2020/07/09 のログ
■神代理央 > 「……ふむ?まあ、対等を目指すのは良い事だが。上司と部下、先輩後輩という社会的な立場以外には、私と貴様に違いはなかろう。
鉄火の支配者として立つ私に並ぼうというのなら、相当の努力が必要だとは思うがね」
何とも歯切れの悪い少女に首を傾げつつ、向上心があるのは良い事だなと思っていたり。
とはいえ、其処は己にも矜持がある。彼女が追い掛ける背中を示す程の矜持が。だから、クスクスと少し揶揄う様に笑うのだろう。
だがしかし。その余裕も尊大さも。眼前の少女によってあっさりと打ち崩される事になる。
突然大声で己の名を呼んだかと思えば、己の体をベッドに縫い付ける様に詰め寄る少女。
思わず身体は上質なシーツの上をずるずると滑り、気付けば半端に寝そべった様な姿勢で、驚いた様な表情と共に彼女を見上げている事になる。
「……みな、づき?その、少し近過ぎると思う…んだが」
驚きと困惑の入り混じった言葉を紡いで、不思議そうに彼女を見上げた儘首を傾げた。
■水無月 沙羅 > 「そ、そ、そういうことじゃないんです!
だから、えっと、なんていうか、えーっと……っ」
時計塔の上で、あの小さな先輩に背中を押してもらったというのになんという体たらく。
伝えたい事があったのではなかったのか?
隣に居させて欲しいでは全く伝わっていないのなら、もっとこう、なにか、上手い言葉があるだろう。
えっと……えっと……。
顔を真っ赤に、思考がぐるぐるして、知恵熱が出そうになる。
なんといえばこの人に伝わるだろう、傍に居たいと伝えるには、後ろでは嫌なのだ、庇護では嫌なのだ。
悪い気はしないけど、一緒でいたいから、共に守りあう関係でいたいなら。
だから……えっと。
あ、こういう時は、素直な気持ちを言えばいいんだっけ、先輩に言ったのと同じように。
「わたしは、先輩が、好きなんです!! だから、守らせてほしいんです!!」
心臓が飛び出そうなぐらい、大きな声で訴えた。
風紀委員のみんなが好きだ、あの小さな先輩が好きだ、理央先輩が何より好きだ。
こんなに好きで一杯なのに、この人にはどうして伝わらないのか。
「べつに、服とか格好とかどうせもいいんです!! そんなこと気にしてません!! 傍にいたいだけなんです!!」
ぜぇぜぇと、訴えるだけ訴えて、息を荒げた。
青年の顔がこんなに近い。
……後で殺されないだろうか。
■神代理央 > きょとん、から、ぽかん、へと表情は変化していく。
何というか、今言われた事が理解出来ない、と言う様な表情。風紀委員の会議でも、善悪を論じる様な討論でも、こんな顔はした事が無い。強力な違反部活の拠点を単独で制圧した時だって、こんなに思考が停止する事は無かった。
難解な魔術の講義を受けました、みたいな表情が暫く続く。
勿論、その間無言。唯々、頬を真っ赤に染める少女を見上げているだろうか。
その静寂は。その沈黙は。その空気は。
彼女に負けず劣らず、みるみるうちに顔を深紅に染め上げた少年によって打ち破られる。自身の紅い瞳と御揃いになるかの如く、頬を染めた鉄火の支配者は口を開く。
「………いや、その。えーと。何というか、その。わ、悪い事は言わないから、もっと良い男を探すべき、だと、思い…ます…」
真直ぐな好意を受け止めるには、余りに敵意に慣れ過ぎていた。
己が受け取れる他者からの好意など、精々友愛くらいのもの。だからこんな真直ぐな好意など、己に取っては御伽噺の様なものですらある。
そういう感情を向け合う事もあるんだな、くらいの。
だから、彼女に向ける表情も言葉も。彼女に見せていた風紀委員としての誇りも尊大さも一切感じられない。
唯、向けられる感情に戸惑い、自身が抱いた事の無い感情に困惑する。年相応の少年の姿があっただろうか。
■水無月 沙羅 > 「先輩以上に尊敬できる人なんていません、だって先輩は、私に傍にいてもいいって言ってくれました!!
私に自由をくれました!
沢山撫でてくれました!!
わたしを……みとめてくれましたっ……だから……。
先輩以上の男の人なんていません……。」
必死さから一転、今度は悲しくなった。
自分よりいい人間が居る、なんて言って拒絶しないでほしい。
私にとって貴方が一番で、貴方が最初で、何より大切で……。
だから死んでも戻ってきたのだから。
「……ごめんなさい……ご迷惑、でしたね。 今日は……帰ります。」
先輩を困らせてしまった、その事実だけで胸が痛む。
渡された制服だけを手に、ベッドから離れた。
しいなせんぱい、慰めてくれるかな……。
知らず涙が流れているのにも気がつかない。
ベッドに、涙が一粒、小さな音を立てて滴り落ちた。
■神代理央 > 正しく慟哭、と言うべきなのだろうか。
彼女は、此処迄感情を露わにして叫ぶような子だっただろうか。
彼女の成長を喜ばしく思う理性の欠片が、何処か遠くで拍手している様を幻視する。
そんな彼女を。懸命に己の側に居たいと叫ぶ少女を。
拒絶出来る程、支配者としての器は確立していなかった。
他者を受け入れる事は弱さである。自己が自己で完結する事が強者である。大衆を導く者は、孤高の威光を以て示さねばならない。
そんな呪いの様な言葉が、暗示の様に己を指差す。
受け入れるなと。拒絶しろと。"弱さ"を作るべきではないと。
高らかに厳かに饒舌に誇らしげに――憎々し気に、吠える。
だが、そんなもの。"私"の選択を狭めるものでは――無い。
ベッドを濡らした一粒の雫を無視する様なら、人々を幸せになど出来るものか。
「……そうやって、先走るのがお前の悪い癖だ。いや、俺も人の事を言えた義理では無いが」
ベッドから離れようとする彼女の腕を、掴もうと。
それが叶えば、そのまま此方にぐい、と引き寄せようとするだろうか。
■水無月 沙羅 > 「えっ……うぇっ……!?」
予想だにしなかった力に、腕は引き寄せられる。
抵抗する余裕すらなく、そのままベットに倒れこんだ。
理央の顔が近い。
「先輩……?」
今さっき、拒絶させられたばかりのはずなのに、こんなに近くにいる。
知らず、顔が熱くなった。
悲しいやら、驚いたやらで、涙腺は締まってくれそうにもない。
「なん……ですか?」
頬から涙を垂らしたまま、疑問を口から吐き出した。
なぜ、引き留めたんですか。
■神代理央 > 引き寄せた少女を、そのまま掻き抱く。
決して、普段の己の有様の様な暴力的な力強さではない。
しかし、離すものかと言わんばかりに少女を強く抱き締める。
「なんですか、だと?たった今お前が言ったんじゃないか。俺の側に居たいのだと」
吹っ切れた、とはまた違う。先程迄の困惑と戸惑いは、少年からは感じられないだろう。
涙を流す少女の髪をそっと撫でながら、クスリと小さく笑みを浮かべる。
「何、難儀な選択をしたお前を、そのまま帰してやる訳にも行かないからな。馬鹿だよお前は。こんな人でなしの側に居たいだなんて。日頃から馬鹿だとは思っていたが、やはり馬鹿だ。大馬鹿者だ」
少女の髪を、手櫛で梳く様に丁寧に撫でながら笑い、彼女の瞳を見つめる。
それは穏やかで、しかし何処か決意を含めた様な瞳。尊大さと傲慢さを友としていた様な瞳は、其処には無い。
「ならばお前の望み通りに。或いは、俺の望み通りに。側に置いてやるさ。物好きで大馬鹿者なお前は、俺の隣に居たいのだろう?」
そして、髪を撫でていた掌は、少女の頬へと至りその涙を拭う。
「……本当に、馬鹿だよ。お前は」
そう言って、ふんわりと。嬉しそうに笑うのだろうか。
■水無月 沙羅 > 「え……ぁっ。」
引き寄せられるがまま、抱きしめられた。
少年から伝わる熱が、自分の冷めきった心を緩やかに温めて行く。
「確かに、言いました……けど。」
髪を撫でられ、彼が笑みを浮かべる。
彼はこんな表情をする人だったのか?
「ば、ばかばか言いすぎですよ……先輩……。ひどいじゃないですか……。」
自分の紅い瞳と、彼の紅い瞳の視線が交差した。
あの、戦場にあったような恐ろしさも、何処か突き放すような雄々しさも、そこにはなくて。
「先輩が……望んでくれるんですか……?」
その言葉に、涙腺が崩落する。
こんな幸せなことがあってもいいのだろうか。
こんな、暖かな気持ちを受け取ってしまってもいいのだろうか。
「………っ」
嬉しそうに笑う彼が、本当の姿を自分に見せてくれた気がして。
「先輩……先輩……っ、大好きです……先輩っ!」
嗚咽を上げる様に、泣きながら縋りついた。
もう孤独な少女はどこにも居ない。
■神代理央 > 抱き締める彼女の躰は、細く、小さい。
こんな体で、彼女は傷付き、傷付け、泣いていたのだろうか。
他者を拒絶する様な、焼き尽くす様な己の異能とは対極の少女。
己の側に居たいのだと、告げた、少女。
「馬鹿に馬鹿と言って何が悪いか。私の側に居るという事は、真っ当な幸せも、学園生活も、望めぬ可能性があるというのに。
私は、お前を盾にする。お前を利用する。他者を傷付けて、のし上がろうとする。そんな男、だというのに。だから馬鹿者だ、お前は」
その言葉の全ては、彼女にではなく、己に向けられている様な。
彼女の幸せを本当に望んでいるなら、身を引くべきだったのだろう。平穏な学園生活を彼女に与える為なら、冷たくあしらってやるべきだったのだろう。
それをしなかったのは――自分の我儘だ。醜い、独占欲だ。
「…何度も言わせるな。そう言ったじゃないか。お前は、俺の――」
と、普段の己ならば「俺のモノ」だとでも言ったかも知れない。
しかし、その言葉に急ブレーキがかかる。それは違うと、支配者の陰から叫ぶ感情が居る。
「……その、何だ。俺の…その。俺が、側に置いておきたいと、思う、女、だから」
過激派の会合なら、もう少し流暢に言葉が出て来るのだが。
何か思考にバグでも起こっているんじゃないかと、結構真面目に考えてしまう。それくらい、言葉が出てこない。
だが結局は。紡げない言葉の正体は。
彼女が答えを示す。まるで、己を導くかの様に。
ああ、そんな言葉。言った事も言われた事も無い。だから紡げぬのだ。お前には似合わぬ言葉だ、と奥底で鉄錆を纏わせる支配者が嗤う。
それを蹴飛ばして。己と同じ色の瞳を持つ彼女と向き合って。
「……ああ。俺も。お前の事が好きだよ、沙羅」
縋りつく彼女を、ぎゅっと抱き締めた。
■水無月 沙羅 > 「真っ当なんてなくていい、利用してくれて構いません。
だって、私の幸せは今ここにあったんです。
それ以上なんて望んだら罰が当たっちゃいますよ。」
涙をふきながら、顔を見合わせる。
「俺の―――?」
続く言葉が気になって、そのまま待っていた。
何かを抑えるようなそぶりから、発せられた、その一言に。
「女…………。」
自分が何を行ったのかを正確に理解して。
熟したリンゴの様に、それはもう耳まで顔を真っ赤に、して。
「あ、え……ぁ……。」
自覚した、あぁ、そうか。
これが恋というものなんだと。
「先輩……、好きです
どこまでも、貴方のそばならどこにでも、ついていきますから。」
どこか不器用な彼の頬に、そっと口づけをした。
ご案内:「常世総合病院 VIP個室」に???さんが現れました。
■??? >
窓の外。
彼女からは見えなかったかもしれないが、白い影の残像。
カタン、と二人に届くかどうかのギリギリの音を残して去っていく。
ご案内:「常世総合病院 VIP個室」から???さんが去りました。
■神代理央 > 「…そう、か。なら、それ以上の幸せを。決して穏やかではなくても。暖かくなくても。俺が、お前を幸せにしてやるさ。何があっても、どんな事をしても」
此れ以上の幸せは罰が当たると彼女が言うのなら、己の砲火は彼女に罰を与える者を焼くだろう。
彼女に害を為す者が居れば、鋼鉄の雷雨で炎獄を生むだろう。
彼女に、己以上の幸せを与える者が居れば――その時、己はどうするのだろうか。
「…いや、待て。色々と端折ってないか。確かに、そういうニュアンスではあるが…おい、聞いているか馬鹿者」
晩秋の林檎でも、こんなに紅くなる事は無いだろう。
彼女がそうなった意味も、呟いた言葉も。全て理解し、聞こえているが故に。
ちょっと慌てた様に否定――はしなかったが、彼女の熱暴走を止めようとして。
「…そう何度も言うものじゃない。俺だって、そんな浮ついた言葉に慣れている訳じゃ――」
頬に感じる、柔らかな感触。
ぱちくりと彼女の顔を見つめていた己の顔は、一瞬で焔の様に真っ赤に染まり――
「…生意気な後輩には、少しばかり躾が必要かも知れないな?」
と、彼女を引き寄せて、その額に口付けを落とすのだろう。
――
耳を打った物音。それは、彼女は気付かなかったかもしれないが、己の耳には明確に。残酷なまでに明確に耳に入った。
当面、面会禁止にする者のリストを作っておかなくては。と、固い決意を胸に秘めていたりいなかったり。
ご案内:「常世総合病院 VIP個室」から水無月 沙羅さんが去りました。
ご案内:「常世総合病院 VIP個室」から神代理央さんが去りました。