2020/09/09 のログ
ご案内:「ちょっとむかしの、おなし」に白い少女さんが現れました。
■白い少女 > すこし、むかし。
ある所に、女の子はいました。
女の子も、そこがどこかは知りません。
少し前に、気がついたらそこで目がさめて、そこからは、そこでおきて、ごはんを食べて、ねています。
そこからは出られないことだけ、しっていました。
■白い少女 > おへやの中には、なにもありません。
うそです。ベッドと、トイレと、おとなの人がもってきてくれる本があります。
そとがみえるまどと、とびらもあります。とびらのちかくに、おおきなガラスのまどもあります。
そとがみえるまどからは空が見えて、たまに、とりが飛んでいます。
空のとおくにちいさなほそいくもをうむとりがとんでることがあって、それがとんでると、ちょっとだけ女の子はこわいな、と思うことがあるけれど、見えるのは、それくらいでした。
とびらは、あけるところがないので、女の子にはあけれません。
おとなの人だけ、女の子のごはんをもってきたり、女の子をよぶ時だけ、あきます。
とびらのまえの大きなまどは、たまに人がきたりしますが、ふだんはなにもありません。
■白い少女 > 「―――」
女の子は、ぼうっとしていました。
それしかやることがないから、それだけしていました。
本をさいごまでよんでしまうと、おとなの人があたらしい本をくれるまで、女の子はほかにやることがないので、いつもおなじように、まどのそとを見ます。
■白い少女 > 『―――番、時間だよ。』
ガラスの先におとなの人がきたので、女の子はそっちの方を見ます。
へんじをしないとおこられるので、すぐに、女の子はへんじをします。
「はい」
とびらがひらいて、おとなの人がそっちにくるように、といいます。
いられたとおりに、女の子はそっちにいきます。
まえにいかなかったら、てをひっぱられて、とてもいたかったので、自分からいくことに女の子はしていました。
とびらの外にいけるのは、こうして、おとなの人がよんだときだけです。
とびらのそとに出ると、おとなの人のうしろをついていきます。
■白い少女 > まっすぐすすんで、またとびらがあって、すすんで、よこにまがって、すすんで。
おとなの人がきて、女の子を見て、もってるいたで何かかきながら、ついてきます。
そのままあるいていくと、ひろくて色々なものがあるおへやに、女の子は入ります。
色々なものと、みんなおなじ白いふくを着たたくさんの人がいて、ちょっとヘンなにおいがして、女の子はここが苦手でした。
『それじゃ、ベッドに寝転んでね。注射をしようね』
白いふくの人がそう言って、女の子に近づきます。
この、ちゅうしゃ、というのが女の子はすきじゃなかったけど、しないといけないらしいので、言われたとおりにしていました。
いわれたとおりに、ベッドにねころんで、白いふくの人が、手に、ちゅうしゃ、をしました。
ぷつっ、と、ちゅうしゃ、をした所がいたいですが、女の子はいたいとは言いません。
いたい、と言う前に、すぐにねむくなって、ねてしまうからです。
■白い少女 > 目がさめると、いつものおへやにもどっています。
ちゅうしゃ、のあとにぐっすりねむったあとは、いつもあちこちからだがいたいけど、すこしすればすぐにいたくなくなります。
いたくなくなって少しすると、トントン、とおとなの人がとびらをたたいてから、はいってきました。
ふだんは、ごはんのときまでこんなことはないので、とてもふしぎに女の子は思いました。
おとなの人は、女の子とおなじくらいおおきさの男の子といっしょでした。
おとなの人とも、女の子とも、ちがう、少しよごれた服の、男の子でした。
みたことのない人だ、と女の子は思いました。
■白い少女 > 『――――番。今日から、君の身の回りの世話をする子が来る事になった。
さぁ、君も挨拶を。』
「―――です。よろしく、おねがい、します」
男の子は、女の子を見て、もごもごしながらいいました。
こんなことは、おへやにきてからはじめてだったので、女の子も、どうしていいのか分からなくて、こまってしまいました。
『これから毎日、彼が君の警護をするから、何かあったら、彼に何でも言うんだよ。
それと、二人とも。なかよくね』
その日から、女の子の生活に、一人の男の子がいっしょにいるようになりました。
今日は、ここでおしまいです。
ご案内:「ちょっとむかしの、おなし」から白い少女さんが去りました。
ご案内:「落第街拠点 とあるアパートの一室」に羽月 柊さんが現れました。
ご案内:「落第街拠点 とあるアパートの一室」にヨキさんが現れました。
■羽月 柊 >
『葛木の事で進展があった。
出来れば直接報告がしたい。あの家に来てくれるだろうか。』
そう友人にメールを飛ばし、日時を合わせる。
落第街の拠点の鍵。
常世島の中でのみ機能するそれは非常に便利ではある。
この鍵はストラップについている小さな箱のねじ巻きを回すと、
身近な扉が落第街のアパートの一室に繋がる。
ある意味、これは自分の虎の子の一つだ。
その鍵の唯一のスペアを託してしまったのが…今から来る友人である。
先に部屋に入り、軽く片付けをする。
とはいってもさして汚すような使い方をしないから、
適当に和菓子の詰め合わせを木皿に盛って、飲み物の準備をするだけなのだが。
■ヨキ > 過日に教わった使い方の通りに、小箱の鍵を通じて部屋の扉が開く。
傍から見れば、自宅に帰って来たかのような気軽さで扉が開くだろう。
「こんばんは、羽月」
入ってきたのは、長身の美術教師ヨキである。
羽月の拠点と背後の路地を、興味深そうな顔で交互に見比べる。
「しかし、この鍵は便利だな。
ヨキの家の扉を開ければ君の部屋に繋がっているなど、まるで君の家に帰って来たかのようだ」
可笑しげな様子で扉を後ろ手に閉めながら、部屋へ足を踏み入れる。
「して、ついに葛木君に会いでもしたかね?」
■羽月 柊 >
「あぁ、来てくれて…感謝する。ヨキ。」
来客を迎える準備を一通り終え、
廊下兼キッチンで湯沸し器に少量の水を入れた所で、
ちょうど相手の来訪となった。
「…おかえりとでも、言えば良いのか?」
今は小竜も居らず、1人だった。
冗談めいた言葉を零して、下手な笑みをしたって、
それを見ているのは目の前の友人以外にいやしない。
出逢ってから短期間とはいえ、相手に信頼を置いている。
…信頼しているからこそ、"あの夜"、彼に何もかもをさらけ出したのだ。
「まぁ、便利な分かなり高価な品だ。
スペアを作るにもうんと金と時間がかかる…失くしてくれるなよ。
……そうだな、葛木には逢えた。
少々歪な逢い方になってしまったから、君をここに呼んだんだが…。」
飲み物は何が良い、と問う。
珈琲、紅茶、麦茶はすぐに出せる。
その他は…少し時間を貰えれば自宅から持ってくるだろう。
■ヨキ > 「あはは。ただいま」
相手の冗句に、にかっと笑って返す。
軽く手を挙げた手の中には、件の小箱の鍵がある。
カラビナにいくつかの鍵と共に繋がれているそれを、大事そうにボトムスのポケットへ仕舞った。
「ああ、無論だ。
大事な預かり物を失くす訳にはいかんからな。
物取りにも決してくれてはやるまいよ。
それでは、麦茶をいただこうかな」
一度訪れた部屋とあってか、寛いだ様子で応える。
が、葛木少年の件には幾分か眉を顰めて。
「……ほう、『歪な会い方』と。何があった?」
■羽月 柊 >
相手に麦茶、自分に珈琲を用意する。
冷蔵庫から氷を出してきて入れる。
部屋に持って行くのに持ち上げれば、カラコロと静かな部屋に音が響いた。
自由にしてくれと伝えて、
低いテーブルの上に飲み物と和菓子を置いた。
部屋の中にはベッドの他にソファや小さい椅子もある。
「……彼と逢えたのは、過去違反部活の本拠地だった場所だ。
そこで葛木と……彼が『九重』と呼ぶ風紀委員の腐乱死体があった。
元々葛木と最初に逢ったのが黄泉の穴だ。
古い知り合いに『お前の探しているモノが居る』と聞いて行ったら……という訳だ。」
だから往来では話せず、携帯デバイスでやり取りする訳にもいかず、
彼を直接こうして話をする為にわざわざ来てもらったのだ。
■ヨキ > 麦茶を受け取ると、椅子を借りて腰を下ろす。
グラスを傾けて喉を潤しつつ、いただきます、と菓子盆へ手を伸ばす。
ひとつ手に取って――羽月の言葉に、個包装を剥く手が止まった。
「『九重』?」
麦茶を飲んだばかりにも関わらず、それは、と続ける声が掠れた。
「『水城・九重』は――葛木君が捜しているという、友人の名前だ」
ヨキはその名前を、風紀委員の持流童男から聞き知っていた。
「又聞きだからと遠慮して、その名を君に伝えていなかった。
まさか死んでいたなんて……。
…………。
最悪だ……」
ぽつりと呟いて、言葉を失った。
■羽月 柊 >
それは運命の悪戯。
話した後に、自分も椅子に座って、
珈琲に口をつけようとした所。
友人が紡いだ言葉に、珈琲が唇に当たった所で、コップを戻した。
思わず唇を引き結べば、
唇からじんわりと伝ったそれが、苦かった。
「………葛木が、動揺していたのは……そのせい、か。」
ヨキが悪意を持って九重の名を隠していた訳ではないことは、
彼の態度から嫌でも伝わった。
今なら、『慰めですか』と、
半ば八つ当たりにも近い言葉を言われた意味も…なんとなく分かる。
その痛みを、自分は知っている。
子供なら、『どうして教えてくれなかったんだ』と叫んだかもしれない。
けれど自分は大人で、友人の後悔を責めたとて何も始まらないのを分かっている。
そんなことをしたところで互いに亀裂を作るだけだ。
だから…その言葉は押し込んで問うた。
「……ヨキ。…君を責める気は無い。
起きてしまったことは変えようが無い。」
そう言って首を横に振る。
「だが…情報は欲しい……出来れば、九重…
いや、水城を知った経緯を…聞かせてはくれないか。」
■ヨキ > 「……済まん、羽月。
その名前だけでも、先に伝えておくべきだった」
真っ直ぐに柊の目を見て、頭を下げる。
「情報と言っても、ヨキは『葛木君が人を捜していた』ということ以外、何も知らんのだ。
持流童男という名の風紀委員が在ってな。
彼が、葛木君から『水城九重を捜している』と聞いたそうだ。
風紀委員の職務中に、行方を晦ましたらしい。
持流君は協力的だったが、如何せんそれ以上の手掛かりを尋ねていなくてな。
ヨキも持流君も、葛木君に会えたら詳しく聴き取ってみようと――そう思っていたところだった。
……結局は、葛木君と連絡を取る前に手遅れとなってしまったが」
静かに、静かに、経緯を話す。
「人に協力を仰ぐくらいだ。よほど急であったのだろう。
風紀委員の仕事が失踪に関わっているとなれば……我々一般教員は、どこまで葛木君に協力出来たかも怪しいがね」
それでもヨキが最大限の協力を辞さない姿勢だったことは、その視線から窺い知れる。
■羽月 柊 >
「……流石に気にするなとは言えんが、こればかりはどうしようもない。
君が他意を持って隠していた訳じゃあ無いと分かるだけで、ありがたいとも。」
こうして対面だからこそ、
触れられる位置に居るからこそ、余計にそれは分かる。
「……なるほど。持流という風紀委員は俺は知らんな。
まぁ、見つかった場所が見つかった場所だ……葛木も駆け回っているうちに、
不運にも俺たち全員と行き違いになってしまっていた…。
…ヒトは追い詰められると目の前しか見えなくなるからな…。
それが大切なヒトの為であるなら………尚更。」
それはきっと自分にも言える。
遺体であった九重よりも、一郎の方にしか意識が向かなかった。
彼の慟哭を無視することは出来なかったのだから。
「ヨキ、後出しになるが……。
…君に話す前に、俺個人の知り合いの山本英治という風紀委員に、葛木のことを聞いた。
山本は葛木の事を知っている人間だが、水城に関しては何も知らない様子だった。
調べてみるとは言ってくれた。」
ボタンの掛け違いがそれぞれ起きていることは分かる。
後手に回らざるを得ないこと歯噛みはする。
「……確かに、もしかすれば、俺たち『教師』では、どうにも出来んのかもしれんが…。」
それでも、立ち止まってはいられない。
■ヨキ > 「ああ。……まさか斯様な結果になるとは、思わなんだ。
風紀委員の仕事とは、いつ何時も苛烈なものだ……」
漸う和菓子をひとつ、口へ放り入れる。
視線を床に落として咀嚼する様に、落胆が見て取れた。
少しの後に呑み込んで、顔を上げる。
「そうか、山本君が……。
彼も協力してくれるなら、心強い」
ほっとして、幾分か表情が和らぐ。
「ヨキも協力したいと思っておる。
殺人か事故か――杳として知れずとも、ひとりの生徒の命が喪われたことを、看過は出来ん」
名前しか知らない一生徒に対して、ヨキは我が子を亡くしたかのように悲痛な顔を浮かべた。
「……羽月。君はくれぐれも、己を見失うでないぞ。
それが教師という立場に回った人間の、最たる掟だ。
生徒のケアに当たる者に、揺らぎが在ってはならん」
眉を下げて笑った。
■羽月 柊 >
「…子供が警察をやっているんだ。
身体的・精神的な未成熟は、その苛烈さに対して輪をかけることも…あるだろうな。」
《大変容》以前では信じられない光景。
いくら学生に成人した人間も混じっているとはいえ、基本的には……彼らは子供だ。
「…君も山本を知っているのなら、話は早い。
彼は俺にとって、君以外に…友人と呼べる相手の1人だ。
協力してくれると言うなら、山本にも協力者として君の名前は出しておく。」
後手に回らないように、連携を取っていかねば。
ここでヨキの協力を断る理由も無く、後日に山本英治へ彼の名は伝えられることだろう。
珈琲を改めて喉へ通す。
ミルクも砂糖も入れないただ苦いだけの珈琲。
普段は甘ったるい珈琲の方が好きだが、今はなんだか…苦味が欲しかった。
この苦味が、頭を冷静にさせてほしかったから。
「……そう、出来ると良いんだが。」
揺らぐなと言われて、眉を寄せる。
「……日下部が火傷をした時もそうだったが、
俺は身近なヒトのダメージに感化されやすい…。」
それはきっと、己の過去も手伝っている。
今は手を伸ばせば触れられる位置だからこそ、冷静になれているだけで、
目の前のヨキの様相にだって、無意識に心がチリチリするのを珈琲の苦みで強制的に黙らせている。
■ヨキ > 「よろしく頼む。
山本君も何かと多忙の身であるから、仕事が増えることは何かと心配だ。
まったく、難儀なことだな」
麦茶を飲んで、息を吐く。
「……大人とて、心は揺らぐ。
その動揺を、生徒の前では見せてはならぬということだ。
表沙汰に出来ない苦痛を吐き出し、和らげるために、ヨキのような同僚が居るのだ。
無用な憂いは要らぬ。君の傷は、このヨキが受け止めるさ。
だから君は、体当たりで生徒と付き合ってゆけ。
頑丈な受け皿にこそ、生徒は心を開いてくれる」
珈琲を口にする柊へ、微笑み掛ける顔は優しい。
「まだまだ、発展途上だな」