2020/11/02 のログ
ご案内:「【過去】大学のラボ」に虹水さんが現れました。
虹水 >  
「ふーんふふーんふー。ふふんふー……」

かちかちと音が聞こえる。
ここは大学院の研究室、生物学専攻が在籍する場所。
その中から、何かを嵌め合わせるような硬質な音が響いている。
ついでに、鈴が鳴るように美しい、しかし気の抜けるような鼻歌も。

「できた!いっけー拙者のなんとかワイバーン!」

……中では女が一人、キッズホビーで遊んでいる。
なんとも妙な光景だが、他に人はいないようである。

ご案内:「【過去】大学のラボ」にスーツの男性さんが現れました。
スーツの男性 >  
「いやぁ、噂通りの人物でとても安心するなぁ」

研究室の扉から、男性が声をかける。
少し茶がかった髪の毛は適度に整髪剤で整えられていて、ラフな格好と年若さに反してスーツ姿が様になっている。
飄々とした印象を受けるその男性は、扉に背を預けながらにっこりと口に笑みを浮かべて、貴方の方を見ていた。
口に、と言ったのはサングラスを付けているせいで視線が遮られている為だ。
そのせいか、少しだけ……本当の表情は読め辛く、胡散臭い印象を覚えるが。

「彩雲寺 虹水さん、ですよね?
 アナタの噂を聞いて、是非お会いしたいと思って。
 ノックしようと思ったんですが…‥楽しそうにしているからつい、うっかり。
 やー、すみませんね。

 と…怪しいものじゃありませんよ。
 僕、こういうものでして」

少し冗談っぽく言いながら、名刺を取り出し女性へと差し出す。
シンプルだがセンスを感じる洒落たデザインのそれには、こう書かれているだろう。

『常世財団法人 人材勧誘部門
 部長 四方阿頼耶』

虹水 >  
「あらヤダ聞かれてた恥ずかしい!拙者のワイルドなんとかの試射式だったのに!

 ……で、どんな噂を聞いてきたんですかな。
 化物が学院にいるとか?それとも、難病も治す神の水でも汲みに来ました?」

椅子に座ったままぐりんと首だけをそちらへ向け、声を投げ返す。
ぱこぱこと、発射される弾がターゲットを撃ち倒していく。
見てもいないのに割とすごい命中精度だ。

「はいドーモ。
 あいにく拙者は渡すような名刺も持ってないもので口頭で勘弁ですぞ、生物学専攻の彩雲寺です。
 ……常世財団ねぇ。海の向こうにでっかい学園都市を持ってるんでしたっけ?
 で、拙者みたいな不真面目な学生に人材勧誘の方が何を求めてらっしゃるんですかなー。」

名刺を受け取ると、飽きたのかキッズホビーを箱の中へと投げ込む。
辺りには菓子類やノート、その他何かのパーツと思われるものが散乱している。
その真中にあって、くるりと椅子を回して男の方を見た女は……言いようもなく、作り物のように美人だ。

スーツの男性 >  
「いやぁ、美しく優秀な未来の生物学の権威がここにいるって聞きましてね?
 半分は個人的に、残りは……残念ながら、お仕事で。
 本当はプライベートでお会いしたかったんですけどね。
 ホントですよ?」

肩をすくめて言うその姿は、まるで軟派な優男のような印象を受けるかもしれない。
ただ、嘘のようにも聞こえはしないだろう。
というよりもどっちとも取れない、と言う方が正しいが。

的を見ないで弾を発射して当てるその姿を少しばかり見て、ひゅぅ…と口笛を鳴らすと、男性はそのまま近くの椅子に腰かける。
そしてそのまま、貴方の方を見つめながら話を始めるだろう。

「ええ、この国の海渡ってちょーっとの所にある、島一個使って作られてる学園都市から来ましてね。
 お察しの通り、スカウト…という奴です。

 常世学園…ウチの”校風”は多分、ご存じでしょう。
 ウチは”個性を活かす”校風が持ち味でしてね。
 21世紀に入って急に個性豊かになってしまったこの星全体、いや…”それ以外”も含めた新しい社会の在り方を作る…なんて名目で、そりゃあまぁ色んな”生徒”が押し寄せてましてね。
 ただその生徒の数に反して、教員の数ってのはどうにも足りてない。
 それもひとえに1人1人の個性があっちこっち行き過ぎてるのが原因なんですがね。

 いやぁ、お恥ずかしい限りで」

そうやって話す男は、話の割にどうも気軽で。
まるで空の上でも跳ねてるように軽い口調で、切実な問題を軽々と話していく。

「貴方の”個性”についてもご存じです。
 だからさっきの質問には…”両方”って答えるべきですかね。
 ”この学院に魔性の女性がいると聞いた”
 ”難病も治す神の水があると聞いて汲みに来た”
 …どっちも、正解です。

 ウチは優秀で”個性的”な人材を何時だって求めてるもので。
 貴方のような方は…ついつい、こちらからアプローチしたくなるんですよ」

ちらり、とサングラスの下の瞳が女性の瞳を覗き込む。
オレンジ色のその瞳は…まるで琥珀のようだった。


「彩雲寺さん、貴方……常世学園で教師、やってみる気なんてありませんかね?」
 
 

虹水 >  
「それは光栄ですな、権威になるつもりはないのですけども。
 あいにく食事の予定は数年先まで埋まってましてな、ハンバーガーとかで。」

へらへらと笑いながら、その顔を見つめる。
ゆるゆるとした、しかし射抜くような黄金の瞳がサングラスの向こうを見透かすように貫く。
どちらも、腹に一物を抱えているのは変わりない。

「全く、拙者に言わせてみればとんだ夢物語ですぞ~。
 ただでさえ《大変容》の影響で世界中の生態系に狂いが生じてるんですぞ?
 そのうえ人は異能に目覚め、あっちには魔術、こっちには妖術。
 把握には全くもって手が回らず、一向に目が回るばかりです。」

そして、足元に転がる菓子の袋をばりばりと開けて、中身を食べ始める。
チョコ菓子だ。甘い香りが漂ってくる。

「見ての通り、生物学なんぞ今の時勢で学ぼうなんて奇特な輩は拙者しかいません。
 何の役にも立ちませんからな。拙者もほぼ趣味でやってます。
 そんな拙者に教師をやれと?スカウトマンより落語家のほうが向いてますぞ君。
 どう考えても無駄で、無意味で、無謀ですな。是非を論ずるまでもない。」



……それだけ言って、袋に手を突っ込み……

摘んだチョコ菓子を、男の口元へと運ぶ。
チョコの甘い香りと……もう一つ、爽やかなミント系の香水の香気。


「だからこそ面白いじゃないですか。やりましょう。
 それに拙者は、生物じゃなくて『異能』を研究したいのですな。
 それなら、そちらで好きに異能を見て回れるのは僥倖以外の何物でもない。
 一も二もなく受けさせて頂きましょう。」

スーツの男性 >  
「そりゃあ残念」

食事の予定は埋まってる、と言われ肩をすくめる。
そしてその後すぐに、本来の話に戻るだろう。

「へぇ……異能を研究したい。
 ちょっと気になりますね。何故、そのように?」

少しの興味の表情で、彼女に問いかける。
異能を研究したい、という人間はそれなりに学園にもいる。
だが、態々生物学を研究して、そこから異能研究に転向するというのは…その理由を伺ってみたかった。
 

虹水 >  
「んふふ、奢りなら一緒に食べに行くのも吝かではないですが。
 お金がないわけではないんですけど~。」

要は奢られるのが好きということだ。性格が悪い。
……そして、質問が来れば少しばかり眼光が鋭くなる。

「知らないからです。だって生物学的におかしいじゃないですか。
 火が出る、氷が出る、電気が出る、場合によっては概念から世界の法則まで
 あちらこちらを捻じ曲げて、泥をブッ掛けてぶち壊すような異常存在。
 もちろん拙者も含めてね。」

ぎし、と椅子を鳴らす。
しかしそれは、脱力ではなく……食い入るように、顔を男に寄せた姿。

「最高に面白いじゃないですか。だって生物としておかしい。
 生物としておかしいからこそ、生物学で解体してみたい。
 無知とは最高の娯楽ですぞ?」

そこまで言って、再び椅子に体重を委ねる。

「ふー。少し興奮しすぎましたな、あついあつい。
 ……ま、別に知的好奇心だけでやろうなんて思ってるわけではないのですぞ?
 なんせまだ就職先が決まってませんし。そろそろ卒業なのにねぇ。」