2021/02/27 のログ
雨見風菜 > 「空を飛び泳ぐ。
 水泳や『糸』で飛ぶのとは違った感覚ですが、これは楽しいですね」

他の選手達が練習を重ねて身につけるテクニックの数々を難なくこなした風菜への畏怖と尊敬と憧憬の声が細々と聞こえる。
だが、当の風菜はそんな事を知らず、余韻に浸る。

「もうすこし……はい、何でしょう?」

再度飛ぼうとしたところに、声がかかる。
スカイファイトの誘いの声だ。

「スカイファイト、ですか……」

スカイファイト、それはエアースイムの花形。
そして風菜の苦手な、他人への攻撃で点を取り合う競技だ。
無論、ここまで観戦していて有効打撃を取られないボーナス点が存在することも理解している。

「ちょっと、やってみましょうか」

雨見風菜 > そうして、風菜の参加するスカイファイトが始まる。

風菜の初期位置は最悪、参加者たちが散る中での中央。
流石に始めたばかりの風菜でも、この位置が最悪のスタートなのは理解している。
テクニックは使えれど、ド初心者である風菜に群がる他の参加者たち。

(有効打撃を一度取られて仕切り直し……いえ、ちょっと脱出を試みてみましょうか)

通常ならここで心折れそうな状況。
だが風菜は、妥協よりも挑戦を選んだ。
匠に泳ぎ、殺到する他の参加者たちの横をすり抜ける。
熟練者が居るならともかく、この場では皆未だ不慣れだったがゆえに、不安定な彼らの脇をすり抜けていく。
そうして、蓋を開けてみれば。
華麗な動きで他の参加者たちを相争わせ、一人悠々と離脱する風菜の姿。

「いやー、危ない危ない。
 泳ぐのに慣れた人がいたら有効打撃、取られてたんでしょうね」

高度の利を確保し、悠々自適に泳ぐ風菜。
まるでスカイファイトであることを忘れそうなそんな余裕。

雨見風菜 > 無論、他の参加者もそんな様をただ指を加えてみてるほど馬鹿ではない。
速度で勝ると考えた参加者が、風菜の上をとった。
もうひとり、開幕の争いで残った参加者は様子見だ。

「あらあら」

だが風菜は慌てない。
慌てればしくじるのが常だ。
そのまま、風菜めがけて突っ込んでくる参加者をサイドロールで悠々回避。
その突っ込んできた参加者が、様子見をしていた参加者に有効打撃を取られて一旦退場。
そんなタイミングで、開幕で離脱した他の参加者たちが戻ってくる。

雨見風菜 > 戻ってきた参加者たちの間を縫い、舞い泳ぐ風菜。
参加者たちの反応は、まともに追えないと判断して他の選手を狙うものと、初心者ゆえのミスを期待した風菜狙いとに分かれる。

この場合のセオリーは、風菜にはわからない。
ただ、有効打撃を取る気のない風菜は逃げるだけだ。
だがただ逃げるだけではつまらない。
空を泳ぐのを楽しみながら。
他の参加者を誘導しながら。
自分の関わらない激しい戦いを齎しながら、自分が狙われても悠々と回避していく。

雨見風菜 > そうして、制限時間が過ぎた結果。
有効打撃を取らず取られず、風菜は泳ぎ切る。
しかしながら、有効打撃のポイントで他の参加者に上回られ、順位としては3位に甘んじた。

NPC > 「やっべー……マジで初めて泳ぐの?
 才能ありすぎじゃん」

「楽しくファイトできたけど、彼女の手のひらの上で転がされた感じがする」

「なんだろう、順位では勝ったのに勝った気が全くしない」

雨見風菜 > 「いやー、やっぱり有効打撃取れないと駄目ですね」

負けたと言うのに笑顔。
まあ、有効打撃を取らないスタンスでは負けても仕方ない。
逃げ切ってようやく400点、時間経過のポイントを半分しか取れなくても11回以上有効打撃を取れた選手が居れば敵わない。

そして、参加者の一人から問われる。
なぜ有効打撃を狙わなかったのか。

「私が嫌なだけなんです」

そう応えた風菜に、他の参加者はもったいないとこぼすのであった。

雨見風菜 > 「それでも、楽しんで泳ぎましたし。
 お誘いいただき、ありがとうございます」

こうして、風菜はエアースイムの楽しさを知った。
それとは別に、この風菜の泳ぎを見てエアースイムは敷居が低いのだと思った体験者が殺到したのだった。
無論、そんな甘い幻想はすべて跡形もなく現実に叩き壊されてしまったのだが。
そんな体験者の悲哀は風菜には預かり知らぬ話。
どんな機種を買うか、頭を悩ませながら、風菜は帰路につくのであった……。

ご案内:「エアースイム常世島大会会場」から雨見風菜さんが去りました。