2020/09/24 のログ
ご案内:「常世渋谷『陽月ノ喫茶』」に月夜見 真琴さんが現れました。
月夜見 真琴 >  
秋曇りの下、色をなくしつつある風をあびて。
滑り込むように、カウベルを響かせる。

外の賑わしさが嘘のよう。
常世島のなかでもひときわ華やかな街にあって、そこは憩いの場所。
落ち着いた暖かな内装は、扉一枚を隔てた別世界のようだ。
絵画のなかに迷い込んだ心地で、一番奥側のカウンター席へむかう。

「ああ、ありがとう」

カーディガンとキャスケットを脱ぎ、ハンガーを受け取ってツリーに吊るした。
もうだいぶ涼しくなったな、とあらためて物思いながらメニューを開く。

月夜見 真琴 >  
メニューの手触りに拘っている店は好きだ。
見た目もいい。取り上げたときの柔らかな重みもすばらしい。
機嫌よく唇を笑ませながら表紙をひらき、錚々たる顔ぶれに視線を走らせる。

(ブレンドだけでこの種類だものな)

相当に拘っているだろう配分、"盗む"にはだいぶ飲まなければなるまい。
しかし味をみたい、という意味ではストレートにも非常に心惹かれる。
メニューを少し下げて、その上からちらりとマスターとカウンター内を伺った。

(ううん、機材の充実ぶりも流石といったところ――おっと)

目が合った。メニューに隠れるようにして顔を下げる。

ご案内:「常世渋谷『陽月ノ喫茶』」にレオさんが現れました。
レオ >  
「あれ……」

風紀委員会の中には、平日に授業を免除してのパトロール活動をする場合がある。
学生都市として治安維持も学生の仕事になる故の措置。
その道中、通りがかった喫茶店の窓から見知った人物を発見するだろう。

白い、長髪。
銀の目の、何処か不思議な雰囲気の女性。

「――――月夜見先輩?」

月夜見 真琴 >  
氷は融けた。
アイスに縋る季節は肩越し、背中に過ぎ去っていく。
時計の針の音を聞きながら熟考のこと数分。

「これと――ホットケーキを。 なに、セットがあると」

飲み口まろやかなブレンドを選んだところで気の利いた提案をうける。
ページをめくってみると、おぉ、と感嘆の吐息がこぼれた。

「トッピングひとつ無料」

金払いも剛毅なほうであるとは自覚しているが非常に惹かれる響きだ。

「――絢爛豪華としかいえない」

パンケーキといえば、金科玉条のバターハニー。
そうした固定観念はぽいとくずかごに放っておく。
居並ぶトッピングの品々は心躍るものばかりだ。
アイスクリームもいいが、フルーツも捨てがたい。
ああ、どうしよう――、心が弾むようなきもちだ。
こういうときは直感に従おう。

月夜見 真琴 >  
「ブルーベリーと生クリーム、で」
 
メニューを返してひと心地。
文庫本でも買ってくるんだったかな、なんて暇人の物思い。
ずいぶんな上機嫌がうかんだかんばせは、
そうした待ち時間に頬杖をついて、ふと窓の外。

「おや」

知った顔が覗いていた。
にこやかに手を振ってみる。

レオ >  
「あ……どうも、お疲れ様です」

向こうもこちらに気づいたのが見えると、ぺこりと一つ頭を下げる。
こんな所で会うとは思っていなかった。
パトロール中だから、窓にすこし近づくだけにして、聞こえるかは分からないが声をかけてみる。

「休憩中ですか?」

常世島の授業は学園都市の都合上、場合によって免除や繰り替えをする事がある。
だから、平日の昼間だからといって学生が外にいる事は別に珍しくはない。
現に自分だって、委員会の仕事という理由で外に出ているのだから。

月夜見 真琴 >  
「警邏中? おつかれさま。 勤倹力行はすばらしいこと。
 だいぶ風紀委員も板についてきたのではないかな」

内面はさておくとしても、励んでいる後輩には笑顔をおくっておく。
前線に蹴り込んだ彼の活躍はめざましく聞こえてきた。
期待の新人、というやつだ。

「ああ、やつがれはきょうはおやすみ。
 言っていなかったかな?
 やつがれはこの島に、絵を学びに来ているのさ」

制作に重きを置いているのだ、と告げる。
指先を振って、筆を繰るようにして。
課題提出で単位を取っている。実績も評価となる。
当然、諸々の学業も修めてはいるが、積極的というわけではなかった。
そして、風紀委員としての仕事は、ほとんどないも同然だ。

「けがのぐあいはどうだ?」

レオ >  
「警邏…っていう程ではないですけどね。
 普通のパトロールですよ。この辺りは平和な方ですから。」

ははは、と笑いながらそう答える。
パトロールの仕事は嫌いではなかった。
落第街やスラムでなければ、比較的平和だし、何より仕事をしている間は落ち着く。

「絵…ですか?
 凄いですね……そっか、芸術系の学科もあるんですっけ。
 僕はまともに描いた事ないから雲の上の世界だな……。

 …と、ええ。もう、完全に治りました。
 動いて痛みもないし、傷もしっかり塞がっています。
 凄いですね、常世の病院は。」

傷を負う事は多かったが、病院というものを利用するのはさほど多くはなかった。
島に来るまでは何処かに根を張って生活をするという事もしていなかったので、こうして同じ土地を反復するように何度も歩き見る経験も薄い。
だからちゃんとした医療機関というものに治療を受け、こうして傷が素早く完治するのに、少し関心もしたのだろう。

尤も、それでも常世島の医療技術からすれば傷の程度に比べて治りが遅くはあったが。


「まぁ…あまり何度も行きたくはないです。」

やっぱり病院は苦手だな、と苦笑もして。

月夜見 真琴 >  
「きがむいたら教室をのぞいてみるといい。
 先生方も同輩も、おもしろすぎるほどにおもしろい顔ぶれだよ。
 ただ接しているだけで佳い刺激になる――芸術とはそうした分野。
 雲の上、などとおもうのは、すこしもったいない、かな。
 ――やつがれが雲上人にみえるか?」

それから得ようとするかどうかなのさ、と。
相変わらずに煙るような曖昧な物言いをしながらも。
届いたブレンドをひとくち味わう。心地よい熱さだ。

「そうか、それはよかった」

にこり。嬉しげな笑顔をむけた。

「負傷はないに越したことはないが、前線に出れば避け得ない。
 どうせ治るから、という考えには溺れぬように――そう。
 行きたくない、それは心がけること、ただし」

神妙な顔になり、顔のまえにひとさしゆびを立て。

「身体に異変を感じたら、行くことは迷わないこと、だ。
 なにかあってからでは遅いからな。健康診断も定期的にうけること。
 あとは――程よい息抜きだな。
 たとえばここのコーヒーは美味しいし――あ、きたきた、ふふふ」

運ばれてきたパンケーキ。しかも三段だ。
とろけた生クリームに、果肉のごろり残ったブルーベリーのジャム。
白と紫の艶めかしい彩りに、上機嫌。

レオ >  
「教室を、ですか……邪魔にならないですかね?
 と…ま、まぁ……病院は、その…そうですね、ちゃんと行くのが、いいとは思うんですけど…。
 ちょっと苦手で…」

少し目を逸らす。
病院というか、あるものが苦手なだけなのだが。

「息抜き、ですか。
 確かにそれはそうd…‥‥……」

そして続いた言葉に返そうとして、運ばれてきた品に口をぽかんと開ける。
三段パンケーキに、とろとろのクリームとジャムの欲張りセット。
見ているだけで胃もたれしそうな甘味の山。

「それ、食べきれるんですか…?」

月夜見 真琴 >  
「心身の健康管理も、風紀委員としての職務と弁えなさい。
 それを怠って持ち崩す者もいれば。
 熟練であっても訓練中に負傷をしてしまう、なんていう事例もあった。
 ゆめ、気をつけるように――言い訳はきかない」

歯切れの悪い物言いには、紫電一閃の忠言をひとつ。
とくに訓練中に、のところは目に見えて不機嫌な色をのぞかせた。
コーヒーをひとくち。

「ん――ああ、ふかふかで美味しそうだな、すばらしい。
 レオは甘いもの、得意ではないかな?
 やつがれはすきだ。 おめざに朝食と昼食、そしておやつも兼ねている」

少食ではあるが、ふわふわに焼いたパンケーキ三段。
そしてクリーム。空腹の調味料もあれば、この佳味、食べきれないほどではない。
――はず。

その三段。クリームとジャムと一緒に小さく切り分けて、唇をひらく。
――ぱくり。

「ふふふ」

作るのもいいが、食べるのも彩りである。
心身の健康はこうしたものだ、と言いたげに。非常に上機嫌だった。
風紀委員としての仕事はほとんどしていないが。 

レオ >  
「……ハイ」

少し汗が出ながら目を逸らす。
”アレ”が本当に苦手なのだ。どうしても”アレ”をするのだけは好きになれない。
”アレ”をされると気づいて病院を飛び出したなんて事すらした位だ。

「苦手という訳ではないんですけれど……
 あんまり食べる機会はないですね。
 なのであんまり沢山食べると、少し気持ち悪くはなるというか…

 …女性の方って、やっぱり甘いものが好きなんでしょうかね?」

ふと、口をついて素朴な質問が出た。
 

月夜見 真琴 >  
「――注射が苦手」

医者と揉めたというわけでもないだろうし、薬品の香りが、というなら、
保健室で熟睡していた姿から説明がつかない。
すこし悪戯っぽい笑みで一言、いってみよう。
当たるか外れか、窓向こうの顔を見つつ。

「はっはっは」

問われた言葉には、いつものわざとらしい笑い方をして。

「それは、その"女性"に直接、たずねてみるべきことかな。
 甘くないチョコレートを好む友人もいるし。
 理央なんかは男子だが、甘味には目がないだろう。
 食べ物の好みなんて、話題には絶好のものさ。存分に花を咲かせろ。
 まあやつがれの同居人は、"悪食だからなんでも"とか言ってくれたが。
 そのくせ、曰くありの献立があったときた――まったく手のかかる」

楽しそうにそう言ってのけた。

「なにか佳い出会いが、あったかな?」

また、ひとくち。ブルーベリーの甘味と酸味が、とくに佳い。

レオ >  
「………………‥‥」

たらたらと汗を流して目を逸らした。

図 星 ら し い。

「いや、そのっ…まぁ、その……ハイ…」

そう、注射が苦手なのだ。
とんでもなく苦手なのだ。
トラウマというか、なんというか、苦い思い出というか。
兎も角苦手な物は苦手なのだ。
斬られるのや殴られるのはそれなりに慣れているのに、アレだけはどうにも、全く慣れない。

「―――っ、と…あ、えー……
 ちょっと、最近お世話になっている女の子がいまして……
 世話になりっぱなしで、何かお返しがしたいなと……
 それで、月夜見先輩の食べてるパンケーキを見たら、そういえば、彼女も甘いもの、好きだったな…といいますか」

いい出会い、と言われると、少し悩むような照れるような顔で、こくりと頷く。
別に隠すような出会いでもないのだが…
面倒を見られすぎていて、少し、恥ずかしい。

月夜見 真琴 >  
「――――――」

見つめる瞳は細められ、唇は笑みを深めた。
それについては何も言わぬなれ、その情報はたしかに記憶された。

「そこまで頻繁にちくり、ちくりと打たれるものでもないと思うが。
 怪我の度合いによっては抗生物質の投与などもある、か。
 ――ではなおのこと、自愛するように。いいな?」

行かなくていい、などと言うわけもなかった。
であれば打たれないように気を遣うのが第一。

「このことは、ないしょにしておいてやる」

くちびるのまえに、指をたてる。

「そこまで、いやなものかな――かぶれるのは好ましくはないが」

無意識に自分の首筋にふれてから。もうひとくち。

「"お世話になっている女の子"?」

たべようとして、停まった。気になる響きを復唱する。

「"お世話になっている女の子"」

なるほど?と首を傾げて。

「このパンケーキは、とても美味しいよ。
 パフェもあるようだ。食事もとても美味しそう。
 やつがれの、ふふふ、この表情をみていればわかるだろう?
 それに色々つけられる。ブルーベリーと生クリーム以外にも」

すなわち。
ここでの食事に誘ってみたらどうか、なんて提案してみる。
洒落た雰囲気の店内だ。それなりに素直に、誂うでもなく。
どこかいじましい後輩に、柔らかく微笑みかけた。

レオ >  
「別に痛いのは割と慣れてるんですが、その……





 昔初めて注射したときに、びっくりして暴れちゃって…針が中で折れまして…
 はい、そうして頂けると助かります…はい、すみません…」

びっくりして
針が折れた。



それはもう、大惨事だった。
医者が慌てふためいて、ただのワクチンの接種の筈が大がかりな摘出作業になったりもして。
今でも注射の針を見るとその時の大惨事を思い出すのだ。
こう……ホントに大変だったから。


「まぁそれは兎も角…!」なんて言って話を切った。
色んな意味で、恥ずかしい思い出なのだ。

「えぇ、まぁ、その…成り行きといいますk……何で二回も言ったんですか?

 って……ここ、ですか?
 外食…あんまり考えた事無かったな、そういえば…」

元より、外食は殆どしないタチだ。
缶詰や携帯食料で食事などは片付けていて、人間としてまともな食事を島にきてから摂るようになったのは、恥ずかしながら話に出している少女に食事を振舞われるまでなかった。
それまでは何を食べても味がぼんやりとしていたから、何でもいいと思っていたから。
温かくて美味しいと思う食事を食べるのが、久々だった。
だから、お返しをしたかった。

月夜見 真琴 >  
子犬みたいだな、なんて苦笑した。
おおきな"失敗談"を聞いているときの顔は、
それはもう非常に愉しげなものである。

後輩のことが知れて嬉しい、という感情が三割。
単純にその話の内容自体が面白い、というのが三割。
残りの四割ほどのこたえは、いつかなにかの形で示されるだろう。

「いや、不思議な物言いをするものだな、と思ってな。
 たとえばもっとこう――いや、ふふふ、まあいいか。
 どのように世話になっているのか――と、
 わざわざ聞くほど、野暮ではないけれど」

自分のそうした事情も、探られたくはない性質だ。
つよい悩みがあるでもなし、こちらから手垢をつけていい間柄でもないだろう。

「あくまでひとつの案だからな。心に留めておけばいい。
 しずかにふたりだけで、というのなら別の場所になるだろうし」

そう言って、あとは彼の判断に任せるとする。
そもそも助言を請われた形ではなく。そして、ふと。

「あのとき」

と、切り出した。 

レオ >  
「そんなに変な事、言っていましたかね…、…?」

ふいに、何か言おうとしている先輩を見て。
どうしたんだろう?と少し様子を見た。

月夜見 真琴 >  
「保健室で、いったな。
 おまえはその少女とも、もう他人ではいられない」

フォークを軽く揺らして、レオのほうは見ずに。

「恩義があるならなおのこと相手を大切に想うように。
 そしておまえがもし、大切に想われることがあれば、
 おまえみずからのことも、大切にするように」

はくり、とふたたび一口。上機嫌だ。

「その大切にする方法は、それこそ個々人によってちがうだろうから。
 具体的にどうしろ――とは、言えないが。
 まあ、相手のことをきずつけるなと、そういうことだ。
 これはやつがれへの自戒をふくめた、ひとりごと」

大切に思い合おうが、一緒にいるだけで傷つけ合うような男女を見た。
すれちがい、みずからの想いに溺れるような恋もみた。
それに傷つけられるもののことも知っていた。

「よく、しっかりと、視るようにな」

レオ >  
「………」

その言葉を、黙って聞いた。

忠言。

一つ一つ、聞き漏らすべきじゃない。

そう思った。











その上で。

「――――そうですね。





 出来れば……彼女が大切に思わないでくれたら。
 とても嬉しいです。」

微笑んだ。

月夜見 真琴 >  
「――まったく」

苦笑した。

彼のいったことは、なんとなく理解はできた。
共感はできない――できた気になる、のは危険だ。
保健室でふれた、彼の壮絶な半生は、彼のもの。
どれほども、みずからと重なっていないように思えた。
ただ一点を除いては。

だからこそ、この後輩と接するのが面白い。

「そう、思い通りにはいかないよ」

ならばそうした忠告に留めておく。
想いとは概ね、どうしようもないものとかんがえていた。
差し出口はそこまでだ。
自分は彼の風紀の先達である。人生の先達といえる歩みは、まだない。

「ああ、そうそう。 刑事課の先達におまえのことを話しておいた。
 会ったらよろしくいっておいてくれ。
 パトロール、のこりもがんばるように――これも立派な風紀委員の職務、だよ」

だれかのまねをした二本指の敬礼で、見送ろう。

レオ >  
「――――はい。」

微笑んで、返事をした。

”そう思い通りにはいかない”

そういうものなのかな。いや…今の自分が既に、そういうもの、か。
でも、出来れば……さっき言った通り。
あの子に大切になんて、思われなければいいな。
心から、そう思う。

刑事課の先輩に話したという先輩に、軽く返事をして。
そしてぺこりと頭を下げ、そのまま、立ち去る。
まだ仕事の途中だ。しっかり…仕事をしなければ。

ご案内:「常世渋谷『陽月ノ喫茶』」からレオさんが去りました。
月夜見 真琴 >  
「それは、贅沢すぎる願いだよ」

後輩を見送って、ふたたびパンケーキにむかう。
ひとり、ぽつりとつぶやいて。

「――ひとにいえたことでもないか」

贅沢。
我が身に余る、というなら自分もそうだ。いや自分こそ。
混ざりあった白と紫。甘味と酸味を楽しみながら昼下がりを楽しむ。

良い店だ。今後も通おう。
そんなことを考えながら、すこしだけ。
味わいの変わった当たり前の日常を吟味する。

時計の針の音に、耳を傾けながら。

ご案内:「常世渋谷『陽月ノ喫茶』」から月夜見 真琴さんが去りました。