2020/09/15 のログ
神代理央 >  
「………それは、随分と頼もしい事だ。
まるで、俺からも『死』を奪おうかと言う様じゃないか」

彼女の笑みから、その感情を読み取る事は出来ない。
昏い――という訳では無い。唯々、深い。深淵を覗き込む様な気さえする。
静かに『彼女』の笑顔を見つめた後。小さく吐き出した吐息と共に、言葉を返すに留まるのだろう。

「……そう、なんだろうか。
お前を想う者とは数多く出会ってきたとは、思う。
俺が不在の間、懸命に支えてくれた者達に感謝はしている。
…それが、想われているという事なのだろうか?
俺は唯、俺が為すべき事を為しているだけだ。
『鉄火の支配者』として、為すべき義務を果たしているだけだ。
『神代理央』を待っているのは…お前くらいだと、思っているんだけどな」

例えば、レイチェル・ラムレイが負傷して入院した際。
彼女の穴を埋めようと奔走する者達に交じって、己もそれなりに事務仕事だの警邏だのに力を入れた覚えはある。
だがそれは、言うなれば公共の福祉の為。
本当に『レイチェル・ラムレイ』を想う者達に比べれば、己が奔走していた動機など些細なものに過ぎないだろう。

では、己が入院している今はどうなのか。
今はまだ、ディープブルー戦後の報告書に何も目を通せてはいないが。前回の入院時にも、多くの者に支えられた自覚はある。
それは『神代理央』ではなく、風紀委員会の為ではないのだろうか。
己がいなくても、学園も組織も回る。だからこそ、己の不在を埋めてくれる者達の行動は、公共の利益の為では無いのだろうか、と。

彼女からの好意と、周囲の人々との交流によって多少は人の心の機微が理解出来る様になっていても。
彼女の告げる言葉に首を傾げてしまう程度には、未だ未熟なのだろう。

水無月 沙羅 >  
「……。」

言葉に返事は無く、少女はただ笑うだけだ。
覚悟が決まっている、眼が据わっている、そんな表情。
少女の無言は、肯定を意味するのだろうか。

「『鉄火の支配者』を待つだけなら、警邏の形を変えればいいだけです。
 力在るモノが一人で回り、示威を示すのではなく、より人数を割いて定期的にパトロールをすればいい。
 それこそ、トゥルーバイツの様に、何かないかと聞いて回る慈善的な活動に切り替わってもおかしくはないでしょう?
 でもそうならないのは、貴方の居場所がそこに在ると知っているからでしょう。
 そのやり方しか出来無い貴方を皆知っているから。」

所詮、鉄火の支配者なんてものは暴力装置に過ぎない、警邏の仕事が無くなれば、次の戦場が用意される。
それが警邏で済んでいるのは、警邏ができる環境ができているからに過ぎないという事だ。

「すぐに納得しろ、とは言いませんよ。
 貴方が帰った時、本人たちに聞けばいいだけです。」

神代理央 >  
返事の言葉は無い。
半ば冗談の様に告げた言葉に――彼女は、無言を貫いた。

「……俺は、死を畏れぬ。しかしそれは、否定するものではない。
なあ、沙羅。俺はお前を置いて死のうとは思わない。
けれど、お前を犠牲にして生き延びようとも思わない。
それでもお前は、俺から『死』を奪うのかという問い掛けに――首を振ってはくれないのか?」

彼女は、一体、何を。
バイタルを示す計器の音が、僅かに乱れた。

「…俺は、其処まで思われる様な人間ではない…というのは、些か卑下が過ぎるのだろうな。
…実感はない。お前の言う通り、納得するのも今は難しい。
しかし、幸いなことに。俺は今結構時間がある方でな」

「ゆっくり考えてみる事にするよ。
…考えて分かるかどうか、自信は無いけどな」

と、少しだけ苦笑い。

水無月 沙羅 >  
「冗談ですよ。」

ふっと笑って、その悪寒を匂わせる気配は姿を消した。

「大丈夫、貴方は、一人になったりしませんよ。」

子供に言い聞かせる様に、そっと髪を撫でる。
その瞳はどこまでも優しく微笑んで。

「……では、そろそろ私も帰ります。
 後輩ができましたから、教えることも、仕事も多いんです。
 理央さんが居ない分書類仕事も増えましたからね。」

そういって、沙羅は席を立つ。

「また、近いうちに。」

カツコツと、少年に背中を向けて扉へ向かう。

神代理央 >  
「…質の悪い冗談だ。俺は余り、そういう冗談は好かぬぞ」

ふう、と吐き出す吐息。
しかし、不安が晴れた訳では無い。
己の死を、彼女に懇願する様な未来が訪れるなど――その"悪夢"を払拭するかのように、緩く首を振った。

「………だと、良いんだがな。
慣れている、とはいえ、一人は中々…堪える…」

誰もいない豪華な自宅。
自分しかいない、広々とした病室。
今迄はそれを寂しいと思わなかったのだが――。
髪を撫でられれば、それに甘える様にぐり、と頭を軽く押し付けた。

「…後輩?へえ、ついに沙羅にも後輩が出来たのか。
ああ、それなら、一つだけ頼みがあるんだが…。
『池垣 あくる』
『レオ・スプリッグス・ウイットフォード』
此の二人には、少し目をかけておいてくれると嬉しい。
面識があるかどうかは、分からぬが…」

己がスカウトした少女と、己がテストした少年。
此の二人は、今でも少し気に掛けているところ。
恋人である彼女に、己が不在時の面倒を頼むのは少し申し訳なさもあるのだが。

「……ああ。今日は、来てくれてありがとう。
早く復帰出来る様に頑張らせて貰うよ。お前の書類仕事を、此れ以上増やす訳にはいかないからな」

己に背を向けて立ち去る彼女に、穏やかな声色で言葉を投げかけて。
立ち去るその姿を、静かに見送ろう。

水無月 沙羅 >  
「レオくんなら、私の書類仕事を押し付けてきたところです。
 今頃目を回しているでしょうね。」

くすりと笑って。

「えぇ、その二人の名前は覚えておきます。
 ここに来るように今度口添えしておきますね。
 寂しがってるからと。」

部屋を出る前にそっと一礼して。
にこやかに一度微笑んでから、今度こそ扉を閉めた。

沙羅が立ち去った椅子の上には、一本だけ切り取られた夏椿の花が置いてあった。

ほんの少し、彼女の香りがその場に残っている。
 

ご案内:「常世学園付属常世総合病院 VIP個室」から水無月 沙羅さんが去りました。
神代理央 >  
「…寂しがっているわけじゃ、ないんだけど」

彼女が立ち去った後、むすっとした様な声色で呟く独り言。
そうして、未だ痛みの続く身体をベッドに深く横たえようとして――
椅子に残された、一本の花に、気が付いた。

「…夏椿。沙羅双樹……か」

そっと、その花を手に取って。少しだけその香りを吸い込んで。
その花を緩く握りしめた儘、少年は穏やかな眠りへと誘われていくのだろう。

ご案内:「常世学園付属常世総合病院 VIP個室」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「常世学園付属常世総合病院 VIP個室」に神代理央さんが現れました。
神代理央 >  
入院3日目。
痛みによって意識を失う事もなくなり、今は鎮痛剤を服用しながら再生治療を受けている。
病室で仕事をする事は担当医に止められてしまったが、端末だけは取り上げられずに済んだ。
それ故に、ディープブルー戦後漸く、各報告書の類を見る事となるのだが。

「………違反組織の動きが若干活発な区域があったのか。
とはいえ、鎮圧も容易に行われている。差し迫った問題は無し、か」

ベッドから身を起こし、ページをスクロールしながら小さく吐息を吐き出す。
そろそろ固形物が食べたいものな、と。栄養を己の注ぎ続ける点滴を少し恨めし気に眺める事となる。

神代理央 >  
恋人たる少女と、再生能力持ちの先輩委員との活動報告。
巨躯の同僚の始末書。
己の『代行者』の異名を取る様になった後輩の少年。

「……こうして報告書を眺めていると、早く仕事に戻りたくなってしまうのは最早性分なのだろうな…」

規則正しい機械音と、少年の溜息だけが響く豪奢な病室。
ふう、と吐息を吐き出してベッドに身を預けても、巨大なベッドは軋む音すら立てる事は無い。

神代理央 >  
仕事に戻る、とは言っても。
今回の戦闘は色々と思う所はあった。
『異能殺し』の件にせよ、今回の戦闘にせよ、己の異能が通用しない。若しくは対応が難しい相手との戦闘に至った時、その対応に苦慮する事になるのは目に見えていた事。

今のところは魔術と併用する事で対応出来てはいるのだが。
やはりもう少し、戦闘面において多種多様な手を持っておきたいところではある。

「……贅沢な悩み、ではあるかもしれないが…」

鈍痛を訴える傷痕と、抱える悩みに吐き出す溜息は絶えない。
どうしたものかと考えを巡らせる。煙草が、吸いたい。

ご案内:「常世学園付属常世総合病院 VIP個室」にレオさんが現れました。
レオ > コンコン、とノックする音が一つ。
来客のようだ。

「―――失礼します。レオ・スプリッグス・ウイットフォードです。
 神代先輩、今は大丈夫でしょうか?」

扉の先からするのは、聞き覚えのある声だろう。
つい先刻であったばかりの、風紀委員会の…後輩の声だ。

神代理央 >  
鳴り響くノックの音。
はて、見舞いの客の通知は来ていただろうか――バッチリ来ていた。
報告書を読む事に集中し過ぎたな、と小さく苦笑と溜息を同時に吐き出す。
聞こえてくる訪問者の声と名前には、覚えがあった。
何せ出会ったのはつい先日。その名前を見たのは、つい先程。

「……ああ、構わないよ。入ってきなさい」

ベッドから声をかければ、その声はドア横に設置されたインターホンへと出力されて少年へと伝わるだろうか。
促される様に少年が入室すれば、彼を出迎えるのは病室とは思えない程の豪奢な部屋。
治療に全く必要ないであろう調度品や絵画。応接間などの設備が揃う広々とした病室で、巨大なベッドに横たわる己が出迎えるだろうか。

レオ > 「失礼します」

そんな短い言葉の後、言葉で頭に浮かんだ青年が入ってくる。
手には花。フラワーアレンジメントと言われる類のもの。
見舞いの品だろう。

「お見舞いに何がいいのか分からなくて…調子は、どうですか?」

そう言いながら、空いてる場所に花を置く。
オレンジの、ガーベラの花。
花言葉は知らない。お見舞い用にといわれて、勧められたのを買ったから。

神代理央 >  
「いや、見舞いに来てくれるだけでも嬉しいよ。
何せ入院中は仕事も出来なくてな。仕事が出来なくなると暇、というのも我ながら考え物だが」

よいしょ、とベッドから身を起こして彼を出迎える。
包帯を巻かれ、点滴を繋がれた儘では起き上がるのも億劫なのがもどかしい。

「可もなく不可もなく、という程度だ。ただ、食事を取れないのは辛いな。こうなりたくなければ、任務中に怪我等せぬ様にすることだ。私は、悪い見本だからな?」

小さく笑いながら、見舞いの花に視線を送って目を細める。
オレンジのガーベラ。その花言葉は、己より彼に相応しいものではないだろうか。
其処に置いておいてくれ、と、ベッド脇に備えられた無駄なマホガニーのサイドデスクを指し示すだろう。

レオ >  
「…無茶してすぐに復帰、というのはしないでくださいね?
 色んな方が心配していますから…
 と、あぁ、良いですよ。そのままにしていてください」

そう言いながら、ベッドから身を起こす先輩を見て、動かないようにと諭す。
死にかけた人間だ。それもまだ1週間も経っていない。
今意識があるだけで奇跡みたいなものなのだから。
いや、意識がある所か……一歩間違えれば、普通に死んでいた。
それほどまでに濃い『死の気配』が、彼の手術中は漂っていた。

「……今日来たのは、その…報告をと思いまして。
 ちょっと、色々ありまして…今は沙羅先輩の下で仕事をさせてもらっています。
 まだ書類仕事位ですけれど……
 苦手なりに、頑張って勉強中といった感じです。」

水無月沙羅。
目の前の先輩が死の縁を彷徨っていた時、偶然出会った先輩。
どことなく気を離せない先輩だった。
神代先輩と沙羅先輩は部下と上司の間柄と言っていた。
多分それだけじゃない、というのは何となく察していた。


そして、もう一つ。

「……あと。
 色々と、事故というか……勘違いというか。
 成り行きで、落第街の違法部活生の間で”『鉄火』の代行者”なんて名前で呼ばれるようになっていたようで……
 おこがましいとは思ったのですが、一応、報告も…と」

『鉄火』の代行者。
『鉄火の支配者』の不在の間、その穴埋めとして代行者と名乗った事が切欠で呼ばれ始めた事が切欠で広まった、仰々しい通り名。
入りたての新参につけられるべき名前ではない。
だが、人の口に戸は立てられない。
広まった噂は、甘んじて受ける事にした。

…とはいえ、勝手に名を借りた形になっているのは忍びない。
今回の見舞いは、『鉄火』の本来の持ち主である彼に、その事を報告するのが目的だった。