2021/02/14 のログ
ご案内:「エアースイム常世島大会会場」に杉本久遠さんが現れました。
杉本久遠 >  
『えー、この場にいる多くの方の協力により、今年も無事、開催できる事を喜ばしく思います──』

 壇上に立つ、40代も半ばに見える男性。
 島外から招かれ、魔術道具の研究開発に協力している嘱託職員。
 彼が、エアースイム常世島運営委員会の会長だ。

 エアースイムを愛していた彼は、知名度が限りなくゼロに近かった常世島で、地道な活動をし続けたのだ。
 その結果がこの運営委員会であり、常世島大会の開催である。
 久世拓郎──杉本久遠が尊敬する人物の一人である。

『──それでは、これより。
 エアースイム常世島冬季大会を、開会いたします』

 久世会長の挨拶が終わり、ついに大会が始まった。
 

ご案内:「エアースイム常世島大会会場」から杉本久遠さんが去りました。
ご案内:「エアースイム常世島大会会場」に杉本久遠さんが現れました。
杉本久遠 >  
 少ない観客を誘導し、会場の巡回をし、各委員会からの訪問に対応し。
 久遠は忙しなく会場を動き回っていた。
 そんな所に、親しい委員会の仲間から声がかかる。

『おぅい、杉本!
 お前、そろそろ試合だろ。
 今日はもういいから、準備してきな』

「おお、助かる!
 それじゃあ、あとは頼むな」

 そして、久遠は会場を横切り、選手用の控室になるテントへと入っていく。
 そこには既に何人かの選手が待機しており、久遠の妹である杉本永遠も、久遠を待って控えていた。
 

杉本久遠 >  
『あ、兄ちゃん遅いよ!
 ほら、S-Wingとスーツ準備しておいたから、さっさと着替えて、着替えて』

「お、おお。
 まて、わかったから押すな押すな」

 S-Wingとスイムスーツを持たされると、着替え用のセパレートカーテンの向こうに押し込まれる。

『とりあえずそのまま聞いてね。
 選手は兄ちゃん含めて五人。
 スピーダー二人にオールラウンダー二人、
ファイターが一人』

「五人か、多いな」

『いやいやー、1000mとは思えない参加率だよね。
 最近はスピーダー人口も減っちゃってますからなぁ』

 スイムスーツに着替えながら、妹の言葉に唸った。
 

杉本久遠 >  
『で、この内、気をつける相手は二人。
 オールラウンダーの古池選手とアルトワ選手だね。
 スピーダーの小堺選手は最高速度で兄ちゃんよりも早いけど、オールラウンダーのどっちか、それとも両方に叩かれるよ。
 それが大体600から700mかな。
 その辺りで小堺選手の速度を殺してから、最悪両方が兄ちゃんに流れてくる。
 ここを上手くかわせるかどうかが分かれ目。
 一応最後はファイターの宮内選手だけど、スピードに乗った兄ちゃんならパスできるよ。
 900mくらいで追い抜けるはず。
 だから、途中で抑えられないようにしてね』

「うーむ、抑えられるつもりはないが、難しい事を言うなあ」

『何言ってんのさ。
 兄ちゃんならなんとかするでしょ』

「だはは、期待が重いぞ!」

 だが、妹の言うとおりなのだ。
 なんとかしなければ勝てないのである。
 とはいえ、これはあくまでも予想でしかない。
 無難な試合展開をした際の予想図だ。

「そうなるといいんだがな」

『だねえ。
 想定外が起きたら、あとはもう地力勝負だし。
 そしたらもう最後の宮内選手を抜けるかどうかかな』

「お前から見たらどうだ?」

『多少の事はあっても、ギリギリで追いつけると思うよ。
 兄ちゃんが私の予想より早くなってれば、余裕かなー』

「なら、予想を超えないとな!」

 着替え終えた久遠はカーテンから出ると、妹の手を借りながら、ストレッチとウォーミングアップを始める。
 そして、ちょうど体が温まった頃に、選手へ呼びかけるアナウンスがされるのだった。

 

杉本久遠 >  
 スタートラインに横並ぶ、久遠と小堺。
 小堺は40手前の選手だが、若々しい笑顔で久遠に片手を上げた。

 スピーダーの人口が減った事もあり、同じスピーダーと言う事で親しみも覚えるのだろう。
 久遠もまた笑顔を返して、スタートの姿勢に入った。

 ゆっくりとした10カウント。
 0のブザーと同時に、選手は一斉にスタートを切った。
 スピーダーの特徴として、最高速度は早いが、動き出しが鈍いというのがある。
 小堺は典型的な最高速度型のセッティングであり、ややバランスよりの久遠に比べると更に動き出しが遅い。
 結果、序盤のリードは久遠が取る事になる。

 しかし、それでも300mも行けば逆転されるだろう。
 勝負はそこから、先行する二人の選手に追いついてから──小堺も久遠もそう思っていた。
 だが、予想外の展開は起こるものだ。
 

杉本久遠 >  
 先行するオールラウンダー二人のうち、アルトワ選手が突如反転。
 逆走をはじめ、久遠へと真っ直ぐ向かってきたのだ。

(──そうきたかっ!)

 驚きと共に、内心で感嘆の声を上げる。
 1000mのルールに、逆走の禁止は含まれていない。
 スピーダーである久遠と小堺を、最序盤で躓かせようという、面白い作戦だった。

 突進してくるアルトワに、久遠は接触のタイミングを測る。
 迂回して回避をしても、久遠より小回りの効くセッティング相手では背中を取られ易くなるだけだ。
 それならば正面からタイミングを合わせて弾き返すのが、最もロスが少ない。

(ここかっ!)

 やや上から叩き落とすように腕を振るアルトワに、久遠も上下反転しながら、その腕を弾き返す。
 アルトワは大きく弾かれるが、その勢いを加速に利用しながら体勢を立て直した。
 姿勢制御が非常に上手い選手だ。
 そして、久遠には目もくれず小堺へと向かっていく。

(まさか、全員に接触するつもりか!)

 対する久遠は、持ち前の体幹を活かして姿勢を保持するも、大きくコースからはじき出されている。
 幸いにも大きな減速はせずに済んだが、外を弧を描くように迂回するハメになった。
 首を向けてアルトワの動きを追うが、やはり小堺にもまた仕掛けており、小堺を突き崩していた。
 

杉本久遠 >  
(これで小堺選手は厳しいな──だが、アルトワ選手も前に追いつけるのか?)

 浮かんだ疑問符への答えは、アルトワを見ていればわかった。
 アルトワは初速を抑えて、最高速度を大きく上げた設定をしていたのだ。
 スタートラインを思うと、オールラウンダーの範疇ギリギリといったところだろう。

 それでも、オールラウンダー同士である古池とぶつかれば、先頭を行く宮内に追いつくのは厳しいだろう。
 かなり大きな賭けに出たと言える。
 古池からワンタッチでヒットを取れなければ、1位は有り得ないだろう。

(──こっちはこっちで、厳しいがな)

 直線ルートから外れた久遠は、他の選手よりも長い距離を泳がなくてはならない。
 元々900m地点で宮内に追いつくはずだったが、このまま速度に乗れても、追いつけるのはゴールギリギリとなるだろう。

(900地点には間に合わないか。
 だが、ルートを外れた以上は妨害もない。
 純粋なスピード勝負というわけだ!)

 久遠は、海面に向けて下降を始める。
 重力を用いて加速する技、ローハイアクセルだ。
 海面までなるべく距離を使い、速度を上げ、海面スレスレで上体を反らし、上昇をかける。
 水飛沫を上げながら、久遠の体は上昇し、真っ直ぐにゴールへと向かっていく。
 

杉本久遠 >  
(──古池選手とアルトワ選手は共倒れか。
 どちらも上手く行かなかったみたいだな)

 アルトワがワンタッチでヒットを取るか、古池がカウンターを決めるか。
 どちらでもなかった以上は、互いに上位を譲らないためには格闘戦になってしまう。
 しかし、その時点でどちらにも1位はないのだ。
 これで、久遠にも追い風が吹く。

(宮内選手──早いな。
 当然、ファイター判定ギリギリのスピードか。
 しかし、それなら勝機はある)

 1000mの場合、必ず先行する事になるファイターの選手は、どこかで選択を迫られることになるのだ。
 逃げ切りを目指すのか、追ってきた選手を墜とすのか。
 どちらを選ぶかは、後方の戦況で大きく変わる。

 順当に、オールラウンダー、スピーダーといった順で追いかけてくれば、格闘戦に持ち込む事が最もファイターの勝利に近い。
 しかし、このレースのように後方がもたついているのなら、速度の遅いファイターも逃げ切りが視野に入るのだ。
 そして、宮内はかなり最高速度に寄せた設定で詰めてきている。
 

杉本久遠 >  
(ゴール直前で格闘戦は、宮内選手も嫌がるだろう。
 ファイターが有利とはいえ、オレも最高速度だ。
 接触の仕方次第で、どちらが勝つかは読めない。
 となれば、リードを活かしてゴール際で競り合うのが最も勝機がある)

 宮内の姿がしっかりと視界に収まる。
 ちらりと久遠を見る様子があったが、宮内は動かない。
 久遠の予想通り、スピードで競り合うつもりなのだ。
 
 900m地点を超える。
 宮内の姿が鮮明に捉えられた。
 そして950、あと少しで手が届く距離。
 

杉本久遠 >  
 970──ほぼ横並び。

 980──顔が並ぶ。

 990──

「──オォォッッ!」

 雄叫びと共にゴールラインを通過し、ブザーが鳴り響く。
 宮内、久遠、どちらもが緩く円を描くように旋回し、減速する。
 そして向き合った両者の表情は、どちらも硬く、緊迫していた。
 

杉本久遠 >  
 少しの間があり、小堺がゴールし、次いで古池、アルトワとラインを切る。
 結果的に、アルトワの作戦は失敗したと言えるだろう。
 各選手の表情は、満足げであったり、悔しげであったりと様々だ。

 そんなゴールラインの向こうで、判定を待つ宮内と久遠。
 そして両者の頭上に、勝者を映す映像が投影される。
 ──映ったのは紺色のスイムスーツだ。

「いよっシャァッ!」

 両手を付きあげる久遠。
 久遠の今大会最初の試合は、無事1位獲得で決着したのだった。
 

杉本久遠 >  
『いぇーい、ナイススイム!』

 地上に降りると、妹の永遠が右手を上げて駆け寄ってくる。
 それに笑いながらハイタッチを返すと、タオルとドリンクボトルを渡された。

『おつかれさん。
 いやー、まさかの展開だったね!
 永遠ちゃん予想は大ハズレだったなー』

「だはは、なに、そういう事もあるさ。
 プロに比べて情報量もすくないからな。
 選手の性格までは読み切れないだろう」

 もし、アルトワ選手がああいった思い切りのいい作戦を取る性格だとわかっていれば、永遠もそれを計算に入れていた事だろう。
 しかし、それだけの情報を手に入れるのは、アマチュア界隈では特に難しい。
 

杉本久遠 >  
『んだねー、でも、ああいう戦法があるって事は覚えとかないとね。
 あれ、上手いファイターが仕掛けてきたら、かなり強力な戦法だよ。
 まあ、リスクも大きいからあまり積極的に採用はされないと思うけどね』

「そうだな。
 使える状況も多くはない。
 今回みたいな配置の時は、少し気をつけるくらいでいいだろう」

 汗を拭きながら、ボトルから永遠手製のスペシャルドリンク(ゲキマズ)を飲みつつ考える。
 今回は失敗する事になったが、戦法自体は悪くなかった。
 これがもし、先行するファイターが行っていたら、どの選手も非常に苦しい展開になっただろう。

 しかし、例えばファイターが二人であったり、オールラウンダーが三人であったりと、格闘戦のリスクが上がる組み合わせであれば、この戦法は採用しづらい。
 また、この戦法を採ったとしても、ヒットが取れなければ立て直したオールラウンダーやスピーダーに追い抜かれてしまう可能性もあるのだ。
 奇策の一つとして狙える手段ではあるが、プロの試合で見られないということは、そういう事なのだ。
 

杉本久遠 >  
『よし、それじゃしっかりクールダウンして、明日以降の試合に備えないとね。
 兄ちゃん、この後は手伝いないんでしょ?』

「おう、流石にな。
 あとは試合予定の日は代わってもらえる。
 手伝いと試合が被るのは今日だけだな」

『んぃ、おっけー。
 じゃあ、後は1000mが三本と、スカイファイトが二試合か。
 どれも勝って、選考会に行きたいねー』

「だはは、勝っても行けるとは限らんからな。
 もっと優秀な成績の選手が居れば、難しいだろう。
 だが、1000mは是非とも挑んでみたいところだ」

 久遠は自分を優秀な選手だとは思っていない。
 しかし、この二年の努力は嘘をつかないと、その身で知っているのだ。

『兄ちゃんなら狙えるよ。
 あ、これ、身内贔屓じゃないからね?』

「だはは、永遠が言うなら狙って見せないとな。
 うむ、メダルの一つくらい、持って帰りたいものだ」

 永遠にドリンクを返しつつ、クールダウンのために会場の隅へ歩き出す。
 試合後はしっかりと身体をほぐしておかないと回復効率が悪いのだ。
 

杉本久遠 >  
『はーあ、春香ちゃんも来れればよかったのになー。
 控室の雰囲気とか、空気感とか、教えてあげられたんだけどなー』

「なに、川添には川添の都合もある。
 チャンスは今日だけじゃないしな。
 それに、試合だけでも見てくれてるかも知れないぞ」

 大切な新入部員であり、後輩。
 そんな彼女に恥じない試合をできただろうかと自問する。
 そして、その答えはYESだ。

『よーし、この調子で頑張ろーう!』

「おう!」

 こうして、杉本久遠は大会初戦を終えるのであった。
 

ご案内:「エアースイム常世島大会会場」から杉本久遠さんが去りました。
ご案内:「エアースイム常世島大会会場」に照月奏詩さんが現れました。
照月奏詩 >  
「……どうするか」

 掃除として依頼が来た大会。
 ただの部活だからと思っていたらそれなりの規模で少し驚いたりはしたものの。一人でいつまでも掃除し続けているわけにもいかない。
 休憩だからその辺ブラブラしてこい。学校の部活らしいし知り合いいるかもしれないしな。なんて言われて送り出されたのが少し前。そう悪気はないのだろうだが。

「いないっての知り合いなんて……」

 そもそもが2級学生。その上最近は夜に出かけることも多く学校などほぼ授業するか寝ていた毎日。
 しかもこういうスポーツマンとは全然関与しない立ち位置。いるわけがない。そんなことを思っていた。

「……にしても、エアースイムね」

 掃除しながら少し見ていたが……自身の場合能力で毎日近い事をやっていたこともあり技術的には出来なくもなさそうだな。なんて少し考えていた。
 見ていた視線は装備レンタルのコーナー。その練習のブースだ。

照月奏詩 >  
「時間つぶしにはなるか」

 別に少し遊んだって文句は言われない。というより先輩からして休憩時間には試合を見ながら一杯などと洒落こんでいた馬鹿者だ。文句など言わせない。
 スタッフに聞く。大まかなルールや装備の事。元は軍事技術の転用というのを聞いて少し納得したりもした。
 自分の飛び方を思い出す。防御なんて考えたこともない。加速なんてのは必要ない、行ってしまえばぶつからなければ勝手に早くなる。ということで。

「じゃあ限界まで最高速と制御を上げてください……ああ、大丈夫ですそれで」

 初心者にはピーキーだからやめておいた方が良いとか。防御を上げた方が良いとかバランスがどうのとか説明されるも自分が最も慣れている方が良い。
 スタッフとしては楽しいと思って定着してほしいがゆえ初心者にそんな目回して墜落しそうな調整をオススメはしたくなかったのだろうが。大丈夫という言葉を聞いて調整が終わるまでお待ちくださいと億へ。
 自身は近くのベンチに腰を下ろして出来上がるのを待っていた。

照月奏詩 >  準備が出来ました。なんて声に言われて装備をしてフィールドへ。
 練習というだけあって皆飛ぶのがやっとといった感じだ。
 自身も装置を起動させる。フワリと浮かぶ。

「……浮かぶのは新鮮」

 いつもは飛行機雲が出来そうなレベルの高速移動で空をぶっ飛んでいるので浮かぶのは少し新鮮だ。ほんの少し体重をかけるだけでグルンと回る。

「……なるほど。オススメしないわけだ」

 体制を戻ろうとするも逆にグルングルン回る始末。はたから見れば大惨事。
 だが本人からすればある意味で計算通り。

「よし、慣れた」

 水中を泳ぐように空を蹴りだし一気に上昇。そして急降下。
 ロー・ハイ・アクセル.水に激突する寸前で急上昇しながら左にほぼ直角に曲がり切る。
 急制動。足の向きを変えての急加速。転身降下上昇そして急制動。

「ここまで感度が高いと能力と同じか……問題があるとすれば」

 止まれない遅くできない。その一言。
 動いてしまえば見ての通りだが。動き出したが最後、速度を落として安定することは初心者の自分には不可能。つまり攻撃に回れれたらいったん落ち着いて体制を立て直すなど不可能。一気に不利に陥る。
 超超超攻撃型スピーダーと化している。もはや弾丸かミサイルである。

照月奏詩 > 「結構楽しいじゃん」

 もし自分が本当の意味で学生であったのなら。こんな部活をしてみてもよかったかもしれないなんて思ってしまう。
 もっとも普通の学生であったならここまでの飛行技術など手に入れられなかったのだろうが。
 背面泳法をしながらそんな事を考える。そのまま周りの様子を見ているとこちらに手を振ってる1団が見えた。
 飛べる奴ら同士でスカイファイトをしようとかいう話があるらしい。
 頭の中でルールを思い出す。色々とあったが簡単に言えば速度を乗せて敵を後ろからぶったたけ、もしくはそのままぶつかれ。だったはずだ。

「おお、いいぜ。ルールとかは改めて確認な」

 そうしてそっちへと飛んでいく。

 後日、その試合を見た関係者である噂が流れるそれは”ビギナーウルフ”と呼ばれる体験利用者の話。
 高速で飛び回り決して正面戦は仕掛けない。他選手が一瞬でも隙を見せた瞬間後ろから最高速度での攻撃で有効打撃を奪い取っていくまさしく狩人のような体験選手。そして正面戦闘となれば格闘技のような技で隙を作り一気に速度を活かして逃走する。
 少し卑怯かもしれないが鍛えれば絶対にいい選手になるぞ。そんな噂であった。

ご案内:「エアースイム常世島大会会場」から照月奏詩さんが去りました。