2022/02/05 のログ
ご案内:「常世第三電波塔」に追影切人さんが現れました。
追影切人 > ――退院して、真っ先に向かうと決めていたのはこの場所だ。
無言のまま、淡々とした足取りで…時々、風が吹き抜けて肘から先の無い左腕の袖口が揺れる。

「……ここか…。」

ぽつり、と呟けばその電波塔の前で足を止めて何となく隻眼で見上げる。
既に現場検証やら後始末はとっくに済んでおり、何時もの電波塔と何ら変わらないのだろうが。

「……チッ。」

小さく風に紛れて消える程度の舌打ちを一つ零しながら、何とはなしに電波塔を軽く蹴り付ける。

追影切人 > 「…墓標代わりにしちゃ無駄にデケぇじゃねぇかよオイ。
…つーか、何で俺が斬る前にきっちりくたばってんだテメェは。」

蹴り付けた足を戻しつつ、悪態の独り言を零す。
分かっている、こんな事に意味なんてさしてありやしない。
ただの気分や気持ちの整理…みたいなもんだ、おそらく。

「…この場合、死んだテメェが負けできっちり生きてる俺の勝ち、なんだろうが…そりゃどうでもいい。」

そう、どうでもいい。勝ち負けとかそんな事よりも口惜しいのは…斬奪怪盗をこの手で斬り殺せなかった事だ。

男の本質は斬滅――故に、斬ると決めたら絶対に斬ると己に課している。
過去、二度の死闘が奴とはあり、きっちり斬りはしたが…。

「クソが…テメェの方が『勝ち逃げ』みたいで気に食わねーっつー話だ。」

理不尽な言葉だとは勿論十分に理解しているが、それでも言わずにはいられない。

追影切人 > 「…そういや、テメェの大事な大事な【虚空】は封鎖武器庫に保管されたみてーだぜ。ま、妥当だわな。
…そうそう、俺が使ってた【雷切】とお隣同士で保管されてるってよ。…滑稽だわな。」

どんなに強力な武器でも、そうやって封印されている間に忘れられていく。
――テメェの存在もそうだ。所詮は一過性のものとして日常や他のドタバタに埋没していく。

「――そういや、テメェにゃ家族が居たんだっけか?
…ハッ、親不孝どころの話じゃねぇな…テメェの身勝手のツケがそっちに来てる。」

もっとも、奴の家族に同情はしないし興味も無い。そこまでお人好しでもない。

追影切人 > 「――あぁ、そうそう。一つ言う事があって、わざわざ来たんだわ。別に宣言するまでもねーんだが…。」

と、悪童じみた笑みを浮かべながら、その声は風にも巻けずにハッキリと。

追影切人 > 「くたばった程度じゃ逃がさねーからな。地獄の底だろうが何処だろうが必ずテメェは”俺が”斬り殺す。」
追影切人 > 奴を『止める』だとか『助ける』だとか『捕まえる』なんて考えは最初から男には無かった。
宣言した通り、ただ斬ると決めた奴は必ず斬るだけだ。可能か不可能か、そんな事すらどうでもいい。

「…ま、テメェは当然地獄行きだろうがどうせ俺もくたばりゃそっち行きだろうしなぁ。
お互い、得物はねぇかもしれないが、まぁそれはそれだ。何とかなるし何とかする。」

どうやって?とかそういうのは気にするな、どうせ俺がくたばった後の話だ。
まぁ、つまりは。

「つー訳で、テメェが忘れられても俺はテメェを忘れねぇよ。つーか、斬り殺し損ねた相手を忘れるとか俺自身が許さねぇ。」

呟きつつも、少しイラッとした。いや、本当に何でくたばってんだテメェは。
ちょっと気合入れてあの世から帰って来いや。そんな無茶を本気で切望する馬鹿がここに居る。

追影切人 > 「しかし、テメェを直ぐに斬りに行けねーからなぁ。…他に何か斬り甲斐がありそうなのは……あー…。」

何かあったか?誰か居たか?閉鎖区画とかそういやあったが…。
いや、考えたら斬り合いにならねーじゃねーか。
あとは、確か謎のガスマスク野郎?とか辻斬り女?みたいな話を聞いた気がしないでもない。

「まぁ、仕方ねぇ…暫くはまたつまんねー警備部の仕事をこなすしかねぇか…。」

そう呟いてウンザリ顔だが、一応は警備部の仕事はちゃんとやるつもりらしい。

「つーか、まず義手か何か必要だな…片腕だと流石に斬る時にしっくり来ねぇわ。」

単純に日常生活でも不便ではあるが、男の気になるのはむしろそっちらしい。
左眼…まぁ、こっちはむかーし何処かの誰かにタイマンで潰された時点で終わってるから今更だ。

追影切人 > 「…結局、斬るのは”相手”が居ねーと成り立たないっつー訳だな。」

自分を斬ってもただの自殺だしつまらんし意味ねぇし。
物を手当たり次第に斬ってもただの器物損壊でしかない。

やっぱり斬るなら相手が必要で、尚且つ斬り合いとかが俺のテンションは上がる。
自分より強かろうが弱かろうがそこはそれ。斬り合い出来るならその時点で相手に文句はねぇ。

「…ま、どうせならテメェとやり合った時みてぇに実力伯仲だとおもしれーがなぁ。斬奪怪盗。」

再び、電波塔を見上げながらハッ、と息を零して笑う。
まぁ、こうして来たのは心残りで未練で、つまりはつまらん感傷で。


『君は恋愛とか苦労しそうだねぇ…切人。』

『あ?耄碌したのかアンタ?いきなり何をトチ狂…いってぇ!?殺す気かこのババァ!!』

『…やれやれ、仮にも命の恩人に向かって酷い言い草だ。君はもう少しレディの扱いを学んだ方がいい。』

『え、俺は斬り合い出来る女とかの方がいいんだけど…。』

『……君のその”生来の気質”は本当に歪んでるねぇ。』


ふと、今はくたばった『恩人』との会話を唐突に思い出した。
この前、柄にも無く墓参りに出向いたからだろうか。成仏してくれよババァ…。

追影切人 > 「…ったく、ババァの事は兎も角。おい、宣言したからな俺は。
テメェは地獄でちょっと修行でもしてろ。俺も切れ味上げてカチコミ行くからよ。」

なんて、そんなチンピラじみた無茶な台詞を吐いてから踵を返して。

「―――じゃあな斬奪怪盗。」

今は一先ず見逃してやらぁ、とばかりに。《凶刃》は静かに振り返りもせず立ち去ろう。

ご案内:「常世第三電波塔」から追影切人さんが去りました。