2020/09/30 のログ
ご案内:「月夜見邸」に月夜見 真琴さんが現れました。
月夜見 真琴 >  
住宅街の外れ、森のなかに築かれた瀟洒な邸宅。
見目も内装も凝らされた職人入魂の一作。
川のせせらぎを聞きながら、閑雲孤鶴が棲まう場所。
一階のアトリエの他に、二階にはバーカウンター付きのLDK。

同居人が出来たいまこそにぎやかな居宅だが、
子女のためと買い上げた名家の手が入るまでは、
『出る』という噂もあったらしい。

ご案内:「月夜見邸」に園刃 華霧さんが現れました。
月夜見 真琴 >  
夕食時を過ぎたころ。
此度の買い物はずいぶんな大荷物になった。
何をかといえば、私物の類を殆ど持っていなかった同居人に色々と用立てるため。
先達であり監視役としての職務、兼。

「ふふふ――ようく着こなしてくれている。
 実に選び甲斐のある有意義な買い物だった。
 おまえの部屋のクローゼットも、そろそろ満たしていこうじゃないか」

カメラ機能が動作する効果音が室内に響いた。
ビリヤードテーブルのあるいつものリビングで、同居人の装いを携帯デバイスに切り取っていく。
テーブルに置かれた買い物帰りの飲み物も、そろそろホットのキャラメルマキアートに。
透明な耐熱ホットグラスはお気に入りの品だ。
キャラメルソースで描かれたのは揃いのネコマニャンの顔。

「外気も秋風索寞の兆しあり、だ。
 ――夏はもう終わっていたな」

出会った頃は、夏の盛り。
そこからひとつの季節が流れる程度に、時間を共有した相手に、
愉快そうな甘い声のなかに、ほんの僅かな感慨を忍ばせた。

園刃 華霧 >  
「ァー……マコトぉ……まだ、カ……?」

不快というわけではない。
概ね、困惑、という気持ちに支配されている。
この同居人は、どうも自分を着せかえ人形にして喜ぶ趣味があるようだ。

まあ、それはいい。
別にいやではない。
そういうわけで、大人しく従うわけである。

「ン……そッカ。確かに、もう夏も終わったナ」

熱さもだいぶ引いてきた。
むしろ日によっては涼しいくらいだ。

思えば、出会いから短いようで長いような、そんな不思議な感覚がある。

月夜見 真琴 >  
グレンチェックのキュロットが目を引くガーリッシュな格好。
こうした活動的なものがよく似合う。
すこし子供っぽくなるのが――"らしい"気がする。
大人びたものも着こなせてしまうのは、この彼女の演技巧者ぶりを物語るようだ。
同居人は実にすばらしいモデルだった。

「ふふふ、もーすこし。
 雪兎に見繕ってもらったという服も、実によかった。
 やつがれの私服も着こなしてはくれているが、やはりおまえの服であるべきだ。
 まあ、着せたくなったらまた着せるけれど――よし、お疲れ様! もういいぞ」

満足げにデバイスの写真を眺めてから、撮影モデルに労いの言葉をかけて。
うさぎのスリッパでぽすぽすとあるいて、いつものソファセットに招く。
ふわふわとホットグラスが湯気をたてていた。
出かける用事が増えるのは、絵が浮かんでいない時。

「冬物も揃えなければ。 鍋物やシチューも作りがいがある。
 ひとつの季節をともに過ごしたわけだ。ここに来てからははじめてのことだ。
 ふふふ、なんだかんだと新鮮な気分だ」

秋は短い。すぐに寒風が吹く。
相互監視の名目で始めた、奇妙な同居生活。
ふう、とマキアートを冷ましながら。柔らかな声でといかける。

「さいきん、なにか変わったことはあったかな?」

園刃 華霧 >  
「……ふぅ」

ようやく落ち着いた。
嫌ではないが、なんというか……やはりまだ、制服以外の服を着るのはなんというか……慣れない。
そう長いわけでもないがやはりずっと着慣れていた格好だ。
それ以外の格好をすると、なんだか自分が自分ではないような……そんな気が、少しだけしてしまう

そんなわけで、一瞬だけ同居人の顔を見る。
しかして、その相手の笑顔は制服に着替えることを無言の圧力で封じてきているように見える

諦めて、最後に着込んだガーリッシュスタイルな格好のまま、大人しく招かれたソファにポスポスと歩いていく。
こちらのスリッパはネコチャンだ。


「かわった……別に……あぁ、うん。
 マコトも知ってルだろ。例のディープブルーの件でちっと見舞いしたくラいだヨ。
 後が、ちょいちょイ知り合いに会ってタくらい」

ふむ、と考えても浮かんだのはそれくらい。
何が変わってて、何が変わってないのか、そこはいまいち判断がつかない。

月夜見 真琴 >  
「ああ」

うなずいて、ふわふわのミルクの蓋にかるく口をつけた。

「知己が巻き込まれる事態は、相変わらず慣れないな」

太陽光が鋭かった時期、バーベキュー会場で忙しなく動いていた水着の女性。
"被害者"は彼女だったという。報告書を読む顔はとても苦いものになった。
無事に保護された――とはいうが、額面通りに受け取れたものではない。

「解体されたはずの違反部活の再起、大本は別にある――まあそれはどうでもいいか」

捜査権はないのだった。ソファに背を沈めて、甘さを味わった。

「英治は、元気そうだったかな?」

あえて、片一方の名前を出した。

園刃 華霧 >  
「そう……だ、ナ……」

知己が巻き込まれる事態。
サラもそうだが、自分も当然ソレに慣れることはない。

「うン? どウでもイいのカよ。
 まタどっかデ出てキてもおカしク……って、うン? エイジ?」

きょとん、とした顔を一瞬する。
それから……ほんの少し、思案した。

「ン……だいぶ、ヨくなサそうダった。
 いヤ、身体はマあ、前ンときよかマシそうダったケど……
 なンか、"呪い"ってノ? そンなん喰らっタらしクてサ……」

どういったものか、と考えはしたが。
それ以上言いようもないし、素直に口にした。

月夜見 真琴 >  
「考えても詮無いことなのさ。
 やつがれが受けている罰はそうしたものだ。
 事件を追ったり、犯罪を摘発したり、そういう権利はもう亡いんだ。
 覆水不返――まあじぶんで手放した部分もあるのだが」

懐かしむほど昔ではないはずなのに、秋から夏の日差しを懐かしむような心地。
この時間、すこし前まで空は明るかったのに、もうとっぷりと暮れていた。
窓から外を眺めて、ほう、と溜息。

「呪詛。 ああいう繊細な男には、覿面の手管だったのだろう。
 精神の不調。極端なほうに思考が触れて。捨て鉢になることが少し心配だ。
 あれも入院続きだ。それが癖になってしまわなければいいけれど」

彼もまた、希少な人材だ。だから心配が先に立つ。
度重なる負傷と入院は、傷ついても大丈夫、という意識を生みかねない危惧がある。

「理央は復帰したようだが、今度は沙羅が姿をみせなくなったというし。
 なかなか浮ついていて、落ち着かないな」

苦笑した。そうして、意識は同居人に向けられる。
夏の鋭さはもう失せていた。季節の移り変わるにつれて、視る目は変わった。

「大丈夫?」

彼女の性質を思えば、見えざる不安の真綿に首を締め付けられてはいないかと。
質問の趣旨は、そうした心配が大部分を閉めていた。

園刃 華霧 >  
「ン……」

第一級監視対象――
その名を知らないわけではないが。
こうして暫く共に過ごしてしまうと、ついそうした名称のことは忘れてしまう。

そもそもあんまり興味のない話だ。
しかし、罰、という言葉を聞くともなれば……流石に意識せざるを得ない。

何を以て、彼女は"此処まで"きてしまったのか

「……あァ、マあ……そう、ナ。
 デも、そコは多分……大丈夫、ダと思う。
 約束モ、しタしな」

にこやかに語る。
エイジとは約束を交わした。
……とはいえ、その期待が彼を追い込んでないか、と言われれば少し気にはなる。
今度また様子見をしてもいいだろうか……などと、少し考える。

「りおちーは……マぁ、ありゃ仕事バカで始末におエないンだよナ……
 あア、サラは……うん、サラは……多分、大丈夫……だと…思う。」

先日話した少女のことを思いやる。
思いきり泣いて、哭いて……意識が落ちて。
結局、あの後ちょっとしたドタバタもあったがそれはそれとして。

それでも、少しは落ち着かせることができた、と思う……

「んァ? なに? 大丈夫だヨ?」

きょとん、とした顔で問に答えた。

月夜見 真琴 >  
「やくそく」

その言葉を、しずかに復唱する。
水にえがくような言葉だけの誓約にも、異能が介在するまでもなく、
強大な魔力が秘められていることを、実感でもって弁えていた。
自分が、誓いという名の鎖で、目の前の少女を繋ぎ止めたように。

「――ふふ。 "だいじょうぶ"、か」

華霧が繰り返すそのことばは――お互いにとって。
その意味合いとは、すこし違った意味合いをもつものだった。
可笑しそうに笑みを深めながらも、
嘲ることも遮ることもなく、彼女の報告をきいて、時折うなずいた。

「理央は、いま、いろいろと難しい立場にある。
 特務広報部、ヘルデンヤークト――英雄狩り、各方面に向けたプロパガンダ。
 もういち個人の諫言でどうにかなる状況ではなくなっているかもしれないな。
 設立の経緯を考えれば、理央個人にどれほどの責があるか、
 ――いや、こういう話はおもしろくないか」

苦笑すると、ホットグラスとソーサーを手に立ち上がり。
華霧の隣に移動した。
ネコマニャンがふにゃふにゃになってしまったマキアートを一口すすって。

「話したいこと、わたしにもあるんだ」

園刃 華霧 >  
「うん、やくそく。
 ちゃんと かえしてもらうんだ」

何処か楽しげに、繰り返した。
信じて疑わないような、純粋無垢な……そんな表情。

「そう だいじょうぶだよ マコト」

また、相手の言葉を繰り返す。
なんでもない当然のことのように

そして――

「……それって、マコトが最近、変なことと関係ある?」

緩んだ顔が元に戻って……こちらから問いかけた。

月夜見 真琴 >  
彼女の言葉に。
抱いていた危惧が概ね、的中しているような気がして。
僅かにホットグラスを取り上げる指先が――反応しない。
そういう部分でも、ポーカーフェイスは資質を問われる。
あえて見せるものと、見せないもの。それを使い分けてこそ。

「そうか。それならよかった。
 話してくれて、ありがとう――えらいね」

暖かい声で、彼女の"顔"と向き合った。
傷をひとつふやしてきたようなものだ。
そして、それに気づいていないことが、僅かばかり気を沈ませた。
それでも寄り添って、彼女を肯定する。
して。

「―――――、」

指先がぴくりと動いた。
顔を向ける。表情は薄くなって――誤魔化すように。
ぎこちなく首を傾げた。冬の滝のような白髪が流れる。

「えっと、」

言葉がすぐ出てこなかった。

「どういう……いつから?」

園刃 華霧 >  
温かい声と、言葉。
それは心地よくて、気持ちよくて。
だから、そういうものをアタシは……

「……」

自分の言葉に、動きを崩す相手を見る。

――脆い

そんなこと、普段の同居人ならきっと誤魔化しきったはずだ。

「……アタシがでかけて、レイチェルが来た日。
 それから、それよりちょっと前、も。
 なんだか、変だった」

だから静かに、じっと相手を見ながら、
気づいても口にしてこなかったことを、初めて口にした。

月夜見 真琴 >  
ホットグラスを支えていた手で顔を覆う。
温かいなあ、などと散漫な思考に逃げたところでどうにもならないことはわかっていた。

「さすがの観察力……」

負け惜しみは出てこなかった。
彼女の性質を考えればさもありなん、だろう。
気づかれていなければいいというのは希望的観測で、
それでもようやく話す機会だとおもって、切り出したことだが。

「ちょっとまえ……?」

ふたたび両手をカップに添えて、赤くなった顔をそむける。
おそらく、あの夢をみた、とき――寝言が出ていなければいい、とおもった。
一口飲んだ。コーヒーとバニラの心地よいバランス。落ち着けた、はずだ。

「関係に変化があった、というか。
 すこしだけ、和解みたいなことは――できたとおもう」

言葉が曖昧になったのは。
あの日もまた、夢のようでいて――未だふわふわしていたから。
視線だけ、そちらに向けて。

「いろいろおまえにも、ぶつけてしまったから。話しておこうと」

園刃 華霧 >  
「………」

あれこれと、動作を交え……表情も変え。
そんな同居人の一挙手一投足を見据える。

明らかな動揺。

「……へんか
 わかい……」

言葉を聞いて、復唱する。
……変化、和解……

「……いいよ、はなして」

月夜見 真琴 >  
促されると、ひとつ頷いて。
視線はくるくると味の混ざり合う、湯気の薄くなってきたグラスに落とされる。
 
「たがいに、伝えそびれていたことを伝えられた。
 たぶん、すべてではないけれど――きっと」

ひとことでまとめてしまえば、そうなる。
キャラメルマキアートがひどく甘く感じる。
苦い想いをし続けてきた、その日々が終わったのだろうか。
あるいは苦痛がわずかだけ、和らいだのだろうかと。

「どう変わったのか、といわれると――
 正直、いまは、わからないとしかいえない」

無自覚に、片手がニットの襟の上から首筋を撫でる。
そこに受けた感触を額面通りに受け取ったとて、
舞い上がってしまって、結局同居人に違和を与えてしまったことは、
それこそ脆さがもたらしたことだ。 渇いた心を満たされたがゆえに。

「ただ、変化していたといえば、きっと。
 そのまえから起こっていたように思うよ」

視線はそこで、隣り合う少女に戻る。
出会った時と、最初に心の内側を明かした時――
激情をみせたとき、そしていま。
自分は、移り変わる景色のなかで、どれほど変われただろう。

園刃 華霧 >  
「……そう」

――たがいに、伝えそびれていたことを伝えられた

それは、多分良いことだ。
良いことなんだけれど……

ほんとうに?

アタシの あたまのなかで ぐるりと なにかがまわる
けれど

「その、まえから……?
 そう……?」

そうなのだろうか。
自分は、出逢った頃からの彼女しか知らない。
だから、彼女がそういうのなら、そうなのかもしれない。

「……でも、いまのほうが……
 たぶん、ゆるい……かんじ」