。
■山本 英治 >
刀を右手で払う。
力の向きを考えれば、刃物の対処はそう難しくない。
同時に刮地風(かっちふう)。地面を削るように吹く風、という意味の技だ。
相手の攻撃を防御した瞬間に左脚で相手の脛を蹴りつける。
硬打の応用技。
相手の足の骨を蹴り砕いて次へ。
釘の刺さったバットを左手で払う。
多少、血が出るが。モロに受けるよりはいい。
横拳を撃つ。
下から掬い上げるように放つ拳打は相手の正中線を貫く。
左腕を軽く振って血を払う。
ブラックジャックを握った男の打撃は懐に潜り込む。
相手の攻撃を上に払って両掌で掌底打。
形意拳の達人、郭雲深が編み出したと言われる絶招、虎撲手。
相手は血を吐いて路地裏に転がった。
■チンピラ >
「バカ、真正面から突っ込むな!! 異能で死なせぇ!!」
遠距離攻撃型の異能を持った男たちが前に出る。
物体を加速させる異能でパチンコ玉を放る。
コンクリートを散弾に変える異能で壁を掬って撃つ。
氷弾を射出する異能で穿つ。
■山本 英治 >
チャペルから笑い声が聞こえる。
学生結婚だ、今頃仲人が小粋なジョークでも言ってるに違いない。
全身に遠距離攻撃の異能を受けて、血を流す。
異能を使えばこんな奴ら、物の数じゃない。
それでも、結婚式の裏で人を殺していいはずがない。
膝をついて相手を睨んだ。
「幸せになる女を邪魔する奴はな……俺の敵なんだよ」
出血はあるが、まだ視界は平常だ。
戦える。こいつらを制圧できる。
■チンピラ >
「山本よぉ……こんなことして何の得になるんだよ?」
「お前も俺らと一緒だろ? 一銭の得にもならない自己満足で動いてる」
「認めちまえよ、そんで諦めろよ」
「お前には無関係の女一人、守って何になるんだ」
リーダーの言葉に、チンピラたちが一斉に嘲笑う。
■山本 英治 >
「無関係なわけあるか………!!」
足に力を入れて立ち上がり、拳を握る。
そうだ。レイチェル先輩。紫陽花さん。そして、園刃先輩。
無理やり関係してやったみんなとも違うが。
「目の前で零れ落ちそうな幸せが、無関係なわけあるか…!!」
だろう、園刃先輩。
あなたには何もないわけがない。
幸せに。幸せに。ただ、幸せを願う。
青空の下で、吼えろ。
「俺は主人公にもヒーローにもなれねぇ!!」
「それでも自分が信じるものを裏切ったりはしねぇ!!」
握りしめろ、正義を。
叩きつけろ、意思を。
■チンピラ >
「よく言ったぜ山本ぉ……」
懐から拳銃を取り出して狙う。
「ご褒美をくれてやる」
狙いは正確に、相手の額へ。
■山本 英治 >
銃口。明確な死のイメージ。
銃……確か、師父が言ってた。
形意拳は銃弾のイメージで拳を撃て、と。
形意拳には十二の型がある。
龍形、虎形、熊形……即ち、十二形拳。
俺は編み出したはずだ。
拳銃の力を。
地面を蹴る。壁を蹴る。再び壁を蹴る。
路地裏狭しと跳弾のように跳ね回る。
本来、形意拳に存在しない十三階梯。
我流十三形─────銃砲拳(マグナムアーツ)。
相手の意識の外から胴体を拳で撃ち抜いた。
二十七関節全てを連結加速させるその拳は。
相手を撃って壁に叩きつけた。
■チンピラ >
あり得ない。相手が消えた。
銃口をどこに向けるべきか、考えている間に。
「がッ!!」
肋が砕ける音を聞き、壁に叩きつけられていた。
意識が途切れる。
■山本 英治 >
「うおおおおおおおぉぉぉ!!」
祝福の鐘が鳴り響いている。
一之瀬さん。酒井さん。ただ幸せを願います…
リーダーがやられて気圧されるチンピラたちに拳を振るう。
戦うことしかできなかった。
壊すことしかできなかった。
それでも、祈ることと信じることは。止めたくなかった。
チンピラどもが一人残らず気絶した路地裏で。
俺は足を引きずるように表を覗く。
ちょうど、ブーケトスだ。
みんなが笑顔で、幸せそうで。
誰のものか判別すらつかない血だらけの俺には、相応しくない光景だった。
「ご結婚、おめでとうございます………」
そう言って無理やり笑うと、また裏手の路地へと消えていった。
ご案内:「教会の裏に繋がる狭い路地」から山本 英治さんが去りました。