2020/07/27 のログ
ご案内:「ある病院の一室」にヨキさんが現れました。
ヨキ > 【0:http://guest-land.sakura.ne.jp/tokoyo/pforum/pforum.php?mode=viewmain&l=0&no=119&p=&page=0&dispno=119
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【2:http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca1894.html

ヨキ > 清潔感ある病室のベッドに横たわったヨキが、裸眼でぼんやりと天井を見ている。
簡素な点滴が一本繋がれている以外、目に見える大怪我はない。

「……………………、」

記憶がない。
何故自分が黄泉の穴に程近い場所に居たのか。
そこで何をしていたのか。
何が起こって、ここに横たえられているのか。

半日も点滴を受けると、あとは軽い頭痛や倦怠感が残るばかり。
記憶がないという異状に比べて、心身の不調はあまりに軽い。

「……………………」

分からない。何も。

ヨキ > 今日の授業は、体調不良のため休講ということになっているらしい。
人伝にそう聞いた。

“誰か”の名前を口にしようとしたが、言葉にならなかった。

どうやら、自分は大事な“誰か”のことを忘れてしまったらしい。
手持無沙汰のベッドの上で、ひとりひとり知っている顔を思い出す。

分からない。

分からない。何も。

昨晩“誰”の記憶が失われたのか。
その人物と、どんなやり取りを交わしたのか――

ヨキは何も覚えていなかった。

ヨキ > ヨキは悲しかった。
思い出すための取っ掛かりが何もない。

どこか生気が抜けた顔のまま、ひたすら横たわっている。

早く帰りたい。
授業がしたい。
仕事を片付けたい。
日ノ岡あかねはどうなったろうか。
トゥルーバイツは?
夏期講習の準備も急ぎたい。
もらった花のお返しもしなくては。

お返し?

誰に?

「……ああ、」

忘れもしない、ヒエンソウとカンパニュラ。青い青い花。
自分にそれらの花をくれた人間のことを忘れてしまったのだと思い至り、悲しみがいよいよ募る。

寂しいな、という声が掠れた。

ヨキ > 夜になれば退院してもよいと聞いた。
一日休む程度なら、スケジュールに然したる影響もない。

――そう。

この一連の出来事は、ヨキの人生にほとんど影響を及ぼさないのだ。
胸中にはこれほどにも大きな空虚を抱えているというのに。

叶うならば、もう一度。
君の名前を呼びたかったと――

ヨキはそっと目を伏せた。
静かに眠りに落ちる目尻に、微かな滴。

(……さようなら)

名も知らぬ、大事な君よ。

ご案内:「ある病院の一室」からヨキさんが去りました。