2020/09/19 のログ
ご案内:「常世総合病院 病室」に神樹椎苗さんが現れました。
■神樹椎苗 >
何ができるか、ではなく、何をしたいか。
単純に真っ直ぐに、心に従う。
それは椎苗にとって、簡単な事ではなかった。
けれど、あの日の青年の言葉は、確かに椎苗の背中を押してくれた。
ずっと俯いたままだった顔を上げさせてくれた。
だから、迷いながらも、病院へと足を運んだ。
まだ、躊躇いも恐れも消えていない。
けれど会わなければ、きっと何も出来ないままだと思ったから。
扉の前に立ち、緊張に強ばる左手を扉に伸ばす。
「ぁ────」
うまく声が出ない。
ノックをしようとする手も、直前で躊躇うように止まる。
眉をしかめて、難しい顔をしていた。
ご案内:「常世総合病院 病室」にマルレーネさんが現れました。
■マルレーネ >
女の回復は早かった。
薬での症状はそれでもまだあるが、一切暗くならず、嫌がらず、落ち込まず。
退院したらこんなことをしたいんです、と語る。
身体にガタが来た部分をリハビリしたり、治療したりを繰り返してはいるが、それでも弱音を吐かずに、毎日限界まで努力を続ける。
最近は出歩くなと言っても出歩く彼女に、とりあえず無理はしないように、という程度の言葉に変わってきていた。
そんな、ちょっぴりおかしいほどの意思を貫く女は、ふ、と自分の病室の前で佇む姿を見つければ。
「だーれだ。」
なんて、ぱふん、と抱き着いて目を隠してしまうのもやむなしだろう。
■神樹椎苗 >
突然、覆い隠される視界。
聞こえる声は、大切な彼女のモノ。
触れる手は、何時か抱きしめてくれた時と同じ。
自分の視界を覆う手に、左手でそっと触れる。
抱きしめられて触れあえば、ずっと感じていた恐れが消えていった。
「――ぁぁ、あたたかいのです」
生きている。
たしかに彼女は、熱を持っていた。
まだ、寒くなっていない。
それが分かると、ようやく少し、安心することができた。
「もう、出歩けるのですね」
言おうとしていた言葉は何だったろうか。
思い出せないまま、言葉がこぼれる。
■マルレーネ >
「………そりゃあ、まあ?
あまり出歩くなとは言われてますけど。
それでも、あったまるくらいには歩いてますからね。」
よいしょ、と包み込むようにしてしまえば。
そのまま、変わらぬ出鱈目な行動を、まるでそれが普通であるかのように語り。
「……来てくれたんですね。」
言いながら、頭に頬をすり、っとくっつけるようにする。
■神樹椎苗 >
彼女が入院してからの経過は、病院のカルテを盗み見てある程度は把握していた。
けれど、こうしてまた触れ合えるか不安で仕方なかったのだ。
彼女の声は、あたたかさは、変わっていない。
「そういうところ、変わらないですね」
知っている彼女のままだ。
それが当たり前とでもいう顔をして、無茶な事をしてしまう。
「すごく、迷いました」
触れあいながら、手を重ねたまま静かに。
「少し、話せますか」
精一杯勇気を出して、たずねてみる。
■マルレーネ >
「どういうところです?」
無茶なことをする。
本来なら、軽く抱き上げて抱っこでもしようものだけれど。
左手の力があまり入らない。抱きしめる力も、ふわりとしたもので。
「…………あ、この病院、広いですもんね。
少し、だけです?」
そのまま、入りましょ、と扉に手をかけて開いて。
むしろ、相手よりも無遠慮に自分の部屋に、ぐいぐい、っと押すように入れてしまおうとする。
■神樹椎苗 >
「そういう、ところです」
無自覚な、自覚していても止まらないところ。
わかっているのかいないのか、見当違いな反応。
心地よく思うけれど、まだ、顔は強張っている気がした。
「――疲れない、くらいで」
病室に押し込まれるように、促されるまま入っていく。
入院患者のための病室。
とても馴染みのある空間に覚えるのは、安心よりも不安だ。
入ったまま、ベッドの方へ進んでいく。
患者着の彼女へ戸惑いのある視線を向けながら。
胸に手を当てて、小さく深呼吸。
■マルレーネ >
「……いいですよ、ちょっとくらい疲れても、今はリハビリみたいなものですから。」
軽く笑いながら、ベッドの上にぽん、っと腰掛けて。
ほら、おいで、と隣をぽんぽん、と叩いて招き寄せる。
事前に得ていた通り、目の焦点が少しばかり合っていない。
視界がぼやけて、色を時々失う。
左手の力がほとんど入らない。
そんな状況の彼女。
■神樹椎苗 >
ベッドへと腰掛けるのを視線で追う。
わかっていた事だったが、実際に見ると胸の奥がチリと痛む。
おいで、と自分を呼ぶ彼女は、今までとなにも変わらないように見えるのに。
そんな彼女の姿を見て、声を聞いて。
そうしたら、体は勝手に動いていた。
自分がどうしたいのか、考えるまでもなかった。
ベッドへと早足で半ば駆け寄り。
彼女の隣によじ登る。
そしてそのまま、細く小さな左手で、彼女の頭を小さな胸に抱きしめた。
「――ずっと、何ができるのか、考えていました」
そうしてようやく、言葉が出てくる。
彼女のために何ができるのか、考え続けて。
自分に出来る事がどれだけ少ないか、思い知った。
「しいは、何もできないまま見ているだけで。
今も、何もできる事がないのです」
彼女のすぐ近くで、小さな声で呟くように。
独り言を漏らすかのように、細く。
それでも、離れないようにしっかりと、彼女を抱いたまま。
■マルレーネ >
「………ん。」
そっと抱きしめられれば、何も言わずに抱きしめられて。
その体がまるで震えているようだったから、右腕を回して抱き寄せる。
「うん。」
ただ、ただ、それだけ。
静かに呟いて、ゆっくりと落ち着かせるように、撫でる。
その上で、しばらく時間をおいて。
「二つ、言いたいことがあるかな。」
ゆっくりと、抱きしめられたまま言葉をぽろりと。
■神樹椎苗 >
撫でられる。
その感触は、ああ、やっぱり変わらない。
「はい、なんですか」
そのまま、こぼれ出た言葉に答える。
■マルレーネ >
「まずひとーつ。」
「………手伝ってくれたって、聞きましたよ。」
軽く頭を預けるようにしながら、囁くように言葉を漏らす。
「ありがとう。
………そして、ただいま。」
へへへ、と微笑みながら、今更ながらの、ご挨拶。
■神樹椎苗 >
「大したことは、出来てないです。
本当はこの手で助けに行きたかった」
けれど、その力は椎苗にはない。
椎苗は死なないだけで、強さとは無縁なのだ。
続く言葉に小さく頷いて、ようやく。
ようやく、目頭が熱くなった。
「――おかえりなさい、お姉ちゃん」
帰ってきてくれた。
沢山傷ついて、苦しんだかもしれないけれど。
それでも今こうして、帰ってきてくれたのだとようやく実感できた。
■マルレーネ >
「………ん。 ただいま。」
「それで、ふたつめ。」
「どんな力があっても、どんなことができても。
等しく、私のただの妹ですよね。」
ぎゅ、と少しだけ抱く力が強くなる。
「何もできなくて、当然です。
むしろ、心配かけるような大人が、情けないんです。
ゴメンね。」
本当にごめんね、と、静かな言葉。
相手に、ある意味一番甘えてしまっているかもしれないな、なんて。
■神樹椎苗 >
「ただの、妹」
謝る姉に、静かに首を振る。
そうじゃないのだと、言葉を探しながら。
「いいえ、しいはまだ『ただの他人』でしかないのです。
そうやって、子供だから、大人だから。
何もできなくても仕方ない、そのままだったら、きっと他人のままなのです」
ただ庇護されるだけの存在は、きっと姉妹でも家族でもない。
書類の上でも血縁ですらなく、何一つ繋がりがない。
実質的にも精神的にも姉妹でないのなら――それは、無力な他人でしかない。
「だから、ずっと何ができるだろうと考えていたのです。
でも、何も出来ることが思い浮かばなくて。
きっと、他の誰か、もっと『あなた』を想う人たちの方が、助けになれるんだと思っていました」
ただ甘えるばかりで、優しくしてもらうだけで。
ただただ、与えてもらうばかりの自分には何も出来やしないと蹲っていた。
けれど、それでは、いつまでもこのまま変わらない。
「でも、それは違うのだと、知りました。
何ができるか、じゃなくて、何をしたいか。
心に想うまま、心に従っていいのだと教えられました」
そっと手を離して、そして腕の中を抜け出して体を離す。
しっかりと視線を向けて、向き合って。
真剣に、まっすぐに、小さな決意を瞳に浮かべて。
「だからしいは、しいがしたい事をしに来たのです。
出来る事じゃなくて、しいが『あなた』にしたい事を。
もう一度ちゃんと、『お姉ちゃん』と呼びたいから」
緊張する。
心臓が跳ねているのが分かる。
けれど、一度息を呑んで、しっかりと言葉にする。
「しいは、痛みも苦しみも、一緒に分かち合いたいのです。
一緒に背負って、支え合っていきたいのです。
一方通行じゃなくて、お互いに想いあって、助け合っていたいのです」
彼女がどう思うかはわからない。
なにせこれはただの我儘で、椎苗のしたい事、想いをぶつけているだけ。
それでも、どうしても伝えなくてはいけない、言わなくてはいけないことだった。
■マルレーネ >
「………………。」
相手の言葉を、素直にただ聞く。
そう、彼女はただ、素直にまずは相手の言葉を聞いて。
「………なる、ほど。」
相手の強い意思。
はっきりとした言葉に、まなざし。
全てが、ただの小さな子供ではないことを意味していて。
「………………。」
「………それは。」
「ゆっくり、考えさせてもらってもいいですか。」
ゆっくり、ゆっくりと言葉を選んで。
選んだうえで。
「………何故なら。
私が貴方を知らない。 まだ知らないことが、多すぎる。
あえて貴方を大人として扱うならば。
私は、力を認めないと、背中は預けません。」
穏やかに微笑む女は、ただ甘やかすだけではない、旅人の顔。
■神樹椎苗 >
彼女の返答に、やっと一つ安心できた。
ちゃんと届いたと思えたから。
「はい、ゆっくり考えてください。
しいもたくさん考えて、悩んで、やっと言えたのです。
そして、一つずつ、お互いを知っていければいいと、思うのです」
そう、まだお互いの事を知らなすぎるのだ。
それでも、互いに歩み寄れるところがあったからこそ、姉妹ごっこをはじめられた。
これからは、その歩み寄れるところを増やしていけばいい。
『ごっこ』でなくなるためには、そこから始めるしかない。
「でも、しいには特別な力なんてないのです。
ただ実質的に『不滅』であるってだけですから。
後は、そうですね、少し。
『神様』の力を授かれるだけです、使徒として」
詳しい話は、退院して落ち着いたらちゃんとしよう。
手短に話すには少しばかり、複雑すぎるから。
だから今は、一番に知って欲しい、分かち合えるものを見てもらいたい。
「まあ今はそこは、置いておきましょう。
これからも、こうして話せる時間はあるのですから」
そうはっきりと言って、それから。
おもむろに、椎苗は服を脱ぎ始める。
以前見せたように肌着になり、それからその肌着すら脱いで。
晒した姿は、皮膚よりも包帯の方がよほど面積の広い姿。
「――しいは、二年前まで、実験動物でした」
声が震える。
覚悟を決めてきても、どうしたって恐怖がよみがえって、気が狂いそうになる。
それでも、少しでも距離を縮めたくて、その一心で踏みとどまる。
首元の包帯を解く。
傷口を保護する透明なフィルムが貼ってある。
その下にあるのは、まるでノコギリでも引いたかのような、崩れて塞がり切らない傷。
「これは、何度目かの首を切り落とされたときに残った傷」
胸より上を覆っていた包帯を解く。
フィルムの下は、左肩から胸の中心にかけて、焼けただれたような皮膚が膿んでいる。
そして右胸の方には、うっすらと血がにじみ出る、刃傷。
「これは、何かの薬品を浴びせられた痕ですね。
こっちは、鉈を叩きつけられた時に出来ました」
腹部を覆っていた包帯を解く。
やはりフィルムがあり、左わき腹は胸にかけてケロイド状になった皮膚。
右腹からへそに掛けて、色が青黒く変色した皮膚。
「こっちは結構、古いですかね、焼きごてを何度も当てられました。
こっちは確か、毒薬を注射された痕だったと思います」
そんなふうに、傷痕を一つ一つ示して話していく。
血の気の引いた顔色で、今にも壊れそうにぎこちない笑みを浮かべながら。
「――おそろい、ですね」
それでも必死で堪えて、笑いかける。
自分を知ってもらうために、最初の一歩にするために。
一番大きな『傷痕』を晒したのだ。
■マルレーネ >
真剣に聞いていた。
この話を、ただ笑って聞いてしまうのも勿体ないと思ったから。
ただ優しく、包み込むように聞いてしまうには、その思いはあまりに鋭いと思ったから。
そして何より、内容が受け止めるには重かったから。
■マルレーネ >
その上で、ゆっくり、ゆっくりと時間をかけて。
ゆっくりと口を開いた。
「それは、事実ではあると思います。
それでも。
それは、本音ですか?」
ゆったりと、問う。
笑わない女がそこにいた。
ある意味、怜悧、冷徹とも呼べるかもしれない、旅をする戦う人としての瞳。
それを向けながら、相手の言葉をゆっくりと待つ。
■神樹椎苗 >
彼女の言葉に、これまでと違う、微笑むだけとは違う表情に首を振ってこたえる。
強がった笑みが崩れ落ちて、恐怖に震え、怯える表情があらわになる。
「――これを見るたびに、誰かに触れられるたびに。
しいは、『あの時』に戻ってしまいそうになるのです。
媚び諂って、情けを乞うだけの畜生に」
思い出すのだろう、深く刻み込まれた恐怖に体は勝手に震えていた。
声に力はなく、弱弱しい。
けれど、それでも一つ一つしっかりと言葉にされていく。
「痛いのも、苦しいのも、嫌です。
怖いのも、辛いのも、嫌いです」
死なないから何をしてもいい。
そんな認識の下で、椎苗は一瞬だって『人間』として扱われた事はなかった。
眼尻に涙が浮かぶ。
「だからこんな、おそろいなんてなりたくなかった。
誰かが同じような思いをするなんて、嫌だったのです。
こんな目になんて、誰も遭わない方がいいに決まってるんです」
ポロリと、涙が零れ落ちる。
耐えかねて溢れ出したものが、頬をつたう。
「でも、だから、分け合えると思ったんです。
こんなしいだから、ほんの少しだけでも、共有できると思ったんです。
暗闇に引き戻されそうになるとき、支え合えるかもしれないって――そうなりたいって思ったのです」
一度溢れ出したら、涙は止まらない。
それは恐怖だけでなく、心から相手に近づきたい、寄り添いたいと想うための。
一歩先に進もうと、踏み込もうとした想いがあふれたモノ。
■マルレーネ >
「そうですよね。
本音を隠して見せたら。
どれだけ重い物か、分からない。
どれだけの枷なのか、分からない。
共に歩くと言うのであれば、それは見せないとダメですから。」
言葉を発しながら、彼女は迷う。
惑う。
彼女の知らない世界で、彼女の知らない文化で。
想像を超えて、遥かに超えて。
"改めて"己に起こり得た未来を突き付けられて。
真っすぐに見据えたまま、意識が、理性が溺死しかけて。
彼女は、旅慣れただけの、一介の聖職者でしかない。
苦しい思いをしてきたはしてきたが、それは彼女の背負える荷だっただけ。
あまりに、背負うには重すぎるものを突き付けられて。
本来なら、逃げ出したくなるようなそれを見て。
■マルレーネ >
「………。」
「おいで。」
"だから"、彼女はそう言ったのだ。
その手を掴んで、引っ張って。
自分の胸の内に抱き留める。
それは、目の前の少女の思いとは少しだけ。
ほんの少しだけズレた感覚。
この少女は、私と共に歩けると、感じたのだ。
私に全て見せて、共に歩けると考えて、行動したのだ。
見せたくなかった己の全ての傷を見せたのだ。
私にできることは何だ。
頭の中で言葉と感情が弾けて。
命を賭すことを定めて。
彼女の思いもまた、"背負う"ことに決めた。
「大丈夫。 大丈夫だよ。
……ちゃんと、お互いに支え合えるはずだから。」
■神樹椎苗 >
抱きとめられる。
傷だらけの自分を、拒絶しないままに。
「――そう、なりたいです」
彼女の体温に触れていると、安心できた。
恐怖心が少しだけ和らいだ。
けれど、抱き留められてその鼓動を感じたから。
「でも、まだ、しいが支えてもらってるだけだから。
傷だらけで、とっくに壊れていて、人間にも成り損なったしいですが。
だから、手を伸ばせる事もあるはずなのです」
壊れる事も、傷つく事も、十分すぎるほど思い知っているから。
「いつか、『あなた』の心も、思いも、ちゃんと支えられるようになります。
少しずつ、『あなた』の傷を知っていきます。
だから、しいがちゃんと、隣に並べるようになった、その時は」
彼女の胸に顔をうずめて。
「また、『お姉ちゃん』と、呼ばせてください」
この日、改めて伝えたかった想いを、やっと言葉にすることができたのだった。
■マルレーネ >
違う。
いろいろ経験はしてきた。
辛い思いも、死にそうな思いも、理不尽に焼かれ、苦しんだこともいくらでもあった。
それでも。
その上で、彼女の過去は己が背負うには強烈ではあった。
元より、魔法こそあれ、不死などというものは夢か幻か。
書物の中だけの夢物語だと考えられていた世界だ。
突然の情報量に、思考はついていかない。
彼女に見合うほど、私は傷ついているのだろうか。
「………私は。」
「ずっと、隣にいるつもり。」
「いつでも、いいからね。」
ああ、もう、陳腐な言葉しか出てこない。
恐怖を、不安を、強烈な使命感で塗りつぶす。
彼女は理解者として、自分を選んだのだ。
その思いには、応えないと。
■神樹椎苗 >
「はい――もう少し、待っててください」
そう言ったときには、涙は止まっていた。
まだ自分は彼女に見合う、支えになれるような『モノ』ではないと、椎苗は思い込んでいる。
そっと彼女の胸を押して、ゆっくり離れた。
「ずっと不安だったのです。
『あなた』は、本当に『死』を目の前にしても、『仕方ない』と受け入れてしまいそうで。
もう、しいの知ってる優しい修道女は、帰ってこないんじゃないかと思っていたのです」
ようやく本当に安心したのか、全部さらけ出してしまった自分を笑うように。
少し情けない表情でぎこちない笑みを作って。
「帰ってきてくれて、よかったです。
生きていてくれて、ありがとうですよ」
そう言って、笑いかけるのだった。
■マルレーネ >
「………。」
それは否定はできなかった。
地獄のような時間。 知っている顔に死を強要されるような、そんな時間。
彼女はパッ、と、あっさりと生きる希望を失った。
仕方ないと思った。
死を受け入れる覚悟は、もうできていた。
「………ふふ。
もちろん、帰ってきますよ。
だってまだまだ妹が泣き虫なんですもの。」
ちょっと悪戯っぽく笑いながら、額にキスを一つ落として。
期待の分だけ、がんばらないと。
■神樹椎苗 >
「なら、よかったです。
しいが生きてくれる理由になるのなら――」
彼女はどこか、死に近すぎる。
生を軽んじるわけではないのに、死を受け入れてしまう。
けれど、自分と言う重荷が少しでも、死を遠ざけられるなら。
「帰ってくる、理由になれるなら」
キスにくすぐったそうに目を細めて。
目の前に大切なヒトが生きていてくれる事を実感するのだった。
ご案内:「常世総合病院 病室」から神樹椎苗さんが去りました。
ご案内:「常世総合病院 病室」からマルレーネさんが去りました。