2020/07/08 のログ
ご案内:「常世総合病院 VIP個室」に神代理央さんが現れました。
神代理央 > 規則正しい電子音と、時折風に揺れるカーテンの音色。
それ以外に何の音もしない病室で、身を起こし、ソファの様に背もたれが起き上がったベッドで端末を眺める少年の姿。
真新しい患者衣は肌触りの良い材質で、包帯は常に新品。家具はどれもこれも高級品で、ちょっとしたホテルのスイート並みである。
差し入れ以外の甘味が無い事だけが、唯一の難点だろうか。

「……本当に、どいつもこいつも…」

しかし、そんな穏やかな病室で端末を眺める少年の表情は険しい。
映し出されているのは、つい先日部下――と言ってもいいのだろうか――にした女子生徒についての報告書。
落第街にて、風紀委員の同僚と接触、後に異能を発動して敵対行動。挙句そのまま行方不明。

深々と吐き出した溜息と共に、ぽすん、とベッドに身を預ける。
此方にも問い合わせのメールが複数寄せられている。今のところ、怪我人故に返事は急がないというものばかりではあるが。

ご案内:「常世総合病院 VIP個室」に水無月 沙羅さんが現れました。
水無月 沙羅 > 静かな病院に響き渡る電子音……を、邪魔する音が一つ。
『ドタタタタタ』と、恥も外聞もないように走り回る足音。
それは確かに、確実に神代理央の病室に近づいており。
時折

『君待ちなさい! 君が重症なんじゃ……止まりなさっ……』

等という騒がしい声が聞こえてくる。
足音は病室のドアの前で止まり。

「先輩ご無事ですか!?!?」

と、血まみれでボロボロの制服に、どこで拾ってきたのか、薄汚れたボロ布をローブのようにまとった少女が一人、駆け込んでくる。

息を上げた少女の顔は幾分、赤く腫れているようにも見える。

「腹に穴が開いたとかって、ち、ちちゅ、ちちゅ魔術を!!」

もう混乱のまっ最中という感じだ。

神代理央 > 『常世付属』の名は伊達では無い。
特に、所謂VIPと呼ばれる患者向けの個室は空調、防音、快適性。その全てが優れている快適空間。実家が気前良く入院費を払ってくれて何より。
――室内からの音も遮断し、室外からの騒音も遮断する此の部屋にすら、どたばたと聞こえてくる騒音。駆け足。叫び声。
急患が訪れる様な場所でも無いし――と巡らせていた思考は、無駄に高い木材で造られている扉を開け放って飛び込んできた少女によって中断することとなる。

「………いや、見ての通り無事だが…」

つい先程まで思案の中心にいた少女が、ボロボロと形容するにも烏滸がましい様な姿で病室に駆け込んでくる。
まるで大泣きしたかの様に赤く腫れた様に見える少女の顔を見返すのは、茫然とした様な己の顔だろうか。

「……待て。落ち着け。大丈夫だから。ほら、水でも飲んで深呼吸しろ、馬鹿者」

取り合えず、なんだなんだと様子を伺う医師や看護師を手を振って追い払い、少女をベッドの横に置かれた椅子へと促すだろうか。
サイドデスクに置かれた水差しからグラスに水を注ぎ、ずい、と少女に差し出しながら。

水無月 沙羅 > 「え、あ、そ、そう、ですね……ここ、病院……でした。
 余計なお世話でしたね……あははは。 すいません、失礼します……。」

冷静になってから、注がれた水を一気に喉に流し込み、運動で流れ出た水分を補給数する。
涙でも随分と水分を消費するものだ。

「よかった……生きてた……。」

安心したのか、事態を把握すると席に座る……と言うより倒れこむように座り込んだ。
この二日ほど、まったく睡眠をとっておらず、戦闘に戦闘を重ねた末の到着だった。

ここに来るまでに印象深い出会いもあったが……ここでは割愛しよう。
とにかく、今の彼女は不死にもかかわらず満身創痍ということに他ならない。

なにより、『風紀委員』とのトラブルという割には、多すぎる血液に汚れた制服がそれを物語っている。
血液だけならばよかったが、焦げ跡も数多く散見される。
一体何があったというのか……。

神代理央 > 「私がそう簡単に死ぬものか。大袈裟に騒ぎおって、馬鹿者」

糸が切れたかの様に椅子に座り込んだ少女に視線を向け、小さく溜息。
空になったグラスを強引に奪い取ると、再び水を注いで彼女の横に備え付けられたテーブルへと置く。

「安堵するのは此方の方だ。日ノ岡あかねへの敵対行動と、現場からの逃走。それに――」

と、彼女の凄惨な有様を示す様な姿に視線を向け、再度深い溜息。

「……何があったか、全ては聞かん。だが、私のいない間に随分と無茶をした様だな。
あれだけ私の後ろにいろ、と。側に控えていろと命じたにも拘らずにな」

詰問する様な言葉ではあるが、その声色に怒気や猜疑の色は無い。
ごそごそ、と手を伸ばすと、差し入れられた焼き菓子が詰められた籠を、彼女に差し出す。

「……甘いものを食えば少しは落ち着くだろう。全部はやらんぞ、私のだからな」

水無月 沙羅 > 「……ぁ。」

差し出される水に、焼き菓子。
差し出される言葉には棘こそあるものの、『傍にいろ』、と。
自分に注がれている優しさを自覚して、知らず、『また』涙がこぼれ墜落ちる。

「ごめんなさい……ありがとう、ございます……。」

ずずっと鼻をすすりながら、受け取った焼き菓子を武器用に半分に割り、大きめになってしまったほうを理央に差し出した。

「お兄さんが言っていました、こういうのは半分こにするものだって。 随分昔の話ですけど。」

えへへ、と嬉しそうに泣きながら笑う。
安心感からか、それとも別の理由があるのか。
なんにせよ、沙羅にとっての心配は全て杞憂であった。

すべて、時計塔にいた小さな先輩の言う通りであったのだ。

神代理央 > 「……謝る必要も、礼を言う事も何も無いが。そうやって卑屈になるのは貴様の悪い癖だぞ。もっと自分に自信を持て、馬鹿者」

フン、とそっぽを向こうとして。
差し出された少し大きな欠片と少女に交互に視線を向ける。
そして、何度目かの溜息を吐き出すと、少女が持つ小さいほうの欠片に手を伸ばす。

「食べて落ち着け、と言った筈だ。貴様の兄の言葉を否定はせぬがな。貴様が多く食べずしてどうするのだ、愚か者」

と。彼女が抵抗しなければ、そのまま小さな欠片を彼女の手から奪い取り、大きな欠片はずい、と押し付けようとするだろうか。

水無月 沙羅 > 「む……先輩は怪我をしているし、それにこれはお見舞いの品なのでしょう?
 先輩が多く食べるべきです。」

反論する様に、ぐぐぐっと押し返す。
大人げなく肉体強化の魔術まで使って。
どこか、子供っぽくなったような気がする。
無味乾燥ともいえるような、ある意味理央以外に何も期待していなかったような少女が、
『誰かのお見舞いだろう』と、理央以外のことを見ている。
たった二日足らずで。

「なので、それは理央先輩が食べてください。」

絶対譲る気はない、と、理央の眼をまっすぐ見て宣うのだ。

「それと……日ノ岡あかねの件、なのですが。
 ご報告しないといけないことが、あって、あ、でもその前に言いたいこと……あぁでも、こっちの方が優先順位が。」

と、またもや考えることに混乱している。
やらないといけない事とやりたいことが沢山ある。
そう言った感じで。

神代理央 > 「…意外と強情だな。というか貴様、魔術を使うのは流石にどうかと思うぞ…!怪我人を敬う気持ちは無いのか馬鹿者…!」」

力比べは負けた。患者は魔術使用不可の規則があるし仕方の無い事だ。仕方の無い、事だ。
結局、押し返された儘大きな欠片を手に持って、ちょっと複雑な表情を浮かべる事になるのだろうか。
尤も、その表情は少女の言葉を。見舞いの品への気遣い。『お見舞いに来た他の誰か』を気遣う少女の姿に、ほんの僅かに緩む事になる。直ぐに元のむすっとした表情に戻りかけるのだが――

「…分かった分かった。なら、怪我人は大人しく言う事を聞くとしよう。全く、聞き分けの無い部下を持ったものだ」

と、穏やかに。小さな苦笑いを浮かべて、焼き菓子の欠片を頬張るのだろう。

しかし、その表情は直ぐに真剣なものへ。
わたわたとした仕草を見せる少女を一しきり眺めた後、焼き菓子を食べ終え、側の手拭でしっかりと拭った右手で彼女にでこぴん。

「落ち着けと言っただろう。時間はある。報告事項があるなら、一つずつすれば良かろう。全く、そう無様に慌てる事もあるまいに」

水無月 沙羅 > 「あ、はい。 そう……ですね。 では事の始まりから順番に説明します。」

理央の言葉にハッとした後、継がれなおした水を飲みほした。
深呼吸をした後、ゆっくりと事の顛末を話し始める。

「理央先輩が、孤児院の任務に向かっていたあの日、私は単独でのパトロールへ向かいました。
 はい、ご存知の通りの落第街へ、そこで日ノ岡あかねと遭遇したんです。」

当時のことを思い出すように、ゆっくりと説明しだす。
言葉を選ぶ様に、如何すれば簡潔に伝えられるかを頭で探しながら。

「えっと……『トゥルーバイツ』、彼らは摘発に来たのだと思ったら、『お話に来た。』、そう言っていたんです。
 それでは内通を疑われてもおかしくはない、と問い詰めたんですが躱されてしまって……。」
 
 一瞬、自分の情けなさに表情が曇る、知識も頭の回転も、何もかも彼女に及ばなかった。

「ですが、その会話の折、彼女の目的を尋ねたんです、そうしたら彼女はこう答えました。
 『真理』にたどり着くためだ。と。
 すべての願いをかなえる方法を見つけに行く、と。
 えっと、よくわからないんですが、『ここにないなら異世界に聞きに行けばいい』と、言っていたような。
 はい、ですのでおそらく、日ノ岡あかねが狙っているのは――― 」

『扉』、そんな単語を、沙羅はここに来るまでに風紀委員のデータベースで調べていた。

神代理央 > 「………ふむ」

とんとん、と。腕を組んだ儘、指先が己の肘を叩く。
少女の言葉を反芻し、咀嚼し、考え込む。少年が思案に耽っている間、部屋には機器の電子音のみが響いているだろうか。
少女の言葉を遮る事も、相槌を打つことも、質問する事も無い。ただ、彼女の言葉を、彼女が実際に見聞きし伝えようとしている事を、静かに聞いていた。

「真理の扉、或いは門、か。案外ロマンチストじゃないか。人の手に余るモノを追いかけようという姿は、嫌いではないよ」

少女の言葉に耳を傾け、暫しの沈黙の後。
少女の耳に、零れ落ちる様な笑い声が聞こえるだろうか。ベッドに身を置く少年の、笑い声が。

「水無月、貴様の懸念も杞憂も。行動に至った気持ちも理解する。だから命じよう。私の部下である貴様に、一つ指示を出そう。
――手を出すな。調査くらいは目を瞑るが、彼女の行動を邪魔建てするな。妨げるな。好きにさせてやれ」

零れ落ちた笑みを静かに収めた後、淡々とした口調で。静かな瞳で彼女を見据え、言葉を紡いだ。

水無月 沙羅 > 「で、でも、異世界への扉を開くなんて危険です、今度はどんな事件が起きるか……わからないのですよ?
 それこそ、あの、『トゥルーサイト』が起こした事件よりさらに多くの犠牲者が出るかもしれません。
 あ。いえ……先輩の判断が間違っている……と言いたいわけではないんですが……。」

理央の言葉に、つい口を挟んだ……彼女にとって、まだ『死』は許容するには大きすぎて。
他人の死を怖がっている、『風紀委員』の制服を着ているならばともかく、
今の彼女は、ボロ布を被った唯の女学生だ。
彼女にとって『風紀委員のコート』とは、そういう儀式的な意味合いを持っていた。

「……理央先輩がそう言うのなら……わかりました。 理由だけ聞いても……いいですか?」

この人に逆らうつもりはない、この人の命に何か、多大な影響があるなら別だが、
恩人ともいえる彼の判断ならば、沙羅には否定する理由はない。

神代理央 >  
杞憂の言葉を繋げる少女。まあ、当然だろうなとその姿を眺めながら思う。己とて、日ノ岡と大した面識がある訳ではない。彼女が結成した部隊に、警戒感を抱いていた事も事実。

それでも、手を出すなという言葉を撤回する事はしない。
己の指示に従う、と告げた少女に理由を尋ねられれば、小さく背伸びをしながら口を開いた。

「連中は、太陽に羽搏くイカロスだ。蝋の翼を手に持って、ヒトに余るモノへ挑もうとする連中だ。
決して、太陽を地表に落そうとする気狂いでは無いのだろうさ。少なくとも、日ノ岡あかねという女はな」

「まあ、太陽に至る為に地上に落とす、くらいはやりかねんが。其処までのリソースがトゥルーバイツにあるとは思えん。とはいえ、可能性はゼロではない。人手を集めている理由も、案外そんなものかも知れない。だから、調査は許可する」

「とはいえ、結局は自己満足なのだろうさ。真実だの真理だのと、小難しい言葉にするから目を眩ませる。結局は――」

其処で一息ついて、少女の瞳に視線を合わせる。

「どうしても欲しい玩具に手を伸ばす子供、でしかない。イカロスは失敗した。彼等も一度、失敗した。蝋の羽がロケットになろうと、太陽に手は届かない。そしてそれは、学園の根幹を揺るがせない。秩序と規律が維持されるのなら、我々が動く理由は無い」

そう言葉を紡ぐと、そっと彼女の頭に手を伸ばす。
彼女が拒絶しなければ、その頭をぽんぽんと撫でようとするだろうか。

「だから、不必要に首を突っ込むな。無理に私の役に立とうとするな。貴様は黙って、私の後ろに突っ立っていればいい」

水無月 沙羅 > 「……ぁ。」

てっきり、怒られると思っていた。
また愚か者と叱責されると思っていたのだが、実際に帰ってきた返答は
彼自身の考えと、きっと、自分を案じての言葉。

確かに、太陽を求めたイカロスは一度失墜した。
蝋で作った翼はもがれ、今でも、もがいているに過ぎない。
だからこそ心配ないと、彼は言うのだろう、それでも心配ならば、
調査くらいならば好きにしろと言う。
失敗したはずの自分に、自由をくれる。

あぁ、なぜこんなにも彼は優しくしてくれるのだろう。
あの『戦場』では、残酷なまでに容赦のない彼が。
今は自分の頭を撫でている。

心地よさに、目を細めてしまう。

「……。 後ろは、いやです……せめて、隣に、立っていても……いいですか。」

どこか潤んだ瞳で、沙羅は目の前青年を見つめた。

神代理央 >  
「……隣は被弾率が上がるから控えて欲しいんだが。早々死なれては寝起きが悪くなる。私の異能とヘイト管理から言っても後方の方が安全だろう」

きょとん、とした表情を浮かべた後、至って真面目な顔で首を振る。隣に立たれては、彼女が疵を負う可能性も、異能を発動せざるを得ない可能性も、飛躍的に高まるかとの思い故に。

とはいえ、僅かに熱を帯びた様な視線に気づかぬ程鈍感でも無い。
よしよし、と頭を撫でながら僅かな思案。

「……ああ、そうだ。その姿では確かにな。貴様と私の背格好が似ているのは運が良かった。帰りは此れを使うと良い。男物なのは悪いが、襤褸切れよりはマシだろう。
身を清めたければ、此のフロアには浴場もあるから好きに使っても良い。疲れているなら、貴様が一晩過ごす部屋くらいは手配してやろう」

彼女から手を離し、ベッドサイドをごそごそと。
綺麗にクリーニングされた己の制服をずい、と押し付ける。
他に何か入用の物があるかと言わんばかりに、小さく首を傾げながら。

水無月 沙羅 > 「……いえ、効率とか……そういうことではなく……。 対等の立場がいいと……そういう、えっと……。」

多分、この人はそういうんじゃないかとは思っていた。
期待するだけ無駄なのもわかっていたが、うん。
これはこれでちょっとショックがある。
傍にいるって庇護なんですよね……と、これでは子ども扱いだ。

しかし……頭を撫でる心地よさに篭絡されそうになる、それでもいいかなと。

「……?」

えっと、彼は何を言っているんだろう。
なにを気にしてる? えっと……服装、に、お風呂?
あ、今の私の見た目?
ひょっとして恥ずかしがってると思われた?

…………。
差し出された衣服を、ぎゅぅっと抱きしめつつ、余計に顔が真っ赤になる。
恥ずかしさもあるが、なんだか泣きそうなぐらい、胸にこみ上げてくるものがある。

「神代先輩!!!」

思わず大きな声を上げながら立ち上がって、ずいっと理央に詰め寄ってしまった。
壁に、いや、ベッドに押し付ける様に目を見つめる。

えっと……なんでこんなことをしているんだっけ。