2022/10/21 のログ
ご案内:「常世病院・総合待合室」に神樹椎苗さんが現れました。
神樹椎苗 >  
 
 ――病院、という空間は好きだ。

 薬と病の匂い。
 死に近づいた人々が、生を強く意識する姿。
 死に触れ続けた人々が、命と真摯に向き合う姿。

 命を取り巻く人々の想いが渦巻くように集まっている場所。
 教会や経典を持たない、死神の使徒である神樹椎苗にとって。
 病院と言う場所は一つの神聖な土地とも言えた。

「――面会謝絶、ですか」

 まあ当然だろうな、と思い。
 広々とした待合室の片隅で、静かに佇む。
 

神樹椎苗 >  
 異邦人街の修道院が襲われたのが、つい先日。
 死者、重症者共に出した、近年珍しい殺傷事件。
 その重症者――姉と慕っている女性の見舞いに来たものの。
 面会謝絶です、と言われてしまえば仕方ない。
 というより、盗み見た電子カルテにある通りの状態であれば、面会なんてできる状態じゃないのだ。
 生きていただけ儲けもの――そんな惨状だ。

「まあ、しいが迎えに行くような気配でもねーですし。
 まだまだ、死にそうにはねーからいいですけど」

 姉は死にそうな事を、割と当たり前のようにやってしまう人間だが。
 それは死にそうなだけであって、本当に死ぬ事は滅多にない。
 ――とはいえ、今回は例外になりえたけれど。
 

神樹椎苗 >  
 
「――パラドックス」

 時代の破壊者を名乗る、特撮ノリの怪人。
 姿を隠すつもりもなく、自身の仕業であるとひけらかすようにその姿を現している。
 先日の風紀委員同士の乱闘、ヘリの落下――それもこの破壊者の仕業だ。

「滅びに瀕する、先細りの未来からやってきた、未来の救世主――」

 未来を救うには、元凶になった過去を破壊するしかない。
 とてもシンプルで、分かりやすい理論だ。
 その行動原理、目的に関して言えば――椎苗にとっては好感すら抱ける部類だった。
 

神樹椎苗 >  
 
「――、まあ、そうなりますか」

 耳に掛けた、最新型の携帯端末。
 網膜投影機能によって、視界の中に幾つかの通知が点灯している。
 今現在、絶賛議論中のようだ。
 『神樹椎苗』によるパラドックスへの『権能の行使』。
 委員会上層部からの申請に対して、今はまだ『管理者』が反論して止めているところだが。
 そう遠くなく、申請は押し切られる事になる。
 パラドックスという破壊者を、補導ではなく――『排除』すべきと考える勢力は、決して小さくはない。
 各委員会も、一枚岩じゃないのだから。

「道具としては、決定に異議を挟むつもりはねーですがね」

 それで『排除』出来るのかと言えば、そうではない。
 『神樹椎苗』の能力は、兎にも角にも限定的だ。
 限定解除でなく――完全解放であれば、僅かに可能性はあるかもしれないが。
 そもそも、この幼い体は、争う事に向いていないのだ。
 やれ、といわれて、やれることでもないのである。
 

神樹椎苗 >  
 何気なく、議論の様子を盗み見ているだけで、笑ってしまいそうになる。
 それは確かに、『神樹椎苗』は無制限に損耗消費することが出来る、常世学園の共同資産だ。
 現在判明している破壊者パラドックスの装備では、『神樹椎苗』は殺せず、消滅する事はない。
 これ以上被害を出さずに、パラドックスへの『治安維持活動』を行うのなら、確かに適任と言えるかもしれないが。

「はあ――バカばっか、ですね」

 超常に科学で挑もうとする存在が、不死不滅対策を心得ていないはずがないだろうに。
 とはいえ、それでも有効な手札になる――その主張は誰も否定できないのが困ったところだ。
 『神樹椎苗』に、過大な戦闘力などないというのに。

「こういうのは、『ヒーロー志願』の善人たちに任せておけばいいと思うんですがね」

 口にしてみたら、何とも。
 そんな善人を消耗品にするのは、随分と畜生めいた思考だった。
 どうせ消耗されるのなら、自分のような『道具』が先だろうに。