2020/10/22 のログ
ご案内:「月夜見真琴の邸宅、朝」に月夜見 真琴さんが現れました。
月夜見 真琴 >  
朝ぼらけ。
大きい窓の向こうに望む空が、鮮やかな紫と橙に染まりだす時間も、
秋も深まる今日このごろには、ずいぶんと遅くなった。

「ふぁ……」

欠伸が漏れた。
案の定眠りが浅く、ここまでの早朝に起きることになった。
重たそうな瞼のまま、普段からの食事や憩いの場であるリビングダイニングに、
うさぎのスリッパが気も漫ろに跳ね回る。

外ももうだいぶ寒くなってきた。
現役風紀委員である同居人のためにスープを仕込んで、弱火で煮込む。
ぼんやりした頭でもさっそく今日はじめのひと仕事を終えて、口元に笑みが浮かぶ。

「すこしはねむれたかな……」

針の音が立たない、アナログデザインの置き時計を見やる。
自宅での活動の割合が多い芸術学科生だ。
同居人がでかけたら、雑事の後に昼寝をしてしまおうか――
そんなことをぼんやりと考えながら、キッチンの中で朝の飲み物の世話をする。

ご案内:「月夜見真琴の邸宅、朝」に園刃 華霧さんが現れました。
園刃 華霧 >  
「……………」


どちらかといえば、あけすけな方で隠すことなどなにもない、そんな自分ではあるが。
それでも、切り出しにくいことはあって。
それでも、言わなければいけない、という思いもあって。

相手が聞いてくれれば、と思うがそれも期待できない。


「……ァー……」


しっかりきっちり、朝の支度をしている同居人を発見する。
そうとあれば……


「……マコト、おはよ……」

ぽつ、と後ろから口にした

月夜見 真琴 >  
「ん」

特段驚いた様子はない。
気配には敏感なのか、声をかけられて驚く、という姿を見せたことはほぼない。
声をかけられると、ゆっくりと振り向いた。
起き抜けに髪に櫛は通してあるが、振り向いた顔はいかにもの寝起き。

「おはよう」

口元を穏やかに笑ませた。
あの日もこのようにして、何も聞かずに『おかえり』と迎え入れた。
視線は手元で火にかけられているマキネッタに向けられて。

「相変わらず寝起きが良さそうだな、羨ましいことだ。
 朝食までは少しかかるよ――いつものマキアートでいい?
 いま淹れようと思っていたところだ」
 
銀色の瞳はあらためて向けられて。
穏やかな色で、座っていて、と食卓のほうへ移った。

園刃 華霧 >  
「……ァ、いヤ……う……」

いつものように なにごともなく
いい匂いが漂う

いつものように、なにごともなく
穏やかな朝の光景が流れる

いつものように、なにごともなく
そう迎えられるのが……辛い

だめ こんなの


「……あの、はなし……いい……?」


思わず、素直に座りながら……
しかし、それだけは、はっきりと口にした

月夜見 真琴 >  
どこかもじついたように問われると、
目を丸くして、そしてそれはふたたび穏やかに細められた。

「待ってて」

甘い、ささやくような声は、やわらかく。
それは首肯の意図も込められた声。

少しして、甘いキャラメルマキアートが用意される。
最近のお気に入りだ。
ふわふわしたミルクの蓋に、キャラメルの格子が浮いている。

「ひとくち飲んでからで、構わないよ」

急かすことはしない。
飲み物を配して、隣にすわると、先んじてカップに口をつける。

デリケートな話題――だとは、思う。
気にならないといえば、もちろん嘘だ。
彼女もそれをわかってくれているのだと思う。
けれど、聞かなかった理由は、いくつかあった。

園刃 華霧 >  
優しく穏やかに、応えが返る。
それが たまらなく


「……うん」


だから すなおに


「……ん」


軽く、キャラメルマキアートを口にする

あまい あまい あじが くちを みたす
あまくて あまくて
とても あまくて

だから くちを ひらく

「……このあいだの、ひの、こと……だけど」


いつ、とは言わない。
それで全てが伝わる、と。
そう思っているから。

「……うん、マコト、には……いわない、と……と、おもって」

月夜見 真琴 >  
どうして、とは聞かなかった。
身体の芯から暖かくなる、その甘さの出来栄えに、
ほう、と感嘆してから――すこし、苦笑する。

「朝はやくに、帰ってきただろう?」

あの日は結局眠れず、そして眠らずに。
絶対に夢を見てしまいそうだったから、もっと早い時間に起きた。

「何かあったのかなと思って、すこし聞きづらくてな。
 それでつらい思いをさせてしまっていたのなら、すまなかった」

なるべく、不和のないようにと願って、協力はするつもりだ。
同居人と、じぶんのたいせつなひととの関係の安定は、
ひとえにじぶんがいま、こうしている理由のひとつでもある。
踏み込んでいいプライバシーと、そうでない部分の見極めは、
なかなか難しいものだった。

「うん、話して……? ゆっくりでいいから」

少なくともその後、同居人の体調の異変なども見られない。
だからこそ、彼女から切り出すのを――そう、待ってはいた。

園刃 華霧 >  
「うん……それ、は……うん」

相手の確認するような言葉と、謝罪の言葉
そんなことを、言わせたいわけではないのに
ああ、本当に……ダメだ……


「……たぶん、マコトが、かんがえている、とおり……の、こと……」


なにかが
それは このあいてなら かくじつに わかっている はず
それでも あえて なにも いわない のは


「……アタシ、レイチェルに……血を、あげた」


まずは大事な一個の核心
そこから、口にする


「……アタシから、話を……持っていった。
 レイチェルは、色々、気にして……色々、話した……けど。」

ぽつり、ぽつり、と口にする。

「ああ……気になること、は聞いて。
 アタシも、うまく話せる自信、ない」

月夜見 真琴 >  
「――――」

顔には出さない。
動揺や心的なショックは、表には出さない。
同じ不覚を取ることはしない、というのもあるし。

「うん」

諾、とうなずいて。

「血液が必要だ、というのは――あの診断書にもあったことだな」

そうして、心を騒がせない理由がある、と。
語り聞かせるようにして、立てた指ですい、と空中をなでた。

「気になること、か」

自分から切り出した、という点によって、聞きたいことはひとつ消えた。

「血を吸わせる、ということに対して、あいつが抵抗を示したかどうか」

そして、と言葉を次ぐものの。
すこし――言葉を選んだ。

「それと。
 あまり聞くのも気が進まないが、はっきりはさせておこう。
 おまえとあいつの間の関係性に、変化はあったのかな」

自分の認識でいえば。
彼我の感情の向き方はどうあれ、お互いの間柄はまだ"親友"のまま、のはず。
吸血行為――それに付随する諸々を行うにあたって、
たとえば恋人同士の関係を結んだのか、とか。
若干どころでない聞きづらさはあったが、問うてみる。

園刃 華霧 >  
「ん……抵抗……抵抗、か。
 えっと……血を吸われるの、怖くないか、とか。
 吸血鬼ってバケモノだぞ、みたいな話、とか……」

結構色々話はした記憶がある。
一つ一つ、思い出しながらとりとめもなく口にしていく


「あとは……辛いことはないか、とか……無茶してないか、とか……?
 そんな感じのことは聞かれた、かな……?」


抵抗っぽい話、だとその辺だろうか……
……あ


「あと……あの、ずっと、に……なる、かもだけど、大丈夫かって……
 その、アタシの血じゃないと、ダメだからって……」

そこは、どう言おうか、と思ったが。
肝心な部分だけは話しておかないといけない、と思い……そこだけは口にした。

月夜見 真琴 >  
語り聞かされる言葉に、カップに口をつけながら思案顔。

「おまえの精神的な抵抗の有無を質したわけか」

――――。
思うところはあったが、これは大事なことではない。
華霧に言っても仕方がないことは、甘さとほろ苦さと一緒に飲み下しておく。

「おまえは、正直に――"していない"と答えた?」

問われた言葉に対して、いちおうそこも聞いておく。
つとめて声は柔らかく事実確認を行い、そして、
こちらから問いを向けようとしたところで、興味をそそられて視線を向けた。

「おまえの血?」

はて、と首を傾いで、読み解いた記述を思い起こす。
全部が全部、吸血鬼のことを理解できてるわけではないし、
彼女の世界についての記述がある文献など、この地球上にあるのかどうか。
しかし――

「それは、どういう?」

園刃華霧の経歴について、公的に開示されている記録は、
風紀委員として、そして監視役としてもあらかた目を通してはある。
そのうえで彼女の血に特異性があるのか、という考えに思い至った。
あるいは、より事実に近い可能性に気づいていたとしても、
それを無意識にうちに避けたのかもしれなかった。

園刃 華霧 >  
「ん? んー……あー……まあ、そういう……こと、かな……?」

精神的な抵抗、という言い方をされれば……まあ、たしかにそう、だとは思う。
なんだか、わざわざ聞くことか?みたいな気分だった自分としては一々真面目に分析する気もなかったのだ。

そして――

「うん。だって、嘘ついて"苦しい"なんて言う意味、ないじゃない。
 正直に言ってうまくいくならそれでよくない?」

相手の確認の言葉。
レイチェルにしてもそうだが、この聡明な同居人までわざわざそんな確認をする意味があるのだろうか……
        ・・
……いや、きっとある、のだろう。
自分がわからない、何かが。

少し、真面目に考え始めた矢先――

「……ぁ」

そうか。そういえば、そういう疑問を持つに決まってる。
そんなこと、わかりきっていたのに……

しかし――
これは とても だいじな はなし
なら さける わけにも


「……その、吸血鬼は……『恋をした相手の血』が、ないと……死ぬ、ん……だって……」


もごもご、と……しかし、最重要な。
伝えるべきもう一点を、口にした。


「さっきの、質問に答える、と……レイチェルは、そういってくれる、けど……
 その、アタシは……まだ、そういうの……わかんない、し……
 レイチェルも、失いたくなくて、手をのばす似た者同士って……いってくれたし……
 だから、多分……なにも、変わってない、と……アタシ、は……思う、けど……」

そして、後回しにしていた質問の答。
正直、解答は難しかったので少しだけ保留した、それ。
だから、できる範囲で答える。
 

月夜見 真琴 >  
 
 
「………………」
 
 
 

月夜見 真琴 >    
「――、やつがれは一体なんなのだろうな、あいつにとって」

そうか、とうなずくと、苦笑いをうかべた。
翳った感情は銀色が瞬くうちに消える。
じくじくと痛む胸は、甘さを飲み下しても、
癒える気配はなかったけれど、彼女にぶつけてもしょうがない。
寧ろ、彼女にこそ困惑が見て取れるように思えた。

「吸血鬼といえば、その魔性によって人を従える存在、という印象がある。
 レイチェルを見ていると"魔性?"って思うが――ああ、見目は間違いなく佳人だが。
 しかし翻れば、人の生き血がなければ生きていけない者。
 孤高の存在のようでいて、もしそうして誰かに心が惹かれることがあれば、
 吸血鬼のほうが、人間に従属するような関係になるのかな」

ソファに深く腰かけると、そうして自分なりに結論づけた。

「生命維持に特定の対象の血液が必要である。
 さしずめ――そう、恋に呪われた、というところかな。
 まったく難儀なことだ。

 まるで自らの命を人質にするような行為になってしまっていることは、
 あいつ自身もおそらく、気に病んでいるところはありそうだけれど。
 ああ、おまえが恋について理解していない――要するに、
 現状はレイチェルの片思いであっても、あいつの生命維持に問題はないのかな」

疑問符があるとすれば、そこだ。
ただ与えていればいいのなら、そこで一先ず物事は解決する。
レイチェルに対しては、だ。

「あとは、そう――見たところ、問題はない、と思っていたが。
 おまえ自身の体調に、そのあと、異変はないかな。
 やつがれとて吸血行為については――まあ、その。
 書物で読んだり、そういう知識しかないからな」

どうかな、と顔を向けて、首をかしげてみせる。

園刃 華霧 >  
「……」

相手の言葉には、何も答えられなかった。
何かを口にすることは簡単だが、それにどんな意味があるだろうか。
それに、どれだけの価値が……どれだけの救いが在るか。

そう思えば……口にできることは、なにもない


「……う、ん……まあ……そう、ね……
 聞かれた時、アタシも……まあ、バケモノ?って感じ……だったけど」

わずかに苦笑する
そこは同意見らしい
そこは口にしても大丈夫そうだと……


「……少なくとも……多分、平気、そう……だったから……うん。
 問題は、なさそう、かな……」

そこは自分も気にしていたことだから、よく見てはいた。
レイチェルが強引に隠していない限りは、大丈夫だろう。


「体調? ああ……んー……眷属、とかそういうの?
 少なくとも、それっぽいのはないし……
 昔……別のやつが血をあげてた時も……そういう感じは、なかった、し……
 もし、そんなの、あったら……いや、うん」


もし、そんなことがあれば……あんなことは、起きなかったかもしれない
つい、そんな考えがまだよぎってしまう自分を思わず呪う
いい加減、忘れろ
忘れてしまえ

月夜見 真琴 >  
沈黙。 
頭の良い子だな、と、会話をしているとよく思う。
利発さによって永らえて、それによって無自覚に苦しんでいる。
そういう印象は、いまなお拭えないものだし。
数年かかって築き上げてきたものが、すぐに変わるはずもない。

「ああ」

別のやつ。
誰か、というのはなんとなく察しがつく。
よく、観ていたから。

「思うことがあれば、無理に飲み込まなくていいよ」

何か、扱いに困っている経験があるのは、
かつてこの食卓に"あのたべもの"を出してしまった時にも、
なんとなく感づけてはいるし、自分のまえでは無理はさせない。
そして。秘密にはみずから、踏み込まない。
秘することの大切さを、月夜見真琴は知っている。

「――話してくれて、ありがとう。
 おまえの身体に異変がないなら、周囲も安心するだろう。
 あいつの事情にもいくらが目処が立ったというなら。
 それはまちがいなく、喜ばしいことだろうさ。
 おまえの面倒を監視役として見ていることが、
 いくらかその助けになっていればいいのだが」

そのために居る、ということは。
最初に彼女をアトリエに招いた時から、伝えている。

「おまえは」

そして、カップを傾け、一口飲む。
だいぶ少なくなってきた。

「あのとき、自分が喪失を恐れていることにも気づいていなかったな。
 まあ、なんでもかんでも、己の無意識に解を見出す必要はないが。
 知っておいたほうがいいことも、あるだろう。
 
 喪わないために、な――たとえば。
 レイチェルにも自分を大事にしろだとか、言われただろう。
 ひとまず落ち着いたわけだし、今度からはそれを考えていってみないかな」

苦しみも無理も、感じていない。
ではなぜレイチェルがそう問うたのか、という。
ひとつの解釈へ続く、イントロダクションだ。

園刃 華霧 >  
「いや……うん。
 ただ……眷属、なんてものが本当にあったら……多分、貴子ちゃんは……
 此処を、離れることも、なかったんだろう、なって……ね……」

彼女のことは、レイチェルからも口にされた、話。
飲み込んだはずのそれを掘り起こされ……また、喉につかえ始めてしまっていた。

また、飲み込まなければ、いけないのに……


「もう、すぎたこと、だよ。」


なら、もう一つも……望みは薄い、のかもしれない。
けれど、可能性があるなら……いずれ自力で確認しなければいけない。


「うん、まあ……レイチェルが、ね。
 元気なら、ね。それでいい、よ。
 今度こそ、アイツがホントに死んじまう、なんてことも……なさそうだし。
 全部、話してくれたし。
 その、大事なことも……マコトに、話せたし。大丈夫」

嬉しそうに笑った。


「アタシ自身?
 そりゃ――確かに、レイチェルもそういったけど……
 別に、そんな……考えることなんて……」

けれど きっと
きっと このひとは
むいみなことを いわない