2020/09/20 のログ
レイチェル >  
「ああ、そうさ。
 オレ達はシステムとしての側面を持っているし、それを保つ必要がある。
 
 こんなシステムが必要でない世界。
 誰もが互いに気遣いあえる世界。
 
 そんな理想……いや、幻想のような世界だったら。
 オレ達はどれだけ幸せになれてただろうかな」

そんなものは、どこまでも虚しい夢物語だ。
ちゃちで、幼稚で、甘ったるい御伽噺だ。
現実は飲み込みたくないくらいに、甘くない。
でも、飲み込まなければ前に進めない。

 「でも、現実はそうじゃねぇ。
 風紀は十人十色の想いを持った『個』の集まりだが、
 紛れもなくこの島の組織……システムの一つだ。
 その在り方を保つ為の動きに関して、
 お前に助けられているところは、間違いなくある」

再度、『鉄火の支配者』の信条を肯定する。
そして飲み込んだ上で、もう一度告げる。
それは、レイチェルにとって大切なことで、
どうしても伝えておきたいことだったから。

「でも、忘れないで欲しい。
 この世界には、
 『鉄火の支配者』というシステムも、
 『神代 理央』という個人も、
 そのどちらも必要なんだってこと」

風紀の仕事に打ち込んでばかりの自分は、
『レイチェル・ラムレイ』としての在り方を見失っていた。
しかし、『レイチェル・ラムレイ』を必要としていた者達は
確かに居たのだ、と。彼女はそう、静かに語った。


「一人でシステムを背負うこたねぇ。
 皆で、少しずつ背負っていけば良いことなんだ。
 組織の中に在ることの強さは、分け合えるってことだ。
 ……オレも最近まで、見失ってたけどな。

 勿論、簡単なことじゃねぇ。
 進む中で、新たな痛みだって生んじまうかもな。
 でも、それでも――」
 
拳を握り、目を細めるレイチェルは、理央の瞳をじっと
見つめる。それは決して冷たく責めるような視線ではなく、
目の前の彼の在り方を受容するあたたかみを湛えた視線だ。
そしてその上で、レイチェルは改めて語るのだ。

レイチェル >  
 
「――きっと、向き合っていく価値がある。
 『神代 理央』には、それだけの価値がある。
 オレは、『神代 理央』の価値を信じてる」


誰かに、想われている。
そんなお前ならきっと、その価値がある筈だから、と。
レイチェルはそう、正面から口にした。
これこそが、彼――神代 理央という後輩に必ず伝えたいと思った、
レイチェルの本心《ことば》だった。

神代理央 >  
己を射抜く様な、彼女の視線。
『鉄火の支配者』として成り立つ己を否定するものではなく、それを是としたうえで告げられる、言葉。

「……『鉄火の支配者』ではなく『神代理央』に価値がある、と?
そして、その価値を貴女が。
『レイチェル・ラムレイ』が信じてくれるというのですか」

『鉄火の支配者』と言う名は、少なからず落第街に影響を及ぼす名である、と皆が言ってくれる。
己自身に未だその自覚は無くとも、その名が与える影響を評価して貰えて、いる。
では『神代理央』はどうなのか。
この少年から『鉄火の支配者』を取り除いた時、果たして其処に残るものは一体何なのか。そして其処に、価値はあるのか。

そういった悩みを、彼女は全て肯定した上で。
『神代理央』にも価値がある、と自信すら覗かせる様な言葉で告げた。
『時空圧壊』として名を馳せる彼女。
そんな彼女が。いや、そんな彼女だからこそ。
己が悩み、煩悶する事へ、一つの答えを指し示した。

「…………誰かに想われる。誰かの為にある。
それが、価値の証。私自身の価値の証明。
――…不思議なものですね。私は決して良い恋人ではないと自覚はあるのに、それでも私の事を想ってくれるアイツの存在が、私自身を構築するものになり得ているなんて」

「傷付け、苦悩させてばかりだというのに。
レイチェル先輩が信じる私は、そんなものでしかないというのに」

ぽすん、と。起こしていた身をベッドに預ける。
彼女に向けていた視線は一瞬外れるが、直ぐにベッドに横たわった儘、じっと彼女に視線が向けられる事に成る。

「………先輩が、本当に真剣に私の事を心配してくれているのは、良く分かるんです。
それに、先輩の言わんとする事も心から理解出来る。
そうならなければと。そうあるべきだと、私も思います」

「だから、先輩の言葉を決して否定したりしません。
それに、先輩がぶつけてくれた想いから、逃げたりなんかしません」

其処で、小さく深呼吸して吐息を整えて――


「…ただ、分からないだけなんです。
役割も資産も異能も魔術も。
何もかも失ったとして、それでも私には果たして『価値』があるのか」

「レイチェル先輩が信じる『神代理央』に其処までの価値があるものかどうか――本当にただ、分からないだけなんです」

そう告げる言葉には、意志の力は感じられない。
弱々しさと自信の無さ。
あの『レイチェル・ラムレイ』に認められて尚、胸につっかえた儘の呪縛。

「……らしくないことを。先輩の言葉に疑念を抱く様な事を言いました。
そんなつもりじゃ、なかったんですけど……」

真直ぐな想いをぶつけられたからこその、揺れ動く己の感情。
それを処理するには。或いは、本当の意味で理解するにはきっと時間がかかる。
それを自覚しているからこその弱気を隠す事もなく、静かに。或いは、感情の色が複雑に交じり合う瞳で。
ただ、彼女を見つめている。

レイチェル >  
「ああ、その通りだ。
 お前を遠くからでも見てきたレイチェル・ラムレイが……
 風紀委員の同僚達が、戦友が。
 お前を見舞いに来たような奴らが。
 そして誰よりも水無月沙羅って奴が、お前をきっと想っている」

温泉で見かけた沙羅の言葉や顔を、レイチェルは思い出す。
本当に、大切に想っているのだろうことは、少し顔を合わせた
だけでも十分に伝わってきた。
人を想うことの力の強さ。
レイチェル自身が今まさに、
自分の胸の内から、想いを伝えてきた人から、感じているものだ。

「だからこそ、お前には価値があるんだ。
 お前の役割や資産、異能や魔術の価値……そんなものに
 縛られない、『神代 理央』の価値を信じている奴らが
 居るってことを、忘れるなよ。
 お前の価値を自分で殺すことだけは、するんじゃねぇ」

手を翳《のば》すこと。
『レイチェル・ラムレイ』を、認めてくれた者達が居た。
その価値を、自身が否定してしまっていた。
理央への言葉は、そのまま自分自身の過去への戒めとなる。
そのことを十分に理解した上で、言葉を紡いでいく。
重く強く、しかし希望と信頼を以て紡いでいく。

「少なくとも、オレはお前に力がなくたって、皆のことを
 気遣おうとするお前の……『神代 理央』そのものの姿勢を
 評価するぜ。『鉄火の支配者』としての在り方『だけ』じゃない。
 『神代 理央』自身の姿勢を、ちゃんと評価しているんだ。
 そしてお前を特別な存在として考えている水無月沙羅なら、
 きっと、もっと沢山の『神代 理央』の価値を見てきているし、
 知っているし、愛しているんじゃねぇのか?」

理央の弱々しい視線をしっかりと受け止めた後。
レイチェルは、椅子から立ち上がる。
椅子を丁寧に元あった位置へ戻せば、右手を腰にやって、
ふー、と息を吐いて、どこまでも優しく、穏やかにその
複雑な感情を受け入れるかのような、そんな。

輝く太陽の如き笑顔を見せた。

その笑顔は、『受容』。

不安も、悲しみも、憎しみも。
自負も、責務も、支配者としての過去も。
そういったものを受け入れた上で見せる、
純粋な『レイチェル・ラムレイ』としての笑みだ。


「良いさ。遠慮するな、疑念を抱け。抱き続けろ。
 そしてお前自身と……『神代 理央』と向き合うんだ。
 オレが『レイチェル・ラムレイ』と向き合ったように。
 一人じゃ無理かもしれねぇ。
 でもきっと、周りの人間と一緒なら。
 
 何より、きっと『水無月沙羅』と一緒なら。
 
 向き合っていけるんじゃねぇか?
 
 オレも……大切な人が居ることに気づいて、
 自分自身の在り方を見つめ直すことができた。
 お前もきっと、時間はかかるのかもしれねぇが、
 それでもいつか、きっと――」

外套を翻し、レイチェルは最後に彼へと告げる。

レイチェル >   
 

「――神代 理央が、『神代 理央』の力で、立てる日が来る」
 
 

それはきっと一人では無理な話で、
ずっとずっと先の話なのかもしれない。

だからこそ、レイチェルは今、彼へ言葉を伝えるのみだ。
不安げな表情を見せる彼へ、気持ちを穏やかに投げかけるのみだ。

それしか、レイチェルにはできない。

ここがきっと、『先輩』の限界だ。
ここから先は、想い人が、親しい人が、きっと。

「困ったら、いつだって相談しろよ。
 オレは……いや、オレ達はいつだって見守ってるからな」

そうしてレイチェルは外套を翻す。
そのまま何もなければ、病室を去っていくことだろう。

待ってる、と。一言だけ告げながら――。

神代理央 >  
「私が私自身の力で立てる日――ですか」

彼女――『レイチェル・ラムレイ』が。
友人が。
同僚が。
そして、恋人が。
己を想ってくれていると、彼女は告げた。

役割。資産。能力。
そういった『目に見えるもの』だけではない事に価値を見出している人たちがいると、彼女は告げた。

愛しい恋人が。より多くの『神代理央』を知り、価値を見出していると彼女は告げた。

それら全てを告げて――彼女は、全てを受け入れる太陽の様に、笑った。
『時空圧壊』ではなく『レイチェル・ラムレイ』として全てを受け入れる、と言わんばかりに、笑った。


「…ああ、本当に。貴女は何処までも『時空圧壊』で、何処までも『レイチェル・ラムレイ』だ。
私が目指すべき場所で、超えるべき場所で――皆が頼りにする、頼れる先輩だ」

「……そんな先輩に言われたとあっては、私も頑張らなくてはいけませんね。
きっといつか。いつか必ず。私は『神代理央』として、立ってみせますよ。
私が、私自身の名に誇りと尊厳を持てる様に。
ただの『神代理央』を、今でも受け入れてくれている人を、裏切らない様に」

向けられた言葉に、穏やかに笑う。
急かされた訳でもない。強制された訳でもない。責められてすらいない。
『いつかそうなる日がくる』『困ったら相談しろ』
ただそれだけ。全てを受容した上で、彼女はそう告げたのだ。
それが何より、煩悶する己にとっての一つの回答であった事。
それは、己自身すらまだ気づいていなくても。

「……だから、待っていて下さい。
いつか『神代理央』として、胸を張って貴女の後に続いてみせますから。
それはきっと、難しい事かもしれませんけど」

そうして、外套を翻して立ち去る彼女を見送りながら。
その背中に、声を投げかける。


「お見舞い、有難う御座いました。
……ペロップス、大事に頂きますね」

彼女の背中に向けた、小さな笑み。
それが伝わっても伝わらなくても良い。
彼女の想いだって、此方にきちんと伝わったのだ。
彼女にだってきっと、己が抱いた想いくらいは、伝わっている筈だから。

そうして、彼女が立ち去った後の病室で。
ペロップスを大事そうに握り締めた儘、再び微睡の中に落ちていった少年の姿。
回診に訪れた看護師は、随分穏やかな寝息であることと。
その手に握り締められた三本の飴に、小さく笑ったのだとか。

ご案内:「常世学園付属常世総合病院 VIP個室」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「常世学園付属常世総合病院 VIP個室」からレイチェルさんが去りました。
ご案内:「常世学園付属常世総合病院 VIP個室」に神代理央さんが現れました。
神代理央 >  
今日から漸く。漸く固形物が食べられる様になった。
嗚呼素晴らしきは常世学園の医療体制、というべきか。
数日ぶりに食べた固形物の甘味の美味い事美味い事。
先日お見舞いで貰った『常世の月』を、少しずつ、少しずつ齧って食べ終えた。

「やはり、食物を噛んで摂取するというのは大事よな。
気持ち程度かも知れぬが、仕事も捗る事捗る事」

端末を操作し、すいすいと溜まっていた事務仕事を片付けていく。
秋のイベントに向けた警備計画の作成。
警邏部との落第街等危険エリア警邏についての打ち合わせ。
その他雑多な決済書類や報告書などなど。

光学キーボードの上を、休むことなく滑り続ける指先。
甘味を摂取して機嫌も調子も絶好調と言わんばかりに、てきぱきと仕事に励む。
その姿は、入院前よりやつれてしまった事と、首から下が包帯塗れな事を除けば、入院中の重症患者には見えないだろうか。

神代理央 >  
思えば、入院生活も今日で8日目。
こんなに入院が長引くのは初めてかも知れない。
まあぶっちゃけて言えば――退屈だ。

「…本当に、趣味とかそういうものを見つけなければならないな。
仕事が溜まっている間は、それを片付けていれば気が紛れるんだが…」

こうなってしまうと、入院中は永遠に仕事を割り振って欲しいとすら思う。
取り敢えず一息入れようと、巨大なベッドに身を沈めて溜息。

「リハビリも順調だし、退院したら警邏任務にも戻らねばならんしな…」

小さく背伸びすれば、ぱきぱきと関節が鳴る音
マッサージでも頼もうかな、などと思案顔。

ご案内:「常世学園付属常世総合病院 VIP個室」に水無月 沙羅さんが現れました。
水無月 沙羅 >  
「ならもう少し入院しててもらうくらいにこう、コキっとなるまで行っておきますか?」

にこりとした笑顔で入ってくるのは、ラ・ソレイユのケーキの箱を持っている少年の後輩で想い人だった。
少々物騒なことを言っているのは大人しくしていろという遠回しな言い方だろうか。

「少しは良くなったのかと思ってきてみたら全く。」

仕事をしようとするようものなら取り上げようという姿勢を強く全面に出した。
呆れたような声が病室に響く。

神代理央 >  
豪奢な病室に現れた恋人の姿。
普段であれば喜ばしい訪問者であるのだが――今日は。いや、今は些か都合が悪かった。
何せ、ベッドに備え付けられたテーブルには端末が鎮座し、無数に展開したディスプレイには進めている最中の仕事や資料がてんこ盛り。

「……あ-…いや、その、な?
ベッドでだらだらしているだけ、というのも退屈で…その…」

取り敢えず、進めている仕事は保存しておく。
そっと端末の電源をスリープモードにしつつ、冷や汗混じりの視線を彼女に向けるだろうか。

水無月 沙羅 >  
「知ってます? そういうものの為に今の病院にはコンピュータールームや娯楽施設って一応あるんですよ?
 それに、貴方のこの待遇なら、漫画や映画の一本や二本、頼めば持ってきてもらえそうなものですけれど。
 それこそ、退屈だから遊びに来てくれって友人に頼むとか、ね。」

ジトっとした瞳で見つめては、テーブルに置かれている資料をまとめて遠くに置く。
ゴミ箱に捨ててやろうと思ったが代えの利かないものだったら取返しもつかないので止めておいた。

「それで、他に言い訳は?」

神代理央 >  
「……あー、まあ、そうなんだが…。こう、仕事が溜まっていくのがちょっとこう…もやもやするというか…その、な?」

ジト目で見つめられては、返す言葉に力が無い。
具体的に言うと、宿題サボってゲームしているのを見つかった小学生の様。いや、全く真逆なのだが。

「……………すみませんでした」

敗北である。
完全敗北である。
素直に非を認めて、がくりと項垂れた。

水無月 沙羅 >  
「最初からそう言えば問い詰められることもないでしょうに。
 そうして嘘をついたんですかねぇ。
 この口ですか? この口ですか悪いのは。」

子供に言い聞かせる様に頬をむにむにと引っ張っては紅い瞳が覗き込んだ。

大きくため息を一つついては、

「そろそろ病院食にも飽きたかと思ってお見舞いを持ってきたんでしたけど、お仕事中なら要りませんか?」

ケーキの箱をふらふらと揺らした。
もちろん、中身がぐしゃりとつぶれないように加減をして。

端末の電源ボタンを長押ししては強制停止させ、その後にプラグも引っこ抜き。
来客用の椅子にゆっくりと座って見せた。

「こんにちわ、理央先輩。」

にっこりと仕事モード。
ご立腹である。

神代理央 >  
「……あうあう。まふぇ。ひっふぁふな。ひひいいふぁい」

待て。引っ張るな。地味に痛い。
此れだけ言いたかったのだが、彼女に頬を引っ張られて良く分からない言語になってしまった。
此れでも『鉄火の支配者』としてぶいぶい言わせている風紀委員なのである。多分。

「……お見舞い…?――……いる!」

一体何を、と彼女が揺らすケーキの箱。
その箱には良く見覚えがある。何せ、オーナー兼出資者は己自身。
絶望的なまでに甘味に餓えた己の視界に映るラ・ソレイユのケーキの箱。
条件反射で、言葉を発してしまった。

ケーキの箱に目を奪われている間に、見るも無残な終わりを迎えていく端末。上書き保存しておいてよかった。
とはいえ、それを止める術も言葉も持たず。
にっこりと微笑む彼女に、渇いた笑みをちょっとだけ浮かべて。

「は…ハハハ。来てくれて嬉しいよ……」

私、怒ってます。と言わんばかりの恋人に。
恐る恐る言葉を返してみたり。

水無月 沙羅 >  
「ふぅ……。」

こういう時の返事だけは元気が良いなと、子供を見るような眼でまた一つため息。
彼女が見舞いに来てもうれしそうな顔一つしないでおいてこれである。
そういう状況を作り出したのも自分ではあるのだが、それはそれで少々むっとするものなのだ。

「先輩の容体に合わせて、消化にいいように材料を工夫してもらいました。
 ゆっくりちゃんと噛んで食べてくださいね。」

箱を開ければ出てくるのはフルーツケーキだった。
決して大きくはないが、一人で味を楽しむには十分な量がある。
おやつ時にちょうどいいサイズで、隣には麦茶が置かれた。
コーヒーは刺激物なので今はやめておいた方がよいだろうという素人考えだが、的外れでもないだろう。

「……本当にそう思ってます?」

椅子の背もたれに身を預けて、少年にほほ笑みを向けた。

神代理央 >  
溜息吐かれた。
何か彼女を怒らせる様な事を――まあ、していたので何も言えないのだが。
ふむん?と言いたげな表情と共に、小さく首を傾げてみせるだろうか。

「……有難う。丁度今日から固形物も食べられる様になったところでな。
あ、良かったら一緒に食べないか。一人で食べるより、二人で食べる方が美味しい………と、思うんだが…」

『二人で食べた方が美味しい』と、何でそう思ったのか自分でも分からない。
兎も角、彼女と共に一時のティータイムを過ごせないかと、提案はしてみるのだが。

「……来てくれたことは、本当に嬉しく思っているよ。
恋人が見舞いに来てくれて、嬉しく思わない者などおるまい。
ただ、その。ちょっと見られるには気まずい場面だっただけで……」

隠し立てすることでもなし。
素直な感情を正直に彼女に告げるだろうか。
ちょっと気弱そうな声色ではあるが。