2022/03/19 のログ
ご案内:「Wings Tickle」に調香師さんが現れました。
ご案内:「Wings Tickle」に黛 薫さんが現れました。
■黛 薫 >
3月、巣立ちの季節。最早それも旧世紀の風習。
入学、卒業の時期も人によりけりな常世学園に
公的な卒業式は存在しない。
とはいえ、根付いた風習は簡単には無くならない。
式典委員会を中心とした非公式の卒業式を区切りに
巣立つ学生は数多く。
春季休暇も重なって、常世島で最後の思い出を
作ろうと楽しむ者、旧世紀で言う進級に託けて
新しい挑戦を始める者、或いは卒業式と同様に
非公式で行われる入学式に合わせて学園に訪れ
新生活の準備を始める者もいるだろう。
歓楽街は賑わっていたり、そうでなかったり。
むしろこの時期の賑わいは学生街が顕著だろうか。
喧騒を避けた路地裏ともなれば心淋しく見えるほど。
静寂の中、きぃきぃと無機質な音を立てる車輪は
淡い香に包まれた店の前で立ち止まる。
「メロウ、いるよな」
扉を開く少女が纏うは冷たく儚く、春の足音から
取り残されたかのような難解な薫り。人を飾るには
向かない、調香師と逢う日だけの密やかな約束の香。
■調香師 > その香りは時期によっては変わらない。感じ方の違いはあるのだろうが
時間からの隔絶、それは彼女の在り方。変わるとすれば、出会った人に染まるが故
「いるよ、薫様。ちゃんと使ってたら、そろそろかなって。ふふ」
作業机から目線を向けた頃には、既に貴女も入り込んでいる
この扉も幾度くぐったものなのか。スロープがきしりと音を立て、慣れた動作
鈴の音も、初めみたいにかしゃかしゃとは続かなくなったんだね
「最近の調子、どうかな?以前より、動かし方が自然に見えるよ」
■黛 薫 >
「やっぱお見通しか。1滴2滴で丸1日持つから
全然減らねーなって思ってんのに、常用すっと
いつの間にか空っぽなのよな」
取り出した小瓶、香水は薄く底に残るのみで
傾けなければ色も淡く霞んで見えないくらい。
最後の1滴、惜しんでも2滴に届くかどうか。
逆に言えば本日分はギリギリ残っていたはず。
儚く薫る装いは代用ではなく選んで纏ったと
伺えよう。
「自然になっちまってっと、逆に良くねーのよな。
あーしの身体の一部、魔術を扱ぃやすぃよーに
作り替ぇた、って話したよな。お陰で楽な方に
流れて、気ぃ抜ぃてっと出力で解決しちまぅの。
お陰でリハビリがしんどぃのなんのって」
リソースを費やせば成果は自然と得られるもの。
しかしそれに慣れてしまうと省力的に成果を得る
工夫や訓練の入り込む余地が減ってしまう。
大金を惜しまず注ぎ込めば良いものは食べられるが、
買って食べるのに慣れると自炊に移行しにくくなる。
身体を動かすのも然り、使える魔力が増えたからと
使う量まで増やしてしまっては意味がない。
■調香師 > 「はじめから、計算してるからね
どの量がどれ程使えて。どれ位が瓶の中からでも揮発しちゃうか
どのくらいの時期から成分が壊れて、香りが変わっちゃうか
『あなたの為の香り』はどれ位の量が適切かなって、通ってもらればもらうほど
こういう時に、私が案外出来る機械だとアピールするのが、長く愛される秘訣かも」
本当に、最後の最後まで使ってくれる。こんなマメなお客様もそうそういない気はするけれど
実際に達成してくれたところを見れば、嬉しさで変な形に歪みそうな頬を指先で、くりくりと弄る
「本当は、マスターだから。お代を取るのもどうかなって思うんだけど、それはそれ
出力の方が大変、という気持ちはちょっと考えられるかも
私も私の身体の中で、記憶した香りは作れるけれど、
そうすると、『人の為』に足した想いの成分を忘れそうになっちゃったり
瓶を選んだ理由を思い出せるように、やっぱり自分で調合してみる方が、心に合ってるのかなって」
立ち上がった彼女が調合の為に取りに行った瓶たちも、貴女と交わした言葉を忘れないために
だけど、ちょっと大変な事に気付いちゃった。鉱石から抽出した香りが減っている
いつかのタイミングで、作っておかないとなぁ
■黛 薫 >
「ああ、そっか。いくら瓶の中に入れてたって
香りはずっと保つものじゃねーもんな。
薄れて消える前に使ぃ切れる量まできっちり
考ぇてくれてたのか」
門外漢では細やかな気遣いに気付けないことも
多々あるけれど、それ故に教えてもらったとき、
気付いたときの感服はひとしお。改めて彼女が
この道のプロだと思い知らされる。
「いくらメロウを所有してても、ココはメロウの
お店だかんな。世話んなってる店にお金落として
応援すんのも大事だし?特別も当たり前も大事に
してくって決めたんだから、それはそれでいーの」
ひひ、とあまり上手でない笑みをこぼしながら、
思い出したように鞄のポケットに手を入れた。
「コレ、今回のお土産。メロウならもう知ってる
香りかもだけぉ、時期のモノ見つけたからさ」
土の香りを纏うそれは、若葉の産衣に包まれた
春の落とし子。フキノトウと呼ばれる蕾。
■調香師 > 「それは?」
瓶を手に、机に戻って来て。ビーカーを取り出した所で、動きを止める
差し出した掌の上に、それを落としてくれるだろうか。両手で受けて、いつも通り鼻先へ
若葉の瑞々しさを詰め込んだ雫、ころころと手の中で揺らぐ
「年季のある樹木なら、この香りの湿りは落ち着きを感じさせる
これは違う。見た目の通り、若い葉っぱ特有の香りと華やかさと。その上で、我慢強さ
不思議なもの。これは、どこから?」
調香を始める前で良かった。この香りの意味を、邪魔される事もなく味わう事が出来た
貴女を見て、首を傾ける。今度は何処にあったものなのだろう。彼女は知らない
■黛 薫 >
「寮の裏手、アスファルトの割れたトコに生えてた」
若々しい山野の香り、しかし街中で見つけた物。
人工物の綻びに堆積した微かな自然にも生命は
芽吹き息衝いている。
「あーしも久々に見たから無性に懐かしくて。
この島に来る前、あーしの生まれたトコだと
山ほど採れたのよな。つっても正直あーしは
見つけんの上手くなかったから、春半ば頃に
育ったの見て鬱陶しぃとか思ってたんだけぉ」
甚く興味をそそられたらしいメロウの様子に
にんまり。まだまだ知らない香りがあるなら
メロウが織りなす香りの世界はもっと進歩を
続ける余地があるのだろう。それを知るのが
楽しみで仕方ない。
■調香師 > 「寮の裏手に生えるもの
薫様の故郷にもあって、探したいけど、探しにくくて」
ころころと、この植物が生えている所を想像する
机の上に置いてみて、私がそれを収獲してみる
「薫様の故郷では、これが育っちゃう。これが育つと、どうなるのか
それはどんな香りなのか。そもそも、薫様の故郷って」
そういえば、と。気にした事のないワードであった
ここに居る人は、元々ここに居るのかなのかるーい認識
外から来たお客様もいるけれど。それはただ、『外から来た』との言葉で済む
思い出話も、香りの糧。欲しがられれば、きちんと掘り起こし、
ただの興味では中々触れない領域。その興味が今、ゆっくりと首をもたげる
「私の知識は香りの中に。こういう香りもあるんだね
薫様の故郷はこんな香りがひしめいている、満ちている
緑の多い、場所だったのかな。それは山に近いのかな
知らない。知らないままだ、んふふ、だったら埋めたくなるね」
■黛 薫 >
「あーしの育った場所、ホント緑しかねーかんな。
あんま面白ぃ場所じゃねーよ。その花……蕾?
フキノトウって言ってさ。咲いても見た目は
その中身とあんま変わんねーのに茎だけ伸びて。
まあ、飾るよーな見た目ではねーと思ぅ」
ひとつ、若葉の産衣を指先で柔く捲る。
女郎花にも似た花の集合が中にある。
故郷の印象はもう自分にとっても遠く、淡く。
実感はないけれど、自分の生まれそのものが
役割ありきの道具染みたモノだと伝えたら、
メロウは嫌な顔をしてくれるのだろうか。
「知らなぃコト。わざわざ話題にしなぃコト。
知り合おーとしても身近にあったりすんのな。
思ぃ立っても聞ぃてイィか分かんなかったり。
あーしもメロウの生まれ育ち知らねーし?
聞ぃてみたぃコト、話してみたぃコト。
きっと尽きなぃんだろな。どーだろ?
メロウは何かある?あーしに聞きたぃコト。
話したぃコトでもイィよ。あーしだって
メロウのコトは知りたぃんだし」
■調香師 > 「前の、学校の時もおんなじことを言ったっけ
知ろうって、えへ。そんな事を並べてみて
私が勝たれる事は殆どないけどさ
生まれは過去、育ちの記憶は現代、今が一番楽しいからね」
ぽ、ぽ、ぽ。指先で、硬くもほんの僅か歪む蕾の感触を確かめる
しかし触りすぎると崩れてしまう、それは命の脆さ
大事に保存しようかな。調べないと...
「お話ししたい事、と言えば。そうだ、この事があった
私ね、マスターに紹介してみたい人が居るってね」
■黛 薫 >
「そーいや、自販機の前でそんな話してたっけ。
日常の一部ってか、他愛なぃ話ほどわざわざ
口に出すタイミング無かったりするかんな」
それから、メロウの語り出しに目を瞬かせる。
「……紹介したぃ人?」
自分が知り得るメロウの行動範囲、お店の営業と
調香のための仕入れ、勉強などの活動で完結する
それを鑑みると少々意外な提案だった。
「それって、メロウが個人的に会って欲しぃ、
会わせてみたぃ相手がいるってコトなの?
それとも誰だか知んねーけぉ、あーしに
会ってみたぃって人がいたの?」
問うてはみたけれど、どちらもしっくり来ない。
平等に『人の為』であろうとするメロウが個人的に
会わせたい相手、特別な相手を作るとは思えないし、
かといってわざわざ自分なんかに会いたがる人が
いるかと言われるとそれも考えにくい。
強いて言うなら後者の方がありえそうだが……
名指しで自分を指名して来そうな相手と言えば
落第街絡みの面々くらい。『人の為』の真意に
悩んだメロウが害意のある連中を紹介してくる
なんてことはないだろうし。
■調香師 > 「どちらかと言えば、前の方かな?私の気まぐれがぴんときて
そうして、『相手が良かったら』なんてね
私にバレンタインの事を教えてくれて、それで私の事を想ってくれてるんだったら、
薫様とも気が合うのかな。そんな風に、ふふ、ちょっと考えちゃった」
常人であったなら、中々出てこなさそうな発想ではありそうだ
好意と好意、ぶつかる事でよりよくなると信じて疑わない思考だ
基本的に、『今日の私はあなたの為』という事が信条の彼女、
そもそもお客間で他の存在を仄めかす事自体が稀ではある
そんな越権的な思考に至るまでに、どの程度マスターの存在を押し出したのか
想定すれば、果たしてどういう考えに至るものか
「どう?薫様が良かったら、だけど」
少女はただ、お出かけをねだる子のように首を傾ける
■黛 薫 >
「バレンタイン」
「ああ、チョコとか貰ったりした?」
それは小さな違和感。綻びが無いのが綻び。
向かい合って、知り合って、黛薫を知ってきた
メロウだから気付けるであろう所作の変化。
拗ねたり口を尖らせたりと、捻くれてはいるものの
貴女の前では比較的素直に感情を表しがちな黛薫が
すっと『平静』に戻ってしまった。
それは暗闇の中で触れられる前、無理をすることに
慣れきった振りをしていた頃、来店の度に生々しい
匂いと傷を増やしていた頃の彼女に近しい。
「あーしは構わなぃよ。メロウがそーしたぃって
思ったんだろ。応えたぃと思ぅよ、あーしも」
考える。会わせてみたいという思考に至った理由を。
客が誰であれ、メロウは……その客にとっての
『調香師』は『その人の為』であろうとしたはず。
別の人の、つまり自分の話題が出たということは、
『そうするのがその人の為』だと考えたから。
かつ、それはメロウの意志であり、相手の方から
自分個人に会いたいと打診してきたのではない。
『どちらかと言えば前の方』と答えたのだから。
つまり自分個人ではなく『メロウの主人』を
気にする素振りを見せていたのではないか。
何気ない問いは、確信を得るためのもの。
外れていてくれたら、と淡い希望も抱きつつ。
■調香師 > 「うん。貰ったよ」
質問に答える。態度の方も、違和感を覚える前に所作は通り過ぎる
彼女が判断する基準の重きは『言葉』にあり、何処かよそよそしいと思う部分に、ふと意識が留まる
「薫様?」
動作参照。それはまるで『過去』の写し
あなたの事を想い、心配する素振りを見せるも、
彼女が『愛』に疎い事は既に分かり切った話
公平と言えば、そう。非情と言えば、そう
他人の好意を拒むはずもなかろう。全くの推測通りだった
■黛 薫 >
「……ふぅん」
知らない誰かとの交流を咎めるつもりはないし、
その資格もない。好意の対象を絞れないことを、
絞らないことを不実と成すなら自分が既にそう。
まして他者から向けられる感情をどうこうなど
出来ようはずもない。
だけど、自分は彼女を『独り占め』したくて。
それでも彼女が築いてきた存在理由を崩して
奪ってしまうのは苦しくて出来なかったから、
片方の手だけでも繋いで離さない関係を以て
良しとした。
自分はメロウの主人であり、彼女が自分から手を
離しはしないと信じているけれど……同じように
手を繋いで離さないことを誰かが求めたとしたら。
「前にも話したけぉ、あーしはメロウのコト、
『独り占め』出来たらイィなって思ってる」
慎重に、言葉を選びながら口を開く。
メロウの行いが『自分のためではなかった』
行為だと受け取られてしまわないように。
メロウが己に好意を抱く誰かのためではない
行いに走る羽目にならないように。
「メロウはあーしのコト置いてかなぃって信じてる。
んでも、メロウのコトを想ぅ誰かがメロウのコト
求めたら、応ぇんのがその人のためになんだろ。
それがダメ、なんて言ぇねーよ。理不尽だもん。
あーしが良くてメロウがダメとか、おかしぃし。
でも……あーしの感情的には、何か……ヤダ。
どこまでならイィとか、境界もハッキリとは
分かんねーけぉ。他の誰の物になんなくても、
メロウのコト欲しがってる人がいるの、嫌。
ヤキモチ、っつーのかな。こーゆーの」
言葉の中身は執着に満ちているのに表向きの態度は
平静そのもの。もし思うままに内心をぶちまけたら
メロウの行為は『自分のため』に反したものになると
受け取られるかもしれないから、軽い言葉に貶める。
■調香師 > 貴女の想う、予防線の数々。メロウの目は細められる
独り占めしたい。そんな欲望の姿は、幾度となく聞いた事
ある日は淡々と、ある日は涙ながらに。ある日は、濡れ場の中で
同時にそれらを拒んできたのも、貴女自身。時に、『お願い』を使って、
奪われる前に私の事を縛り付けたいなと願っていても
いざその時が近づけば、貴女は迷うんだろうな。浮かんだ
「私が分かってる事は。薫様は、私にそう望みはするけれど
私がただ、マスターに従った時。その時がそう
きっと一番、悲しそうな顔をするんだなって。ふと、考えちゃうな」
言葉の渦は貴女の欲望。本心であり、最も自身を嫌悪する滓
今迄の態度から推測する、ほんの僅かな理解を落とす
許可するか、否か。それは貴女の心次第。主導権は移さないまま、続く
■黛 薫 >
「多分、な。心なんて簡単に矛盾すんだもん。
どっち選んでも後悔するなんて当たり前だし。
そんでも絶対に譲れなぃトコを譲らなぃよーに
後悔しながらでも飲み込んでくしかねーの」
机に両腕を置き、その上に頭を預けるように置く。
視線は貴女より低く、見上げるような姿勢。
「だから、あーしはメロウを想ぅあーしじゃなぃ
誰かのコトは正直気に食わねーよ。だからって
メロウの客を取り上げたり聞かなかったコトに
すんのはもっと嫌だからちゃんと会って話す。
もし、その人があーしからメロウを奪ってでも
欲しがるよーだったら、あーしはどーすっかな。
ずっと奪われて、失くして、やっとで見つけた
大事なモノ、それも失くすかも、ってなったら、
何しでかすか、分かんなぃ」
「どうあれ、あーしはちゃんと話してから決める。
メロウには、どうやってお願ぃしたらイィのかな。
悲しくならなぃよーに言おぅとすっと曖昧にしか
なんねーんだもん。お願ぃして、奪っちまぅのが
怖ぃ。でも、きちんと言葉に出来ずにメロウが
あーしの手の届かなぃトコまで手ぇ引かれんのも
怖ぃんだよ」
狡い言い方ではあるが、牽制でもある。
メロウが求められる全てに応え続ければ、
どこかのラインで『黛薫のため』からは
大きく外れてしまう、と。
■調香師 > 「そうしたら、私の『心』をあなたにあげる
いひ。分かってるよ、本当に叶ったらそれは悲しい事だ
私の事を想ってるみんな、不幸になるかもしれない事だ
だから、そうならないように、拒むって選択肢もある
私のマスターは薫様。そこはもう、ずっと変えないもんね」
その角度からならば、私は貴女の目を見る事も出来ない
脱力なのかな、抵抗なのかな。物思い程度の思考が通り過ぎ、
彼女も深い息をついた。貴女と定めた、『私』の香りだった
「それじゃ、今日のお仕事はじめよっか。注文は、香水だけ?」
気を取り直すように。スポイトとビーカーと向かい合う
電脳がレシピを起こし、作業の手は滞りなく
■黛 薫 >
「……ん。そーならなぃよーにあーしも頑張るよ。
差し当たってはあーたのコトを想ぅお客サマと
『話し合ぃ』する準備から、かなぁ」
気が重い、とでも言いたげにため息をひとつ。
けれど黛薫の声音は変わらず平静を保っている。
「香水だけ……に、しとく。マッサージでも
リハビリでも、或いは……さ、わ……でも、
言ぃ出したら多分キリはねーんだろーけぉ。
あーし今冷静ではねーなって自覚あっから、
それだけに留めとくよ」
■調香師 > 「分かった。今日のプランは基本って事で」
それは、早く帰りたいという意味ではない、と考えている内は彼女の調香もゆっくりと進む
普段はしない仕草。調整途中の香りを嗅いで、どんな風に広げようかな、とか
考えてる事を、小さく呟きながら、自身で気付いた事から改めて調整
『貴女といる時間』を楽しむ様に。こくこくと、続ける
■黛 薫 >
机に顔を預けていた彼女は、メロウが調香の最中に
思考を言葉にし始めたのを聞くと、身体を起こして
居住まいを正した。
調香のためのスペースを占拠してしまっていたのを
申し訳なく感じたのもあるが、貴女が調香に向ける
熱量、普段何を考えて調香しているかを感じ取れる
機会を逸すのがもったいなかったから。
最初の方で何か言いかけて口を閉じたのは、相槌を
打つべきか、集中を乱さないように沈黙するべきか
迷ったのだろう。口を挟まない方に舵を切ったのは
言葉を交わさずとも共に過ごす時間なら楽しめると
思い至ったからかもしれない。
時折ビーカーや薬研、陶器の器やガラス棒が
ぶつかって立てる甲高い音も今は心地良い。
先の見上げるような目線とはうって変わって、
黛薫の目線はメロウと同じくらいの高さにある。
よく観察しようと首を動かす度に長い前髪が
さらさら揺れて、蒼い瞳が隙間からちらと覗く。
彼女は『美しいモノ』、目の前にいた調香師に
引かれて宝石の色を選んだが、改めてその色を
黛薫と並べれば、彼女の瞳の色と言われても
納得できる、そんな色の瞳。
■調香師 > 最後に、お互いの目線の高さにビーカーを持ち上げて
それは貴女の色と確かめている様であり、勿論『確かめてもらう事』も必要
『エフィメール・フィデル』は、貴女が私を想って作った香りだから
「できた?」
一言尋ねるのも、即ち独りじゃ作れない香り故に
隙間から覗く左目の無色が淡く染まり、同じ両目を持った姿にも見えたのだろうか
貴女の左目が齎す意味を知らない。貴女の生まれが意味した過程を知らない
『美しいモノ』として、調香師はそれを認める
「私は出来たと思ってるよ」
通じ合う為には言葉にもする
■黛 薫 >
「ん」「キレイだ」
初めてこの店で香水を買った日と同じ言葉。
己を騙し誤魔化さないと本心すら伝えられなかった
あの日と異なり、満足と賞賛の込められた心からの
賛辞を呟いて頷いた。
ふひ、と未だ慣れないままの笑みを浮かべながら
財布とポイントカード、それに自分が押すための
スタンプを鞄から取り出して。
「いつもありがと、メロウ。
素敵な香り、作ってくれて」
感謝の言葉を紡ぎながら、蒼く輝く香りで満ちた
小さな瓶を大切そうに仕舞い込んだ。
■調香師 > 「良い香りを作るのは前提だよ。でも、どういたしまして
そしてありがとう。今日もまた、いい仕事を私にくれて」
瓶に注ぎ足しはしない。新しい香りは、新しい気持ちと共に封をする
彼女の気持ちは初めから変わっていない。変わった貴女の表情は、きちんと記録している
普段通りではない。でも、全てがダメだと諦める程でもない。真ん中あたりに戻ってきたのかな?
「こっちも準備するね、待ってて」
机の引き出しから、こちらもスタンプと貰ったポイントカード
お互い交換して、ぽんぽんと押し合う。それはいつもの楽しみの時間
■黛 薫 >
「それじゃ、次来るときは別のお客さん?も
交ぇて3人揃って、ってコトになんのかな。
いぁ、その人にも都合とかあんだろーし、
3人の予定が合わなきゃその前に来るかもか。
ま、どっちにしろまた来るよ」
2つ溜まったスタンプをしまいながら、
もう既に次の予定に想いを馳せている。
次はまた新しい節目の『3回目』になる。
自分は勿論、メロウもまた『お願い』の権利を
得るのだけれど……次のお願いはどうなるやら。
未来に向けて貯める『3回』も当然楽しみだが、
そちらも内心楽しみにしている。
「あ、別にメロウの方から連絡くれてもイィかんな。
用事があってもなくても構わねーから」
からりと音を立てるドアベル、今や慣れきって
存在を忘れそうなスロープ。きっと貴女に次いで
多くこの扉を潜った彼女は、小さく手を振って
次の来店を心待ちにするのだった。
■調香師 > 「勿論。っていっても、今の所予定は...ふむ」
そういえば。普段来てもらってばっかりで、私の方から尋ねた事はない
時には、そういった興味を向けてもいいのかな?薫様は何時も楽しそうに聞いてくれるのだし
「んふふ。またね、薫様」
いつ実行に移すか。さて、考えながら貴女の背中を見送ろう
お辞儀を終えた後に、店内に戻る。はてさて、次の会合は...
ご案内:「Wings Tickle」から黛 薫さんが去りました。
ご案内:「Wings Tickle」から調香師さんが去りました。