2021/02/16 のログ
ご案内:「エアースイム常世島大会会場」にシャンティさんが現れました。
シャンティ > 「あぁ……生、で……触れ、ると……また、違う、の……ねぇ……迫力、と、いうの、かし、らぁ……?」

こつ、こつ、と――やや鈍く重い、足音を立てて女は歩いてくる。


「ふふ。此処、は……特等、席……かし、らぁ……? 久遠、くん……?」


一人、堤防に座る青年に笑いかける。


「ひょっと、して……お邪、魔……だった、かし、ら……? ふふ。つい……見つけ、て……しまった、か、ら……ね。」


小さく首を傾げて言葉を継いだ。

杉本久遠 >  
「ん、お?」

 再びやってくる人の気配。
 足音が聞こえれば、そちらに顔を向けるだろう。

「おお、シャンティか!
 別に邪魔なんてことはないぞ。
 ここはそうだな、特等席というにはちょっと遠すぎるが」

 『見えて』いるらしい事は、以前会った時に気づいていた。
 だから、片手をあげて笑いかける。

「見に来てくれたのか。
 スタッフの一員として嬉しい限りだ。
 どうだ、試合の、大会の空気とか、そういうのは、感じられたか?」

 

シャンティ > 「えぇ……そぅ、ねぇ……お店、の人に、聞いた、り……実際……こう、して……自分、でも……試し、たり……して、るの……だけれ、どぉ……」


そういって、女が指し示すのは自らの足元。そこには確かに、エアースイム用の装具がつけられていた。


「けれ、ど……"本物”……は、違う……わ、ねぇ……そう……なん、て……いう、の……かし、らぁ……激流、の……中、の……優雅、さ……? えぇ……本当、に……泳い、で……いる、みた、い……な……」


唇に人差し指を当て、少し考え始める。


「……うぅ、ん……いけ、ない……本読み、の……語彙、なし……だ、わぁ……うま、く……いえ、ない……わ、ねぇ……」


やや不満げにこぼした。それはどこか、拗ねた少女のようにも見えるかもしれない。


「あぁ……それ、とぉ……熱気――いい、わ、ねぇ……みぃ、んな……"本気”、で……向かって、いる……感じ……私、は……そう、いう、の……好き、よぉ……ふふ。久遠、くん、も……この、空気……好き、なの……かし、らぁ……?」


くすり、と笑った

杉本久遠 >  
 足元を見れば、S-Wingを身に着けている。
 以前ショップへ案内した時に買ったのだろうか?
 それとも、海上でレンタルしてきたのか。

「おお、やってみてくれたのか!
 本物も偽物もないさ、空の上では誰もが一人のスイマーだよ」

 と、答えるうちに少女の表情が変わる。
 その、それまでの雰囲気と少し違った様子に、笑みがこぼれた。

「はは、君もそんな表情をするんだな。
 そういうところが見えると、身近に思えて可愛らしいぞ。
 どうも君は、浮世から離れてるような感覚があったからなあ」

 年頃の少女らしい、そんな一面。
 彼女にもちゃんと、そう言った一面があるのだとわかると親近感も湧く。

「ああ、この熱気はオレも好きだ。
 あそこで泳いでいる、誰もが本気で競い合っている。
 この熱が、見ている人に少しでも伝わればいい、そう思うよ」

 そう、会場を眺めながら微笑む。
 

シャンティ > 「もっと、もぉ……私、は……こ、う……浮い、て……のぉ、ん、びり、する……くら、ぃ、よぉ? ふふ……で、も……癖、に……なる、わ、ねぇ……これ」


其の場で魔力膜を展開し、ふわり、と浮かぶ。そのままうつ伏せの姿勢になって、そちらに顔を向ける。


「あら、はずか、しい……ふふ。可愛ら、しい……だ、なんて……もう、意地の、わるぅ、い……人、ねぇ? それ、ともぉ……口説き、文句?」


いたずらっぽい表情を浮かべて笑ってみせる。


「ふふ……十分、つた、わると……思う、わぁ……」


遠く、会場の方を眺めるように一瞬だけ顔を向けて


「それに、して、もぉ……思った、より……はげ、しく……ぶつか、るの、ねぇ……? 保護膜、が……ある、のは……知って、いる、けれ、どぉ……怪我、とか……しない、の……かし、らぁ? 久遠、くん……も、さっき……アタック、され、てた……わよ、ねぇ……?」

ふと、思い出したように尋ねた

杉本久遠 >  
「おお、なかなかスジがいいな。
 確かに、浮かんでぼんやりするのもいいものだからな」

 久遠もただ、空に浮かんでいるだけの事もある。
 空の中を漂っていると、些細な事は気にならなくなる。
 心が休まるというのだろう。

「だはは、オレが口説くには、君はあんまり勿体ない女性だろう!
 たが、美しくいて、それで可愛らしい一面もある。
 君が素敵な女性である事は、否定しようがないな」

 口をあけて笑ってから、うっすらと瞼を開いて微笑みかける。
 底の知れないミステリアスさに、つかみどころのなさ。
 それらを含めて――彼女は魅力的な少女であろう。

「そうか、伝わるか。
 うむ、ならよかった」

 そして、また久遠もフィールドに描かれるコントレールを視線で追う。

「ん、ああ、見てたのか?
 あれは、なんだ、もう少しうまくできたはずなんだが」

 と、少しだけ恥ずかしそうに頭を掻いて。

「そうだなぁ、所謂、打撲のような外傷は少ないんだが、関節や筋肉を傷める事はよくある話だな。
 ほら、かなり勢いよく身体が弾かれるだろう?
 弾かれた時に腕や足が振り回されて、筋や関節を痛めるんだ。
 他にも、無理に体勢を整えようとして傷めたり、まあ、色々だな」

 酷いときは、靱帯の損傷や筋腱断裂などで、長期療養が必要になる事もある。
 とはいえ、今の医療技術の中では、それほどに深刻な怪我にはならないのが幸いだが。

「あとは、事故が起きると最悪、亡くなる事もある。
 まあ、S-Wingが完全に機能停止でもしない限りはあり得ないんだが。
 オレの知る限りじゃ、もう十年は死亡事故は起きてないはずだ」

 とはいえ、エアースイム開催初期や、S-Wingの開発初期は事故も多かったと聞くが。
 民間に降ろされてからは、なによりも安全面が重視されるようになったために、事故はほぼなくなったと言っていいだろう。
 

シャンティ > 「ふふ……たま、ぁに……こう、する、のも……不思議、な……浮遊、感……うぅん、本当に、浮いて、いるの、だから、当然、なのだけ、れどぉ……無重力、みた、いな……感じ……が、いい、わ、ねぇ……?」


ぐるぅり、ぐるぅり、と――縦に、横に、斜めに回っていく。其の様は、確かに無重力に舞う何者かにも見えた。


「あら、あらぁ……フラれ、ちゃ……ったぁ……? ふふ。ざぁ、ん、ねん……けど、それ、も……いい、わぁ……」

くすくすと、回りながら笑う

「あ、ぁ……それ、で……思い、出した……の、だけ、れど、ぉ……はぁ、い……これ。日付、は……もう、終わって……しまった……けれ、どぉ……バレン、タイン……の、贈り、モノ……よぉ?」


変わらず、回りながらどこから取り出した小さな包みを小さく放る。


「それ、は……もち、ろん……せっかく、です、もの、ぉ……見せ、て……もらった、わぁ……? ふふ。もう、反省、会……な、のぉ? 向上心、ある、のね、ぇ……いい、わぁ……」


克己するもの、躍進するもの、苦悩するもの、挫折するもの……あらゆる生の躍動が、情動が、好物である。だから、一生懸命頑張る人間は応援したくなる。


「あ、らぁ……やっぱ、りぃ……スポーツ、です、もの……ねぇ……そう、いう、の、ある、のね、ぇ……久遠、くん……は、大丈、夫……な、のぉ……?」


回転を止め、たまたま仰向けになった姿勢のまま、ゆらりと泳ぎ寄って手を伸ばしてくる。

杉本久遠 >  
 浮かんでくるくると回る姿を見て、慣れるのが速いなと感心すると同時に、こんな泳ぎ方もあるのかと思った。
 競技の泳ぎとは違う、自由な姿。
 とても優雅だ。

「はは、フるなんてとんでもない。
 オレがもっといい男だったら、きっと口説いていたさ」

 そう笑っているうちに、少女から投げ渡される小さな包み。
 危うげなく受け取って、しかし、包みと少女を交互に見る。

「バレンタイン――いや、確かにバレンタインではあったが、なあ。
 オレが貰っても、いい物なのか?」

 驚くというよりは戸惑い。
 それもそうだろう、この男、これまで妹以外からもらった事なんてないのだ。

「ん、あ、ああ。
 反省点はすぐに改善したいし、な。
 怪我はまあ、昔は多かったが、最近はほとんどない、が――」

 頭を掻きながら答えるのも、少々歯切れが悪い。
 そして、戸惑った表情のまま少女を見れば、ちょうど手が伸びてくる。
 細く、綺麗な手だと思った。

「あ、いや、これ、本当にいいのか?」

 自分よりもずっと細く小さな手に触れられ、ぎくしゃくと身を固くしつつも。
 この状況と、手に取った包みに現実感がなく、戸惑いを隠せない。
 

シャンティ > 「あら、あらぁ……貴方、が……私、を……こう、した、の、にぃ……その、御礼……で、は……だ、めぇ……?」


戸惑う青年に、女はくすくすと笑いかける。それは、純粋な好意であり、純心な行為である。やや、思いつきであったことは否めないが。


「あら、奥歯、に……なに、か……挟まっ……た、よう、ねぇ……? ふふ、あーん、す、るぅ……?」


くすくすと、ひっくり返った姿勢もそのまま、触れたまま、笑う。



「いい、の、よぉ……それ……私、の……気、持ち……ふふ。それ、とも……い、や?」


じっと、虚ろの目を向ける。



「ふふ、私、は、ぁ……貴方、を……もぉ……っと……読んで、みた、い……わ、ぁ……ふふ。いい、かし、らぁ……?」


くすくすと笑って笑って、優しく撫でる

杉本久遠 >  
「あ、あーん――? ――!?」

 一瞬意味が理解できなかったが、わかった瞬間、あんぐりと口を開いて呆然とする。
 一体、今何が起きているというのだろう。

(な、なんだ!?
 一体何が起きてるんだこれは!?)

 完全に状況についていけていない。
 というより、久遠の理解を超えたなにかすごい事が起きている。

「え、あ、いやなはずはないぞ!
 お、おお、ありがたくいただくが、その、あのだな」

 少女の虚ろな目が向けられると、それが自分を映していないとわかっていても固まってしまう。
 急に顔が熱くなってきたような気がした。

「こ、こういう物は、親しい相手か、意中の相手に渡すんじゃ、ないのか?
 お、オレをよん――!?」

 撫でられた。
 あんぐりと口を開けて、顔を赤くしたまま硬直した。

(い、一体何をされているんだ俺は!?
 というか、読んでみたいってなんだ!?
 どういう意味なんだあぁぁぁ!?)

 頭の中は大パニックであった。
 

シャンティ > 「あ、らぁ……どう、した、のぉ……? そぉ、ん、な……あわ、て、て……ふふ」


慌てふためく青年とは対照的に、褐色の女はただ楽しげに笑う。まるで日常の一コマのように。ごく当たり前のことが置きているかのように。


「ん……あ、ぁ……そぅ……そぅ、よ、ねぇ……」


人差し指を唇に当て、考える仕草。ようやく手が離れた。


「たった、二度……じゃ、あ……親し、みも……わか、ない、かし、らぁ……? そぉ……悲し、ぃ……わ、ねぇ……」


ぐるり、と回り――すとん、と地に足をつける。


「お近、づき、の……証、だった、の、だけれ、どぉ……お気に、めさ、なかった……みた、い、ねぇ……ごめん、な、さい、ねぇ……?」


笑いは消え、申し訳無さそうに言った。

杉本久遠 >  
「――は、へ?」

 パニックになっているうちに、手が離れていく。
 彼女から笑みは消え、消沈してしまった様子だ。
 それを見て久遠は――思い切り自分の両頬を引っ叩いた。

「――いや、すまん!
 ちがうんだ、あまりに嬉しくて、どうしていいかわからなかったんだ!
 君みたいな女性に親しみを持ってもらえるなんて、思ってもいなかったから、な」

 そして、彼女の前で勢いよく頭を下げる。

「傷つけてしまったならすまない!
 だが、オレはけして君の事を蔑ろにするつもりはない!
 このプレゼントも心から嬉しいと思っているぞ」

 そして、今度は久遠の方から少女の顔に手を伸ばし。

「だから、安心して笑ってくれないか?
 オレは、微笑んでいる君が好きだ」

 そう、自分もまた白い歯を見せて笑いかけた。
 

シャンティ > 「……」


一瞬、きょとん、とした顔になる。それから、にわかに笑みへと変化する。


「ふふ……必死、ね、ぇ……ちょぉ……っと、びっく、り……し、ちゃった……わぁ? いい、の、よぉ……別、に……平気、だか、らぁ……」


少なくとも、おぞけがする、などと言われるよりはよほど良いはずである。けれど其の一方で、仮にそう言われたところで何の痛痒も感じることはないが。


「けれ、どぉ……ふふ、嫌わ、れて……ない、の、ならぁ……よかった、わ、ねぇ……」


くすくす、と笑う。



「こんな、感じ、で……いい、かし、らぁ……? 貴方、の……好き、な……私……って」


笑いながら、問いかける。

杉本久遠 >  
「平気なわけがないだろう。
 誰だって、好意を無碍にされたなら傷ついておかしくない。
 少なくとも、君から笑みを奪ってしまったんだからな」

 率直な好意に驚きはしたが、けれどそれだけだ。
 それで少女の笑顔を曇らせてしまったと思えば、必死にもなる。

「もちろん、君を嫌うような理由がないだろう。
 ただ、なんだ、女性に好意を向けられる事に、どうもなれなくてなぁ」

 恥ずかしそうに頭を掻く。
 しかし、笑ってくれた少女を見ると、ほっとしたように息を吐いた。

「はは、その言い方は、なんだか、恥ずかしいな」

 と、またも顔を赤くして、困ったように笑う。

「うん、そうだな、その笑顔も素敵だが。
 オレはもっと――ああ、いや」

 そこで言葉を濁す。
 それ以上は、少しばかり不躾に思えたのだ。
 さっきの、無邪気に浮いて、泳いで、久遠を見ていた時。
 その時の穏やかな笑みの方が、ずっと少女らしく思えたなどと。
 

シャンティ > 「ふふ……本当、は……そこ、まで……落ち込、んで……なかった、かも……しれ、ないわ、よぉ……?」


くすくすと、顔を覗き込むようにして笑う。真相は?それは藪の中、としておいた方が楽しいだろう。


「あら、あらぁ……スポーツ、選手、なん、て……モテ、そう、なの……にぃ……一本気、すぎ、る、のも……よく、ない、のか、しら……ね、ぇ?」


少し首を傾げて考える。いわゆる朴念仁、というやつで、そもそも好意に気づいていなかったという可能性もあるかもしれないな、などと心のなかで思ってみる。流石にそれを口にするほど野暮でもなかったが。


「あら、なぁに……? ふふ、そう、やって……気を、もたせ、るのも、特技、か、しらぁ……? でも、いい、わぁ……きっと……言い、づら、い……だけ、でしょう、から……目を、つぶって、おく、わぁ……」


明らかに言いよどんでいた。それは、手にした書にもそのように記されるくらいに明確に。それでも、それ以上の詮索はしない。口にしたとおりであれば、それこそ詮索は無粋であるから。それは美学に反する。


「ふふ……思わ、ず……話し、こん、で……しまった、わ、ねぇ……大会、は……大、丈夫?」


進んでいく競技を文面で横目に捉えながら、尋ねる

杉本久遠 >  
「それならそれでいいさ。
 その時は傷ついた女の子はいなかったんだからな」

 そもそもこういう時、真相なんでどちらでもいいのが久遠である。
 自分がそう思ったから、すべきと思った事をするだけだ。
 それ以外の事を出来るような、器用な人間ではないのだった。

「だはは、メジャーなスポーツならともかくなぁ。
 流行らないスポーツの選手なんて、魅力にも欠けるだろう」

 朴念仁、かどうかはともかく。
 少なくともこの時は、自分が女子に好かれるなんて思ってもいないような様子で笑っている。

「気を持たせるなんて、そんなつもりはないんだが、うん。
 まあ、今回は目をつむっておいてくれ。
 それに、オレの好きな表情だけじゃなくて、どうせなら、いろんな君を見て見たいしな」

 そう笑って、再び会場の方へ目を向ける。

「ああ、オレの試合はもう終わりだしな。
 ただ、ここは話し込むには少し冷える。
 よかったら、観客席に行って見学しないか?
 向こうなら暖かいし、雰囲気も伝わりやすい」

 そう言って、堤防から立ち上がる。
 受け取ったプレゼントは大切そうにポケットへとしまい、片手にはドリンクボトルを持って。
 空いたもう一方の手は、少女の方へと向けられる。
 

シャンティ > 「orandum est, ut sit mens sana in corpore sano」


ぽつり、とつぶやく


『「――」満足気に青年は語り、「――」そう言って笑っている』



「なる、ほど……どち、らかと、いう、と……ストイック、な……方、かし、らねぇ……? ふふ。興味、深い、わぁ……」


先程は少し勇み足だったかと思うので、この先は少しだけ我慢。まだまだ機会はある。それに……こういうのも、悪くはない。



「観客、席……ね、ぇ……此処、でも……いい、の、だけ、れ、どぉ……あぁ、でも……近い、ほう、が……わか、り、やすい……か、しら……ねぇ。いい、わ……いきま、しょう……ふふ。では、エスコート……お願い、する、わね、ぇ?」


差し出された手に、やや慎重に手を差し出して掴む


「どこ、まで……つれ、て……いか、れ、ちゃう、かし、ら……ねぇ」


くすくすと、からかうような笑みを浮かべて、誘導に従って歩みを進めていくことだろう。

ご案内:「エアースイム常世島大会会場」から杉本久遠さんが去りました。
ご案内:「エアースイム常世島大会会場」からシャンティさんが去りました。
ご案内:「ea-」に杉本久遠さんが現れました。
ご案内:「ea-」から杉本久遠さんが去りました。
ご案内:「エアースイム常世島大会会場」に杉本久遠さんが現れました。
杉本久遠 >  
 大会は連日賑わって──はいない。
 残念ながら、観客も常にまばらで、選手の姿もまちまちだ。
 ただ最低限、試合が組めるだけの参加者がいるのは、幸いといったところだろう。

「うむ、今日も見通しがいいな!」

 人の居ない観客用テントを眺めて、ほんのり悲しくなった。
 今日の久遠はスタッフとして、会場の巡回中である。
 

杉本久遠 >  
 とはいえ、特に何をしなくちゃいけないわけでもなく。
 会場内を歩きながら、困ってる人がいないか、落とし物や不信物は無いかと見て歩くだけだ。
 歩きながら、試合を眺めている余裕もある。
 選手だからと比較的楽な仕事を回してくれる、仲間たちの気遣いがありがたい。
 
「ここも異常なし、だな。
 しかし、試合の方は荒れ模様だな」
 
 丁度フィールドを見ると、初日に試合をした小堺選手が、障害物に頭から突っ込んでいくのを目撃してしまった。
 一つ向こうのテントから、笑い声と声援が上がるのが聞こえてくる。
 周回制スイムはエンターテイメント性の高い種目でもある。
 笑いと声援が混ざり合うのは、理想の空気と言えるだろう。
 

杉本久遠 >  
「だはは、やっぱりこうでなくちゃな」

 エアースイムは元々こういった競技。
 エンターテイメント性の高い、見るものを楽しませる競技だ。
 もちろん、選手は勝つために戦っているが、それはそれだ。
 

杉本久遠 >  
 選手と観客はちがうのだ。
 観客を樂しませ、時に笑わせ、熱くさせ、手に汗握らせる。
 見る者にとっては、それがスカイスイマーだ。
 そして、それでいいのである。

「──ふう、一回りしてしまったな」
 
 気づいたら、会場を一通り巡回し終えてしまった。
 いや、早く終わるならそれでも良いのだが。
 その分、また間を開けて巡回を繰り返す事になるのだ。
 

杉本久遠 >  
「まあ、いいか。
 ひと休みしてからにしよう」

 屋外に設置された石油ストーブ型の魔動暖房機。
 かなり古い型だが、暖房効果は十分だ。
 パイプ椅子を持ってきて近くに座るだけで、ほかほかと暖かく心地いい。
 

ご案内:「エアースイム常世島大会会場」に照月奏詩さんが現れました。
照月奏詩 >  
「おう、おつかれ」

 運営委員のマークを見て知り合いだと思い後ろからそう声をかける。
 もしかしたら掃除スタッフとして何度か会場で目にしているかもしれない人物である。

「俺も休憩でな。少し借りさせてもらうぜっと……? ん、あ。前に試合出てたよなあんた。掃除しながらだけどみてたぜ」

 イスに座って相手を見ればそういえばそうだったなと思いだして声をかける。
 掃除ついでだが一回飛んでみてからなんとなく気になってたまに目がそっちに行っていたのだ。

杉本久遠 >  
「んぉ、お疲れさま」

 やってきたのは、作業服の青年だ。
 たしか、清掃を依頼した業者の人員だったろうか。

「おお、お好きに――ああ、はは、そいつはどうも」

 愛想笑いを浮かべながら、頭を掻く。
 見られたおはどっちの試合だろうか。
 まあ、どちらもあまり、かっこいい試合ではないのだが。

「選手、兼、スタッフだよ。
 運営委員はいつでも人手が足りてなくてね」
 

照月奏詩 >  
「選手兼スタッフか。そりゃ大変だな。あれ結構ハードだろ」

 なんて言いながらポケットからさっき買ってきたココアを取り出す。
 プルタブを開くと一口飲む。

「あ、そういえばあれだな。俺だけ知ってるのもあれか。クリーンダスターズからの派遣掃除スタッフの照月奏詩だ。まぁ好きなように。たぶん年齢あんまり変わらないだろ。久本選手」

 なんて気軽によろしくと少し笑っていた。
 そういえばさなんて言いながらパイプイスにもたれかかるようにしてから。

「前に体験コーナーで少しやってみたんだけどさ。結構難しいよな。飛ぶのはなんとかなったんだけどキャットファイト? ってのがむずいのなんの」

 それはめちゃくちゃピーキーな仕様にしたが故だったりするのだがそれがわからないが故初心者である。
 実際飛ぶのはなんとかなったが実戦であれが通用するかと言われたら非常に難しいだろう。速度のターンだけは一級品。それ以外が二級品かそれ以下といったレベルなのだから。
 まぁそもそも選手として出ることはないだろうが。

杉本久遠 >  
「そうでもないさ、スタッフ業務は楽な仕事を回してもらってるしな。
 ああ、やっぱり業者の。
 知ってるようだが、杉本久遠だ。
 君の方が年上に見えるけどな、照月」

 気軽そうな調子でいるのなら、こちらもまた軽く答える。

「おお、早速体験してみてくれたのか。
 だはは、初めてやって飛べたのなら、相当に素質があるぞ?
 最初は浮かぶだけでも精一杯な人がずっと多いんだ。
 特に、キャットファイトなんて初心者がやるようなもんじゃないからなあ。
 背中を取り合うドッグファイトすら、ままならないもんだろう」

 キャットファイトは細かなテクニックの複合で、それを連続して行う必要がある。
 正面から格闘しながら、後ろに回り込まなくてはいけないのだ。
 まともにやれるようになるには、素質があろうとそれなりの時間は必要だろう。
 

照月奏詩 >  
「ハッハッハッ、少し老けて見えるからなぁ。一応高校1年なんだぜ俺」

 年上と言われればケラケラと少しわらって答える。
 詳しい年齢は自分もわかっていないが、まぁたぶん20は行っていないと思う。もしかしたら行っているかもしれないが。
 相手の話を聞けばそうなのかと頷いて。

「へぇ、あれかな。格闘技やってるからそれでバランス感覚とかはよかったのかもな」

 実際は裏で空をビュンビュン文字通りぶっ飛んでいるからとは言えず。そういうことにしておく。
 取り合うというのもうなずく。

「わかる、あれ後ろ取るのも結構大変だったよな……俺は全力で逃げ回って戦ってる連中の漁夫の利を狙うみたいに後ろからぶったたいて回ってたわ」

 それでしか後ろとれないのと笑う。
 見ていて面白みがあるかどうかは別だが戦略としてはありというレベルだろうか。

杉本久遠 >  
「高校一年、というと15、16くらいか?
 はは、見かけによらないってやつだな」

 島の外で言う高校生と言えば、15才から18歳くらいだったはずだ。

「ふむ、確かに格闘技をやっていれば、慣れるのが速いは聞くけどな。
 それにしたって大したものだと思うぞ」

 とはいえ、それくらいで上手く泳げるとは思えない。
 恐らく空を飛んだ経験のようなものがあるのだろうが。
 それが分かっても、彼が話さないのならあまり踏み込むモノでもないだろう。

「だはは、それが出来るならもう初心者とは言えないな!
 狙ってその通りに泳げるのなら、選手としてもやれるだろうさ。
 相手に触れるのもそう簡単じゃない。
 ヒットが取れるなら、十分試合が成り立つレベルだぞ」

 どうやら随分と才能のある青年のようだ。
 少し練習すれば、上位を狙えてもおかしくない。
 流石に今大会では難しいかもしれないが、それでも相応の成績は残せるだろう。