2021/10/13 のログ
■黛 薫 >
「……言っても良ぃけぉ……怒らなぃ……?」
目が泳ぐ。ものすごく気まずそうな声音で、
出会った怪異についておずおずと語る。
「口振り的に……フィーナの知り合いっぽくて。
クロ、って名乗ってた……見た目も、フィーナに
似てたような、気ぃしたんだけぉ……」
「あーしに何かすんなら左眼から、って意見は
フィーナと一緒だったらしくて。魔術以外には
詳しくねーから断言は難しぃけぉ、紋様を見るに
多分呪術だったのかな。魂か何か……呪術との
親和性が高い場所を探られて、施されてた秘匿が
破られたらこうなった、って感じ。
結果的にはフィーナの推測の正しさを証明する形に
なってんだろな。あーし……そーゆーの、ホントは
信じてなかったけぉ。根拠のない話ではなくなって
きたかな、とか」
触れ合いそうな距離まで顔が近付いてどぎまぎする。
距離を取ると嫌な思いをさせるかも、と思ったため
反応らしい反応は返せなかった。
近付けば近付くほど甘露の薫りは強く漂う。
実態のない残り香、器に残っただけの誘惑。
空っぽなのに、堪らなく本能を刺激する。
「そーなんだよな……異能に関しては対策措置?の
ノウハウがあるみたぃなんだけぉ、こーゆー体質は
対処の方法とか、一概に決められねーから……。
いちお、生活委員の方で考えられる限りの対策を
試してくれるって話になってる。実際に怪異とか
霊が寄ってこないかは試してみなぃと分からねー
ってコトで、監視付きでぶらついてみるみたぃな
案があって……そん時ならいけねーかなって……」
■フィーナ > 「クロ…呪術…って、あのクロに会ったんですか!?え大丈夫ですか本当に」
珍しく慌てた様子を見せる。
それは、今までたもってきた理性を壊すのには十分で。
「…本当に、拉致監禁した方がいい気がしてきたよ…」
本能以上に。薫に対して芽生えた感情が。欲の方向を変えたようだ。
『薫を自分一人で独占してしまいたい』
そんな欲望が芽生えていた。
「いや、でも…クロがそうしたなら、クロは何か情報を得てるかもしれない…いや何にせよ監視付きなら無理でしょう。私、人の見た目ですけど怪異ですよ?擬態した元だって、二級学生で…」
そこで、ふと思い付く。
彼女なら、もしかしたら何か手立てが…
そう思いはしたものの、既に彼女に正気があるとは思えず、それに正気が残っていたとて、協力してくれるとは思えない。
現在進行形で死ぬより酷い目にあわせているのだから。
「…ともかく。私が職質されたらやばいから。対策次第では近付けないですよ?」
■黛 薫 >
「フィーナが言うと冗談に聞こえなぃのな……」
過去の経験から自分には才能も価値もないと
卑屈な価値観が根付いている黛薫は、未だに
心では自分の内に眠る素質を信じきれていない。
肯定材料が出揃い始めているから、感情だけで
否定するのが非合理的だと分かってもいるが。
「……まあ、フィーナがダメって言うのなら
あーしは従ぃますよ。今回好き勝手やらかした
負い目っつーか……あるワケだし……。
んでも、機会見つけて買わなきゃなのはホント。
カバンが原因かは分かんねーけど、貰った結晶
失くしちまって。買ってきてって頼むのは簡単
だけぉ……あーしだってショッピングとか……
普通の学生がやりそーな娯楽への憧れ?とか……
無ぃワケじゃ、ねーんで……いぁごめんなさい。
忘れて。アホなコト言った。忘れて。忘れろ」
■フィーナ > 「なるほど研究項目に入れておきましょう」
聞くやいなやすぐ手帳に書き込んだ。忘れるつもりは毛頭無いらしい。
「まぁ、実際買い物に行くとしても対策は立てないといけないでしょう。誘因体質についてもそうですし…これはあくまで推測ではあるんですけど。
貴女ってかなり人目を避けますよね?その理由、教えて貰っても良いです?」
前々から気になっていた。彼女を観察していて…人通りではなく、人目を避けているのは知っていた。
「一緒に楽しくショッピングするためです。教えてもらえませんか?」
■黛 薫 >
「あ゛ー余計なコト言っちまった……」
苦々しく歪んだ口元を病衣の袖で隠す。
素の肌色が生白いだけに赤くなった頰が目立つ。
それから人目を避けていることに言及されると
一瞬目を伏せて逡巡し、深くため息をついた。
「……ま、別に隠すようなコトでも無ぃですけぉ。
人目は……そっすね、避けてます。キラィなんで。
あーしの異能、視線を肌で感じるコトが出来ます。
何の気無しの視線なら、撫でてくだけ、ですけぉ。
嫌がってたり怒ったりしてる人の視線は刺さるし、
見下したり憐れんだりしてると、感触で分かる。
それに、落第街なんかじゃ、気持ち悪ぃ、目で、
見て、見てくるヤツ、いて、だから、触られて、
気持ち悪くて、ずっと、見られ、見られて、て、
ずっと、離れなくて、ずっと、ぁ゛、ぅ……」
声が震える。嫌な記憶が一度に蘇る。
目を閉じて、耐えて、忘れようと呼吸を整える。
何度も何度も蘇る感触の所為で冷静さを失って
失敗してきた。気持ち悪い感触の想起が去るまで
唇を噛み締めて、迫り上がったモノを飲み込んで。
「……はぁ。そゆワケで……キラィ、です。
ずっと触られるの、気持ち悪ぃ、から……。
見てる側にそんな気、無ぃからイィすけぉ。
今回の……体質の変化に伴って、異能の方も
おかしくなりやがって。直接見られてなきゃ
平気だったのに、視界に入ってるだけで……。
今は、少しマシっすけぉ。あんまり酷いから、
医者が、異能制限措置、取ってくれるって」
■フィーナ > 「っ、ぁ」
気色悪い、と。触れられる感覚が。
それを聞いて、思わず離れる。視線も、出来るだけ外そうとして…甘い香りが、それを許さなかった。
「ご、ごめん。気持ち、悪かったよね」
狼狽するように、謝った。気付かず、自分が酷く不快な思いをさせていたのではないか、と思って。
「視界に入ったら駄目…つまり見えないようにすればいいのかな?」
■黛 薫 >
「……ごめん、軽率だった、かも。
大丈夫、っつーと完全な本音じゃなくなるけぉ。
でも、フィーナにそんな嫌な思いさせられたりは
してねーし。見られてるときは大体話してるから
心の準備出来てっし、嫌な気持ち込めて見るとか、
そういうコトして来なかったろ」
寧ろ自分の行いで視線に狼狽が混じってしまい、
一瞬でも不快に感じてしまったことを恥じた。
「誰だか分からなぃ視線は……キラィだし怖い。
何処から見られたのかも分からずに触ってきて、
いなくなって、戻ってきて、その繰り返し。
怒ってるとか憐れんでるとか、自分で感じたとき
イヤな気持ちになるような、そーゆー感情込めて
見られるのも怖ぃ。痛かったり気持ち悪かったり、
視線じゃなくてもそんな触られ方したら嫌だって
感触するから。
でも、向き合って話すなら、見るのは当たり前で。
それをイヤとか言ってたら、どうにもならねーし。
だから、大丈夫。あーし、気にして……ないから」
果たして本当にそうだろうか、と自問する。
気心の知れた相手でも無遠慮に触れられたなら、
普通の人はそれを嫌だと感じるのだろうか?
触れられる感触が当然の世界で生きてきたから
『普通の人ならどう感じるか』が分からない。
どうあれ『見るだけの行為』は自分以外の人には
影響を及ぼさない。他の誰の害にもならないのに
自分のためだけに萎縮させるのが後ろめたくて。
……そのためなら自分を犠牲にしても構わないと。
そう思う気持ちを、ずっと押し込めている。
■フィーナ > 「そうなら、良いんですけど…
視線を遮断するなら…物で遮るか、それこそ『見えなくする』のが良いんですかね?」
確か、扱っていた魔術に似たような物があったはずだ。もっともあれは自分を別の場所に映す、所謂囮のような使い方だったが。
薫を包み込むようにやれば、出来るような気がした。
「確証はありませんが…今ここで危険無くやれると思います。試してみますか?」
■黛 薫 >
「遮る方なら機能する……と思う。相手の視界の
範囲外にいれば平気だから。けど、あーしの姿を
隠すとかはダメ。あーしが見えてなくても視界の
中にいたら変わんなぃみたい」
疾患に近い異能さえ無ければ復学の見込みありと
診断されているため、学園側からの支援と実験は
何度も繰り返されている。お陰で本人もある程度
異能の挙動は把握出来ているようだ。
「1番簡単なのはあーしの触覚自体を麻痺させる
方法だけど……それやると日常生活に支障が出る。
だから診察のときだけやってもらってる」
■フィーナ > 「ふむふむ…視界を遮るのが大丈夫なら、出来そうですね。要は『視界に入らなければいい』んですよね?」
そう言って、杖を持ち、魔術を発動させる。
周囲の空気が急速に乾く。薫の周囲に薄い水の膜が出来上がっていく…と思えば、その水の膜は、『薫の視点では』見えなくなるだろう。もっとも、フィーナの視点だと覆った水の膜の反対側、つまり『視界を屈曲させられ薫の向こう側』が見えている。
「どうでしょう、視界、感じますかね?」
とは言っても、強烈な香りはごまかしが利かず、そこにいるのがわかってしまっているが。
■黛 薫 >
「……フィーナ側からは見えなぃように可視光を
屈折させてる、って認識でイィのかな。要するに
マジックミラーの原理か。コレならあーしからは
問題ねーけぉ……フィーナからはあーしが見えて
なぃってコトだよな?
ああでも、フィーナがあーしの挙動を捕捉する
だけならそう難しくもねーのか。見えないって
トコだけ気にしなけりゃ支障は無ぃワケで……」
念のため水の膜には触れないように観察する。
膜の精製だけならともかく、光の屈折操作は
結構神経を使うかもしれない。好奇心の所為で
集中を乱すのも申し訳ないので観察するだけ。
実際、漂う甘露の残り香のお陰で姿が見えずとも
黛薫の様子を伺うのは容易い。問題を挙げるなら
視覚に頼れなくなった分、余計に薫りに意識を
惹かれる羽目になってしまい、対面していた時と
比較して更に強く本能が揺らされるくらいか。
■フィーナ > 「今は私が外部から維持してますから動かれると維持できませんが…結晶のような媒体があれば話は別なんです。
その媒体を起点にすれば貴女に追従出来るはずですから。あとはあなた自身が発する誘因性、もしくはその結晶で位置はわかりますから。
問題は貴女が全く見えないので雑踏に行くとぶつかる可能性が生じ…その…そうですね。『光学迷彩』とでも名付けましょうか。それの維持が出来なくなります。あくまで水ですから。むしろ注意しないといけないのは貴女の方ですね…」
そう、どちらかと言えば問題が生じるのは薫なのだ。術式の範囲が見えない以上、どこまで行くと術式の膜が破れるかわからないのだ。
こればっかりは数をこなして慣れるしかない。
■黛 薫 >
「見えなぃ以上、コレに頼って人並みの生活、
なんてコトは出来ねーだろーけぉ。逆に言や
フィーナといるときは十分ってコトだよな」
「なら、あーしはそんだけでもイィよ」
黛薫自身が魔術を行使出来ない以上、追従の導が
あっても術式の起動、維持は任せざるを得ない。
どの道街中で使うには無理がある仕組みなら、
使う場面も限定して貴方に負担をかけないように
しよう、という意図が透けて見えるようだ。
「っと、話し込んじまったかも。そろそろ病室に
戻らねーと巡回が来そうだ。いちお日常に支障が
出ない程度の制限措置だけ試したら退院出来るって
話だから、遠からず帰れると思う。
あーしが担当するはずだった研究、今回の件で
遅れが出てるから帰ったら早めに取り掛かる。
フィーナもあんま根詰めるなよな。様子見る為の
飛行と、今の即興の迷彩で多少は消耗してんだろ」
これでも違反学生という立場、勝手しすぎると
目を付けられる可能性がある。自分が怒られる
だけなら我慢できるが貴方にまで飛び火したら
後悔してしまう。
そもそもの話、違反学生がそんなことを気にして
行儀良くしているという方がおかしいのだが……
黛薫はそういう性格だからどうしようもない。
聞き耳を立て、巡回の足音がまだ遠いことを
確認すると、慌ただしく病室に戻って行った。
誘引対策に魔除けが施された病室に入ると、
黛薫の気配は辿れなくなるだろう。
染み付くほどに薫る、美酒の如き残り香だけが
彼女が此処にいたことを証明している。
■フィーナ > 「そっちも気をつけて下さいね。何かあったら呼んで下さい」
流石にここで魔力結晶を渡すわけにもいかず、口約束だけして飛んでいくだろう。
ちょっとふらふらしているが。
ご案内:「F常世学園附属総合病院」からフィーナさんが去りました。
ご案内:「F常世学園附属総合病院」から黛 薫さんが去りました。