2020/10/25 のログ
ご案内:「女子寮 レイチェルの部屋」にレイチェルさんが現れました。
ご案内:「女子寮 レイチェルの部屋」に月夜見 真琴さんが現れました。
■月夜見 真琴 >
「わたしがそうしてきた理由は……いまさらだよね。
見返りのためにやってきたわけじゃないけど……、
きっと、ほしくてしょうがないのが、本当のところだから」
恥じ入るように、掠れた声がこぼれた。
日照り続きのあとの雨に、おぼれるようだ。
あのとき頼っていい、甘えていいと言われた。
負担になりたくないとはいまでも思う、けれど。
こうまで言ってくれてる相手の気持ちを無碍にするのは逃げではないのか。
体重をかける。間近で見上げた。
「うん、願ってる……求めてる……きっと。
それは、その……いきなりこんなこと、いわれて……
きもちわるいかも、しれないけれど……」
自嘲気味に笑った。自分がおかしいなんて今更だし、
望んだ愛はまちがいなく、ふつうの愛ではない。
だが、しかし薄っすらと唇に浮かんだ笑みは、
いつものように少し意地の悪い色をうかべて、
「わたしが、この"魂"のかたちに気づいたのは」
鮮やかな心象をカンバスに描き留めることが好き。
人を欺き、騙し、悔しがらせて苦しめることが好き。
それらはすべて実感を伴ってはじめて知った自分のかたち。
そして、いま求めたるモノ、心にあいた欠落のかたちを知ったのは、
「あの夢を、みたとき……」
心拍の高鳴りを、肌に伝えた。
僅かばかりに、恨みがましい身勝手なわがままも込めて。
あれがただのひとり遊びであれば、気づく余地もなかったこと。
■レイチェル > ―
――
―――
「……本当のところ、か」
羞恥の色にいつも通りの声をあげることも覚束ない。
そんな相手の様子を見て、レイチェルは僅かに胸を締め付けられる。
いつも飄々としている彼女。揺るがぬ仮面をつけた彼女。
そんな真琴が今この時、弱さを曝け出している。
寄りかかる彼女を受け容れながら、レイチェルは
彼女自身の言葉を、思い出していた。
『告白っていうのは――追い詰められたものがすることだ。』
彼女が口にする告白の裏にある意味をレイチェルはよく知っていた。
自分自身も、華霧に想いを伝えた時に、同じ気持ちだったから。
「きもち……わるい……?」
ずき、と。
胸の奥側が痛んだ気がした。
何故、そのように感じたのか。
その具体的なところは、
レイチェル自身にも分からなかった。
漠然とした輪郭を持った影の如き痛みを振り払うように、
頭を横に二、三度振ると真琴の方を見ながら、
レイチェルははっきりと口にする。
「そんなこと、ねぇよ。だって、それがお前の気持ちなんだろ。
自分が抱いた気持ちを――。」
そこで、少しばかり言葉に詰まる。
発しようとした言葉は、自らにも向けなければいけないものだ。
故にこのことを、今の自身が口にしていいものかと、
逡巡することとなった。無責任な言葉は、贈りたくなかった。
だからこそレイチェルは、ほんの少しばかりの沈黙を保つ。
「――自分が抱いた気持ちを、自分で否定すんじゃねぇ」
無理に、絞り出したような声が出た。
鋭い牙を軽く唇の裏側に当てながら、レイチェルはそう口にした。
その言葉は滲むような色をもった、混濁した音であった。
いつもの彼女の口調とは、全く異なるものだった。
「……これはオレ自身も、まだ向き合ってる最中だけど。
でもきっと、自分の気持ちを自分で否定しちまうのは間違ってる。
そのことでオレは失敗してきたから……真琴にはそうなって欲しくない」
続く言葉は少し弱々しかったが、それでも少し思考の整理はついた
らしく、省察を経て告げられた言葉は、幾らか整った調子で発せられた。
「あの夢……あの城の夢、か。
あの夢がなければ……オレも、お前の気持ちに気づくことなんて、
なかったかもしれねぇな。ほんと、情けねぇことだけど」
思い起こす。あの夜のことを。
そして、肌を通して確かに伝わってくるその鼓動に自らの思いもまた
重ねながら、レイチェルはそう返した。
そして、真琴の内側に生まれた気づきを知らなかったが故に、
レイチェルは問いかけた。
「……良いのかよ。オレの一番特別な気持ちは、
間違いなく華霧の方を向いてる。
勿論、お前のことも好きだし、大切だけど……それでも、だ。
そんなオレに……そんなこと許して、
お前……本当にそれで、いいのかよ?」
気遣うようなその声は、まっすぐに彼女へと向けられた。
確認だ。恋の熱に自らを見失うことはあったからこそ、
目の前の彼女の意志を改めて確認する。
その視線は、彼女の首筋にちらりと、向けられた。
■月夜見 真琴 >
「………………」
思いがけず。
放った言葉がえぐったらしい胸の、その痛みのほどをなんとなく察する。
共感ではなく、単純な観察と論理的思考と、あとはちょっとした邪推で。
こちらに、諸刃の刃を振った彼女の頬に、そっと手を這わせる。
不安を和らげるためのぬくもり。
さっきもらったもの。
「じぶんがどこかおかしいってわかっているから。
この気持ちを、受け入れてもらえるかどうかこわくて……
拒まれるのがこわくて。終わってしまうのが、恐ろしくて、
だからどうしても、自信なんて持てない。
あなたがそう言ってくれても、"ほんとうに?"って……
心の裏側では、どこかで拒んでいるじゃないかって……
"やさしいから、そういってくれているだけなんじゃないか"って……
……あなたにも、そう思うことが、あったの……?」
おそらく、ごく最近に。問いは不意を打った。
だいじょうぶだよ、とやさしく頬を撫でる。
そんなどうしようもないむず痒さを、しかし、
解決する方法があるというのなら、誰かに照らしてもらうしかない。
じぶんの歪さをうちあけて、他人に拒まれたことなんて、
この島に来る前には、よくあったことだったから。
「とちゅうまで、わたし自身も気づいてなかったんだもん。
ひみつを、夢のなかだから打ち明けたつもりが……伝わってたなんて。
ほんっと……ほかにもズルい能力、たくさん隠し持ってそうだよね、あなた。
――ん? ……、 ………ぅぅん」
問われた言葉には、わずかばかりに。
銀色の瞳は紫の隻眼からそれて、思索に沈む。
「……………、あの夢でわたしに牙を突き立てたのは、
"華霧に恋をしているアミィ"だったよね」
ものの数秒考えたあとに、自分の感覚を言語化する。
「……"華霧に恋をしているアミィ"のことも、
わたしは、どうしようもなく、すきなのかな……」
参ったな、って、困ったように苦笑した。
他人に向けて情念を燃やす彼女に、強い憎しみを覚えることも確かにあった。
愛と恐れ、恋と憎しみは非常に近しく、分かち難い、表裏一体の、同質のものだ。
「…………。 あのあと。
あなたに、放っておかれてるんじゃないかっておもったのは。
わたしが、あなたにとっての"なに"なのか……わからなかったから。
華霧に、わたしの血ではだめであることをきいたとき、
すごくぐらぐらして……たぶん、あの子にもきつい言葉、かけたかな……。
だから……"そう"してくれれば」
"いちばん特別"にはなれなくても。
"あなたの唯一"のものになれるなら。
「わたしは、安心できる……望みがかなう。
あなたにとって負担かもしれないけれど、そのぶん。
いままで以上に、わたしにできるかぎりのことをしてあげる。
力も、智慧も、悦びも、熱も、なにもかもを捧げてあげる。
いま、わたしが勝手に不安がって、あなたに心配かけてたら……。
それこそ、"余計な負担"かけちゃってるから。
恋に惑って辛いあなたに、自分を探して不安なあの子に、
"真琴ならだいじょうぶ"っておもわれたい。
ちゃんと頼られて、甘えられて、支えてあげたいから。
だから、確かな証が、ほしい。
安心できるように、"そばにいてほしい"」
頬を、慰撫するように撫でて。
「なにより、もしだめだったときにも、支えてあげるよ」
そう、微笑んだ。
不義も背徳も歪さも、だめなところも。
どうしようもなく不器用で、強欲なところも。
「……だから、ぜんぶゆるしてあげる」
ささやきは、甘く。
指は、みずからの喉元に。いざなうように。
首までを覆う襟にそっとかかって、……言葉とは裏腹に、
僅かな緊張と、おそれのあとに、傷のない細首を委ねた。
微笑みには、しかし余裕などなく。
緊張と、不安と……高揚。
■レイチェル >
「……そう思うことはあったさ。
だから、真琴の気持ちは分かるかなって……そんな、気がする。
オレのこれは……同情だとか、憐憫だとか、贖罪だとか。
そういったもんから受け入れてる訳じゃねぇ。
さっき伝えた通りだ。オレがこうしたいから、こうしてる」
本当の本当に誰かの気持ちを理解することなど、できようものか。
歩んできた道の中で、幾度も脳裏に浮かべた疑念を今鮮明に描きながら、それでもとレイチェルは言葉をかけた。
頬に触れた手は、暖かかった。それを、レイチェルは受け入れる。
それで心の奥の霧が、少しだけ晴れた気がした。
「ズルい、か。ブラッドリンクは、吸血鬼として生まれ持った力の
中でも、制御ができねぇもんだ。そこんとこは、申し訳なかったな
って、思ってる」
レイチェルとて望んで彼女の気持ちを覗き見た訳ではなかった。
それでも、罪悪感を覚えていないかと言えば嘘になる。
あれがただの夢でないことを告げた時、アトリエで取り乱していた
真琴の姿を思い浮かべて、レイチェルは冷たい笑みをふと、漏らした。
無論、自らへ向けての自嘲的なそれである。
「……オレがもし、誰かに恋をしてる華霧を見たら、
真琴みたいな気持ちじゃ、きっと居られない。
だからその気持ちはオレには分からねぇけど……」
"華霧に恋をしているアミィ"が好き。
そんな言葉を聞いて、自らに当てはめて考えてみる。
考えるだけで、どうしようもなく胸が痛かった。
どんな華霧でも受け入れられる。そんな器が自分にあったらと、
歯痒い思いにレイチェルは柳眉を寄せた。
そんな中、これまで以上のことをしてくれるという彼女に向けて、
レイチェルは頬を掻く余裕も持たぬまま、視線を落とした。
それほどのことをしてくれる。そう、強い意志を持って接してくれる。
そんな真琴に、一体自分は何ができるのだろう。
真琴が伝えてきた、望むところを思い返す。
「……証、ね」
頬を撫でられながら、自らは彼女の曇り一つない首筋に、
ピンと立てた左手の、人差し指の腹を優しく立てる。
「……全部許してくれる、か……ありがとう、真琴。
その言葉は嬉しいけどな……思うんだ。
お前も、無理してるんじゃねぇかって――」
十分に反芻した後に、それでもレイチェルは投げかけた。
彼女の顔に浮かぶ緊張と不安。それを読み取っていたからこそ。
望みを知った上でも、彼女に牙を突き立てることは難しかった。
「――それでも受け入れるってんなら、オレも覚悟を決める」
右手の親指を、自らの口に含む。口の中で、牙を突き立てた。
じくり、と痛みが突き刺さる。
同時に指から、どくどくと赤い雫が流れ落ちる。
自分の血の味が、口の中に広がった。
「……これこそ気持ち悪ぃかもしれねぇが、飲んでくれ。
お前を守る為だ」
そしてその指を口から取り出すと真琴の前に差し出した。
鮮やかな紅が、指先から溢れていた。
■月夜見 真琴 >
「だったら……相手のことを、もっと。
ちゃんと視ればいいだけなのかもしれないね」
"拒まれた"と感じたなら。
そこには理由があるはずだ。"なんとなく"も理由にはなる。
考えればいくらでも、問えばもっと確実に、照らせる無知の闇のはず。
「優しいあなたも、恋をしているあなたも……そうであるように。
嫉妬を燃やしてるあなたも、きっと佳いんだろうなぁ……って。
わたしの胸は高鳴って、みてみたい、っておもうけれど………
そうなれているのはたぶん、"月夜見真琴(わたし)"だからだよ」
すぐれているからそういうふうに見える、わけではないよ、と。
レイチェルに去来する人並みの情念、劣情ともいえるその当たり前の想起を、
柔らかく肯定して、受容して、そして赦した。甘やかすように。
じぶんはそうしてすこしおかしくて、友達の少ない人間だと。
実際……"そう"なる可能性もあることだ。
自分はレイチェルを支えはしても、"恋敵"を阻むこともまたないだろう。
「ちがうの、………その、……っ」
人差し指でふれられると、びくり、とふるえた。
意識はしてないけれど――敏感な場所、らしい。
「……だって、その……わたし……」
無理をしている、と言われると。
頬を赤くして、顔を俯かせる。不安、緊張の理由は単純だ。
"二度目"で、いきなり緊張感がほぐれたり、恥ずかしさが失せるほど。
色々オープンではない、というだけで。
「…………あ、」
顔をあげた。白い牙に視線が行く。
なにを、と問う前になされた事に眼を瞠り、
差し出された手を、すこし慌てたように、両手で支えた。
"きもちわるい"?なにが?
…………。
……ぼんやりと何をさせられているのだろう、と考えながら、
眼は霞み、
指先から爪へ垂れ落ちる紅に、震える舌先がふれた。
「ん………」
血の味。知らないわけではない。
味蕾を侵すそれにゆっくりと眼を閉じて、目元に睫の影がさす。
あふれて、流れるそれを、赤い舌が舐め取り、白い指を清める。
手首に、そして流血する指に、そっと指を絡めた。
すこしだけ力を込めて、血を押し出させるようにするとともに、
指先を、おそる、と……くちにふくむ。
「…………」
吸う音。血がとまるまで?それとも、彼女の制止があるまでか。
いずれにせよ……白い喉を、こくり、と嚥下する。
彼女のからだの一部を、みずからに取り入れて。
嗜血症などないが、妙に……からだがさわぐ。
終われば、リップ音をたてて指を解放し、はぁ、と濡れた息を漏らして。
これでいいの、と、甘く霞んだ眼でみあげた。
■レイチェル >
「ああ、そうだな。でも。
……相手を視ることがこんなに難しくなるだなんて、
思いもしなかった」
ぽつり、と漏らす。言うは易く、行うは難し。
華霧のことを視よう視ようと思っても、なかなか上手くいかなかった。
これまではきっと、ある程度自然にそうできていた筈なのに。
華霧へ向き合うその前に、レイチェルは己の内にある呪縛と
向き合わねばならないことを静かに悟っていた。
「……真琴だから、か」
その言葉の裏に暖かく在る肯定と受容に、
レイチェルは穏やかな笑みを見せた。
嫉妬するだなんて、何処までも自分らしくない。
そのことが分かっていても、想像した先にあるものに、
どうしても胸を締め付けられるのであった。
他に好きだと言ってきた奴が居たって関係ねぇと、
華霧の前で口にしたのは本心だ。今でも変わらない。
それでも。それは、あくまで華霧が迷っているからの話で。
もし、そうでなければ。
考えただけで、怖かった。
もし『華霧から』誰かを想うことがあったとしたら。
自分から離れていってしまったら。
その事実もそうだが、本当に怖いのは自らの暗い感情だ。
彼女が誰かに『恋をした』としたら、自分の想いは、邪魔だ。
彼女を本当に傷つけることになる枷になる。
それは、望むところではない。
かと言って、彼女への想いを諦めることなど自分には――。
そんな逡巡も、想定の先にある自責を受け入れてくれる
真琴の言葉で、気遣いで、随分と救われたのだった。
その気持ちは持っていてもいいんだ、と。
言外に伝えられた気がしたから。
レイチェルは、浅い溜息をついた後に、
改めて穏やかな声色でありがとう、と口にするのだった。
そうして、ゆっくりと。
レイチェルを飲み下していく真琴。
それを見届けた後に、レイチェルは優しく声に出した。
「ああ、これで大丈夫。
こうすれば……オレの中の獣が少しは落ち着く。
お前を……餌だと……認識しなくなる」
そうして、左手を彼女の肩に添えて。
語るレイチェルの口の中からちらりと、白く輝く牙が覗く。
月光の下で寄り添う二人を、月の光だけが照らしていた。
「……それじゃあ、いいか? 真琴」
そうして、レイチェルは。
彼女の望みを叶える為に。
叶えたいと願ったが為に。
口元を、彼女の喉へと近づけた。
レイチェルもまた、胸が高鳴っていた。
当然である。行為を前にして、そんなに冷静では居られなかった。
だから、その首筋に添えられた、人食いの化け物の白い手は、
何処か縋るようであったかもしれない。
■月夜見 真琴 >
つよいだけ、賢しいだけ、美しいだけのものなど。
月夜見真琴は惹かれることはない。
かつて彼女によって、大事なものを"殺された"ときから。
なおさら、幻影に惑うことなどないと、戒めている。
弱さなどいくらでも赦し、肯定しよう。それすら愛しい。
挫折しても苦しんでも道はつづくのだから。
その役目が自分にあることが、ひどく嬉しかった。
「…………」
飲み下した喉に自分でふれて、視線を明後日に動かした。
体内に取り入れたことで、どうやらなにかそうなったらしいが。
血を飲んだ、という味覚と喉の実感があるくらい。
「特にかわったかんじはしないけれど……
わたし、あなたになにか変えられて……ッ」
細い肩に手が這うと、びくっ、と跳ねた。
たぶん繰り言をかさねれば、いくらでも先送りにできること。
みずから望んだくせにこういう時には臆病だ。
「…………」
白く輝く孤月に、視線が吸い寄せられる。
問われると。
「…………は、い……」
だが幾ら時間稼ぎをしても、最終的に拒む選択肢はないのだ。
月が隠れてしまう前に。
「………あ」
彼女の手指から、感じたふるえ。
それが自分の感情と同じものかは……わからないが、そう。
両腕で金糸の頭を抱いて、みずからの首筋にそっと唇を迎え入れた。
血を巡らせる心拍は、供物を捧げるかのようだ。
自分はどうやら"餌"より上等で――一番特別でなくても、
愛の水を注がれれば、いくらでも咲こう。
なにもかも赦して。
受け容れる。
証を欲した。