2022/10/21 のログ
ご案内:「常世病院・総合待合室」に神樹椎苗さんが現れました。
■神樹椎苗 >
――病院、という空間は好きだ。
薬と病の匂い。
死に近づいた人々が、生を強く意識する姿。
死に触れ続けた人々が、命と真摯に向き合う姿。
命を取り巻く人々の想いが渦巻くように集まっている場所。
教会や経典を持たない、死神の使徒である神樹椎苗にとって。
病院と言う場所は一つの神聖な土地とも言えた。
「――面会謝絶、ですか」
まあ当然だろうな、と思い。
広々とした待合室の片隅で、静かに佇む。
■神樹椎苗 >
異邦人街の修道院が襲われたのが、つい先日。
死者、重症者共に出した、近年珍しい殺傷事件。
その重症者――姉と慕っている女性の見舞いに来たものの。
面会謝絶です、と言われてしまえば仕方ない。
というより、盗み見た電子カルテにある通りの状態であれば、面会なんてできる状態じゃないのだ。
生きていただけ儲けもの――そんな惨状だ。
「まあ、しいが迎えに行くような気配でもねーですし。
まだまだ、死にそうにはねーからいいですけど」
姉は死にそうな事を、割と当たり前のようにやってしまう人間だが。
それは死にそうなだけであって、本当に死ぬ事は滅多にない。
――とはいえ、今回は例外になりえたけれど。
■神樹椎苗 >
「――パラドックス」
時代の破壊者を名乗る、特撮ノリの怪人。
姿を隠すつもりもなく、自身の仕業であるとひけらかすようにその姿を現している。
先日の風紀委員同士の乱闘、ヘリの落下――それもこの破壊者の仕業だ。
「滅びに瀕する、先細りの未来からやってきた、未来の救世主――」
未来を救うには、元凶になった過去を破壊するしかない。
とてもシンプルで、分かりやすい理論だ。
その行動原理、目的に関して言えば――椎苗にとっては好感すら抱ける部類だった。
■神樹椎苗 >
「――、まあ、そうなりますか」
耳に掛けた、最新型の携帯端末。
網膜投影機能によって、視界の中に幾つかの通知が点灯している。
今現在、絶賛議論中のようだ。
『神樹椎苗』によるパラドックスへの『権能の行使』。
委員会上層部からの申請に対して、今はまだ『管理者』が反論して止めているところだが。
そう遠くなく、申請は押し切られる事になる。
パラドックスという破壊者を、補導ではなく――『排除』すべきと考える勢力は、決して小さくはない。
各委員会も、一枚岩じゃないのだから。
「道具としては、決定に異議を挟むつもりはねーですがね」
それで『排除』出来るのかと言えば、そうではない。
『神樹椎苗』の能力は、兎にも角にも限定的だ。
限定解除でなく――完全解放であれば、僅かに可能性はあるかもしれないが。
そもそも、この幼い体は、争う事に向いていないのだ。
やれ、といわれて、やれることでもないのである。
■神樹椎苗 >
何気なく、議論の様子を盗み見ているだけで、笑ってしまいそうになる。
それは確かに、『神樹椎苗』は無制限に損耗消費することが出来る、常世学園の共同資産だ。
現在判明している破壊者パラドックスの装備では、『神樹椎苗』は殺せず、消滅する事はない。
これ以上被害を出さずに、パラドックスへの『治安維持活動』を行うのなら、確かに適任と言えるかもしれないが。
「はあ――バカばっか、ですね」
超常に科学で挑もうとする存在が、不死不滅対策を心得ていないはずがないだろうに。
とはいえ、それでも有効な手札になる――その主張は誰も否定できないのが困ったところだ。
『神樹椎苗』に、過大な戦闘力などないというのに。
「こういうのは、『ヒーロー志願』の善人たちに任せておけばいいと思うんですがね」
口にしてみたら、何とも。
そんな善人を消耗品にするのは、随分と畜生めいた思考だった。
どうせ消耗されるのなら、自分のような『道具』が先だろうに。