2021/02/22 のログ
ご案内:「エアースイム常世島大会会場」に杉本久遠さんが現れました。
杉本久遠 >  
 この日、久遠は今大会最後の1000mを泳ぎ切った。
 結果は、辛うじての一位奪取。
 オールラウンダーの多い試合で、なんとかヒットをしのぎ続ける、耐え忍ぶ試合だった。

「あれを振り切れないようではなぁ。
 個人練習しか出来ていないのが問題、か」

 対人練習の経験がどうしても足りていないと思わされる。
 部活として十分に活動が出来ていない事、部外の選手と練習試合を組むなどが出来ていない事。
 集団練習が出来ていない弱さが如実に出る結果となってしまった。
 

杉本久遠 >  
 とはいえ、1000mを三試合行って、いずれも一位と言うのは悪くない結果である。
 十分に選考会へのチャンスがある成績と言える。
 しかし、試合内容から考えると、選ばれる確率は決して高くはないのだが。

「だはは、中々上手くいかんもんだな」

 そう、自分の試合を省みながら、いつものように堤防の上に腰を下ろす。
 反省をしつつ、試合を観戦するためだ。
 この場所は、少しばかり寒い事を除けば、久遠にとってはとても良い特等席なのだった。
 

杉本久遠 >  
 フィールドでは、周回制スイムの試合が終わり、スカイファイトの準備が進んでいる。
 会場の空気はいい具合に暖まりつつあった。

「――そうか、今日だったな」

 運営スタッフとして、試合のマッチングはおおよそ把握している。
 この試合には、久遠が、妹と共に注目している、一人の少女が出場することになっていた。

「うむ、注目の試合だな。
 たしかルーキー主体のマッチメイクだったはずだが」

 初参加であったり、経験の浅い選手を集めた試合のはずだ。
 彼女の初戦としては、丁度いい組み合わせだろう。
 

杉本久遠 >  
 そうして眺めている間に、選手たちが海上に進み出ていく。
 その中には、懐かしい装備に身を包んだ、小さな少女の姿があった。
 リタ・ラルケ。
 とても良い素質を持った、有望なルーキーだ。

「この試合が、君にとって何かを得るきっかけになるといいが」

 少女は迷い、戸惑って、足を止めていた。
 そんな彼女が、自ら踏み出した一歩である。
 その結果はどうであれ――得る物があると良いと、心から思う。

 カウントが始まり、会場が緊張と期待の静けさに包まれる。
 ゼロのブザーが響いた瞬間、選手たちはフィールドの中へと転送された。
 

杉本久遠 >  
 八人の選手がフィールドへとランダムに転送される。
 少女の初期位置は――悪くない。
 低すぎず高すぎない高度は、どう動きだすにしてもやりやすいだろう。

「――彼女は最年少と言った所か。
 体格差はあまり考慮しなくてもいいが、流石に体力差は響いてくるな。
 経験や知識に関しては、それほど差はないだろうが、それでも経験不足をどれだけ補えるか。

 しかしそうか、スタンダートに『オールラウンダー』として対応力を求めず、『スピーダー』として格闘戦を避ける作戦か。
 最年少の少女と見れば、周囲が少なからず侮るのは間違いない。
 そこで逃げ切りを狙うのは悪くない選択だろうな。

 うむ、飛行姿勢も安定しているな。
 ブレの少ないいい姿勢だ」

 ぶつぶつと、堤防の上で試合を解説するように言葉を並べる。
 通りがかる人が居れば、不審に思う事請け合いだろう。
 

ご案内:「エアースイム常世島大会会場」にシャンティさんが現れました。
シャンティ > 昨日の公演は大変盛況といえるだろう。それでは今日は? 今日はエアースイムの大会の日であった。自分とは違う世界の演目。そうであれば、純粋に、ただの観客としてこの日この時を楽しむとしよう。


「ん……」


今日も離れの特等席へ。別に期待をしたわけでもないけれど、そこには以前と同じく見知った存在が座していた。


『「――」ぶつぶつと、男は試合を解説するように呟く。それは熱意、それは感嘆。それは情熱。それは……』


いつもの謳うような調子。しかしそれでも、今日は小声で静かに流れる。通りがかりの人間がいれば、囁き声のように聞こえただろう。

杉本久遠 >  
 試合は乱戦を中心に展開していく。
 少女は乱戦から離れ安全圏を泳いでいたが、そこで『ヒット』が出るとそうもいかなくなる。
 フィールドに広がった選手たちは、それぞれに機動戦を繰り広げていく。

「こうなるとさすがに追われる展開になるか。
 しかし、スピードには十分に乗れているし、追いつかれる不安は少ないな。
 とはいえ、これが続けばどこかで進路が他の選手にぶつかる。
 どこで切り返し、振り切るかが問題だが」

 その判断は初心者にはなかなか出来る物ではない。
 安易な動きを見せれば、追ってくる二人の選手に食いつかれる事になるだろう。
 しかし。

「――おお、そこで上がるか!
 追ってくる二人が十分に加速したタイミング、これは上手いな。
 速度こそ殺してしまうが、周囲に他の選手も居ない――いい視野の広さだ。

 しかも直立から反転も無駄がない。
 はは、あの動きは練習したな?」

 少女の泳ぎは、けして拙い物ではない。
 もちろん、初心者特有のぎこちなさは見えるが、それが気にならないほどに、技術面は安定していると言える。

「だが、振り切っただけでは勝てないか。
 彼女だけが逃げきれれば問題ないが、そう上手くも行くまい。
 そうなると、一つはヒットが欲しいところだな。
 しかし、『スピーダー』でヒットを狙うのは危ういぞ、どうする――ん?」

 フィールド上の光景に熱中していた久遠だったが、風に乗って聞こえた美しい謳う声に振り返る。
 そこには、褐色の肌に銀糸の髪が映える美しい女性。

「おお、シャンティじゃないか。
 君もまた、観戦に来たのか?」

 片手をあげて、笑顔で声を掛けた。