2020/09/16 のログ
神代理央 >  
「何、無茶をするつもりはない。しかし、余り休み過ぎていてはお前も含めて、同僚諸氏に迷惑をかける事になる。
万全を期すつもりではいるが…早めに復帰しようと思っているよ。落第街の屑共を、何時までものさばらせている訳にはいかぬしな」

忠告めいた言葉に小さく苦笑いを浮かべるものの、起き上がろうとした矢先に突き刺さる鈍痛に表情を顰める。
結局、彼の言葉に甘える様に其の侭ベッドに横たわる儘。
虚勢を張るだけの体力も、食事の取れないこの躰からは失われてしまった。

「…丁度昨日見舞いに来てくれた時に、聞いている。
アイツも面倒見の良い女だ。分からない事があれば、先輩を頼って仕事を覚えていくと良い。
とはいえ、学年的には同級生なのだろう?あまり肩肘を張らず、友人としても彼女と仲良くしてやって欲しい」

彼から告げられる恋人の名に、痛みに歪んでいた表情はほんの少し穏やかなものになる。
それでも、仕事の話であれば向けるのは『水無月沙羅』の上司としての顔。彼女を頼り、仲良くして欲しいと、穏やかな表情で告げるだろうか。


さて、神妙な顔をしてもう一つ、と告げる彼を何事かと眺めていたが。
紡がれた言葉には、クスリと可笑しそうな笑みを浮かべて。

「――ああ、知っている。報告書が上がっていたからな。
報告書を待たずとも、既に落第街の界隈で噂になっているらしい、と。私に取り入ろうとする連中からメールが来ていたよ」

「二つ名等、別に私個人の持ち物という訳では無い。まして『鉄火の支配者』など、私自身が名乗りを上げた異名ですらない。
断りを入れる必要等無い。好きに使うと良い。
ただ――」

僅かに瞳を細め、じっと彼を見つめる。
その視線の色は『レオ・スプリッグス・ウイットフォード』という少年を見定める様なモノ。

「自惚れ、と笑ってくれても構わぬが。
『鉄火』の名はそれ相応に重い名だ。
落第街に。違反組織に。違反生徒に。
恐れ、蔑まれ、傅かれ、畏怖を与える名で無ければならない。
少なくとも私は、そう在る様に任務に当たってきたし、そうなる様な仕事ばかりこなしてきた」

静かに紡がれる言葉。
『鉄火の支配者』から『鉄火の代行者』へと向ける言葉。

「その名は、お前に平穏を与えない。
その名は、時に理不尽な暴力がお前に訪れる。
その名は、常に死の匂いを纏わせなければならない」

同じ風紀委員であった殺し屋――『浅野秀久』に狙われた事も、つい最近の事。
風紀委員として"目立つ"という事は、そう言う事だと。

「――その覚悟が、お前にあるのかね?レオ。
レオ・スプリッグス・ウイットフォード」

レオ >  
「――――慣れていますから」

覚悟、を問われ短く返す。
慣れている。
理不尽な暴力。
死の匂い。
身に余る肩書。

それらを背負う『覚悟』を問われた青年が発した返答は、ひどく、短く、淡々とした言葉だった。
ほんの一節の言葉。
迷う事もなく返した言葉。

覚悟でもなんでもない。ただただ、それに『慣れている』とだけ返した。

「……だから、神代先輩は心配せずに休んでいてください。
 沙羅先輩が…心配していましたよ?
 貴方の無事を聞いてから、ずっと泣いていました。
 『よかった』って。
 1日中待って、仕事帰りで…疲れてたろうに」

小さく、微笑んだ。

彼女はずっと、貴方が死なない事を願っていた。
酷く怯える心を、必死に押さえつけて。
自分と話す時でさえ、心はずっと軋んでいたんだと思う。
それでも、気丈に。
待つしかできない、祈るしか出来ない状態で続けたそれは、想像を絶するものだろう。

だからこそ、この先輩には言っておかなければならないと思った。
そして、聞いておこうと思った。一つの……思うところ。
感じた事。

「神代先輩、一つ…お伺いしたい事があるんですけれども、いいですか?」

神代理央 >  
「――――そうか。ならば、何も言うまい。
ただ一つだけ。"殺される"というのは暴力に限らない。
社会的に、精神的に。お前と言う『個』を殺されるかもしれない事も、ある。
生き乍ら殺される事に、備えておくのも悪くはない。
――その辺りは、月夜見辺りにでもアドバイスを貰うと良い。アイツは、多分そういう手合いの心得に詳しい筈だ」

慣れている、と告げる少年をじっと見つめた後。
小さく息を吐き出して、その言葉に頷くのだろうか。
ついでの様に紡いだ"アドバイス"は、己が陥りかけた事案を元にしたもの。忠言を求める相手として告げた名は監視対象の女のものであるが――まあ、構わないだろう。
多分。きっと。恐らく。
いや、駄目かも。大丈夫じゃないかも。

「……休み慣れていないものでな。
何時も『休め』と言われるのだが、仕事をしていなくては落ち着かぬ性分。我ながら困ったものだとは思っているのだが。
…………そうか。沙羅が、泣いていたか。そう、か」

昨日、彼女は己の前では泣かなかった。
どれ程心配をかけたのか。どれ程、彼女の心に傷を負わせてしまったのか。
それが分からぬ訳では無い。分かった上でそれでも。鉄火場に立つのが己なのだから、笑う事も出来ない。
小さく微笑む彼に向けるのは、僅かな苦悩の灯った溜息だったのだろう。


「……何かな?私に答えられる事であれば何でも答えよう。
気兼ねする事は無い。どうせ此の病室にいるのは、私とお前だけなのだから」

レオ >  
「―――そう、ですね。
 月夜見先輩にはこの前にもお世話になりましたから。
 頼りにする…かもしれません。」

そもそも―――
自分の”我儘”を、吐露した相手だ。
願望ですらない、願望にすらならない”我儘”を。
あんな風に、誰かに話すだなんて……思いもしなかった。

「…じゃあ、えっと」

ため息を吐いた後に、伺い立てを許されれば。
思い浮かべるのは、一人の少女。
同い年の先輩。目の前の先輩の、ため息の理由。



―――出会った時から、あの人からは独特な気配が漂っていた。
覚えのある気配。
何度も見、聞き、あるいは香り、感じた気配。






「――――沙羅先輩は、不死ですよね?」

――――不死の者は、独特な死の気配を纏っている。
死の傍にいるのに、死から遠い。
常に死地にいるかのように濃く、それでいて他人事のようにその気配が触れ合わない。
故に会えば…その気配で、感じるのだ。

神代理央 >  
「お前を前線職に推薦したのも月夜見だったものな。
アレはアレで面倒見の良い女だ。鵜呑みにしろとは謂わぬが、頼りにすると良い」

そう言えば、生活委員会を病院送りにしたとか何とか。
まだ報告書を精査していないから何とも言い難いのだが――
まあそれでも。同じ風紀委員であり後輩である彼になら、気前よく面倒を見てくれるだろう。見て欲しい。見て下さい。


さて、暫しの沈黙の後に彼が告げた言葉は彼女の異能――或いは『体質』についてのもの。
死から最も遠い存在。死という安寧から遠ざけられた者達。

「……ああ、そうだな。彼女の異能は『不死』と言うに値するものだ。
勿論、その能力には様々な制約や代償がある。それでも彼女は…少なくとも、風紀委員会に提出された資料の通り。
不死、と呼べる存在だろう」

こくり、と小さく頷いて彼の言葉を肯定する。
その能力の行使に多大な代償を支払っているとはいえ――水無月沙羅は、己の恋人は、不死で有る事に変わりは無い。
それを否定する事もなく、訥々とした口調で言葉を返すだろう。

レオ >  
「‥‥なら」

そうだ、と言われて言葉を続ける。

…あぁ、今言うべきなのだろうか。
こんな言葉、多分、病人に言うべきではない。





でも…今言うのが、沙羅先輩の苦しみを、一番理解すると思うから。

レオ >   
 
 
 

『神代先輩が死んだら、沙羅先輩は…僕が殺しても構わないでしょうか?』
 
 
 
 

神代理央 >  
彼の言葉を聞いて、ゆっくりと瞳を閉じる。
ベッドに深く身を預けた儘。瞳を閉じた儘。
ゆっくりと、深い吐息を吐き出した。

そして、ゆるゆると瞳を開く。
開かれた深紅の瞳が、彼の金色の瞳をじっと見つめる。
そうして、開かれた唇から零れる言葉は――

神代理央 >  
 
 
「駄目だ。それは、許さない」
 
 
 

神代理央 >  
穏やかな表情で。穏やかな声色で。穏やかな笑みで。
彼の言葉を、否定した。
それ以上、何も言わない。彼が次の言葉を紡ぐまで、答えは告げたと言わんばかりに再び口を閉じる。

レオ >  
「――――なら」

今から言うのは、自分が言っていい言葉じゃない。
これは呪いだ。
自分が受けた呪いと同じ呪いをかける。
自分が背負った苦しみを、他者に与える。
言った本人も、受け取った相手も、業を背負う。

でも、やらないといけない。
己の砕けた心をさらにすりつぶす。
それでもやる。

砕けた。逃げた。
もう、”それ”へと自ら向かう場所には、いない。
でも、”出会った”
”出会ったら、やるしかない”
心がどうなどという話は関係ない。
そうしなければならないから。


「彼女を、沙羅先輩を殺されたくないのなら……生きてくださいね。
 じゃないと、殺します。
 彼女が苦しみ続けないように、しっかり殺します。
 僕にはそれが出来ます。だから、やります。



 貴方が死んだら、沙羅先輩を、殺します。」

じっと目を見て、告げる。
いつもの笑みはない。
”絶対にやる”という、意思表示。


濁った金色の目が、刺すように赤い瞳の青年を見据える。

神代理央 >  
 
 
「く…ハハハ!ハハハハハハハハ!」
 
 
 

神代理央 >  
笑った。
己の瞳をじっと見つめ、強い意志の籠った瞳で言葉を紡ぐ彼に。
高らかに笑った。

「……っ…ああ、クソ。笑うと傷に響く…厄介なものだ。笑うという人間らしい行為ですら、まともに行えぬとは」

と、忌々し気に表情を歪めて舌打ち。
さて、と気を取り直したかの様に、改めて彼に向き直る。

「良いか、レオ。
お前のその言葉と決意は嬉しく思う。私の事も、沙羅の事も。
お前なりに気遣ってくれたのだろう。
お前なりに、考えてくれた上での言葉だったのだろう」

痛む傷口に少し表情を歪めつつ、それでも浮かべるのは尊大な笑み。
先輩としてではなく、鉄火の支配者としてではなく。
『神代理央』として『レオ・スプリッグス・ウイットフォード』と相対する。

「だがそれは――私の望むところではない。
先ず、私の生によってアイツの死が縛られる事を私は望まない。
私が死んだら沙羅を殺す?冗談を言うな。たかが私程度の生に、アイツの生死を乗せられるものかね。
それを沙羅が望んだとしても。死を望んだとしても。
沙羅には生きて貰う。幸せになるその日まで」

「だから、お前に沙羅は殺させないよ。
お前に望むのは、私が死んだとして、その後アイツを幸せにして欲しい。それだけ。
生きた儘、人間らしく、幸せになれる様に、手助けして欲しい。
それだけだ」

「だから、私が死んだら沙羅を殺すというのなら――そうだな。
先にお前を殺してやるよ。レオ」


それは、彼とは違うベクトルの"呪縛"
『幸せになるまで死なせない』
『それを阻害する者は殺す』
己の命すら盤上の駒であり賭け金。
理想を求め続ける様に教育され、生きて来たからこそ。
彼とは違うベクトルに、己は歪んでしまっている。

「………お前は強い。戦闘面においては勿論のこと、その言葉を私に告げようと思うだけの意志の強さを持っている。
だから、お前になら言える。沙羅が幸せになる手助けをしてくれと。
――…後輩を頼りにする様では、鉄火の支配者など大層な名前を語るに値しないかも知れないがね」

そう締め括って、自嘲する様に唇を歪めた。

レオ >  
「――――…」

笑う先輩と裏腹に、目を伏せ、黙りこむ。
半分は分かっていた事。言っても利かぬ者。
己と同じ、壊れ者。
それは、分かっていた。
でも言う必要があった。
続ける必要があった。

言葉を続けようとする口が震える。
それまで綴った言葉は、そしてその先の言葉は。
忘れぬ悪夢を鮮明に思い出しながら、それを自分に刻み付ける行為に等しいのだから。

「―――その言葉は、余りに酷ですよ。
 貴方は、不死を舐めすぎている。それに…



 
 僕があの人を幸せにすることは、出来ません。」

神代理央 >  
「酷、というか。であれば、その汚名は甘んじて引き受けよう。
不死を舐めている、というのは少し語弊があるかな。
私はな、レオ。そもそも『不死』など存在し得ぬと思っている。
超常の再生能力。肉体の死をも否定する異能や魔術。
だがそれは結局――死に難いだけだ。いや、『死』という言葉が、認識を惑わせる」

「どんなものにも、『終わり』は必ず訪れる。
神すら死に絶え、我々が住まう此の星にも、太陽にすら寿命があると言われているのに。
何故矮小な生命体が、終わりを迎えられぬと思うのかね」

死への信仰――という訳ではない。
彼に向ける言葉は、半ば確信を得たかの様なものでもある。

――それは、己の人生経験に寄るものではなく、己の内側から語り掛け、滲み出る様な言葉であったのだが。今はまだ、その自覚は無い。

「……だから、何れ迎える終わりの時。其処に至る迄が幸せであったと沙羅には思っていて欲しい。
お前が幸せに出来ぬ、というならそれでも構わない。
それを強く求める訳ではないからな」

終わりを迎えるから。死は――終わりは誰にでも訪れるから。
だから、その時を穏やかに過ごせるようにと願うのだ。
こんな融通の利かない自分を好きだと言ってくれた彼女へ願うのは、ただ幸せであって欲しいという、それだけの事。

レオ >  
「――――から」

言葉が震える。
握る手に力が入る。





多分これは、”怒り”だ。

「それが…、酷だと、言うんですよ」

ぼろぼろと、涙が零れた。
うつむいた瞳から溢れたそれは、頬を伝わず、ズボンを濡らす。

レオ >  
「…断言、します。
 貴方がそう考える限り、あの人は……
 沙羅先輩は、幸せに、なりません。

 今…確実に、あの人は、不幸に…苦しみに、近づいてます。
 あの人は、気丈な人だから…多分、それを貴方に、隠すけど。
 でも……絶対に、進んでいます。

 僕は貴方の、『鉄火の支配者』っていう……『力』の部分の代わりしか、出来ません。
 だから……」

うつむいて、涙を溢しながら言葉を綴る。
涙を零れるのに、頭はしっかりと働く。
泣いてる理由が分かるかもしれない。
止める方法は…分からない。

「…今日は、もう帰ります。
 ……失礼します」

そういって、立ち上がる。袖で涙を拭って。一例をして…
そしてそのまま、立ち去るだろう。

神代理央 >  
「――……よく、言われるよ。
ああ、そうだな。良く、言われる」

深い溜息と共に、涙を流す彼を静かに見つめていた。
己の考えが変わらぬ限り、彼女は幸せになれぬのだと。
ならば己には、彼女を幸せにすることは出来ないのだろうか。
変わる事は、出来るのだろうか。

「………お前が泣いてどうする、レオ。
感受性が豊かなのは良い事ではあるが、此処で泣かれては私が悪者の様ではないか」

まあ実際、悪者なのだろうが。
小さく苦笑いを浮かべれば、立ち上がって一礼する彼を見上げて。

「……ああ。見舞いに来てくれて、有難う。
沙羅を、宜しくな」

彼を見送って、その背中に己でも驚く程優しい声色で声を投げかけて。
深く、ベッドに身を横たえた。

レオ > 「…‥‥はい」

背を向け、扉に手をかけて。

”沙羅を宜しく”
その言葉に静かに返事をして、そのまま…立ち去る。

ご案内:「常世学園付属常世総合病院 VIP個室」からレオさんが去りました。
神代理央 >  
 
 
疵口が痛む。
再生途中の躰が、内臓が。熱を以て、己を侵食する。


「………分かっている。分かっているさ。それでも、それでも俺は」


「『鉄火の支配者』なのだから」


それは、未だ己を蝕む呪縛。
『ブロウ・ノーティス』により、死の直前まで追い詰められた己が、何故死を免れるに至ったのか。

神代理央 >  
 
 
『――器に死なれては、困るからな?』
 
 
 

神代理央 >  
内面から響く声にも耳を塞いで。 
何も分からぬ儘、鈍く続く鈍痛から逃れる様に。
少年は、静かに意識を手放した。

後に残ったのは、鮮やかに病室を彩るオレンジ色のガーベラと。
花瓶に活けられた夏椿から漂う香りが交じり合う香りだけ――

ご案内:「常世学園付属常世総合病院 VIP個室」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「常世学園付属常世総合病院 VIP個室」に神代理央さんが現れました。
神代理央 >  
入院4日目。
今日から流動食が食べられる様になった。
味のついた食べ物を口から摂取出来るというのは何と素晴らしい事だろうか。
体内の再生も順調に進んでいるらしい。
この調子なら、来週くらいには退院出来るだろうか。

「……大金を積んだ甲斐があったというものか。こればかりは、生まれと実家に感謝すべきかも知れないな」

普段あれほど忌み嫌っていても、結局最後に頼ってしまうのは皮肉というか何というか。
自嘲する様な笑みを零しながら、今日も今日とて端末で報告書を眺めるばかり。
入院、というのは暇を持て余す事この上ない。

ご案内:「常世学園付属常世総合病院 VIP個室」に園刃 華霧さんが現れました。
園刃 華霧 >  
この間、見舞いに行った流れで本当はいくつもりだったのだけれど。
ちょっとまあ予想外に色々ありすぎて、こっちにはいけなかった。

そういえば、前にも行けなかったな、と思うと流石に今度も行かないのはどうかな、と少し気になる。
そんなわけでヤツの病室前……なんだが

「……なンか、入り口かラして金持ち臭しナいか、此処?」

うげぇ、という顔を思わずしてしまう。
なんというか、こういうところの感覚、やっぱりこいつボンボンだな……
さて……

まずは、あえてノックから

コンコン

神代理央 >  
鳴り響くノックの音。
はて、今日の面会予定は片付けた筈だがと思案しながら病院の端末を起動する。
ひとしきりスクロールした後――最後に一つ、追加されていた項目に気が付く。
その名前を見れば、へえ、と意外そうな表情を浮かべてしまうのは致し方ない事だろうか。

「……どうぞ。鍵はかかっていないよ」

声を投げかければ、それは其の侭外に設置されたインターホンへ出力されて彼女の元へ響くだろうか。
ビバ金持ち個室。ビバ最先端技術。

園刃 華霧 >  
「失礼します」

静かに扉を開けて、するりと中に入る。
中には、病院のベッドの体を超えてはいないが明らかに造りから違う代物が鎮座していた。
そして、そこに収まっている部屋の主。

血色は思ったよりはいいだろうか。


「こんにちは。酷いお怪我だったと聞きましたけれど、お加減はいかがですか?」


涼やかで澄んだ声が病室に流れた。

神代理央 >  
 
 
「お前誰だ」

「お前、誰だ」
 
 

神代理央 >  
思わず2回聞いてしまった。
訪問者の名前のリストと彼女をを5回程交互に見比べた後、もう一度まじまじと彼女を見つめる。

「…………いや、まあ、はい。今日から流動食が食べられる様になりました」

真顔でこくこくと頷く。

園刃 華霧 >  
「園刃華霧だヨ?」

純粋無垢、といった笑みからへらり、とした笑いになる。
ドッキリ成功、イェイ

「そッカ。腹ヤられタって話ダったシ、だいぶマシにナったんダな」

とことことベッドのそばに寄って、適当に椅子を寄せてよいしょ、と座る。

「っテ。なーンだヨ、りおちー。
 こンなトコまデ仕事シてんノ? ばッカじゃなイの?」

呆れたような声をあげる。

神代理央 >  
「……怪我人を驚かせるな。何か悪い物でも食べたか、頭にトラックでもぶつかったのかと思ったぞ」

いや本当に。
貞淑にしてればそれなりに可愛らしく見えなくもないのか、と今更ながら感想が浮かぶ。本来浮かぶべき時間から20秒くらい遅れてやってきた感想。

「おかげさまでな。崇めるべきは常世島の医療技術と言うべきか」

小さく肩を竦めて笑う。
今日まで栄養を全て点滴で補っていた為、唯でさえ貧弱で華奢な身体付きが更に細くなってしまった。
それでも顔色は悪くはない。彼女の冗談にも笑って返せる程度には、体調は回復している様子。

「…何方かと言うと、仕事しかする事が無いというか…。
まあ、本格的な事務処理は担当医に止められているから、報告書を眺めているくらいしか出来ないがね」

苦笑いを一つ零しつつ、よいしょ、と端末を片付ける。
巨大なベッドに横たわっている身体を、僅かに表情を顰めながら起こして彼女と向き合うだろうか。

園刃 華霧 >  
「あノなー……そーユーとこダぞ、りおちー……」

はぁ、とため息一つ。
そういえば、以前性質はちょっと違うけれど似たような人物を見た覚えがある。
なんでそんな事を思い出したんだろう、と思ったんだが……ああ、そうか。
病院でたまたま名前を見かけたんだっけ……

まだ寝込んでるようなら、そっちにも見舞いに行ってやるか……

「仕事以外に、スること、作れヨほんと……っていウか。
 時間アんだカら、ソれこソやっテおいテ損ないコトあんダけどサー」

もう、ほんとこの仕事人間は……悪いやつじゃないんだけどさ。


「そレは、そレとシて。
 今回の仕事っテさ。なーンか、降って湧いた感じダったヨな。
 メンバーもなンかヘンテコだったシ……
 ほんとノとこ、何がアったのサ?」

あまりにもあまりな状態で、細かいことは向こうには聞けなかった。
であれば、こっちに聞いてみたほうがいいだろう。
それに……ちょっと引っかかることもある。

神代理央 >  
「…何だか、お前には良く『そーユーとこダぞ』って言われる気がするな。もっとこう、抽象的じゃない感じでコメントして欲しいんだが…」

ちょっとだけ彼女の口調を真似しながら、溜息を吐き出す彼女に困った様な笑顔を一つ。
因みに、流石に声色は真似しなかった。きっと似合わない。

「とはいえ、こんな体では出来る事などたかが知れているしなあ。
読書や映画鑑賞くらいしか、正直思いつかぬし」

こういう時、無趣味であるのは暇を持て余す。
どうしたものかな、と肩を竦めてみせるだろう。


さて、そんな他愛のない話の後。
彼女から投げかけられた言葉に、少し考え込む様な素振り。

「あー…まあ私も山本も報告書を出せる状態では無かったしな。
事情聴取もまだ来ていないし…」

「何があったのか、と聞かれると…そうだな。
切っ掛けは、異邦人のシスターが行方不明になった事からになるんだが…。
今上がっている報告書以外の事で、何か聞いて欲しい事があれば聞いて貰った方が早いかも知れぬ」

何処から話したものかな、と悩む様な素振りを見せた後。
わからないことがあれば何でも答えるぞ、と首を傾げて見せるだろう。

園刃 華霧 >  
「ァ―……イや、そーダな。分かってナいから、ワかれってつもりでハッキリ言ってなかったケど。
 なら、ちゃンと言うカ。とイうか、言わないと分からナそーダし。
 じゃあまず、一つ目は。とりあえず、言いたイことはドンどん言ってイこーナ」

そうだよなあ……たしかにそうだ。
うん、よくわかった。

「でさー。次はその、仕事以外ロくに思いつカないって辺り。
 余裕っテーのカな。そうイうの、足りナいと思う。
 まあ、それ以前に病院に居るンだから、素直に休めって話だケどさ。」

正直に思ったことを話していこう

「りおちーさー、読書トか、映画鑑賞以外に、ナんかスること思いツかん?」


余裕がないと人間いいことはない。
自分も経験あるからよく分かる。


「ァー……エイジも、あンなだったシな……
 とりアえず、ダ。シスターが行方不明、からナんでりおちーが話に噛んでイったか、カな?」

引っかかった一つ目。だからこそ聞いておきたいこと。

神代理央 >  
「………言いたい事、か。此れでも、随分我儘ばかり言っているとは思うんだが…そうか、そうだな。
まさか、お前からそんな事を言われるとは思っていなかったが」

言いたい事を言え。
それは、一時期己が不安定だった頃に投げかけられた言葉。
まさか同僚である彼女からもそんな事を言われるとは思っていなかったが――その言葉は素直に受け取って、こくりと頷くだろう。

「……む、それは…うん…自覚はあるんだけど。
他にする事…する事………すまない、今はパッと思い浮かばない、な」

仕事だけではなく、読書や映画鑑賞に出来る事。
暫し悩んでみたが、思い当たる事は何も無い。
仕事の合間に仕事をする事が休息になりつつあるかもしれない。


「そうだな…。行方不明になった『シスター・マルレーネ』は、落第街で施療院を。宗教地区で修道院を運営している。
私や山本も其処に世話になった事があってな。元々、シスターとは顔馴染みだったという前提条件を置いた上で」

其処で一度言葉を区切り、ひと呼吸。

「そのシスターが行方不明だと、シスターを知る者から私に連絡が入った。とはいえ、シスターは異邦人であり、放浪癖…というよりも、常世島各地を探索する様な健啖家。
施療院や修道院に一日二日戻らなかっただけでは、事件性があるとは判断しきれなかった」

ふう、と再び言葉を区切ると、ベッドサイドの端末を無造作に操作する。
すると、サイドテーブルがせり上がり、中から現れたのは氷水の入ったグラスが二つ。

「やっと水も飲めるようになってな。良ければどうだ。美味いぞ」

彼女にそう促しながら、渇いた喉を癒す様にグラスを傾ける。

園刃 華霧 >   
「ン、今みタいにサ。わかラんから言えっテ感じノな。
 そウいうのモ含めて、ナ?」

どうにも真面目な連中って、こういう時に困る。
まあ、言っていくしか無いんだろうけれど。

「いや、謝ることは無いンだけド……
 ンー……趣味っテーか。なンか好きナもん、ナいの?
 あ、サラ、とかいウ砂糖アンサーも大歓迎ダよ。」

けら、とちょっと笑うが目は割と真面目であった。
こういうのは、意外と話せば浮かぶこともあったり、
自分で気づいてなかったりとか色々あるし。

どうセ、そういうコト話すようナ機会もなイだろうし、
せっかくだから話してやろう


そして、語られる事件の始まり。
静かに聞いて

「――事件性があるとは判断しきれなかった」

へぇ?と思いながら、復唱する。
差し出された水は、遠慮なく口にしておく

……うまい。
この金持ちめ

神代理央 >  
「…ああ、成程。『分からないから言ってくれ』というのも我儘の部類に入るのか…。
確かに、そういう所は遠慮していた、かもしれないな」

己の敵の言葉は聞くに能わず。
己の味方には常に尊大な存在として在り続けた。
だから、彼女の告げた些細な言葉にも。少しきょとんとした様な表情を浮かべた後、納得した様に頷くのだろう。
納得してしまうあたり、色々と駄目なのかもしれないが。

「好きなもの。
甘い物。車。大きな乗り物。大きな建物。闘争。仕事。沙羅。
…………こういう感じでいいのか?」

取り敢えず思い浮かんだ単語を羅列しただけ、と言う様な口調。
こういう感じで良いのだろうかと問い掛ける様には、未だそれが何かに繋がるのかと疑念を抱いている様子が見て取れるだろうか。


「野外活動に精力的な異邦人のシスターが、数日間家に戻りませんでした。――此れでは、風紀委員会として動くに値する一件では無い。私も最初は、青垣山や転移荒野にでも行っているんじゃないかと思ったくらいだ」

「仮に誘拐だのなんだのといった犯罪に巻き込まれていたとして。
現場に何も証拠が無かった。施療院も修道院も綺麗なものだったよ。
私も修道院に直接赴いたが…本当に、犯罪の痕跡は何も無かった」

「どうしたものかと思い悩んでいた時に――ディープブルーの情報が、委員会に上がってきた。
一度壊滅した違反組織が再び活動している。そして、活動時期はシスターが行方不明になった時期と相似している」

「其処に狙いを絞りつつ、いくつかの違反組織を沙羅や協力者に調べて貰っていた。その結果が――まあ、この有様だ。
シスターは無事に救出出来たがね」

氷水で喉を潤し、水滴を纏い始めたグラスをテーブルに置いて。
大雑把な事件の顛末を、彼女に語って聞かせるだろうか。

園刃 華霧 >  
「ァー、なんテったッケ。相互理解ってノは、言いタいこと言わンと始まらンらしいゾ?
 そこガ大変ラしいケどさ。」

実際、目の前の少年は割とそういうところが薄い。
そしておそらく、自分含めた周りも割とそうだろう。
ちょっと思うところあって、そこに触れていこうと思った。

「……ウン。甘いモの、車、辺りカらカ?
 けド、今回は甘いもの、ヲ選んで……タトえばサ。
 常世の甘いモン、調べタりとカ……そウいうの、してル?」

車は正直、アタシがわからんしね。
あと、闘争とか仕事はスルーだこんなもん!


「そッカ、世話になったシスターのことヲ。
 『事件性があるとは判断しきれなかった』ノに、探しテまわって違反部活まデたどリついタのナ。
 なールほどナ。」

にっと笑う。

「しっかり、『神代理央』、でキてんじゃン。
 あン時とは大違いダ。悪くナい」

神代理央 >  
「…まさかお前に、相互理解を説かれる事になるとはな…。
とはいえ、それはお前の言う通り非常に難しい事だろうさ。
実の家族ですら、本当に理解し合っているとは言い難い者も多い事であるし」

家族云々は、何も自分の事に限らない。
結局のところ、家族とはいえ己とは違う『他人』でしかないのだから。

「……自分から調べたりとかはしてない、かな。
そういう店は、人づてに聞けば気にはするけど…」

サラっと仕事がスルーされた事にちょっとしょんぼりしながらも。
そう言われれば、自分から積極的に調べた事は無いな、と思い返していたり。


「………そりゃあ、一晩とはいえ入院して看病して貰ったし、多少なりとも恩義を感じていたし…」

やはり己らしからぬ行動だっただろうか、と眉尻を下げかけた――のだが。

「……『神代理央』が出来ている?」

きょとん、とした様な表情で。
不思議そうな顔と瞳で、彼女を見つめて首を傾げているだろうか。