2020/09/15 のログ
ご案内:「常世学園付属常世総合病院 ロビー」に羽月 柊さんが現れました。
ご案内:「常世学園付属常世総合病院 ロビー」にレイチェルさんが現れました。
■羽月 柊 >
病院は苦手だ。
医者に小言を聞きに行くモノのような気がしている。
風紀委員の面々と共闘し、違反部活『ディープブルー』と戦って数日。
深紫の長髪の男、羽月柊は一時的に入院はしたが、
左肩に重度の火傷のみで、治療と検査だけならすぐに帰ることが出来た。
しかし、以前オーバーワークで倒れた時の分で、
『ついでなので検査もしておきましょう』と医者に言われ、
今日は一度自宅に戻って再びここ、病院である。
小竜たちは無傷だったので自宅に置いてきた。
医者に間違われる故に普段の白衣姿という訳にもいかず、
薄青の長袖シャツに黒ズボン。
病院のロビーに入り、溜息を吐く。
共に戦った山本英治と神代理央は、まだ入院している…。
一番大人の己が一番無事というのも、なんだかなとは、思うのだが。
■レイチェル >
病院のロビー、自販機の前にレイチェルは立っていた。
黒の財布から硬貨を出して、投入。
暫し悩んだあとに緑茶を購入した。
緑茶。この世界に来てから初めて飲んだものであるが、
結構気に入っている。独特の苦味は嫌いではない。
「さて、まぁ……」
ため息をつく。
後輩達の無事を願っていたが、どうやら現実はそう甘くないらしい。
「ったく、英治は居ねぇか。理央のところも先客が居るみてーだし」
思わず小さく声に出して呟くレイチェル。
連絡を受けてから、何とか見舞いの時間を作り出したのだが、
今回はタイミングが悪く、二人には会えなかった。
少々驚かせてやろうとアポを取らなかったのが仇になった。
手にした紙袋がぶらぶらと所在無さげに揺れている。
レイチェルは取り出し口からお茶のペットボトルを取り出すと
紙袋を次元外套へしまいこむ。
そうして手にしたペットボトルの蓋を開けると、冷えたお茶を一気に喉へ流し込んだ。
心の中の蟠りが、冷たいお茶と共に少しだけ流れ落ちた気がした。
ああ、残された側はこういう気持ちだったのだな、と改めて痛感する。
大切な存在が入院するというのは、本当に心細いものだ。
あの日、病室に来た華霧の顔を思い出す。
――あんな顔、させたくなかったのにな。
■羽月 柊 >
子供でもないので病院が嫌だなんだと喚くでもなく。
とはいえ遅い足取りで、のそのそと院内を男は歩いていた。
ふと、友人の名前が聞こえた。
以前に山本英治が入院した時もそうだったが、
やはり彼のその人柄に惹かれるヒトは多いのだなと思う。
己のした励ましは、間違ってはいなかった。
故に、『呪い』を受けたとしても、独りで悩むことが減れば良いのだが…。
「…山本に見舞いか?」
不意に少女の後ろから声がかけられる。
聞いたことの無い低い男性の声だ。
しかし、確かに"英治"としか呼ばなかった彼の苗字を言っている。
それはその人物が山本英治を知っていることの証左だ。
振り返れば、見た目は少女や英治よりも年上の紫髪に桃眼の男が立っている。
もしかすれば、山本英治による報告書や、
今回の『ディープブルー』との戦闘に置いて協力した人間として、
男の詳細は分かっているのかもしれない。
■レイチェル >
「……ん?」
不意に後ろから声をかけられれば、
首を傾げながら振り向くレイチェル。
右手にペットボトル。空いた左手を首の後ろにやりながら、
レイチェルは目の前の男の顔を見た。
報告書にあがっていた人物と特徴が一致している。
羽月 柊。常世学園の教員の一人にして、
今回のディープブルーとの戦いに、風紀二名――大事な後輩達と共に、
加わっていたと聞いている。
「ああ、英治はオレの後輩だからな。
あんたは……『羽月 柊』……先生、だな?」
深い黒紫の髪に、透き通るような桃眼。
男性であるが、何処か艶めかしい雰囲気を纏ったその男に対し、
綺麗だな、と素直に感じたレイチェルは小さく頷きながらそう返した。
そして次に抱いた印象は、その口調から感じる静けさだ。
何処か抜け落ちているかのような、そんな空虚さを感じる。
それらを踏まえた上で、レイチェルは眼前の男から儚げな美を感じていた。
■羽月 柊 >
声をかけた少女が振り向く。
金髪に長耳。
《大変容》の起きたこの世界では、長耳も別段珍しくも無い。
何かしらの"異"は混じってはいるが、
彼ら長耳のモノを、ただそれだけで"異"と扱うのは、
廻天會などの《大変容》以前に戻ろうとする過激派ぐらいのモノだろう。
過去、羽月柊という男は『トゥルーバイツ』事件にも関わっている。
もし少女が"葛木一郎"という風紀委員を知っているならば、
そこにも男の名は登場している。
今回の報告書の内容自体は分からないが、
共闘及び戦闘後も、その場で軽い治療や状況報告なども行っていた。
「…よくよく名前が知られたモノだ。
あぁ、俺は羽月だ。こんにちは。
山本とは友人関係をさせてもらっている。」
『生徒』と『教師』ではなく、男は英治を『友人』だと言った。
まぁ元々、『トゥルーバイツ』事件以降に教師になったので、成り立てなのだが。
■レイチェル >
「ま、それだけ……あんたがあちこちで動き回ってるってこったろ。
動き回れば自ずと名は知れる。噂も広がっていく。
そういうもんさ。
話は聞いてるぜ。英治と理央を助けて、治療もしてくれたんだってな」
口元を緩ませて、片方だけの目を、穏やかに細める。
少女の声は、年相応のそれに比べて随分と落ち着き払っていた。
ゆったりと構えた、余裕を感じさせるような声の色と調子だ。
それは相手が年上だろうが教師だろうが、何も変わることがない。
口調も、敬語は使わない。
敬語は、自他の間に壁――心の距離を作る為の表現だ。
そういった壁を邪魔に感じることの多いレイチェルからすれば、
この口調は自然で、当然のものだった。
「オレは、レイチェル。
風紀委員のレイチェル・ラムレイだ。よろしくな、羽月先生。
しっかし、先生だってのに生徒に『友人』か。
英治とは特別な関係なんだな。
オレも、特別な関係さ。あいつは本当に頼れる後輩だ」
友人関係、という言葉に瞬きを二、三度返す。
学生主体で回すこの学園の特色とも言えるが、
友人という言葉には少し驚きを隠せなかったのだ。
その『友人』という言葉は、
何か特別な関係を匂わせる含みを持った、そんな言葉に思えた。
「でもまぁ……今回はこんなことになっちまってな。
命が無事なだけ良かった良かった、と言いたいところだが……」
そこで少しだけ、言葉を止めて羽月の方を見上げた。
そうして唇を少しだけ牙で噛むと、言葉を続けた。
「……大丈夫かな、あいつ」
それは怪我の問題だけではなかったことだろう。
ここは病院のロビー。しっかりとした言葉が返ってくるとは思わない。
ただ胸の中に蟠り続けるじっとりとした思いを、目の前の大人に
ぶつけたかったのだ。
それは普段、後輩の前ではあまり見せない顔だった。
相手の立場が立場だからこそ、発せられた言葉だったことだろう。
■羽月 柊 >
そういえば、確かに生徒から素のままで話されることは珍しかった。
いないという訳ではない。
どんな年齢でも学園に入れば"一年生"であるここでは、
敬語を学んでいない生徒だって当然いる。
元より偏屈モノな所もあり、万人に好かれる性格ではない。
故に相手の口調を別段指摘しようとは思わない。
己と"対話"してくれるというならば、好きなように接してくれればと思っている。
正直、自分も教師としては"一年生"なのだから。
「あぁ、よろしく。
俺はこの夏に教師になったばかりでな。
それ以前から、山本とは縁あって交流があった。
彼は間違いなく己の友人だとも。
色々なことがあって、互いに背を預けて戦える仲だと…俺は思っている。」
『トゥルーバイツ』こそ別々に動いてはいたが、
目の前のレイチェルも含め、男と少女は互いの知り合いがある程度共通していた。
英治とは転移荒野で金龍に共に対峙したことに始まり、
特殊領域《コキュトス》での共闘、そして今回の彼らとの共闘のこと。
己の異能が発現したのも、彼が最初であった。
柊の異能である胡蝶の夢《レム・カヴェナンター》は、詳細こそ分からないものの、
"親しいモノ"への同調として発動することだけは確かだ。
「………、……。」
レイチェルの心配を男は聞く。桃眼を細める。
『大丈夫だ』と言うことは簡単だが、それは正しい答えではない。
嘘で甘やかした後の現実は、崖から突き落とすような絶望でしかない。
「詳細は本人に聞くのが一番だとは思うが…。
…戦いの際に俺や神代を庇った分の傷は、治るのも早いだろうとは思う。」
ただ…と、男は続けるだろう。