2022/01/01 のログ
■ノア >
膝に手をつき肩で息をする。
「……あ゛」
咽るように咳き込んだ呼気に血の味がして、
ぼやけた視界を自分に向ければ己が腹部には3つの銃創。
手で触れて、未だ流れるままの血を脳が理解した瞬間に
アドレナリンの類か、堰き止めていた物が取り除かれたかのように急に痛みを訴え始める。
「――ぁ」
遠く響く鐘の音が、反響するように何度も耳に響けば
倒れるように大の字に境内に転がって。
転がったまま、震える指先でコートの中の止血パッドを傷にあてがうが、
数も足りなければ、止血を促せる程の力で抑える事すらもできず。
苦し紛れに手を伸ばしたアンプルは己が血で滑り、石畳を転がり離れていく。
「……はっ、ははっ」
乾いた笑いが漏れる。
これは、何だ? 達成感か?
「ははっ」
いや、そんな上等なもんじゃねぇや。
■ノア >
ずっと追い続けていた匂いが立ち消えて、その存在を今は陰すら感じる事も無く。
この島に来た目的は達された。
「あぁ……」
復讐なんてやっぱ満たされるようなもんじゃねぇや。
仇を殺した所で、死者が帰ってくるわけでも無い。
諦めるように見上げれば、空にかかっていた雲は晴れ、
境内には月の光が差していた。
「くっそ……寒ぃ」
息ができない、目を開くのも気だるく感じる。
思い返すのは友の、情で肩入れした用心棒の、自罰的な少女の姿。
仕事にしては、深入りしすぎた。
「あ……」
まだ、蓮司の教師になってからの近況を聞けていねぇ。
まだ、紅龍の妹を籠の外に出してやれていねぇ。
まだ、真夜の幸せそうな姿を見れていねぇ。
これが――未練って奴か。
小さく光差す願いに突き動かされて地を這い、手を伸ばす。
目指すのは転がっていったアンプル。
■ノア > 今更、綺麗に死のうだなんて思いも無い。
生き汚くても僅かにでもチラつく『生きたい理由』に縋って、
死ぬのは――それすら無くなってからでも良いだろ?
どうせ地べた這いずってるくらいが似合いの野良犬風情。
アンプルを開ける力が無くても、まだ動けんならやりようってのもある。
霞む視界で伸ばした手に、ガラス質の感触が触れる。
割れぬようにとケースに収めて持ち運んできた。
――割ろうとすりゃ割れんだろ。
赤と金の雫が、ガラス片と共に神域に散らばる。
よく効く鼻に刺さるように香るのは血の香り。
流しすぎて自分の物とない交ぜになっているそれに、舌を伸ばす。
わざとらしいくらいの林檎味。
舌先で舐めとった砂利と落ち葉に汚れた水薬を、飲み下す。
石畳の上、みっともなく生に縋る男が一人。
血に濡れて死んだように目を閉じるその姿に傷は無く、
浅い呼吸のそのままに、境内の真ん中に転がっていた。
異界となったこの山が、神社がこの死にぞこないを見逃すか否かは、
未だ本人も知らぬ事。
ご案内:「青垣山 山中『廃神社』」からノアさんが去りました。