2021/10/11 のログ
ご案内:「常世学園附属総合病院」に黛 薫さんが現れました。
黛 薫 >  
意思は思考に影響する。思考は行動に影響する。
行動は発言に影響する。発言は意思に影響する。
人間の活動にはそれぞれ理由があり、繋がって
噛み合うように成立する。

多分、自分はそれが噛み合っていないのだと思う。

病室の外、共用区画の隅でスマートフォンの画面に
向かいながら重苦しく吐息を溢す。置かれた状況を
同居人に報告するのは憂鬱で、でも黙っているのは
もっと嫌という小さな自己矛盾。

いっそ叱られたり嫌われた方が楽かもしれない、と
自暴自棄な感情が浮かぶ反面、怒られるのは怖いし
嫌われるのも怖いという本音も否定できない。

(……連絡途切れたからって、また無茶な方法で
探し回ったりしてねーよな……連絡すんの怖……)

しばし悩んだ末に事務的な連絡を送る。
アクシデントが発生して多少痛い目に遭ったこと。
異能と体質に変調を来して病院に滞在していること。

黛 薫 >  
元々厄介物だった異能は更に悪い方へと進化し、
人目に覚える感情は嫌悪よりも恐怖に近付いた。
体質の変化も相まって病室は人払いと魔除けが
施され、籠ってさえいれば安全なのだが……。

(魔除けがあるとコンタクト取れねーんだよな……)

何処から忍び込んでくるかも分からない同居人の
存在を思うと、魔除けが施された部屋にいるのは
迷惑になり得ると思って外に出てしまった。

当然、人目が怖いから外には出たくない。
意思と行動の乖離を感じてどうにも据わりが悪い。

今置かれた状況に限った話ではない。

視線が怖いのに人の多い街を歩き、悪いことを
したくないのに落第街で暮らし、出来ないことの
ために何もかも犠牲にしている自分は、とにかく
意思も思考も行動も言動も噛み合わない。

黛 薫 >  
黛薫の場合、感情と理性、合理と衝動が反目しがち。
感情に従えばその不合理を理解して気分が落ち込み、
理性に従えば心が悲鳴を上げて泣きそうになる。

やることもなく1人で部屋に閉じこもっていると、
考えずとも良いことが次々と頭に浮かび、思考は
ネガティブな感情を呼び起こし、パニックになる。

それを嫌って外に出れば人目に怯える羽目になり、
拷問じみた視線の檻を精神的な自傷にすり替えて
束の間の安息を得る。

どちらがマシか、と聞かれても分からない。
ただ、心が前者を求めると理性がそれに反対し、
理性が後者を選べば心がそれに抵抗する。

常にやりたくないことを嫌々やっているような、
そんな気持ち悪さがずっと振り払えずにいる。

黛 薫 >  
安全を期して動くべきなのに痛みを求めてしまう。
怒られるのが怖いのに頼ることを覚えられない。
諦めるべき目標にいつまでもしがみついてしまう。
そんな自分が嫌いで、それなのに死ぬのは怖い。

(退院したら、気晴らしに何処か行きたいな)
(何処へ行っても人目があるのに、馬鹿なのか?)

(早く人目に付かない暗い街に帰りたい)
(あんな街の何処が良い?吐き気がする)

(酒でも煙草でも良い、気分が晴れるモノが欲しい)
(一度も美味しいだなんて思ったことがないくせに)

何かが思い浮かべば、同時に反論も思いつく。
本当は何がしたいのだろう。分からない、何も。

黛 薫 >  
自分を労われば罪悪感が湧いてきて疲弊する。
嫌な目に遭えば当然の報いだと心の中で安堵する。
相反する感情を自覚すると、非合理的な生き方を
していると感じて頭が割れそうに痛む。

「なぁにやってんだろな、あーし……」

自分の病室の方から軽い騒ぎの声が聞こえる。
病室に留まっているはずの自分がいない所為だ。
違反学生という立場上、信用がないことの証拠。

信用されていないのが心地良くて、部屋に戻るのが
億劫になった。同時に、自分なんかのために時間を
使わせてしまっているのが申し訳なくて胸が痛んだ。

「んな騒がなくても聞こえてますっつーの。
やることなくて気ぃ滅入るからちょっとだけ
外に出てただーけーでーすー」

結局、嫌々ながら部屋に戻ってしまった。

病室の外にいた時間は1時間にも満たないのに、
酷く憔悴していることを看護師に指摘された。
それほど消耗するくらいに人の目が怖いのに、
どうして病室の外に出たのかと心配された。

(放っといてくれよ、あーしにも分かんねーよ)

吐き捨てそうになった言葉を飲み込み、頭を下げる。

黛 薫 >  
部屋の中にはベッドと個人用の物入れが1つずつ。
ベッド脇のテーブルの上にはボロボロに傷んだ
ショルダーバッグが置かれている。

(……そういや、中身は検められたはずなのに……
ヤクについては何も言われてなかった、ような)

気になってバッグの中身を確認してみる。

更新されていない学生証、ハンカチ、筆記用具、
手帳、『梟』の印章が施されたジッポライター。
拳銃、フラッシュバン、煙幕弾……。

「ウッッソだろ、没収されてねぇの???」

思わずツッコミを入れる。いや何でだよ。
唖然としたのも束の間、拳銃の弾だけはきっちり
抜いてあったのを確認し、逆に少しだけ安心した。

私物とはいえ、校則や法律を思えば没収されても
文句は言えないはずなのだが。変なところでだけ
信用されているのか、何か別の狙いがあるのか。
それとも……誰かが手を回してくれたのか。

「……いぁ、でも結晶はどっかいっちまってんな?
それだけ没収したとも思えねーし。もし落としたと
したら……やっぱ襲われたときか」

黛 薫 >  
自分の処罰に関しても手荷物の扱いの軽さにしても
寛大な処置だと皮肉るのは簡単だが、他意が無くても
重なると無駄に裏を勘繰って不安になってしまう。

(例えば、落第街含む歓楽街管轄の風紀委員に
もっと優先すべきインシデントが発生したとか)

考え始めたは良いものの急に馬鹿らしくなった。
他に手が回らなくなるほどの案件がそう簡単に
起きてたまるものか。

頭が回らないのは煙草が吸えない所為だろうか。
本来なら煙草を吸った方が頭の働きは鈍りそうだが、
余計なことを考えがちな黛薫は、思考を鈍化させて
無駄な考え事を排除した方が捗るタイプ。

当然院内は禁煙だし、そうでなくても本来は違反。
落第街以外で吸うのは良心が咎めるので避けたい。
手癖でライターを取り出したは良いが、現状では
使い道がないので手の中で弄ぶだけ。

黛 薫 >  
ただじっとしているだけで考え事は膨らんでいく。
いずれ思考が思い出したくない何かにぶつかれば
また勝手にパニックになってしまうのだろう、と
冷静に予測できてしまうのが気に食わない。

少しでも明るい方向に思考を向けようと方向転換。

(バッグ、新しぃの買おうかな)

怨霊の襲撃で限界が来たものの、それ以前から
ボロボロだった鞄を一瞥。結晶を無くした原因の
ひとつでないとは言い切れないし、いい加減に
買い換えるのが吉だろう。

学生街は傷害事件をやらかしてしまったばかりで
近寄りたくないから、扶桑百貨店には入れない。
商店街や常世渋谷は人目が多い気がするし……。

「なら、歓楽街か。昼なら人も少ねーだろ」

並ぶ店舗の傾向的に選ぶ余地は少なくなるが……
背に腹は変えられない。少しだけ未来のことを
考えて気分が落ち着いたので、病室のベッドで
横になった。

ご案内:「常世学園附属総合病院」から黛 薫さんが去りました。