2020/09/01 のログ
九重九十九 > 暗がりを照らす炎。熱を孕んだ紅の輝き。
それらは、ポルターガイスト現象を押しのけて地下室に満ちる。
火葬場のようだと、人ごとのように思った。
白い手が羽虫のように逃げ惑い、気絶するA君を抱え、引き寄せ、炎から守るように蠢く。

「──ひ」

焔を纏う彼。いや、人の形をした焔だ。
異能者だ。異能者だ。あれは強力な異能者だ。
幾度となくわたしを阻み続けた者とは異なるものだ。

考えてみれば、こんな所を塒にしようと太平楽に謳う時点で予期すべきことで、
頭が回らなかったことが悔やまれる。けれど、忸怩たる思いになることもない。

ないけど、彼の圧は──大変に、恐い。

「……わ、わたしも嘘つきは嫌いだけどさ。契約とか、お約束のほうだけど
 いや、ええと……わかった、わかったよう。話すから!」

最後の詰めで愛だとか友情だとか、色々なものに負けたけれど
まさかのジャンル違いは予想外。今後に活かそうと思えばつづらちゃんポイントは減りはしないけれど、
生憎と次があるのかどうかが怪しい感じに諸手を上げて降参を示し、数歩後退。

「わたしは──」

それからは洗いざらいさ。九重九十九という名前であること、人間ではないこと。
SNSに噂を流して人を釣り、のこのこやってきた連中を散々に驚かして怖がらせて怪談を成立させる。
気絶しているA君はそうした子たちの一人で、仲間は全員逃げてしまったことなどをつらつらと語る。

「──と、言う訳で、〆の段階で君が来たから、あわよくば君にも刻んでやろう!
 ……と、ちょっと欲張った。みたいな。えへ、えへへへへ」

挙げた手を降ろし、だぶついた袖内のまま人差し指同士をつんつくと合わせクロロ君を見上げた。

クロロ >  
九十九が観念すれば、燃え移った炎も跡形もなく消えた。
当然、爪痕のような焦げ臭さと焦げた部屋は残るが
室内の全焼にには至らなかったようだ。
数度瞬きすれば、瞳孔も元に戻り、その場にドカッ、と胡坐を掻いた。

「よし、聞いてやる」

確かにクロロは荒くれ者の気性を持っている。
だが、話が通じない程愚か者ではない。
腕を組んだまま、つらつらと(※つづらだけに)語る彼女の言葉をうんうんと、頷いて聞いていく。

「フゥン、つづらッつーのな。へェー、ほォー」

相槌が一々馬鹿っぽいのご愛嬌。
一通り聞けば自身の首を撫で、呆れたように溜息を吐いた。

「オレ様に喧嘩を売ッたにしちゃァ、随分としょッぱい理由だなァ……」

馬鹿ではあるが理解力が無いわけではない。
への字に曲げた口元にすっかり困り顔だ。
てっきり、違反生徒や何かなら盛大に喧嘩をするつもりだったが
人間でない上にそんな脅かすだけが目的の相手と喧嘩してもしょうがない。

「まァ、なンだ。とりあえず、脅かしたのは悪かッたな」

その辺の"スジ"は通す。
まずは、己の非を詫びて頭を下げた。

「で、一応聞いていいか?別に、言いたくねェなら言わなくていーけどよ。
 その、"カイダン"ッつーのを成立させて、お前にメリットとかあンのか?」

趣味で脅かすようには見えない。
気になった事は素直に聞けるタイプだ。
というのも、何も覚えてないからこそ、聞かざるを得ないとも言う。

九重九十九 > 言葉が流れるにつれて炎が収まる。
それは荒ぶるなにかを諫める祓詞のようであるかも知れない。
……そんな与太を考えるのは、竈のような室温となった地下室にいる所為かも知れない。

豪快に座り込むクロロ君に対し、わたしは全身汗みずくでへたり込んでいた。

「喧嘩……喧嘩を売るつもりも無かったんだけどねえ
 わたしの異能はさっきみたいに物を動かしたり、白い手達を行使したりとかで
 本当は姿を見せずにこう、こっそりと影とか隙間から……なんだけど
 きみ、いきなり扉を蹴破ったりするんだもの……」

喧嘩を売るつもりは無かった。と一応の釈明をする。
大した事無い異能者であれば直接の対面でも白い手達で対処は出来ようものだけど、
クロロ君のようなタイプとは覿面に相性が悪い。
勿論この島は異能者の集まる所であるから、正面きっては基本的に愚策とは承知の上。
ふふん、つづらちゃんポイント+1 もしもセオリー通りに進んでたらだけど。

「むうん……脅かしたのは、別にいいよう
 わたしもそうするつもりだったんだし……
 でも、そうだね……怪談を成立させるメリットはね」

ともあれ今は差し向かいに座り込んだまま、両腕をぱたぱたと振るようにしながら説明をし始めよう。

「怪なるもの。妖は人に忘れられたら存在出来ない。或いは著しくその力を弱める。
 例外はあるのかもしれないけど、存在強度……とでも言えばいいかな。
 恐れられて、怖れられて、畏れられて。感情の蓄積をされて、その記憶に存在を残す。
 そうやって覚えてもらうことがメリット。かな。
 この島には、上手くやる方法を学ぼうと思って……今まで上手くいかなかったから。
 今も上手くいかなかったけど。」

そうして、説明が終わったらどんよりと項垂れよう。つづらちゃんポイント-10。

クロロ >  
「お前扉が閉まッてンだぞ?そりゃ、開けンだろ。
 ぶち破ッても。だッて寝心地いいかもしンねーし」

馬鹿ではあるけど何方かと言えば脳みそが筋肉なタイプ。
しかも、まだ寝る事を諦めてないぞ。ココ霊安室なのに。
当然記憶空っぽなので、霊安室がどんな場所なのかご存じでないので剛毅である。

「要するに、お前忘れられると死ぬッて事か」

つまりはそう言う事と解釈してよさそうだ。
怪異、怪なるもの。とどのつまりよくわからない。
よくわからないが、これは彼女なりに生きる理由。
人様にとっては迷惑極まりない気はするが、彼女は先程炎からかばうようにA君を引っ張った。
少なくとも、好き好んで人が死ぬのを、殺すのを良しとはしないらしい。
腕を組んだまま、じっと九十九を見ていた。…何となくだが、彼女の気持ちは分からなくはない。

「とりあえずわかンねェけどわかッた。要するに、"覚えて"貰えばいいンだろ?
 オレ様もよォ、大概なーンも覚えちゃいねェ。記憶喪失ッつーらしいな?
 ま、頭空ッぽだからよォ、俺もあンま頭いい方じゃねェけど、九十九」

「オレ様がとりあえず忘れねェように記憶しとくから、存在強度+1だな」

少なくとも畏れ等微塵も感じてはいないけれども
『無い』というのは、それだけで不安になる事を身をもって知っている。
それでもクロロは前を進むのを止めなかっただけだ。
彼女の存在理由と似ている、とまで大それたことは言わない。
だが、その手伝い位なら出来る。
頭を垂れた所をむんず、と大きな手が下ろされようとする。
クロロの手だ。人の体温より暖かく、そして滅茶苦茶に頭を撫でようとしてくる。割と乱暴だ!

「……で、他にはどうすりゃいいンだ?オレ様火ィしかだせねェし
 適当な魔術しか使えねェーけどよ、お前が消えちまうのはヤだしよォ
 オレ様、大概暇だから手伝ッてやるよ。暇じゃない時以外」

九重九十九 > 人は寝心地が良いかもしれない。というだけで頑丈な鉄扉を破壊するらしい。
……いや本当に?大丈夫?この認識をインプットしてわたし大丈夫かな?
気絶しているA君を見る。彼は何も答えてくれない。ていうか生きてる?
もそもそと移動し、彼の呼吸を確かめる。よし、生きている。

「神様とかもさ、誰も信じてくれなくなったらおしまいだよね」
 お話とかもさ、誰も伝えてくれなくなったらおしまいでしょう」
 わたしは古い人形を核に、いくつかのお話が集まって生まれたものだから」

そうしたことをしながら、クロロ君のざっくりとした言葉に頷く。
室内は熱が籠りきって暑さ著しく、わたしは"袖の内からタオルとペットボトルのお茶を取り出した"
到底納まりきらない筈のものが出る。これも、わたしの異能の一端さ。

「クロロ君は哲学的なことを言うなあ。
 でも、うん。その通り。誰かが憶えてくれるならわたしは残れるものだから──」

重なり合う言葉の折にわたしの言葉が止まる。
だって彼、記憶が無いだなんて言うんだもの。
言葉、なんて言えばいいのか迷うに決まってる。

迷っているうちに、彼の大きな手がわたしの髪の毛を掻き混ぜるようにして撫でていた。

「ちょ……なになになに!?
 なんだよう、急に。そりゃあ、忘れないでくれるのは嬉しいけど……ふふふ
 きみ、いい人なんだろうね。とりあえずは憶えてくれているだけでもいいのだけど
 そうだなあ……とりあえずA君を病院の入口に運んでおくとか?
 そうすれば目覚めた彼が怪談を広めもしてくれると思うし」

乱れた前髪の合間から白色の瞳が彼を視る。
表情は愉快そうに不満そうに、判り易く頬を膨らませたもので
提案は、初期の予定をきちんとお伝えする三者三様のわたし模様。

いや、撫でて来るその手にペットボトルのお茶を握らせるようにもするから4つかな。

クロロ >  
少なくともその認識はインプットしてしまったらアウトです。
既に貴方の脳内は脳みそ筋肉に浸食されている。
これも新手の怪異なのかもしれない……。

「よくわかンねェなァ、お前の言ッてる事。小難しいし」

かといって、理解していない訳でもない。
何もない真白の知識では、合致する情報がないだけだ。
少なくとも、誰も彼もが忘れてしまったらお終いらしい。
それは、人にも、自分にも言える事なんだろうか。
かといって恐怖を抱くような男でもないが
自分でも気づかない内に、その表情は何とも言えないものになっていた。

「"テツガク"とかはよくわかンねェし、俺ァ"いい人"は流石にねェな。
 少なくとも、俺ァよくわかンねェけど、つづらが消えるのはつまンねェし
 お前と話すのも面白そうだしな。"カイイ"とか"カイダン"とかわかンねェけどよォ」

「俺ァ、お前のそう言う顔、嫌いじゃないぜ」

愉快そうな不満そうな、何というか可愛らしい顔。
少なくとも、九十九が思うようないい人でないのは確かだ。
いい人は、扉を壊したりはしない。その辺で寝転ぶA君を抱えて立ち上がり
気づけば手に握らされていたペットボトル。お茶だ。

「もらッていいのか?コイツ、病院にもッてくだけだけど……まァいいや。なァ、つづら」

「ちゃンとコイツ置いてくるから、オレ様の寝床温めとけよ?枕元に立つ権利やるからよ」

中々とんでもない事を言うが他意はない。
彼女の怪異レベルでもなんでもちょっとは上げれる要素を入れておいただけ。
軽々と持ち上げたA君を担いで、クロロは一旦その場から立ち去っていくだろう。

九重九十九 > 「ふふ、ふふふ、ふふふふふ──。よくわからないのは性分だぞう
 だって、こわいものって、そういうものだろう?」

系統することも分類することも出来ない曖昧な顔。
クロロ君のそうした様子は好ましくて、ついついと笑ってしまう。

「……好かれる怪談ってなんだか反している気もするけれど
 んんん……ま、いいか。ありがとうクロロ君」

お茶を手に、A君を抱え立つ彼を見上げる。
その身体能力に感嘆とした声が出ちゃう。
彼、やっぱり怪談にいたらダメなタイプだ。
属性的には筋肉系、ロケット砲が無いだけ良かったかもしれない。
そんなことを思う。

「あ、うん。此処の入口ね。この廃病院の入口においておけばバッチリさ
 ──って温めるも何も、枕も何も無いじゃないか……」

元・霊安室は半ばクロロ君の異能が齎す炎で火事の跡めいた様相を示す。
彼が何処で寝るのかは自由だけれど、そもそもが矛盾していることにわたしの声がどんよりと惑う。

「……もしかして今時の怪談って、こういうかんじ?」

地下室に一人残ってから、手にしたタオルで汗を拭きながら問う。
それに答える誰かは、居る筈も無かった。

ご案内:「怪談:廃病院に怪異の影!」から九重九十九さんが去りました。
ご案内:「怪談:廃病院に怪異の影!」からクロロさんが去りました。