2020/10/26 のログ
■レイチェル >
「……吸血鬼の血を相手に与える。こいつは、血の契約だ。
別に、お前がどうこう変わった、とかそういうことはねぇさ」
こうすることで、自らの内にある本能《けもの》を
騙すことができるのだと。レイチェルはそう語った。
――負ける訳にはいかねぇんだ、オレ自身に。
怖がっている様子の彼女に、レイチェルは穏やかな口調で、
真琴が安心できるように静かに笑ってみせた。
そうして。
頭を抱かれたまま、温もりの中で。
自らの腕を、真琴の背中にまで回して、強く抱きしめた。
それは、餌を逃さぬ吸血鬼の本能ではない。
怯えながらも、証が欲しいと願う彼女を守る為に。
大切な存在を守る為に。
己の理性を守る為に。
「……真琴」
静かに、確かな愛情を込めてその名前を呼んだ。
これまで自分のことをずっと想ってきてくれた、目の前の存在は。
特別な存在が別に居る、華霧を想っていることを、認めてくれる。
こんな吸血鬼《じぶん》でも、欲してくれる。
ただ彼女の肯定に、甘える。月夜見 真琴に、溺れる。
決して、そうではなく。
レイチェルがたった一つだけ彼女にできること、したいこと。
それは、彼女の願いを、望みを、叶えることだ。
彼女が大切な存在であることに相違ないのだから。
全てを捧げられること。
それはもしかしたら、重荷となり得るのかもしれない。
それでも。
レイチェル・ラムレイは躊躇わない。
それを背負うだけの気持ちがレイチェルにはあったから。
彼女の不安を――否定する。
腕に、確かな力を込めて。
身体を重ねて、寄り添う
■レイチェル >
そうして、耳元でそっと囁いた後。
レイチェルはその白い牙《あかし》を、その首筋に突き立てた――。
■月夜見 真琴 >
証。血の契約。
そう考えれば……ぞくり、背筋に駆け上がる非ぬ感情。
穢れたこの血肉に、僅かばかりでも彼女が宿るというのなら、幸福すら、ある。
「かえてくれても、よかったのに」
なんて零した言葉は、うそかまことかを伺わせない曖昧な笑みとともに。
視えざる場所は、変わっていっている。1秒前の自分が存在しないように。
だからいまは、これでいい。とても幸せだ。
賜られた甘美な葡萄酒で、十二分に酔ってしまえる。
「…………うれしい」
ふるえた、悦びの声。
抱擁を強める。溢れた月光に照らされて輝く金糸のぬくもりを確かめる。
頬を寄せ、目を閉じて。尖った耳朶に唇を寄せる。
「わたしにも、頼って。甘えていいから」
こうして不安を融かす甘さを齎してくれるというのなら、
自分の"役割"は、これ以上もないほどに明白だ。
かつて時間を止められ、そしてまあ動き出させた相手に。
孤独は否定され、ならば自分は彼女を肯定するだけだ。
注ぐのは、それこそ。愛や恋の一色ではなく。
憎しみも、妬みも、怒りも……綯い交ぜにした重たい感情。
「わたしの不安も……罪も……きっと、血が穢れているの。
だから……だから、あなたに……ぜんぶ、吸い出してほしい……」
牙が近づく。緊張と期待に震えた。
"月夜見真琴"としての言葉も、じきに紡げなくなるだろう。
「………アミィ……」
耳に届いた、『約束』に。レイチェル・ラムレイの仮面のむこうに。
ささやくような甘い声は、そっと夜闇に溶けて。
不安も、悲しみも、なにもかもを否定してもらうために、力をぬいた。
理性とともに紡がれた言葉は、それが最後。
■月夜見 真琴 >
「…………愛してる……」
■レイチェル >
――ありがとな。
ただ一言、心の内でそれだけを返した。
言葉は要らない。口元の笑みだけで、きっと伝わってくれた筈だ。
愛も、恋も。
憎しみ、妬み、怒りすらも。
全て受け入れるために。
不安も、恐怖も。
全て否定するために。
レイチェル・ラムレイは、月夜見 真琴に。
彼女が望む証を――刻んだ。
■レイチェル >
ぽう、と。優しく光る月明かりだけが、揺れる二人を照らしていた。
ご案内:「女子寮 レイチェルの部屋」からレイチェルさんが去りました。
ご案内:「女子寮 レイチェルの部屋」から月夜見 真琴さんが去りました。