2022/02/03 のログ
ご案内:「落第街『瓦礫山』」にアリスさんが現れました。
ご案内:「落第街『瓦礫山』」にクロロさんが現れました。
■アリス >
あれ。
どうして……迷いに迷って落第街、さらに迷ってここはどこ。
私も大概に方向音痴だけど。
こんなところまで迷い込むはずがないんだけど………
どうにも意識がぼんやりしていた。
今ははっきりしてきている。
私、アリス・アンダーソン。今日が誕生日で17歳。
何かに操られていたのだろうか……?
■金岡紀夫 >
ゴルフバッグを背負ったスーツの中年男性が会釈をする。
「ああ、どうもアリスさん。奇遇ですね」
「どうしてまた落第街なんかに」
真冬にハンカチで汗を拭って。
■アリス >
あ、あの人は………
2年前の4月29日に、惨劇の館事件で亡くなった金岡里美さんのお父さん。
金岡紀夫さん。
あの惨劇の館で生き残ったのは、親友のアガサと私だけ。
だから……私はこの人に負い目がある。
「あ、あの……金岡さんこそどうして落第街に?」
「……あ! 質問に! 答えると、わからなくて……」
「いつの間にかここに来てて………」
しどろもどろに答えた。
■金岡紀夫 >
ゴルフバッグを下ろす。
「それはね、私がアリスさんを呼んだんですよ」
「この街の呪術師に頼んで、遁甲陣で誘い込んだんです」
「わかります? うっすらとした催眠状態で人をおびき寄せる術です」
ゴルフバッグからショットガンを出して。
口の端を持ち上げて人好きのする笑顔を浮かべた。
「死んだ娘と同じ……17歳の誕生日おめでとうございます、アリスさん」
■アリス >
「!?」
意味がわからないけど、咄嗟に金属の壁を錬成した。
この三年間で何度も何度も遭遇した気配。殺気。
「か、金岡さ……」
■金岡紀夫 >
錬成された壁を避けて左手側にショットガンを撃って。
跳弾が何発か彼女に向けて跳ぶかも知れない。
「どうして娘が死んであなたが生きてるのか」
「それは、わかりません」
「でも………」
ポンプアクション。空薬莢が足元に転がる。
「なんであなたはいつも笑っているんですか?」
笑顔のままショットガンを構えた。
■アリス >
「あ!!」
足に一発、跳ねた散弾か飛散した瓦礫かなにかが当たる。
痛い、血……なんで!!
「金岡さん!!」
「ど、どうして………どうして…」
血が止まらない。止血なんかしている暇はない。
頭が混乱している。確かに今日、私は誕生日で……
涙を滲ませながら瓦礫の山の向こうへ走り出す。
■金岡紀夫 >
「アリスさん…最近、よく笑っていますよね……」
「シャンティさんという方は新しいお友達ですか?」
「バイトなんかも頑張られている」
「バイト先でもお客さんにも評判は上々でマフラーをプレゼントしてもらっていた」
ショットガンで彼女の頭の上の篆刻看板を粉砕する。
「アイノさんと最近、お買い物を楽しまれていましたね」
「クロロさんという方とは仲がよろしいようで常世渋谷に」
「それで……なんですか、プレ娘って」
「娘の命で贖った人生をそんな享楽に使っているのですか?」
ショットガンに弾を装填する。
■アリス >
看板が真上で飛び散って悲鳴を上げる。
違う……私は、そんなつもりじゃ…
アガサ、アガサは殺さないで!!
私は……私だって、死にたくない…………
助けて……助け…
■クロロ >
華やかな学園生活の影、落第街。
或いは学園の庇護を受けない、受け入れないものの最期の憩いの場所。
秩序もなければ混沌と静寂が支配するこの場所じゃ
恨み言が飛び交う事も珍しい事じゃない。
狂気を駆り立て、凶器を携え獲物を追い詰める。
珍しくない"日常"の光景だ。
当然、それに乱入者がいることだって不自然ではない。
その銃口がアリスの背に向く直前、二人を分け隔てる紅蓮の炎。
噴き出す熱が瓦礫を、床を焼いていき辺りを悪臭が支配する。
「────随分と面白そうなコトしてンじゃねェか」
突風の如き衝撃と共に炎が爆ぜ失せれば
そこに立つのは迷彩柄衣服の青年。
金色の瞳が煌々と輝き、男を睨む。
「どンな喧嘩は知らねェが……
無防備な女のケツを追い掛け回すッつーのは見過ごせねェな」
「お前もお前でなにしたンだよ、アリス……」
振り替える事無く、クロロは尋ねる。
■アリス >
今、私が殺されたら。
金岡さんはアガサを殺しに行くのかな。
そんなことは。絶対に。絶対に……
私の背後で吹き上がる炎。
私はそれを知っている。
私はその声を……知っている。
「クロロ!!」
涙を拭って、振り返る。
「惨劇の館事件、その時の亡くなった人のお父さんだよ!!」
短く説明して、金岡さんとの会話を試みる。
「どうして!! 里美先輩は優しい人だった!!」
「里美先輩を悲しませるようなことをしないでください!!」
月並みな言葉、でも言わずにはいられない。
私……説得なんて、したことがない。
■金岡紀夫 >
「これはどうもクロロさん」
丁寧に挨拶をして空いている手で汗を拭う。
「私はアリスさん個人に用事がありますから、どうぞお引取りを」
アリスさんの説得に笑顔のまま答える。
「アリスさん……あなたに娘の何がわかる」
「あなたを見ていてわかった………」
「あなたという生存者は、里美の代わりになっちゃいないんだ」
クロロを無視し、アリスに向けてショットガンを撃つ。
■クロロ >
ハッキリ言ってクロロは何方の事情も深く知っている訳じゃない。
アリスが巻き込まれた事件では多くの犠牲者が出たそうだ。
要するにその犠牲者の一人の身内。
「……テメェの娘が死んだ可愛さに、当事者に恨み辛みをぶつけにきたッてか?」
アリスが実際に意図的に手を掛けたのであれば
これを止めるべきだとは思わない。
復讐するのもされるのも、後は当人でケリをつければいい。
だからこそ、何も知らないまま退く事などできない。
腕を組んだまま微動だにしないクロロ。
破裂音と共に放たれた散弾はその横を通り過ぎる直前
空気発火したかのように炎に包まれ燃え尽きた。
弾丸が見える訳じゃない。
ただちょっと魔力で予防線を張って
侵入したものを無差別に燃やす適当な魔術だ。
金色の瞳を細めて、男を睨んだ。
「ソイツを下ろせ、なンてありきたりな事は言わねーよ。
オレ様言ッちまえば部外者だし、ショージキ手を出す理由はねェ」
「だがハッキリさせなきゃ見過ごせねェ事もある」
クロロの足元から噴き出す炎。
まるで高ぶる感情の表れのようだ。
「アリスの言い分は前聞いたけどなンつッたけな……。
よォ、アリス。お前このオッサンの娘に直接手ェかけたンか?」
■アリス >
クロロの問いに、叫ぶ。
「私は金岡里美さんを殺してない!!」
そこは断じて違う。
私が生きていることは恥ずかしいことなのかも知れない。
笑ってちゃいけない存在なのかも知れない。
でも……私は里美さんを殺したりなんか絶対にしてない!!
「館にいたブヨブヨの怪物が里美さんを改造して殺したんだ!!」
胸に手を当てて叫ぶ。
「私はあの館を爆弾で吹き飛ばした……」
「でもあの時、里美さんはもう殺されて死体を縫い合わせられてたの!!」
「私は………私は…」
太腿の銃創を手で押さえながら絞り出すような声。流れる涙。
■金岡紀夫 >
「知ってます」
「司法解剖の結果は遺族に知らされますからね」
「でも……娘は17歳で………彼氏もできて、就職に向けて頑張ってて…」
「娘の死体は知らない生徒と上半身同士で縫い合わされてた」
「犬みたいな骨格になった娘の黒焦げ死体を見て……」
笑顔のまま涙が流れた。
「私は何を恨めばよかったんですか?」
円を描くように回り込む。
コンバットシステム。
二年半、死ぬ気で練習した戦闘行動。
ショットガンを撃ちながら走る。
反動はバネで殺す、あとはタイミングだけ。
タイミングが人を殺す。
■クロロ >
「……だッてよ」
当事者でない以上、その心を代弁する事なんて不可能だ。
一つだけ言えるのは彼女は何時までもそれを悔いている事だった。
あの時もそう言えばそうだ。自分の事を"汚い女"とか言っていたっけ。
ふぅ、と溜息を吐けば飛び交う散弾をまた目の前で炎の壁が焼き尽くす。
人の感情は余程原動力になるらしい。
特に募った感情の大きさ、見かけによらず機敏に動く姿。
この男がどれほどまでに恨みをためていたかよく分かる。
「……そンならまァ……」
一歩飛び退き、炎が舞う。
アリスの隣。今度は庇うような形だ。
「猶更コイツを死なせるワケにはいかねェな」
別に人の心が分かる訳じゃない。
ただ、この男も、金岡自身も言っていた。
きっとコイツは生きる為にそれが必要だったんだ。
例え見当違いと分かっていても、小さな女を恨むことでしか自分を保てなかった。
それが"自我"と呼ぶかはクロロには判断しかねる。
自分の事でさえ空白で、ぶれているように思えている今日この頃だ。
"だからこそ"それを認める事は出来ない。
「テメェが何を恨めば良かッたかだ?
知らねェよ。さぞ無念なのは違いねェだろうけどな」
「────コイツを殺した所で、"スジ"は通ンねェぜ」
飛び交う破裂音、散弾を炎が焼き尽くす。
時にはその炎の体がはじけ飛んだ。
実態を伴わない炎の体だが、何度も受ければ"吹き飛ぶ"。
弾丸を焼く代わりに体の質量が、体積が減る。
体(ほのお)を維持出来なければ、勿論消火(しぬ)だけだ。
「アリス、離れンなよ」
横目でアリスを一瞥すれば、男へと視線を戻した。
「……よォオッサン!死なねェよーに手加減してやる。
痛い目見たくねェならとッととソイツを捨てるンだな」
最終勧告だ。
天へと突きだした右手から、魔力の本流が迸る。
■アリス >
私は間違っているのかな。
私は死んだほうがいいのかな。
私は………笑ってちゃいけないのかな。
そんな言葉をぐっと飲み込んで。
クロロの……私を護る炎の影に隠れた。
■金岡紀夫 >
「死んでもお断りします」
残りの銃弾を撃ち尽くす。
その覚悟であえて接近した。
散弾は近づけば殺傷力も比較にならない。
たとえそれが私の身を灼く炎でも。
雄叫びを上げながら駆け、ショットガンを撃った。
■クロロ >
別のクロロは人の心を読めるわけじゃない。
「オレ様も大概、人に褒められた生き方はしてねェ。
オレ様は人様から見りゃ悪事ッて言われよーが、"スジ"がとおりゃ納得する」
だからこそ、学園(せけん)より自ら身を引いている。
この落第街で導かれるように、どうしようもなき掃溜めでも
誰かの"明かり"に成れるように生きている。
───────嗚呼、そうだ。そうなんだな。
そうだ。"昔言われたんだ"。
散弾に弾ける体に痛みは無いが
白紙に過った淡い"思い出"に目を細めた。
「けどな、後悔しねェワケじゃねェ。
テメェの不幸を嘆くかもしンねーが、ソイツを人にぶつけて良い理由はねェ……!」
金色の双眸が見開いた。
その足元に黄緑光の魔法陣が現れる。
「テメェでやッた事を後悔しても、ソイツが死ンで良い理由にもなンねェよッ!!」
人の心は読めなくても、互いに吐き出して、飲み込んだものを
真っ向から否定するかのように声を張り上げた。
構わず突っ込んでくる金岡。覚悟はあると見受けた。
『────宵闇の擬<Darkness mimicry>』
魔法陣が黒く、反転する。
目前に、ショットガンが銃口が向けられる。
それでも"退かない"。
『────ありえべかざるもの<Nyogtha>!』
ショットガンが爆ぜるとともに、クロロの頭部が弾けた。
同時に暗黒の魔法陣から飛び出すゲル状の黒。
かつて、何時かの時代を支配した旧支配者の片鱗。
ありえべかざるもののと呼ばれたものの四肢。
ゲル状の触手が金岡の腹部へと突き出される。
見た目以上に深く、重いゲル状ボディーブローだ。
どんな訓練をしてきたかは知らないが、加減したとはいえ
人成らざるものの怪力は確実にダメージを残すだろう。
■金岡紀夫 >
スジが通らない。
クロロさんが言っていることは正しい。
でも、スジが通らなかったら何もかも諦めていいのか。
たった一人の娘を喪った世界で何度も何度も朝を迎えて。
意識が覚醒するたびに愛した者の死を確認するべきなのか。
断じて違う。そんな甲斐のない人生を私は認めない。
近づく、やれる。
殺った、この距離なら!!
次の瞬間、出てきたのは。
私の知らない───
腹部を撃たれた。
打たれた、じゃない。衝撃で軽く上に跳ねるくらいの。
激痛に悶絶し、銃把だけになったショットガンを手に
胃の内容物をその場に吐き散らかした。
「が………あ……」
そうだ。
アリスさんが死んで良い理由なんてない。
それでも。
私はアリスさんを殺さないと前に進めなかったんだ。
「こ………」
辛うじて体を横にする。
「殺さないで、ください……」
「私が死ぬと…里美を思い出す人がいなくなってしまう……」
■アリス >
命乞い。
それは、きっと本心からの。
「何よそれぇ………!!」
感情が噴出する。
ボロボロと泣きながら、もうどうなっているかわからないクロロの後ろから叫ぶ。
「私だって死にたくない!!」
「生きていたい………!!」
「私は生きてるんだ!!!」
もう自分で何を言っているのかわからない。
それでも……私も、アガサも。
彼に殺されるわけにはいかない。
これからどうなるんだろう。
私は……どうすればいいんだろう。
■クロロ >
頭が吹き飛んだところでクロロの体は倒れはしない。
元々炎が人の形をとっているだけだ。
血も無ければ肉も無い。御覧の通りの怪物だ。
そして、呼び出された"コレ"も例外ではない。
人の生命を何とも思わない。
巨象が足元の蟻を気にしないように
コイツ等が他者の生命なんて玩具に等しい。
足元でうねるゲル状の悪意が、再び金岡に─────。
……ドンッ!!
────向く前に、クロロの足が黒を踏み鳴らす。
爆ぜる炎と共に魔法陣が消え、その悪意もすべて消え去った。
無くなった首の根元から炎が噴き出し、何事もなかったかのように頭が再生する。
「……アー」
気だるそうに首を撫でた。
少し身長も小さくなった。
炎の体積が少なくなったからだ。
「別に殺しゃしねェッたろうが。
残された人間の気持ちはオレ様にゃわかンねェ」
「けどな、忘れられた奴等の寂しさはわかるつもりだ。
テメェの生きる希望がどーなるかは知らねェけどな」
「娘を忘れたくねェなら、今度はそンなモン持たずに墓参りでもしてやンな」
きっと、その人が完全に死ぬ時は"忘れられた"時なんだろう。
あの時脳裏に過った淡い記憶に、何処かの景色。
きっと今の自分は、そんな誰かを殺しかけている。
どうでもいいと思っていたが、理由が出来てしまった。
思い出す人が居なくなってしまわないように、自分も取り戻す必要がある。
踵を返せば、泣きじゃくるアリスに向き合った。
「アリス、終わッたぞ。……ぶッさいくな泣き顔だな」
ヘッ、とからかうように言って笑みを浮かべた。
「ま、後はお前が必要だッて思うならもう一度ケジメなりなンなり考えな。
お前が死ンだッて、思い出す奴が一人減ッちまうンだからな」
なんて、振り替える事無く金岡の言葉を反芻する。
頭も吹っ飛ばされたし、意趣返しだ。
何気なく手を伸ばしたが、それは頭に触れる前に止まった。
「…………」
触れ合う事も出来ない炎の体。
歪む口元の笑みは、何処か自嘲的だった。
「帰るぞ。……あ、そうそう」
ひっこめた手を軽く上げ、ひらりと振った。
「誕生日?なンだろ。なンかオッサンが叫んでたよーな……まァいいか」
「ハッピーバースデー、アリス」
■金岡紀夫 >
「…………」
もう何も言えない。
そもそも私には何か言うことはもう残っていない。
億劫ながら仰向けになり、倒れていた。
■アリス >
「ク、クロロ………」
クロロは元通りになっ………ていない。
背が低くなっている。
それに、体から立ち上がる熱量は。
「う、うう……! レディーにブサイクってゆーなぁ」
次々に溢れてくる涙を拭いながら、止血材を錬成して太腿の傷に押し当てた。
「うん………うん…」
手を伸ばす彼は、そうはしない。
手を引っ込める理由があるんだ。
つまり……彼は今は炎で。
それでも、誕生日を祝われれば
「……うん! ありがとう、クロロ!」
ようやく、“お礼”の言葉を口にして。
金岡さんは。
風紀に連行されていった。
殺人未遂、余罪もある。
少なくとも私とアガサが常世島にいる間に会うことはない。
私は。17歳になった。
入学前から色々やっていて単位は足りていて。
卒業が近かった。
ご案内:「落第街『瓦礫山』」からアリスさんが去りました。
ご案内:「落第街『瓦礫山』」からクロロさんが去りました。