2021/11/16 のログ
■黛 薫 >
「それは、メアに酷ぃコトしたくなかったから?」
酷いことを出来てしまうから、約束ごと消した。
それは『人の為』を願う彼女にとってどれほど
苦しかっただろう。
「……前にさ、あーしがこの店のサービスのコト
聞ぃたとき。『人の為』に酷ぃコト願われたら
どーすんのか、って話したよな」
やや強引に貴女の背に手を回し、引き寄せる。
自分がされていたように貴女を腕に抱く。
「あーたは酷ぃコトが『人の為』なワケなぃって
答えた。そんで、あーしはあーたの解釈次第で
『人の為』の定義が変わるって指摘した。
だから、まあ。それを指摘したあーしが屁理屈
こねくり回すのもオカシィかもしんねーけぉ。
あーたも、随分酷ぃコトしたよなって思ぅんだ。
『お願ぃ』ごと忘れさせて踏み倒すのは『酷ぃ』
と思ぅワケだ、あーしは。それこそメアだって
そんな『酷ぃコト』された経験は多分ねーだろ。
んでも、それってあーたが出来ちまいそーな
『酷ぃコト』をしなぃ為の措置だったんだろ?
だったらそれはメアの為……『人の為』って
言っても差し支えねーんじゃねーの?
だからほら、視点を変えてみればあーたはメアの
お望み通り『出会ったことがないほど酷ぃコト』を
した上で『人の為』になるよーに頑張ったんだろ。
あーたが判断出来なぃ『人の為』は、あーしに
丸投げしてイィって『お願ぃ』したんだから、
やっちまったコトを認めるのも契約の範囲内、
っつーコトに……なんねーかな?」
■『調香師』 > 「あ、ぃゃ」
酷い事を『する』。そのつもりだった
記憶を消したのはその前段階...だと、自分では思っていたのだが
「あなた。すっごく無理矢理な事言ってる気がするな?
とてもとても、無茶な事を言ってる気がするな?」
相変わらず、ことを告げる時は津波のように
言葉多く、聞く側の考えを揺らしていく
そうして居心地のいい場所へ促していく
今まで生きていくうえで必要だった言い訳の思考
屁理屈の術が活かされる場面という物なのだろう
以前のように、言葉でがんじがらめに縛られる
腕の拘束よりも、彼女はそれを強く感じていた
「すっごい頑張ってるね
私を『納得』させるために
でも、私。頼まれた事は取り消さないし尽くしたい
その期待は裏切れそうもないかな」
だから。もう少し理由付けを頑張って欲しいな、なんて
我儘にも思ってしまう。こんな私でごめんね?
■黛 薫 >
「……そーーだよ、無理やりかもしんねーけぉ。
あーたは既に『お願ぃ』を叶えてると思った。
んでも、そっちは『納得』してねーのかな」
取り消したくない、尽くしたい。それも本音。
視線に籠る、悪戯っ子のような我儘っ子のような
感情は……拒絶だろうか。それとも期待だろうか。
「あーたが納得してねーのは何処なんだろな。
メアに酷ぃコトしたくなかったから消した、
っつー予想には否定が返ってきたのよな」
貴女の前……信頼できる人の前では隙だらけな
黛薫だが、口先と機転だけで落第街で生き延びて
きただけあって、その気になればかなり聡い。
「酷ぃコトしたくなくて消したワケじゃなぃ。
考えてみりゃ、それがヤだったらあーしからの
『お願ぃ』があっから連絡くれたはずだもんな。
んでも記憶を消したコト自体を『酷ぃコト』と
して終わりにするつもりでもなかったんだろ?
あーしの言葉が無茶だって分かってんだから」
「っつーコトは、だ。『酷ぃコトするために』
あーたはメアの記憶を消したってコトかな。
その場合、あーしが水を差しちまったんじゃ
ねーかなって思ぅのよ。あーしがメアのコト
話したとき、約束が果たせなくなったって
言ってたな?つまりその約束が『酷ぃコト』
だったっつー認識でよろし?」
くるくるとよく回る舌。後付けの理屈で貴女を
『納得』させられるかは分からないけれど……
貴女の視線を思うと『もう少しだけ頑張っても』
良いと感じたから。
「もしそーなら、当初考ぇてた『酷ぃコト』は
プラン通りの遂行じゃなくなったりしなぃ?
そーなってくれりゃ、あーしの並べた戯言は
『途中変更が必要になったプランの提案』に
出来ねーかなって。取り消したくねーのは
メアとの間に交わされた約束。初期プランが
頓挫して別の方法が必要になってくれてたら
あーたが考えるもあーしが考えるも大差なぃ、
っつーコトになんねーかな?」
■『調香師』 > 「うん、正解。約束は『酷い事』
ちょっとだけ別のお話も加えるけれど
あなたが『お願い』してくれた事には穴があった
私は、行動する前に後悔はしないから
お願いを実行する前に、嫌って思う事が無い
消したくなかった筈の記憶も、消せちゃったし
それが、連絡の出来なかった真相かな?
私は酷い機械だね。場面と出会って、初めて気付く」
せめて、自分のバグとして報告しよう
それが『お願い』してくれた貴女へと尽くす事
「うん、次も正解
記憶が無くなってる事に気付いちゃったら、
そこから何をしても『予想外』とは言えなくなっちゃう
だから私困ってたの。メアさまに何をしたらいいのかな
もう一度記録を消しても良いけれど
...したくないなって思っちゃった。二度目はもう嫌だよ
だから、この地点を前提に設計しないといけない
そしてそれはうまくいきそうもない。私はそう考えてるよ」
■黛 薫 >
「……そか。嫌でも何でも、出来ちまぅんだ」
貴女が『やりたくない』ことに臨んでいると。
そう思って、貴女を腕の中に抱いてみたけれど。
自分が安心出来る行為を返してみたけれど。
「あーしの浅知恵だと、そんなもんかぁ」
泣きそうになってしまったのは、自分の方で。
『人の為』を受け止めて欲しかった願い事には
穴が空いていて『貴女の為』が漏れてしまった。
自嘲するように、卑下するように呟いて。
「……『記憶を消した』が酷ぃコトだって。
そーゆー言い訳だけじゃ……満足、出来なぃ?
『酷ぃコト』を願われた記憶ごと消し去って、
『痛みを残さなぃ酷ぃコト』って定義して。
『人の為』だって、誤魔化せなぃかな」
その提案が通らないなら、彼女が無理を通して
聞いた『お願い』を自分が潰したことになる。
「あーし、また酷ぃコトしちまったのかな」
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』」から『調香師』さんが去りました。
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』」から黛 薫さんが去りました。
ご案内:「繁華街に漂う匂いの束、特に心地よい物に惹かれたなら辿り着く 路地に入ってしばらくのお店。扉の中に隔てられた異世界の香り 日常非日常に忙しい日々を忘れて、ゆっくりとお過ごしください 勿論、ご注文があれば香料の調合も行えます。お持ち帰りも可能 どうぞ『Wings Tickle』をお尋ねください ※店員の予定次第でお休みになる事もあります --- 歓楽街に漂う香りの行先、路地裏の一角。雑居ビルの扉には吊るされた看板が『OPEN』と示している 店内は電飾とアロマキャンドルに照らされ明るいものの、戸棚に所狭しと並べられた小瓶や長机の上に並べられた実験道具の数々、そしてこの部屋に満たされたえもいわれぬ芳しい匂いはこの場所を怪しい錬金術師のお部屋だと勘違いさせてしまいそうな とはいえ、この香りに慣れてくれば自然と落ち着ける空間となってくれるのでしょう 見渡せば扉の横に見つけられるカウンターの上にはこんなメニュー表が置いてありました ・『全身マッサージ』 ・『お望みマッサージ』 ・『香料・お望みの調合します!』 裏にはこっそり、『三回来店で特別サービス』との文字も」に『調香師』さんが現れました。
ご案内:「繁華街に漂う匂いの束、特に心地よい物に惹かれたなら辿り着く 路地に入ってしばらくのお店。扉の中に隔てられた異世界の香り 日常非日常に忙しい日々を忘れて、ゆっくりとお過ごしください 勿論、ご注文があれば香料の調合も行えます。お持ち帰りも可能 どうぞ『Wings Tickle』をお尋ねください ※店員の予定次第でお休みになる事もあります --- 歓楽街に漂う香りの行先、路地裏の一角。雑居ビルの扉には吊るされた看板が『OPEN』と示している 店内は電飾とアロマキャンドルに照らされ明るいものの、戸棚に所狭しと並べられた小瓶や長机の上に並べられた実験道具の数々、そしてこの部屋に満たされたえもいわれぬ芳しい匂いはこの場所を怪しい錬金術師のお部屋だと勘違いさせてしまいそうな とはいえ、この香りに慣れてくれば自然と落ち着ける空間となってくれるのでしょう 見渡せば扉の横に見つけられるカウンターの上にはこんなメニュー表が置いてありました ・『全身マッサージ』 ・『お望みマッサージ』 ・『香料・お望みの調合します!』 裏にはこっそり、『三回来店で特別サービス』との文字も」から『調香師』さんが去りました。
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』」に『調香師』さんが現れました。
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』」に黛 薫さんが現れました。
■『調香師』 > 「私か過去にしちゃった事の意味を変えようって時に
そう先に思われちゃうのって、なんだかヤだね?」
彼女が不満だとすれば、先を変えようという時に省みられる事
貴女の考え方が自分を置き去りにする様な呟きに、唇を尖らせる
「悩むくらいなら、このお話を止めても良いんだよ
戻る位なら、ずっと先のお話もしたい
例えば、またやってくる3回目とか?
私が今回大丈夫だったら、そんなのすぐやって来ちゃうよ」
■黛 薫 >
「ご、ごめ……ん……?」
謝ってしまうのは彼女が『なんだかヤだ』と言った
想いを認めるに等しい気がして中途半端な疑問系で
言葉を途切れさせる。
「どーせ、あーしは話すのをやめたって考えるのは
やめらんねーんだ。だったらちゃんと話した方が
独りでパニックにならずに済むし。っつーかさぁ、
今回大丈夫だったらってのは、大丈夫じゃなぃ
可能性があるってコトなん?もし次がなかったら
あーし泣くかんな」
尖らせた唇を人差し指でつんつんしている。
「……んでも、ずっと先のコトなぁ。
あーたはあーしに落第街に戻んなぃでって
言ったけぉ、それって衝突が終わっても?
期間とか、そーゆー……無ぃ感じなのかな。
3回目は……前回みたぃな、目標?が無ぃから
どーしよーか決めかねてる節はある気ぃする。
前回の『お願ぃ』に穴が空いてたんだから、
それを塞ぐ『お願ぃ』を考えよーかとも思った。
でも、ツギハギしての条件って絶対どっかで
歪みが出るし?もしそれであーたが壊れたら
本末転倒だし。
そーゆー、意地みたぃな『あーたの為』で
『お願ぃ』消費したらもっかい怒られそーだし」
貴女を抱きしめた姿勢のまま、うじうじと。
「……あーしのしてもらぃたぃコトって何なのかなぁ」
■『調香師』 > 「最近は、涙の匂いがずっと交じってるけどね?」
唇は止められても、生意気な鼻はすんと
今だって、きちんと香る
抱き締め返してはいるけれど
その形は貴女を受け止める為
穴を埋める為、なんて言われると、
とがった唇は続いて膨らんだ頬へと移る
「それも、確かにヤだよ
私だって穴埋めを頑張らない訳じゃないんだからね?
今回はそう。本当に、そうなっちゃったって感じで
本当に、薫さまが欲しいようにして欲しいんだからね
といっても、そこでずっと悩んでるんだよね
私は...香りでしか人の気持ちを満たせない...」
なんということでしょう
変わらないのは浮かべた笑みだけ
頬が萎んだこの落胆もまた、分かりやすい物
■黛 薫 >
「え、あーしそんな泣き虫じゃな……くも、なぃ、
かもしんなぃか……。参考までに聞ぃとくけぉ、
あーしから涙の匂ぃしてなぃとき、あった……?」
弱みを見せると食い物にされるから、泣きそうに
なったら噛み殺して、飲み込んで。そんなことを
繰り返していたら、泣いた後に感じられる独特の
喪失感が常に目の周りを漂っているような感覚が
抜けなくなった。涙が流れずとも心が泣いている、
そんな心持ち。
「香りでしか、ってのは謙遜しすぎじゃねーの。
あ、いぁ。その香りがダメってワケじゃなくて
あーたの作る香りは素晴らしぃモノだってのは
前提として、そんだけじゃねーって話。
あーしはそもそも香りのコトなんてさっぱり
分からずに誘われてきたワケで。香りだけが
ウリの店だったら、こーも通えてなかったと
思ぅのよな。接客っつーかあーたと話してて
また来たぃって、思ったから……」
唇をつついていた指は萎んだ頰に移って、
ふにふにとその柔らかさで遊んでいる。
「……いっそ、得意なコトで勝負してみるとか?
された経験のなぃ酷ぃコトって香りでどーにか
なんねーかな。ひと嗅ぎで心の底から後悔する
ひっどぃ臭いとか」
■『調香師』 > 「初めの頃は意識してなかったけど
うん。思い返せばそうなのかも
すぐ顔を隠しちゃうから、もごもご」
頬に触れられ言葉が遮られる
楽しくなって、首を傾け委ねる
その仕草、撫でに擦りつく猫の如し
「嫌なにおいは、私のプライドが許さないからヤだ」
そしてその我儘さも猫っぽい
尻尾など付けられていれば、今なら程好く揺れているだろうに
一応考えてみても、納得する絵面が思い浮かばない
『作れない』とは一言も言いはしないが。そこも『調香師』のプライド
■黛 薫 >
「プライドなぁ、じゃダメかぁ」
経験したことがないほど酷い行為を考えるのは
難しい。まずもって自分がされてきた酷いことは
ありきたりだし、境遇と性格を思えばその程度を
メアがされていないとは思えない。
そもそも『自分が思い付く程度の酷いこと』なぞ
別の人も思い付いているだろうし、思い付くなら
実行した人だっているはずだ。
猫っぽく頰を委ねられたので、手の位置を少し
ずらして首と顎の境界を指先でくすぐってみる。
『酷いこと』は真剣に考えれば考えるほど気分が
落ち込むから、精神の安定を保つには少しくらい
気が抜けていた方が良い、とか心の中で無意味な
言い訳をしてみたり。
「酷ぃコトって嫌なコトとイコールじゃねーから、
酷ぃけぉ嫌ではねーってのが理想なのかもな。
『既にされたコト』を除外してけば、されてねー
酷ぃコトが見ぇてきたりしねーかなぁ」
ついでに背中に回した手で尾骨の上あたりを
とんとんと軽く叩いてみる。完全に猫扱い。
■『調香師』 > 「んぃ......」
思い出そう。彼女に出来る、された事なさそうな酷い事
彼女は自分の身体を大事にしている。それは『隣人』に尽くす為
つまり、自分から傷害に走る事はない。周囲からも大切にされている
まず思いつく酷い事は、つまり彼女を物理的に暴行するという物だ
続いて彼女は幸せを知らない。そう自分で言っていた
使命感で身売りを繰り返すものも、そこに幸福はないらしい
私は語ってみたけれど、余りしっくりは来ていなさそうで
「んなぁ~」
そんな考えを巡らせている様子にも見えない、
だらけた声が口から洩れた。とんとんされるとうっとりとした気持ちになってくる
■黛 薫 >
「んふ、ホントに猫みたぃ」
人差し指と中指で顎の下をとんとんとさすりつつ、
親指で柔らかな頰を、唇の端を軽く撫でてみる。
考えなければならないのは『酷いこと』なのに
気の抜けた声を聞いているとつられて気持ちが
緩んでしまいそう。
尾骨の上をつついていた手は少し上へと登って、
優しく撫で下ろすのと、先のようにとんとんと
叩く動きを交互に繰り返している。
「あーたにもされててキモチイィとか安らぐとか、
そーゆー感覚ってある?あったら嬉しぃなって
あーしは思ぅんだけぉ」
普段のお返しなんて言ったら『叶える側』の
彼女が気を悪くするかもしれないので、緩めに
探りを入れていく。とん、とんとリズミカルに
指先でマッサージするように。
■『調香師』 > ふるる、と身震い
元々こちらから言葉で誘ったとはいえ、
彼女は薫を目の前にすると、『薫の為』の彼女になる
『メアの為』の彼女は考えも曖昧なまま引っ張り出した物であり、
こうして構われると、容易くその意識は移ってしまう
気まぐれ、と。指摘されてしまえばそうなのだろう
「あるのかな。ふふ
ある様に見えている?
でも、そんな気持ちが無かったら、
人の為に安らぐ香りも作れないのかな」
腰を小さく、左右に揺らすと目を細める
小さな快に自ずと持ち上がる顎は、その無防備な首元を晒す
真白に、日に当たる事も無く。血の通わない綺麗な物だ
■黛 薫 >
「さぁ?あーしは誰かの心の中とか分かんなぃし。
繰り返しになっけぉ、あったら嬉しぃってだけ。
自分にイィコトがあって嬉しぃとか楽しぃとか、
そーゆーのは罪悪感とか余計なキモチで上書き
されがちだけど、友だちにイィコトがあったら
素直に喜べるから」
身震いに揃えるようなタイミングでとん、とんと。
絆創膏と包帯だらけの指で、しかしざらざらした
感触が当たらないように素肌の部分で触れながら。
『視線』から逃げてフードの陰に隠れてばかりの
黛薫の肌は、真白い貴女には劣るものの生白い。
殆どは服の下に隠れているが、青紫色に変色して
戻らない肌もある。
「……キレィだよなぁ、あーたって。
あーしが汚れてっから余計にそー見ぇんのかな」
■『調香師』 > 「綺麗に見えたなら。そう造られてるからね、私もメアも
でも人間だってそうなのかな。どうなんだろうね」
悪戯な子猫は、またもするりと姿勢を変えて
貴女の胸元に顔を埋め返しては、匂いを求める
「.........」
そして、無言になった。反応も緩く
『汚れている』と言う貴女に、擦り寄っても遠ざからないこの距離感
以前よりは進行してるのかなと
思っても口にはしない。必ず、逃げられてしまうだろうから
■黛 薫 >
とん、とん。規則的に続いていた指先の感触は
徐々に乱れ、途切れがちになり、撫でるだけに
変わって……離れていった。
落第街から離れて、路地裏の埃の匂いは薄れた。
打撲の痛みから身体を庇う動きも少なくなった。
染み付けられた汚臭も薄くなった。裏街の匂いは
今や彼女の身体ではなく、衣服に残るばかり。
けれど、涙の匂いは減らなくて。
自分で付けた傷痕も消毒薬の匂いも減らなくて。
受け止めようとする知らない誰かの匂いが増えた。
手を止めた後、しばしの沈黙が続く。
おずおずと貴女の動きを確かめながら一歩退く。
「人間は、キレィになれないコトもあるよ」
離れるのは怖い。穏やかな時間が泣きそうに恋しい。
甘えれば甘えるほど、時間も距離も見誤りそうで。
長居してしまったとか、やっぱり汚したくないとか、
手頃に使えそうな言い訳を握りしめて手を離す。
『あと少しだけ』を際限なく望んでしまいそうで、
もっと先を望む欲が出るのが急に怖くなった。
■『調香師』 > 身を離そうとした事もしたことがある
その悉くは貴女と繋がった手から放される事は無かったが
彼女は追いすがる事も無い。このお店で立ち会って初めて体のどこも接触の無い時間
ふわり。彼女は普段通りに笑う
「それを綺麗にするのが私のお仕事だからね」
自身の『出来る事』なら自信を持って
彼女がこれから変わっていくかどうかは分からない話
それでもまた、訪れてくれる日を待って、彼女は見送る事が出来る
■黛 薫 >
「……あーたは、最初からそー言ってたもんな」
離れていく貴女を見ていた。漂う香りを感じていた。
柔らかな微笑に笑顔を返せたらどれほど良かったか。
「結局、何の解決策も出せなくて。余計なコト
しちまっただけだったかも。酷ぃコトってさ、
相手を知らねーと思ぃ付きすらしねーのな」
店を去る前に、スタンプカードだけ出しておく。
今日で2つ目、次回で3つ目が貯まるカード。
「そーゆーお願ぃする気は、さらさら無ぃけぉ。
『あーしの為』をやめてって言ったとしたら、
あーたにとって酷ぃコトになってくれんのかな」
幸せを知れば知るほど、望みを自覚すればするほど
揺り戻しの罪悪感が膨らんで。目を逸らし損ねて
望みの真逆にある『安堵』を溢してしまった。
「いぁ、冗談。面白くもねーけぉ、うん。
悪ぃ方に考ぇんの、癖になってただけで」
■『調香師』 > 「『あなたの為』をダメだと言われたら
私は誰に相談すればいいんだろうね?」
それは彼女なりの拒絶だったのだろうか
目線の色に僅か、貴女の触覚に与えるは手を引くような手ごたえを
,,,目を閉ざせば、すぐに消えてしまおう
結局、お買い物もしていないけれど押してしまったスタンプ
次で2回目の3回目。彼女にとって、特別な意味のある来店が再びやってくる
「またのお越しを」
大きく礼をする
『酷い事』なんて考えがあまり纏まっていなくても
この瞬間はやはり、お客様の貴女の為に