2021/02/22 のログ
ご案内:「エアースイム常世島大会会場」に杉本久遠さんが現れました。
■杉本久遠 >
この日、久遠は今大会最後の1000mを泳ぎ切った。
結果は、辛うじての一位奪取。
オールラウンダーの多い試合で、なんとかヒットをしのぎ続ける、耐え忍ぶ試合だった。
「あれを振り切れないようではなぁ。
個人練習しか出来ていないのが問題、か」
対人練習の経験がどうしても足りていないと思わされる。
部活として十分に活動が出来ていない事、部外の選手と練習試合を組むなどが出来ていない事。
集団練習が出来ていない弱さが如実に出る結果となってしまった。
■杉本久遠 >
とはいえ、1000mを三試合行って、いずれも一位と言うのは悪くない結果である。
十分に選考会へのチャンスがある成績と言える。
しかし、試合内容から考えると、選ばれる確率は決して高くはないのだが。
「だはは、中々上手くいかんもんだな」
そう、自分の試合を省みながら、いつものように堤防の上に腰を下ろす。
反省をしつつ、試合を観戦するためだ。
この場所は、少しばかり寒い事を除けば、久遠にとってはとても良い特等席なのだった。
■杉本久遠 >
フィールドでは、周回制スイムの試合が終わり、スカイファイトの準備が進んでいる。
会場の空気はいい具合に暖まりつつあった。
「――そうか、今日だったな」
運営スタッフとして、試合のマッチングはおおよそ把握している。
この試合には、久遠が、妹と共に注目している、一人の少女が出場することになっていた。
「うむ、注目の試合だな。
たしかルーキー主体のマッチメイクだったはずだが」
初参加であったり、経験の浅い選手を集めた試合のはずだ。
彼女の初戦としては、丁度いい組み合わせだろう。
■杉本久遠 >
そうして眺めている間に、選手たちが海上に進み出ていく。
その中には、懐かしい装備に身を包んだ、小さな少女の姿があった。
リタ・ラルケ。
とても良い素質を持った、有望なルーキーだ。
「この試合が、君にとって何かを得るきっかけになるといいが」
少女は迷い、戸惑って、足を止めていた。
そんな彼女が、自ら踏み出した一歩である。
その結果はどうであれ――得る物があると良いと、心から思う。
カウントが始まり、会場が緊張と期待の静けさに包まれる。
ゼロのブザーが響いた瞬間、選手たちはフィールドの中へと転送された。
■杉本久遠 >
八人の選手がフィールドへとランダムに転送される。
少女の初期位置は――悪くない。
低すぎず高すぎない高度は、どう動きだすにしてもやりやすいだろう。
「――彼女は最年少と言った所か。
体格差はあまり考慮しなくてもいいが、流石に体力差は響いてくるな。
経験や知識に関しては、それほど差はないだろうが、それでも経験不足をどれだけ補えるか。
しかしそうか、スタンダートに『オールラウンダー』として対応力を求めず、『スピーダー』として格闘戦を避ける作戦か。
最年少の少女と見れば、周囲が少なからず侮るのは間違いない。
そこで逃げ切りを狙うのは悪くない選択だろうな。
うむ、飛行姿勢も安定しているな。
ブレの少ないいい姿勢だ」
ぶつぶつと、堤防の上で試合を解説するように言葉を並べる。
通りがかる人が居れば、不審に思う事請け合いだろう。
ご案内:「エアースイム常世島大会会場」にシャンティさんが現れました。
■シャンティ > 昨日の公演は大変盛況といえるだろう。それでは今日は? 今日はエアースイムの大会の日であった。自分とは違う世界の演目。そうであれば、純粋に、ただの観客としてこの日この時を楽しむとしよう。
「ん……」
今日も離れの特等席へ。別に期待をしたわけでもないけれど、そこには以前と同じく見知った存在が座していた。
『「――」ぶつぶつと、男は試合を解説するように呟く。それは熱意、それは感嘆。それは情熱。それは……』
いつもの謳うような調子。しかしそれでも、今日は小声で静かに流れる。通りがかりの人間がいれば、囁き声のように聞こえただろう。
■杉本久遠 >
試合は乱戦を中心に展開していく。
少女は乱戦から離れ安全圏を泳いでいたが、そこで『ヒット』が出るとそうもいかなくなる。
フィールドに広がった選手たちは、それぞれに機動戦を繰り広げていく。
「こうなるとさすがに追われる展開になるか。
しかし、スピードには十分に乗れているし、追いつかれる不安は少ないな。
とはいえ、これが続けばどこかで進路が他の選手にぶつかる。
どこで切り返し、振り切るかが問題だが」
その判断は初心者にはなかなか出来る物ではない。
安易な動きを見せれば、追ってくる二人の選手に食いつかれる事になるだろう。
しかし。
「――おお、そこで上がるか!
追ってくる二人が十分に加速したタイミング、これは上手いな。
速度こそ殺してしまうが、周囲に他の選手も居ない――いい視野の広さだ。
しかも直立から反転も無駄がない。
はは、あの動きは練習したな?」
少女の泳ぎは、けして拙い物ではない。
もちろん、初心者特有のぎこちなさは見えるが、それが気にならないほどに、技術面は安定していると言える。
「だが、振り切っただけでは勝てないか。
彼女だけが逃げきれれば問題ないが、そう上手くも行くまい。
そうなると、一つはヒットが欲しいところだな。
しかし、『スピーダー』でヒットを狙うのは危ういぞ、どうする――ん?」
フィールド上の光景に熱中していた久遠だったが、風に乗って聞こえた美しい謳う声に振り返る。
そこには、褐色の肌に銀糸の髪が映える美しい女性。
「おお、シャンティじゃないか。
君もまた、観戦に来たのか?」
片手をあげて、笑顔で声を掛けた。