2020/09/13 のログ
ご案内:「常世学園付属常世総合病院」にレオさんが現れました。
ご案内:「常世学園付属常世総合病院」に水無月 沙羅さんが現れました。
レオ > 知らせを見たのは、仕事が終わって、駅で自分の荷物を確認したときだった。
携帯は鞄の中に入れたままコインロッカーに仕舞っていたので、確認した時には連絡が来てから、もう数時間が経過していた。

早期に連絡が来たのは多分、面識があった事。
そして今回の仕事がその先輩の不在期間の穴埋めという意味合いが強かったのもあるのだろう。


『神代理央、任務内の負傷により意識不明の重体。
 内臓損傷、穿通性外傷、その他裂傷等による出血多量。』

レオ > ――――

静かな待合室の、備え付けの椅子に座って時間を待つ。
病院に来れたのは、まだ日も登り切っていない早朝の事だった。
眠る気分でもなかったから、仕事が終わって連絡を見て、そのままの足で向かった。
血まみれなのは流石に拙いので、適当なネットカフェでシャワーを浴びて、服も私服に着替えた。
お湯で洗い流しただけだから、まだ少しゴワつくけれど、丁寧に洗う気分でもなかった。

そんな時間でも、既に駆け付けた、委員会の先輩方や、プライベートでの友人であろう人物がちらほらと来ていた。
有名な人なんだな、と…その眺めを見て、静かに思いながら待つ。



神代理央の容態は…治療中で、まだ分からない。
最善は尽くすという医師の言葉を信じるしかないという状態。
仮に命が繋がっても、意識が戻るかは、分からないという事だった。

そんな説明を、他にもいる神代理央の知人たちと共に聞いて、今はただ座っていた。
容体が容体の為に、面会なんてできない。
残っているのは、余程彼の事が心配な者か、自分のように、帰る気分にもならず残っている者だけだった。

水無月 沙羅 >  
「理央さん!? 理央さんは無事なんですか!?
 助かるんですよね!?」

甲高く、焦りのこもった声を上げる女子生徒のセリフがレオの耳に入る。
場所はちょうど集中治療室の前からのようだった。
一種の錯乱したような状態で、医師を揺さぶっている。

一通り説明をされたのか、その声も聞こえなくなり静かになった。
ほんの少しの静寂の後、待合室に集中治療室の方向から、風紀委員の腕章をした少女が項垂れながら戻ってくる。
隈のついた眼は紅く腫れており、制服も土やら砂やら、少なくない血で汚れているようにも見える。
正についさっきまで戦っていましたと言わんばかりのような有様だ。

後ろ髪だけを伸ばした特徴的な髪形も汚れてぼさつき、本来美少女と言っても過言ではない容姿も見る影もない。
そんな疲れ切った様子の少女が、レオの座っている席の近くに座り込んだ。

顔を両手で覆い、沈黙を保っている

レオ > 「(…風紀委員、先輩か。)」

動揺を隠せない様子でうなだれ神代理央の手術の結果を待つ女生徒を見る。
きっと親しい仲なのだろう。もしかしたら、神代先輩の彼女さんか何かだろうか。
それくらいの動揺の見せ方。その姿だけで彼女と治療を受けている先輩の仲が深いものだと察する。

戦った痕跡を見るからに、その女生徒も死地を潜り抜けてきた直後だろう。
疲労と、動揺と、苦悩と不安の顔。
その不安を煽るかのように、神代理央が入った治療室の先からは、死の気配がむせ返るほどにしていた。

――――……もしもの場合、あるかもな。

静かに思いながら、一度席を立ち、廊下の方を歩いていく。
飲み物を二つ買って、静かに、女生徒の前にしゃがんで、そのうちの一つを差し出した。

「……あったかいもの、どうぞ。
 少しは落ち着くかもしれません。」

水無月 沙羅 >  
「え……? あぁ、ありがとう……ございます。」

暖かい缶を両手でそっと祈る様に握った。
目の前に居る少年は、つい最近書類整理の際に顔を見たばかりだ。
たしか、所属されたばかりの、レオ・スプリッグス・ウイットフォード。

公安に配属されていたものの、ほんの数日で退職扱いになり、月夜見先輩が風紀に引き入れたと資料にはあった。
そんな彼がなぜここにいるのか。
気になる事には気になったが、現在の理央の状態の方が気がかりで、集中治療室の方を何度もちらちらと見ていては考える事にも身が入らなかった。

缶の蓋を開き、少しだけ喉に流し込む。
彼の好きだったホットココアの甘さに、また少し涙が出る。

「レオさん……でしたよね?
 お見苦しいところを。」

涙を拭ってから、己を心配してくれたであろう少年に向かって浅く一礼した。

「私は、水無月沙羅といいます。
 神代理央の直属の部下です。」

恋人、とまで言わなかったのは、そこまで言う必要もないだろうと思っていたし、ここで強調するのは余計に気を使わせるだろうと思ってのことだった。
それでも、思った以上に小さな声しか出ない程、自分は消耗しきっていたらしい。
声はかすれて、随分みすぼらしい自己紹介になってしまった。

レオ > 「よろしくおねがいします、水無月先輩。
 ……そうですか、神代先輩の。」

直属の部下。
それだけじゃないのはなんとなく分かる。
でも、聞く事はない。
缶を渡せば、改めて隣に座る。
こんなに憔悴している女性を、放っておく気にはなれない。

「……‥‥神代先輩には、戦闘テストでお世話になりました。
 僕のテストでやった時は本気じゃなかったとはいえ…それでも、凄く強い異能でした。
 正直、こんな事になるなんて…ちょっと信じられないです」

流れる時間の静寂に心が押しつぶされないように、話を投げる。
待つしかない時間は、辛い。
経験がある。遠い昔の事だけど。

「……任務の帰り、ですか?
 疲れているなら、横になってもいいんですよ。
 連絡が来たら、僕が起こしますから」

水無月 沙羅 >  
「そうですか。 理央さんが……。
 私も、信じられない気持ちでいっぱいです。
 
 あぁ、いや、違うな、違います。
 本当は嫌な予感がしていたんです。
 前にもこういうことがあって、『異能殺し』の時、本当に死ぬ一歩手前でしたから。」

己の恋人は、いったい何度死にかければ気がすむのか。
後何回、こうして帰らぬかもしれない帰りを待てばいいのか。
思わず考えてしまう最悪の未来を振り切る様に首を大きく振った。
彼は必ず帰ってくる。

「……そうですね。
 任務、してたんです。
 今回のディープブルーの件、彼らの助けになればと拠点摘発の準備を進めていたんです。
 結果としては無意味になってしまって、私と少数でそちらを抑えることになりましたが、その拠点情報もブラフでした。
 本当は私も、理央さんと同じ現場に駆け付ける筈だったのに。」

彼らの助けになる様に作った書類も作戦も、ディープブルーの張った罠によってあっけなく無為と化した。
ディープブルーが関与しいているという読みは正しかったが、結果的に自分は手のひらで踊らされていたようなものだ。
思わず缶を握る力に手が入った。

震える両肩は、不安感か、それとも怒りからか。

レオ > 「……」

嫌な予感。
自分は人の死ぬ時の気配を感じる。
でもそうでなくても、何か不安を覚える事はある。
きっとそっちは自分じゃなくてもある事なんだろう。
虫の知らせ、凶兆。

そして、死にかけて、命の燈火が揺れ動くのを、ただ、待つだけになる。
待つ人間はただ、待つしかない。結果が来るのを、待つしかない。
その場にいれなかった自分を酷く後悔する。
後悔しながら”何もなかった”と言える時を待つしかない。
それが言いようもなく苦しい。


…ああ、この人がいるなら。
神代先輩を無茶させてはいけないな。
残されて苦しんだ人間を、沢山見て来た。
それを無為に増やしちゃいけない。

「――――先輩」

そっと、缶に力の入った手に自分の手を添える。
爪の先は少し変わって、掌の皮が分厚くなって、ザラザラと固い木の皮のようになってる手で、少女の手に触れた。
血の通ってないかのように体温が遠く感じる。
皮膚が分厚くなったせいだ。
本当に血が通っていない訳じゃない。
おそらく、は。


「……”僕を使いませんか?”」

水無月 沙羅 >  
震える手に、少しがさついている大きな手が触れた。
暖かな体温が、冷え切っていた体にほんの少しの熱を伝える。
手を触れた少年に向きなおり、そのセリフに少し笑って見せる。

「……あなたは優しいんですね。
 でも、大丈夫……です。
 流石に、初対面の人にそこまで甘えられませんよ。
 
 それと、私はこれでも16歳でまだ一年です。
 風紀では先輩かもしれませんけど、同い年でしょう?
 だから、沙羅でいいですよ。
 ずっと気を使っていては、疲れてしまいますからね。」

多少のプロフィールなら頭に入っている。
自分より一回り大きな少年が、自分と同じ年齢だという事も、同じ学年だという事もわかっていた。

そんな彼にずいぶん気を遣わせてしまった。
自分のこの様子では安心などできないこともわかってはいるが、その言葉に甘えることは出来なかった。
初対面というのは表向きで、今は己の感情任せにできない理由がある。

レオ > 「…先輩呼びはすみません、癖みたいなものというか…
 まぁ、島に来たのも最近なので、全員先輩のようなものですから。
 …善処はしますが、こっちの方がしっくりきちゃうんだと思います」

少し苦笑交じりにすみませんと言いながら、話を戻す。

「初対面……だから、ですよ」

笑いは、しない。静かに、言の葉を続ける。

「僕は、さっきも言ったとおり常世島に来てまだ日が浅いです。
 親しい人もいない。家族も…いません。
 島の外に待たせている人も、いないです。

 …神代先輩には、今ここにいる他の人たちが。
 何より、水無月先輩が、います。
 あの人は……無茶をしちゃいけない。
 それで苦しむ人間の方を、見てないといけない。」

死んではいけない人というのは、いる。
多分…神代先輩は既にそれに”成っている”。
過去はどうだか知らない。
けど今は、そう。

「……神代先輩が不在の間、僕が代わりを担います。
 ディープブルー…僕は関わりがある訳じゃありません。
 今回の神代先輩、それに同行した方たちがディープブルーと戦ったのに、個人的な理由があったのは、一応知っています。
 それに対して、僕は彼らのように特別な感情を持って挑む事は……出来ません。

 …でも、戦力にはなれます。」

そう、戦力にはなれる。
矛の先を、他人から逸らす事は出来る。
無茶を通して進む人は、無茶を通したいほど”大事なもの”がある。
その大事なものは、その人にとって当然、掛け替えのないものなのだと…思う。
でも、その大事なものにとっても、その人が大事なものであるなんて事は…よくある。
”大事なものが傷ついて助かった大事なもの”では…プラスマイナス0か、もしくは、マイナスだ。



「水無月先輩、僕は……善意で言ってる訳じゃないです。
 そんなに優しい人間じゃない。
 今こうしてる時も、そんなに、動揺してはいません。
 今ここにいる人たちの中で、多分僕が……一番、ドライです。

 だから、こそです。
 水無月先輩が大丈夫と言っても、僕はやります。
 欠けた穴は誰かが埋めなくちゃいけないから。
 埋めておかないとそこから、どんどん零れるだけなので。
 できるだけ欠けないように動いて、万が一欠けたら…別の誰かが埋めるしか、ない。
 神代先輩の戦力の穴埋めは現実問題、必要になります。
 風紀委員…常世島の運営の為にも。」

レオ > 「――――神代先輩が復帰できるなら、それでいいです。
 でも、いない間…あの人が傷ついた体を押してまた無茶をするなんて事がない為にも。
 僕は必要な事だと思ってるので」

淡々と、冷静に言葉を重ねる。
励ましとはちょっと違う。
こうなるだろう、ならこういう形なのが多分、一番良いという考え。
神代理央が倒れた。
倒れた故の、次善の案。

レオ > 「―――僕が”鉄火の支配者”になります」

それが、自分が考えた結論だった。

レオ > 「……まぁ、でも
 どうせやるなら、神代先輩の代行が上手くできた方がいいですから。
 なら、水無月先輩に使ってもらった方がいいかなって」

”鉄火の支配者”になると言った後に、また、普段通りのふわっとした苦笑を交えて。
目の前の先輩が、一番神代先輩の身を案じてる者が、彼の無茶を止める為の道具にでも…なればいいか、と。
そんな風に思いながら。

水無月 沙羅 >  
「……。」

そっと、冷めた目で風紀の抱えた問題を語る、少年の唇に人差し指を押し付け、それと同時に、しぃっと自分の口の前に逆の手で人差し指を立ててみせる。

「風紀委員を舐めてはだめだよ、レオくん。」

そっと窘める様に、レオの瞳を見つめる。
怒っているわけではない、ただ、それは違うと窘める様に。
子供を叱る母親の様に、弟の失言をそっと止める姉の様に。

「『彼』の変わりは誰にも務まりません。
 だれも、『鉄火の支配者』にはなれない。
 その名には、貴方が思っている以上に大きな意味があります。」

それは何も、落第街やスラム、二級生や違反生を抑え込むためだけの、抑制としての力の名ではない。
今はもう、『システム』としての鉄火の支配者は変わりつつあった。

「貴方の言う通り、確かに風紀委員のネームドが二人、今倒れています。
 山本先輩はまだしも、理央さんの治療期間は長いものになるかも知れません。
 あいた穴は埋めなければいけない、でも、
 それは貴方が独り請け負うべき仕事ではありません。」

もともと、彼のネームバリューに、自分たち風紀委員は甘えていたのだろう。
彼の開いた穴が大きいのは確かだった。
『鉄火の支配者』の名はそれほどまでに大きく、重い。
しかし、それをただ一人の、新入りの少年が務められるものではないし、何より、その名は彼だけのものだ。

「レオくん。 もう一度言いますよ?
 風紀委員を舐めてはいけない。」

「私たちは、以前彼が倒れた時に学びました。
 彼が居ないとき、ネームドに頼れないとき、どうするべきなのか。
 彼が一人で背負ってきた物を、どうやって分け合うか、向き合ってきたんです。
 だから、もう少し仲間を信じてください。
 入ったばかりの新人の仕事は、私たちを知ることからです。」

微笑んで、レオの頭をなでる。

「それと、貴方は貴方にしかなれない。
 貴方に出来る事を探してください。
 理央先輩や、月夜見先輩、他の風紀委員に何を言われたのかは知りませんが。」

「戦うだけが仕事ではありませんよ。」

レオ > 「…、………」

唇に指が触れる。
少しだけどきりとした。
目の前の女生徒は、自分と殆ど同い年程度の、背で言えば自分より一回り小さい、華奢な女性。
それが姉のように窘める。


―――あぁ、失言だったかな。
また気を使わせてる。自分が一番辛いだろうのに。

頭をされるがままに撫でられる。
少しゴワついた、大型犬か何かを撫でているかのような感触。
最近よく、こうされるな……少し懐かしい感じがする。

「…すみません、風紀を舐めているつもりはありませんでした。
 …そうですよね。入ったきたばかりの新人が、出しゃばりすぎたかもしれません。
 ……すみません」

少し、申し訳なさそうに苦笑をした。
こういう言い方をされるのは、慣れていない。
それに、何故だか……落ち着く。

「そう…ですね。僕はまだ…先輩達の事すら知りませんから。
 それを知るのが、先かもしれなかったかもしれないです、ね…。

 …でも、水無月先輩の力になれたらいいなっていうのは、本当ですから。
 僕は、まだ戦うくらいしか出来ませんが……
 それでも、水無月先輩。
 辛いなら、苦しいなら……

 押し付けてくださいね。」

押し付けて。
未だ死の縁に大事な人間がいる彼女に、そう微笑んだ。
少なくとも神代先輩が倒れている間くらい、他の支えは必要だろう。
友だろうと、道具だろうと。

水無月 沙羅 > 「……よろしい。」

お説教はおしまい、というように両手を降ろして、少し肩をすくめた。
男の子というのは、何時だって心配をかける生き物なんだなと実感する。
今の世の中的に、男子だから女子だからという言い方は咎められそうではあるが、そう感じたのだから仕方がないだろう。

「……辛くても、苦しくても、それを人に押し付けていい理由なんてない。
 私たちは人間で、言葉を持っている。
 話して分かり合う事が出来る。
 分かり合うっていうのは、お互いに支え合うってこと。
 共有するという事、隣に居るっていうのは、そういう事。」

神代理央を心配する気持ちも、待っていて辛いという気持ちも、不安なこの心もすべて、自分一人が抱えているものではない。

理央もまた、自分のことを心配していたに違いないのだから、この辛さを感じているのは、誰しもが平等だ。
決して、自分だけではない。
だからこそ、それは押し付けるモノではあってはいけない。

「……そうだな……レオ君、私の補佐をするつもりは、ある?
 仕事の手伝い、でいいよ。
 しばらくは書類に埋もれることになるけれど。
 そこで、まずは『支える』っていう事の意味を学ぼう?
 私たちは、押し付け合う生き物じゃなくて、支え合う生き物なんだから。」

彼のその言葉と言動は、昔の自分を見るようで。
独りで何でもしようとして、自己犠牲によってをそれを解決しようとする姿勢は、悲しいものに見えた。
今のままでは、彼は良くない方向に進むと、そう思った。
だから、きっかけを作るべきなんだろう。
かれが、一人ではないという事を実感するためのその仕組みを、教えて行くべきだ。

レオ > 「……そうですね。」

押し付けていい訳がない。
分かっている。
それは自分だけにしか持てないもので、代わりの席はない。

それを話して、分かり合うという事は…








分からなかった。







「…書類仕事、ですか?
 その…力になれるか分からないですけど、それでも大丈夫ですかね…?
 僕、実はその…勉強とか、あまり得意じゃないんですけれども…」

それでもいいのであれば、是非と。
仕事をするの自体は嫌いじゃない。
それでこの人の負担が減るなら、それも悪くはない。

「そうですね、じゃあ…よろしくお願いします、水無月先輩。
 …とりあえず、今は…待ちましょうか。…神代先輩の回復を」

静かに二人で座ったまま、術中の先輩を待つ。
一人にはしない、させるのは怖かったから。
心がちゃんとある人だから。
そっと見守っておこう、神代先輩の手術の成否が、伝えられるまでは。

水無月 沙羅 > 「……。」

まだ、納得はできていないと言う顔に、薄く微笑んで。

「さーら、沙羅だよ。 レオくん。」

もう一度、教え込むように繰り返して。

「得意じゃなくてもいいよ。
 最初から何でもできる人なんていない。
 少しづつ変わっていくしかないんだ。
 私も、彼も、君も。」

だから、今は未だ。
許されてもいいだろう。
私達には、まだ未来があるはずなのだから。

理央は必ず戻ってくる。
私を置いて、行くはずがない。

「そうだね、一緒に待って。 
 それから……、おいしい物でも食べに行こう。」

不安な心を押し殺して、必ず戻ると信じて。
溢れそうになる涙を拭って、それでも笑って見せた。
悲しみを隠すためではない。
必ず、未来があると信じているから、笑うのだ。

「絶対、帰ってくるよ。」

そう信じているから。

 

レオ > 「…じゃあ、沙羅先輩…で、いいですか?」

名前呼びは、なんだかこそばゆい。
人との距離が近くなる感じがする。
近づいてる気がする。

「…はい。
 好きなだけ、付き合いますから」

涙を堪えて大事な人を待つ先輩に、微笑んで返事をした。

レオ > ―――――それからしばらくして。

「――――――ぁ」

暫く、静かに待っていたレオが、言葉を溢す。
まだ、手術中のランプは光っていた。

「―――沙羅先輩、もう……大丈夫ですよ。
 とりあえず神代先輩は死にません。」

そう、断言するように目の前の先輩に告げた。



それからまたしばらくして――――


神代理央の手術が終わったと、医師から二人に告げられた。

峠は、超えたと。

命は繋いだと。

水無月 沙羅 >  
「――――――」
 

「うん。」
 
 

「うん。」
 
 

「―――よかった。」
 

水無月 沙羅 >  
その言葉を最後に、しばらくの間病院には少女のすすり泣く声が響いた。 
 
 
その後は、約束通りに、彼を夕飯に連れて行くのだろう。
しかし、それはまた別のお話だ。

ご案内:「常世学園付属常世総合病院」から水無月 沙羅さんが去りました。
レオ > 静かに、すすり泣く彼女をそっと見守った。

「……」

そっと、落ち着かせるように、慰めるように、先ほど彼女が自分にやったのを、そのままそっくり真似をするかのように
頭を撫でようと手が少し動いた。




―――その手は、彼女の頭を撫でる事なく、そっと引き戻された。
彼女が泣き止んで、落ち着くまで。
ただ静かに、一緒にいた。

ご案内:「常世学園付属常世総合病院」からレオさんが去りました。
ご案内:「常世学園付属常世総合病院」にマルレーネさんが現れました。
マルレーネ >  
黒い検査衣を身に着けた女は、穏やかに窓の外を眺めていた。

一度目が覚めると、もう眠れなかった。
目を閉じるといろいろなものが瞼の裏に浮かぶような気がして、横になっても眠気は全く来なかった。

「………この病院に、皆さん入院されているのかな。」

入ってくる人間は問題ないが、それでも彼女は外に出て自由に歩くことは制限されている。

いやまあ、無視して飛び出すことも出来なくはないが。
 

マルレーネ >  
長袖の検査衣。その下に着けた衣服もまた長袖。
暑い中、がっちり衣服を身に着けているのは、その中にある複数の注射痕を隠すため。

どうやら相当ひどいらしい。
自分で服は脱がないように、なんて奇妙なお達しまで来る始末だ。


「………。」

もう暗くなってきた。
そんな外を、飽きもせず眺める女。

ご案内:「常世学園付属常世総合病院」にオダ・エルネストさんが現れました。
オダ・エルネスト >  
色々と大変だった。
救出後、病院にとか色々聞いて見舞いに行くかと動いてみれば「男性はちょっと……」とか言われたので、
なんとか『説得』して、こっそりひっそりやって来た。

「入院と聞いた時はどうかと思ったが……思ったよりは、元気そうだな」

いつの間にか部屋の入口に現れたアメリカ人。
黒い祭服といういつもとは違った格好でソイツは現れた。

ソレ以上、何か言うわけでもなく
言葉の皮肉よりはホッとしたような笑みを浮かべてベッドの方へと歩み寄って行く。

マルレーネ >  
「………ひゃ、っ!?」

唐突の声にびく、っと身体が跳ねて、一瞬身体がガチっと固くなる。
振り向いて、相手をまじまじと眺めて…………。

「……………思ったよりは、というと。
 どんな状況だと思ってたんです?」

相手の顔を見て、くすくすと笑いながらもベッドにそっと腰掛けて。
目の焦点が若干合っていないが、それは少しだけ残っている後遺症。

「………にしても、その恰好は…………。」

少しだけ、その目を細めながら眺めて……。

「………何なんです?」

自分のこともそうだが、むしろその恰好の方が気になった。
 

オダ・エルネスト >  
「今後の生活に影響が出るような……
 心はともかく、身体がどうしようもないかと思った」

呪いや何か化学製品で四肢の完全欠損が起きていたりするような事がなくてよかった、なと思っていた。
生活に影響が出ているのなら大変だと思っていたがどうにもそういう訳ではなさそうでよかったとは純粋に笑みを浮かべた。

見舞い客向けかと思われる椅子を持ってくると
指摘された格好を一度見やすく両手を広げてよく見えるようにした。


「これか、似合ってるかな?
 君が不在の間、不用心にも鍵が空いてたから留守番で神父のマネごとをしてみた」

ゆっくりと椅子に腰を下ろすと、私は中々様になってると思うのだが、と笑って語った。

マルレーネ >  
「………あはは、まあ、今のところは?」

まだちょっとばかり、体中にダメージは残っているが。
それでも、確かにまた歩ける。
それも、感謝しなければならないのだろう。

「………ああ、なるほど。
 修道院にいてくれたんですね。

 何日いなかったかも覚えていないんですけど、……何か問題など、ありませんでした?」

何故彼がいるのだろう、という疑問は頭の片隅にあるにはあるが。
それでも、どう考えても善意の行動。

少しだけ微笑んで、相手に尋ねる。
全てをまとめて、お礼を伝えなければなるまい。
 

オダ・エルネスト >  
「そうか……」

そうか。
その答えに対してオダは少し複雑そうな顔をした。

何かあったかと問われれば――、

「室内に干してあった洗濯物を片付けたりはしたが、恐らく私以外に居住区を漁った痕は見られなかったかな。
 何故私が……? という顔をしているが、私達は戦友だろう。
 マリーの帰る場所は、私が守っておくかと考えただけだよ。

 ちょっと君の真似事もしてみたが、一日中修道院にいるのも中々……どうして暇だな、と考えさせられた」

左手を軽く上げて手のひらを見せて軽く揺らした。 意味は特にない動き、強いて言えば――お手上げだ、というように苦笑していた程度だ。

マルレーネ >  
「………。」

室内にあった洗濯物。あー、えー、っと。
過去のことを思い出すと頭痛がするのだけれど、それだけはなぜか頭痛もせずに思い出せた。
勝手に下着から何から全部片づけられたのは、ちょっとこう。

白かった頬に赤みが刺す。
なんだかしばらく現実味すらなかった時間に、急に現実味が、生活感が戻ってくる感覚。

「………まあ、放置して置いたら何があったかわかりませんし、ありがとうございます。」

少しだけ、やっぱり頭を下げて。


「ああ、ああ見えて裏の畑を弄ったり、物を直したり、本を読んだり。
 いろいろやろうと思えば忙しくなるんですよ。

 ほら、特に私は学が無いというか、文字も最近覚えたようなとこあるんで。
 本を読むのに時間かかるんです。」
 

オダ・エルネスト >  
「感謝されるのなら、それはよかった。
 しかし、私は君のこれまでを誰かに荒らせたくなかった……それだけだよ」

少し赤みを増した顔を見て思わず、喉を鳴らして笑い、
「よかった」と漏らした。

「裏の畑の水やりはともかく物を直したりと……修道院の中を勝手に変えるのは流石に気が引けた。
 それは君の楽しみだろうからな」

とそこまで言って、
思い出したかのように、そうだ、と声を漏らした。

「無事に帰ってきた君に渡したいものがあるんだ」

マルレーネ > 「あはは、そうですね。
 ……早めに戻らないといけませんね?
 そうしないと、途中まで読んだ本も全部読まれちゃいそうですし。

 ああ……それなら、修道院の玄関辺りに、しばらく入院中である旨貼っておいてもらうこと、ってできませんか?
 私を訪ねに来た人が、変に心配することが無いように。」

お願いを改めて追加しておきながら、渡したいもの、と言われて少しだけ首を傾げる。

「……ええと、何でしょう?
 ここで渡してもいいものなんです?」

オダ・エルネスト >  
「それくらいならば、お安い御用だ」

任せておきたまえ、と胸を張る。
私ならば、何事も完璧にやってみせると笑う。

渡すもの。
無造作にポケットから銀の鎖に三角錐の透明な結晶が取り付けられたネックレスを取り出す。
装飾品。
何か実用品と言うわけではないような嗜好品という風。

「大したものではないが、
 お守りのようにはなってくれる……。
 私が『暇』で作ったようなものだ。 受け取ってくれると嬉しい」

受け取ってもらえるならば、付けさせてもらってもいいかな、と軽く首を傾げた。

マルレーネ >  
「それは………………?
 不思議な石ですね、何の石なんでしょう?」

透明なそれをじ、っと見つめながら、それでも、くれるというのであれば。
素直にそれを首にかけて。

「………お守り、ですか?
 何かこう、おまじないとかがかかっているとか?

 どうでしょう、こういうの、あんまりつけたことないんですけれど。」

てへへ、と少しだけ照れながらネックレスをつけて、髪の毛を改めてかきあげて。
ぺろ、と舌を出す。 こういう装飾品とは縁がない生活をしていたから、慣れが無い。

輝にはもっとつけてもいいのにと言われているけれども。
ある意味、ここに来てから初めてかもしれない。
 

オダ・エルネスト >  
「ちょっとした魔道具だが、私の専門分野ではなくてね……。
 本来ならば誰でも使えるようになるダウジング・ペンデュラムになるはずだったんだが、
 私の魔力でしか動かない。 だから、ただの宝石だと思ってくれればいいよ」

両手でを首の裏に伸ばしてカチリと留め具を嵌める。
少し離れて眺めて、素人作品で装飾も大してない簡素なものだ。

「おまじない、というほど効力はないが、
 触媒にしたモノが所有者の保護を願われてあったものだったから
 少しだけ君を手助けするような、そんな奇跡はあるかも知れない。
 
 もっと華美なものでも似合うかも知れないが、気に入ってくれたら嬉しい。

――私は、似合ってると思うよ」

そう言って、自分で贈ったものをつけた相手に対して言うのは少し照れた。

マルレーネ >  
「なるほど、………今はもうただの綺麗な宝石なんですね。
 ダウジング………ということは、探すためのものでしょうか。」

相手に留めて貰えれば、それはそれでちょびっと恥ずかしい。

「触媒があったんですね。
 まあ、それならばお守りってことで………。

 あんまり華美な物だと、修道服とは合わないですしね。」

似合っている、なんて言われれば、舌をちょっとだけ出して恥ずかしそうにしながら。
それでも、優しくその石を撫でる。

少しだけ暖かい気がして、違和感無く馴染む。
 

オダ・エルネスト >  
「ちょっと誘拐されたと聞いて恥ずかしながら少し落ち着きを失ってしまってな……
 私もマリーを探しに行こうとしてしまった」

何も出来なかったが、と少し申し訳なさそうに頭の後ろをかく。

「でも、やはり馴染むか」

フフフ、と笑いながら自分の見立ての良さに自画自賛。



「それは、私が居住区を見た際に君と縁の深いモノ

―――古い肌着を触媒にして形成したモノなんだ」


なんでもないように声にして語った。

マルレーネ >  
「………あはは、私はちょっと、覚えていないんですけどね。
 それでも、ありがとうございます。
 正直、気が付いたら大騒ぎになっていて。」

頭を軽く下げて、そっと揺れる石。

「ええ、不思議と。
 暖かいような、不思議な気持ち。」


間。


「………………シャツとかですか?」

少しだけ間があった。
なんでもないような声過ぎて、一瞬聞き流してしまいそうになったが。
それでも、ぐ、っと踏みとどまって改めて尋ねた。
 

オダ・エルネスト >  
「君と深い縁を持ち、それでいて代わりが多くあるもの……」

それを拝借した。
それであれば、そのペンデュラムは返却したに等しい。


 「 パンツとサラシを一つずつ使わせて貰った 」 


隠す必要もないと堂々と口にする。
一番古そうなものを使わせてもらったよ、と不敵な笑みを浮かべて白い歯を輝かせた。

マルレーネ >  

「その、ちょっとこっち来てもらえます?」

ベッドの端にまで手招きして呼びつける。

 

オダ・エルネスト >  
……ふむ。


「いいぞ」


一つ頷いた。

立ち上がると手招きされた位置まで、
疑問もなく歩み寄る。

マルレーネ >  
ずっとしばらく、絶望ではないが、無感動になっていた。
どうでもいいと思っていた。
生きる意味を見失いかけて、頭に情報が入らなかった。

許容量を超えて、パンクして。
もうダメだと思った。

何もかも手放してもいいかと思った。


そんな荒れ果てた、何もないがらんどうの部屋のような心。

他の人のおかげで、明かりは灯ったけれど。
自分の内側には、まだ何も無かった。
 

マルレーネ >  


だけど。


 

マルレーネ >  
「勝手に使わないでくださいッ!」
 

マルレーネ >  
しゅるり、と病院の薄い掛け布団を相手の頭にかぶせる。
白いテルテル坊主のようになったその襟首付近を……掴む力が無いから、抱えるように。

ベッドに倒れ込むようにしながら相手の頭部をベッドに突き刺す。
敷布団の上に叩きつけているから、怪我こそはしないだろうが。

力の入らないこの身体では、これ以上の攻撃ができない。

そのままテルテル坊主の首部分を引っ張って絞殺を図ろう。
殺さないけど。

流れるように体重を乗せて頭部を叩きつけてからの絞め技に移行する。
半死人なのに何をしているのかもう分からない。
 

オダ・エルネスト >  
一瞬、呆気にとられた。
それはちょっとした『諦観』を抱いていたところに予想外の声があったから。

取り繕われた輝きしかもう無いのかと

 ―― ………あはは、まあ、今のところは? ――

あの言葉から感じていたから、
彼女の言葉に感じたのは歓喜による驚きだった。

視界を掛け布団で隠され首に手を回されて押し倒されても、特に抵抗することもなく。

―――ちょっと息苦しい。

だが、勝手に使ったのは―――確かに悪かったかなぁと思いながら

彼女の腕を宥めるように、トン、トン、とゆっくりとしたリズムで優しく叩いた。


布越しに聞こえるか分からないが、

「悪かった」

と一言口にした。

マルレーネ >  
「全く、もう。」

顔を真っ赤にしながらも、ぽかり、とその頭を最後に一発小突いた。
それは、少女のような力であったけれど。

それでも、腕を解いて、たったそれだけの運動でぜえ、ぜえ、と肩で息をしながら隣に改めて座る女。


「………やめてくださいよ、ちゃんとしてなかったんですからぁ………」


ちょっとだけ泣きそうな声になる。
ぷう、と膨れながらも……まあ、これ以上は攻撃してこない。
 

オダ・エルネスト >  
簡単に振りほどけてしまうような拘束であったが、
何処かようやく彼女の本音に触れたような気がして、嬉しくなった。

掛け布団を取って、横に置く。


「全く、まだ万全でもないだろうに無茶をする」

息を切らせて少し鳴き声の彼女を見て、
笑みを浮かべる――気を使った笑顔ではなく心の底から自然に浮かべて、

「泣いてる顔より、私はマリーは笑顔のほうが好きだ。
 無茶してるより、自然体で我慢してない君のほうがいい」

私はそういう人間が好きだ、と。

そう口にして膨らました頬を人差し指で触れてみた。