2019/07/06 のログ
■東雲 七生 > 「んー、こっちだったよな確か。」
異邦人街の百貨店、季節ごとの催事に合せた商品が並ぶフロアに七生は訪れていた。
しかし、一人では無い。むしろ今回の主役は共にいる深雪の方だろう。
「深雪ー?こっちだよー。
うーん、どれが良いかな。」
陳列された女性用の水着を横目で見ながら、後ろについて来ているであろう深雪に声を掛ける。
■深雪 > 普段なかなか家から出ない深雪だが、今日は二人で、水着を買いに来たのだった。
最初は、去年のがあるから別に良い。なんて言っていたのだけれど、七生に誘われては断る理由もない。
すぐ後ろを付いて来ていた深雪は、七生に導かれるままに、水着コーナーへ足を踏み入れる。
「七生が選んでくれるんでしょう?
ふふっ…どんな水着を選んでくれるのかしら。」
深雪自身、水着などに興味があるはずもないのだが、七生がどんな水着を選んでくれるのか、という点には興味があった。
■東雲 七生 > 「えっ……
いや、まあ選ぶけど!」
話に聞いた限りだと、深雪の水着は以前誰かから選んでもらったものらしい。
その話を聞いて、妙に釈然としない気持ちになった七生は深雪を連れて新しい水着を買いに来たというのが今回の経緯だ。
「……変なの選んでも怒んないでよ…?」
正直なところ七生にセンスがあるとは言い難い。
本人も自覚はあるのか、少し窺う様に深雪を振り返って告げる。
■深雪 > そんな七生の気持ちに気付いているのかいないのか。
気付いているとしたらそれを可愛らしいと思っているだろうし、気付いていなかったとしても、こうして自分のために必死で考えてくれるというのは、嬉しいものだった。
「どうしようかしら……七生のセンス次第ね。」
くすくすと楽しそうに笑って、自分もなんとなく水着を眺める。
普段から制服しか着ないような飾り気のない深雪に、水着を選ぶ目などあるはずもなかった。
きっと、どんな水着を選んでも着る事を拒んだりはしないだろう。
■東雲 七生 > もちろん深雪を水着売り場に引っ張ってきた理由は口にしない。
知らない相手への嫉妬からなんて知られたらどんなからかわれ方をするか見当もつかないから。
「うぅ……」
自分のセンス次第、と言われてしまっては連れてきた手前引っ込みもつかない。
ひとまず、『明らかにアウトだろうライン』を見極めておくのが先決だろうか、などと考えつつ水着を物色していたが、
「……ええと、これは……流石に深雪でも厳しいな。」
何だか凄いV字のが見つかった。
一般百貨店なのに誰が着るんだこんなの、と思わなくもないがたまたま目について手に取っただけである。
ちらり、と横目で深雪を見る。
ツッコミ待ち、と言った様子だ。
■深雪 > どうやら、深雪は七生の内心に気付かぬままについてきたらしい。
連れてきた七生の方が困惑しながら水着を選んでいるのは、見ていてすこしだけ面白かったし、そんな様子が可愛らしかった。
「……厳しい?」
どういう意味かしら?なんて、貴女が手に取った水着を見る。
サイズが入らない、ということではないようだし…デザインのことだろうか。
七生が横目で視線を送ってくるのに気づけば、悪戯っぽく笑って…
「………着てほしいの?」
■東雲 七生 > 「えっ、いや……」
流石に切って捨てられるだろうと思っていた為か、予期せぬ反応に面食らう。
はたしてこれはボケにボケを被せて来られたのだろうか、それとも本気で聞き返して来ているのだろうか。
そんな事を考えながら、手に持った水着と深雪を交互に見て。
「……た、試しに?」
どうせなら更にボケを重ねてやろう、
と半分ほどひきつった笑みを浮かべながらなんかすごいVな水着を深雪へと差し出す七生である。
■深雪 > 「…ふーん。」
渡された水着を見て、深雪は意地悪な笑みを浮かべた。
今持っている水着や、以前に海で見た水着の大半よりも、布の面積が小さいことくらいは分かる。
「こういうのが好みなのね…?」
ぽそりとつぶやくように。
■東雲 七生 > 「えっ!?いや、好みと言うか、その、」
そう言われてしまうと困ってしまう。
七生も男子高校生の端くれ、そういう御年頃であるのは否定し様の無い事実ではあるのだが。
だからと言って際どい水着が好みかどうかとなると、また話は違ってくる。
違ってくるのだが
「そういうわけじゃないけど……
深雪が着てみたらどうかな、とは思う……」
耳まで赤くなりながらごにょごにょと。
だって深雪は絶対セクシー系の方が似合いそうだし、と。
■深雪 > 七生の性格は、ある程度分かっているつもりだった。
こういう時、少なくとも深雪のものを選ぶような時には、本気で考えてくれる。
自分の好みや思いを横に置いても、深雪にとって良いものを、と。
「……じゃ、着てみるわね。」
だから、そんな七生が自分の思いを…恥ずかしがりながらも伝えてくれたのは、なかなか新鮮だった。
深雪がさらりと承諾した裏には、そんな七生への愛おしさもあったのかもしれない。
もっとも、深雪はその水着を、際どい、だとか、恥ずかしい、だとか、そんな風には思わないだろうけど。
「ちょっと手伝ってくれるかしら?」
試着室の方へと、七生を呼び寄せる。
■東雲 七生 > 「……!」
深雪が試着を了承すれば、驚き半分期待半分といった表情を浮かべて俯きかけていた顔を上げる。
すんなりと受け入れられたのが意外だったのか、目を丸くしたまま、こくんと頷いて。
「手伝い……ああ、脱いだ服持ってろってことか。
分かった、ええと……でも試着室の中に籠あると思うよ?」
苦笑しながら深雪のもとへと。
本当は試着中に本命の水着を見繕いたかったのだが、頼まれれば拒否は出来ない。
■深雪 > 確かに七生の言う通りだろうけれど、深雪としては七生に近くに居て欲しかった。
それはもちろん、七生を困惑させたいという意地悪な気持ちもあったが…
「…着替えた後、大声で呼べっていうの?」
案外と、現実的な理由だった。
試着室へと七生を連れてくれば、まずは七生に水着を持たせて、自分は試着室の中へ。
「脱いだら…手、出すから、水着渡して。」
そうとだけ言ってカーテンを閉めれば、服を脱ぐ音が聞こえてくるだろう。
実際には中に水着を置いておけばいいだけの話で、七生に手伝わせる必要は全く無いのに…絶対に、わざとやっている。
「………はい。」
しばらくの後、カーテンの隙間から、服を脱ぎ捨ててリボンだけが残った、白くか細い腕が伸ばされる。
■東雲 七生 > 「確かに大声で呼ぶのはちょっと無いな……」
なるほど、と納得する。
それなら予め数着用意してから打診すれば良かったかな、と内心自分の考えの浅さに苦笑して
「はいはーい、脱いだら手を出すから……そしたら、水着をね。
………え。」
いや、水着を持ち込めばいいのでは??
そんな風に思っているうちに試着室のカーテンは閉まり、水着を持った七生だけが取り残される。
行き場の無い視線を水着に向けると、流石に改めて見たらだいぶ際どいなこれ、と内心冷や汗が流れる。
雑誌のグラビアくらいでしか見ないような、扇情的な水着だ。
ボトムは普通のビキニと大差ないが、おへその辺りから手の平の半分ほどの幅しかない、太い肩紐の様な布地しかない。
本当に隠し切れるのだろうか、と疑わしくなるほどだ。
むしろ一番隠さなきゃならない所以外は隠さない様に出来ているのかもしれない。
そんな風に冷静に解析していたが、カーテンの隙間から腕が延びれば我に返って。
「あ、は、はい。」
反射的に水着を渡してから、今カーテンの向こうで深雪がどの様な姿になっているのか、と想像してしまって顔が赤くなっていく七生である。
■深雪 > 七生が真っ赤になっていることは想像できていた。けれど深雪自身、一つ勘違いをしていたようだ。
困らせたかった、というのは建前でしかない。
実際には七生がそんな反応をしてくれるのが、嬉しかったのだ。
「……………。」
水着に脚を通し、腕を通す。
鏡を見ればそこには、扇情的な水着をそのままに着こなす、自分の姿。
七生が見たらどう思うだろうかと、笑みが零れる。
深雪はすっと手をカーテンに掛けて、静かに開けた。
「……どうかしら?」
きっと七生は茫然としていただろうから、すぐ目の前に立っているだろう。
■東雲 七生 > あどけない見た目に反して思春期真っ最中の七生である。
一度広がり始めてしまうと止め処ない妄想を首を振って追い出すと思考をもっと別の方へと向けようと試みる。
「海開きしたら、やっぱ海に行きたいよな。うんうん。」
深雪と海に行くのは何度目だろうか。
初めて二人で海岸を訪れた時の事は、今でも容易に思い出せた。
あの時の深雪はとても楽しそうだったもんなあ、なんて過去を懐かしんでいたが。
同時にそれは深雪の水着姿を思い出させる結果となるわけで……
「うう、ダメダメ。
やっぱ来なきゃ良かったかな……。」
ちっちゃな嫉妬心なんて気にせず、家で他愛無く過ごせば良かった、と若干後悔し始めた頃。
おもむろに目の前のカーテンが開いた。
「……っ、ぁ。」
目の前に立つ深雪の姿を見て、見惚れるように立ち尽くす。
そして数秒かけて、じわじわと耳まで赤くなっていく。
■深雪 > 深雪は視線を合わせるように屈んで…
「……似合わないかしら?」
…わざとらしく、そう聞く。
七生なら絶対にそんなことは言わないだろうと、そう確信していた。
そして、耳まで真っ赤にしている七生を見た深雪には、不思議な満足感があった。
人間の男など、掃いて捨てるほど居る。
踏み潰して遊ぶためだけに存在するものだと、そう思っていたのに。
「………どう?」
目の前の青年だけは、そう思えない。
このリボンを外してくれると、そう約束してくれた。
怪物の姿を見ても恐れることなく、共に在り続けてくれた。
深雪はそんな七生に自分の身体を見せつけるように、くるりと回って見せた。
■東雲 七生 > 「……ぁ、えっと、その、」
ただハンガーに吊るされていただけの状態と、実際に人が見に着けた状態とでここまで差があるとは七生も思わなかった。
興味本位で試すようなものじゃなかった、と後の七生は語ったという。
ボトムから延びる2本のラインは深雪の女性らしい体躯を限界まで際立たせているかのよう。
危惧していた通りに最低限しか隠せていない上半身はいっそ裸の方がマシな様に思えるほど。
それなのに深雪は七生の前で屈んだり、
くるりとその場で回って見せたりするものだから、いつ水着が最低限の仕事を放棄してしまうかと危うくて仕方がない。
しかし、その危うさも含めて、
「ぇぁ、ひっ……その、すごく、似合ってる……」
顔全体が熱を帯びている事を自覚できる程に真っ赤に茹で上がった顔で、七生はこくこくと頷いた。
そして同時に、深雪のこの姿を他の誰の目にも触れさせたくない、と僅かに思ったのだった。
■深雪 > 七生が言い淀めば、深雪はその先を催促するように、視線を向ける。
やがて真っ赤になった七生から似合ってる、という言葉を向けられて…
「ふふふ……そう、嬉しいわ。それじゃ、これに決めましょ?」
…深雪は、嬉しそうに笑った。
最初に出会った頃には決して見せなかった表情。
それを引き出したのは目の前の青年に他ならないのだが…
「……七生の分も探さないといけないわね。」
…そんな青年の僅かな思いは、早速危機を迎える。
深雪はその水着を着たまま、七生を連れて水着コーナーへと向かって歩き出したのだ。
深雪にとって七生以外の人間は、それこそ、蟻のようなものに過ぎない。
だからこそ深雪は、七生の気持ちなど知る由もなく、僅かほども気にしない。
七生の苦労は、まだまだ続きそうだ……。
■東雲 七生 > 「うぅ……いくらお試しでももうちょっと大人しいのにすれば良かった……」
心からそう思う七生である。
せめてすっぽりと覆い隠せるものを選ぼう。そうしよう。
そんな決意を尻目に、嬉しそうな笑顔を見せる深雪を見て言葉を失う七生。
え、そんな気に入っちゃったの……?って顔で立ち竦めば。
「……え?俺の分?
いや、俺のは去年ので良いから。ていうかそのまま行くの!?
待って待って、ちょっと、深雪──!!」
悠々と。
何一つ恥らう事が無いかのように水着姿のまま歩き出す深雪に対し血相を変える七生。
思わず引き止めようと手を伸ばすも、掴んだのはまさかの水着で。
余計な波乱を自ら生み出しつつ、七生の心労は嵩んでいく──
ご案内:「異邦人街:百貨店 催事エリア」から深雪さんが去りました。
ご案内:「異邦人街:百貨店 催事エリア」から東雲 七生さんが去りました。