2021/12/31 のログ
ご案内:「青垣山 山中『廃神』』」にノアさんが現れました。
ご案内:「青垣山 山中『廃神』』」からノアさんが去りました。
ご案内:「青垣山 山中『廃神社』」にノアさんが現れました。
ノア >  
複数の山が連なる青垣山の片隅。
人の気配も寂れて消えた通りを抜けて曖昧になった境界をくぐる。

右耳に片耳用のイヤホンからウェブに転がり落ちたラジオのアーカイブを垂れ流しながら、
苔むした石畳に靴音を鳴らして、煙草片手に一歩ずつその異界の山中へと歩みを進める。

「ガーって行ってバキボキ……っておっさん死ぬんじゃねぇの」

ザクロをぶちまけたような赤いシロップを語る投稿者の内容に乾いた笑いを漏らしながら。
おっさんも俺もひ弱な人間なもんで、撫でただけでも死んじまうってもんで。

踏み入れて暫く、ヒヤリと冬の寒さと違った悪寒が背に走って
異界に踏み入れた事を悟る。

「歓迎されてねぇな……。
 まぁ、そんでも今日ばっかりは邪魔するぞっと」

足跡追って来ちまったもんで。
響いて聞こえて来た除夜の鐘に少し振り返れば街の明かりは既に遠く。

ノア >  
見上げれば木々の隙間に覗く空は黒く。
星も雲に隠れたか、見える事も無い。

「除夜の鐘って結局何て意味だっけね」

108ってのは煩悩の数だったか?
鐘ついて掃えるもんなら、ありがたいこって。

もう何度か登ったせいか、体力も精神的な物も削れるような感覚が薄い。
木々のトンネルを抜けた先、少し開けた場所に出れば折れ朽ちた鳥居の姿。

「……随分待たせたか? 透ヶ谷」

何もいない空間に語りかける。
石畳の上、追いかけた足跡の収束点。

おもむろにコートの中から抜いた銃の引き金を引くが、
消音機越しにパスンと鳴った小さな音の先、
石畳を叩き弾頭が爆ぜて小さく火花を散らすのが見えた。

確かにそこにいるのに、当たらない。
こんなもん追っかけて、本土離れて常世くんだりまで迷い込んできたんだ。

ノア >  
目を見開いて、両の瞳を向ければ己の金眼が銀に染まり、僅かに見える消えかけた像を写す。

<――執行対象です。慎重に対象を捉えて処分を実行して下さい>

「処分、ね」

脳裏に響く無機質な声に小さく漏らす。
そんな釣れない言い方ねぇよな。
奥歯を嚙み締めた拍子、口の端に咥えていた煙草が落ち葉の残る石畳に落ちた。

「妹の仇によ、そんな優しくしてやれっかってんだよ!」

誰もいない神域に一人、吠える。
誰にもバレぬ異能の使い手、使い過ぎた代償として誰にも認識して貰えぬようになった道化を前に。
もはや自分が異能を使って追わぬ限り彼を認識する物は誰もおらず。

『まだ人を殺した事がないもんで』

情か、欲か。彼らのように殺意に何かを持たせるというのなら、
――それはきっと怒りだ。

目の前の空間は何も返してくる事は無く、
それでも燻り消えかけていた激情は仇を前に再燃していた。

パスンという小さな銃声が響き、何もないはずの空間を穿つ。
同時に自分の身体を不可視の弾丸が抉り"与えた傷"が返ってくる。

パタリと飛び散った鮮血が、神域の石畳を汚した。

ノア >  
痛みに息が漏れても、それでも瞳は見開いたままに。

二度、三度。引き金に力を込めて虚空を穿つ。
その度に、槍を刺されるような衝撃を受けて身体が躍るが瞳に涙が溜まれど閉じる事はせず。
放っておいてもやがて消える存在だとしても、それでも執拗に引き金を引き絞る。

四度、噛み締めた奥歯が割れる程に食いしばって耐えていた視界がブレた。

<対象消失――>

「うるせぇっ!」

一度閉じてしまった瞳は金色に戻り、手の内の黒鉄は鉛の弾を吐き出せど、
初めと同じように石畳や、ぶれた照準が崩れかけた本堂の木枠に刺さる。

虚空に刺さる事も、己が身に返ってくる事ももうない。
果てにはマガジンの中身尽きて

「――ああぁぁあぁっ」

カチカチと弾切れを知らせる音が聴こえれば乱雑に手の内のそれを投げつける。
ガシャンと石とぶつかりあって無機質な音を立てて転がっていき、
声にならない叫びが途絶えれば、緑の中の神域には静けさが戻る。