2023/06/29 のログ
鞘師華奈 > 「――『心』で生きてて欲しい…か。成程…。」

小さく、それでいて深い吐息のようにゆっくりと。
息を吐き出しながら肩の力を抜くように。
別に緊張していた訳では無い、無いのだけど…。

「――そっか…いやはや……。」

言葉少なに、だが彼女なりに得るものはあったのだろう。
今度は小さく頷きながら、考え込むような間を置いて。
凪いだ水面のような蒼瞳とは対照的にも近い、静かな炎のような紅瞳。
改めて視線を彼女へと戻せば、赤と青がまた交錯する。
ただ、笑み混じりの彼女のその提案にはん?と緩く首を傾げて。

「――ふむ……じゃあ、”ちょっとだけ”。」

と、言いつつ右手を彼女の差し出した小さな掌に緩く重ねるように。
――質感や温度だけでは矢張り人間と変わらないもの。
だからこそ、だ。自分の異能で確かめてみたい。

(生物なら疲労を吸い取って私が肩代わりする。機械なら…多分、調子が良くなる筈だけど)

本来、生物に疲労を、無機物に負荷を押し付けるのが女の力だが。
その”逆”も可能。ただし、あくまで”肩代わり”なのでこちらに負担が圧し掛かる。
触っても分からないなら、単純に能力の作用がどう働くかで判定をしてみたい。

(――なんて、ね。)

そこまで思いはしたけれど、結局能力は使わないのだ。
肝心の、詰めの一歩で”引いて”しまうのは女の癖の一つ。
それは臆病さか慎重さか気遣いか、はたまた別のものか。

「――うん、触っただけじゃ正直分からないね…。」

と、そう言葉を返す。能力をこういう形で使うのは…
まぁ、何と言うか自分の中ではフェアじゃない。

メロウ > 「だよね。簡単には分からない」

そしてその瞬間の彼女の表情と言えば
これまでと変わらない癖に、どこか得意げな『味』があった
明らかに、貴方を揶揄うような口調を以て

自身が生きているか、そういう点はお構いなし
機械という彼女の性格が、必ずしも従順で大人しいものであるかは別問題であったのだと

「そういうあなたの事は、ちょっとは分かるんだけどね
 きちんと全身を知る為には全身ちゃんと確かめないとダメだけど
 そのためにここではマッサージもやってるんだよ。それもまた、出来る事だから」

今回は敢えて、能動的には提言はしなかった内容ですが
掌に替わって目の前に差し出されたメニュー表には調香にマッサージがこの店のメインである事を窺わせよう

隅にある『3回来店で特別サービス』との文面。ここにもまた『3』があった

「心に関しても、言葉を使っても良いのなら、私にとって施術出来る範囲だから
 薫さまとの馴れ初めの追体験って表現した通り、こうして最初はお話しから始まったから

 ...どう、かな?このお店の感触は
『プレゼント』として、華奈さまは評価できると...思うかな?」

実際の所、まだ何も始まったとは言えないのだろう
しかし彼女の表情は一転、口元には僅かな緊張を浮かばせる

その形が笑みでなければ、随分と上手な人間の『模倣』だった

鞘師華奈 > 「――人体の『模倣』…少なくとも外見や質感はまんまだね。」

その”中身”はそれでも精密な部品や機械仕掛けの塊なんだろうか?
と、人並みの好奇心は疼かないといえば嘘にはなるだろう。
何処か得意げにも見えるそれは、成程そう振舞うのも納得の緻密さと精巧さであるか。

「――マッサージかぁ……即座に浮かぶのが整体とかだなぁ。」

等と言いつつ、この女の”疲れ具合”からして、むしろ受けた方が良い部類かもしれない。
まぁ、それはそれとして一つまた理解した。機械というものも”個性”はきっちりあって。
生きているかそうでないかは別として、従順や大人しいなんて当て嵌まらないモノも多いのだと。
考えたら当たり前ではあるのだろうけども…しかし、まぁ。

「――成程、どっちも今までの私の生活からは縁遠いものだったけど…。」

調香とマッサージ。改めてこの店の”売り”は理解出来た事だろう。
メニューの隅に『3回来店で特別サービス』という文面は気になったが。

(これも『3』か。そういえばロボット三原則も『3』だな)

などと思いつつ、ハーブティの残りを静かに飲み干して。

「――追体験か…成程、足跡を辿るみたいなものだね。
勿論、私と薫とじゃ全然何もかも違うけど。」

ただ、こうして会話から始まったのは同じなのだから。
彼女の問い掛けに、その表情の機微を読み取ろうとしながら。

「――うん、私には十分過ぎる『プレゼント』だと思うよ。
こうして話をしているだけでも割と気分転換になるしね。」

まだ何も始まっていないなら、これから始めていけばいいだけの事だ。実にシンプル。
少なくとも――『鞘師華奈』という個人は貴女を素直に評価しよう。

メロウ > 「よかった。今の所、期待に沿えてるみたいで」

『鞘師華奈』に留まらず、『黛薫』への意図も込めて
ここには居ない彼女に委ねられたものを、改めて理解し直す

「初めて触れるものを、私に任せてもらえるんだよね
 その名誉を裏切らないように、これからも頑張ろうって思うからさ

 あなたの為に、人の為に。私の心を信じてくれると嬉しいな
 だから...今日の所はこの辺りにした方が、外は危なくないかもね」

飲み干したティーに時間の把握。彼女が自身、どのような場所に店を構えているのかを知っているのだろう
ただの少女の姿をしていても、それはこの街の夜の姿を知っていたから

鞘師華奈 > 「むしろ、私としては良い刺激や経験の一助になるから有り難みしかないね。」

小さく笑って。果たして、先までの会話で自分がどんな人間であるか――少しは伝わっただろうか?
ただ、少なくとも…『友人』の紹介は決して無駄ではなく。
これもまた一つの縁が、どんな形であれ繋がった証左。

「――『友人』が信じたものを、私も信じるよ。」

その一言に今日の全てが集約されている、と言えなくも無いだろうか。
メロウさんの言葉に頷いて席を立つ。結局ずっと雑談しかしていないがそれで十分。

「――今日はありがとうメロウさん。もし、薫に会ったら『華奈は満足してた』と伝えて欲しい。」

中々最近は顔を合わせていない友人を思い返しつつ、ささやかな言伝を頼みながら席を立ち。

当然、この街の夜の姿は知っている。むしろ、歓楽街よりタチの悪い街を生き抜いてきたのだから。
店を出る直前、一度だけ振り返って会釈をしながら。

「それじゃ、また来るよメロウさん。」

そう微笑んでから店の外へ。その姿は魔術による透明化で直ぐに気配すら消えて。
街の中へと溶け込むように姿を消した。

ご案内:「Wings Tickle」からメロウさんが去りました。
ご案内:「Wings Tickle」から鞘師華奈さんが去りました。