2021/11/04 のログ
> 「遠いなァ ...果てしなく」
色んな意味でそうだった。
もうどうしようもないほどの過去であるという時間的距離。
そして、今となっては自分にとってどうでもいいと思えてしまうほどの出来事であるという心的距離。

思い出そうとすれば忘れるし、
想い出そうとすれば嫌になる。

「.....ずいぶんと饒舌だな、調香師の性ってやつか?」
詩的に雄弁に語る貴女に圧倒されたのか、薄笑いを浮かべながら続けてこう言う。

「まァ 、そんな思い出の木も今では唾棄すべき一過性の記憶の中に存在する木偶に過ぎねェ。
別にそんなとこまで飛ばさなくても大丈夫だぜ」
彼にとっては過去・未来・現在全てが等しく無価値で、自分が楽しむための遊技場に過ぎないのだから。

『調香師』 > 「性、と言えば性なのかもね
 私は言葉から機微を知る。自分でも言葉を使って、その香りに必要な要素を探る

 考えるだけじゃなくて、話してみて。そうして初めて見える事もある」

立ち上がって、早速戸棚へと向かう
昼間から飽きる程覗いていた物であったが、こうして目的があるとまた違った風に見える
『人の為』、その動機が指先を楽しく惑わす

「こうして出来上がるから、『あなたの為』の香りになる
 そうして作った香りにはいつも、名前を付けてもらうんだ
 他の人には出さない香り。特別な香りだからね。いひ」

笑う声。マリン要素のオイルを集める
梅の香りは、今回はアクセント。近づけすぎると、彼の方から遠ざかってしまいそうだったから

> 「話してみて...か...」
とは言っても自分に関する...とりわけ「香り」にまつわることを話すための言葉の引き出しは空っぽだ。
かと言って関係ない与太話(内容も凄惨を極める)を聞かせるのも面白そうだが今はそんな気分でもないから........

とりあえず間を持たせるためにこう言い訳しとくか。
「悪いな、これ以上は話せねェ。
割とエグい話になっちまうからな」

適当についた嘘(エグいのは本当)。
俺がコイツを気遣ってるみたいでなんかムズムズするな...という思いを胸にしまい貴女にそう言うのだろう。

「ヘェ〜、名前を自分でつけれるとは、風情があっていいなァ 」
全てを退廃したものとみなす彼にしては珍しく、わずかに声を上ずらせて反応する。
どうやら自分の為に作られたものに名前を付けられる、という特別感あふれる仕様を気に入ったようだ。

『調香師』 > 「んふ、気に入ってくれた?」

後ろを向くように、首を傾ける
遅れて身体も向き直る

香りのセレクトも完了した様で、上機嫌に作業台に戻ってきては、
石鹸の素をすり鉢をすり鉢の中に入れてはごりごりごりと
その体全部を使って砕いて擂ってと始めました

「エグいお話は、確かに得意じゃないかも
 でも、求めている事が必ずしもあなたに近づくものとは限らないかな

 世間話でも良いの。何に興味があるとか、そういった所からでも知れるものはある
 ...けど。今回はあなたの興味に乗っ取ってみようかな
 何か名前とか、そういう物を付けるのはお好き?」

ある程度形を潰したなら、次は香りの調合を始める
ビーカーに一滴ずつ。海の香りを思わせる調合。山を下り澄んだ風の匂いも少々

> 「あァ 、渾名は結構つけがちだな。
この前とかは『組織のため』とか何とかほざいて襲い掛かってきたアホがいたけど....まあ返り討ちにしてやったよ。
(一応生きてるとは思うがな!)
つけた渾名は『“蜥蜴”の尻尾切り』ってとこか」

ぺらぺらと聞かれてもないことまで話し出す。
自分の興味のないものには何処までも目をくれず、逆に自分が少しでも興味のあるものには貪欲にそれを求めるタイプのようだ。

ついでに、自分の戦歴もしっかりと晒す。
その名が貴女に繋がりがあるとは微塵も思うこともなく。

『調香師』 > 「そっか。ふふ
 でもそれは渾名と言うのも違う気がするな?」

首を傾げる。渾名と言うにはなんだか意味に悪意が多いような気がします
仮にも『仲間』が敗北したという報告を聞いて尚、その表情に揺らぎは無い

意図してやっているとするならば度胸と言えるのだろうが
この態度は、その自慢に対して向ける感情が無かったが故
組織を仲間とは思っていない。恩義があるのは、『彼』に対してだけ

漂う香り、部屋の雰囲気と混ざりながらも主張を続ける
彼女は最後に梅の花の香りを垂らす。人ならばここで嗅いで確認するだろう所を、『設計図』に乗っ取っていれば問題ないと次の工程。調整した香りを石鹸と合わせて混ぜてゆく

> 「そうか?ま、気にすんな」

少々バツの悪そうな表情を浮かべながら、
「(少し....含みがなかったか?今の間...)」
と邪推しつつも、考えすぎか。と乱暴にその疑いを収め込む。

「(こんなガキがあんな組織に与してるとか、それこそ末法の世だもんな)」

....と、微かに貴女の方から梅の香りがした。
自分の希望と絶望を象徴するその香りは容易に彼を懐郷の想いへと導いていく。

晴れ渡った青空、緑に溢れた大きな庭、明るい顔で挨拶する仲間たち......と対比するように黝く重苦しい夜空、血と焔によって赤黒く燃え輝く庭の木々、虚な瞳で自分を見つめる、数秒前まで「仲間だったもの」が脳裏に蘇る。

『調香師』 > ほんの僅か、想いを馳せる程度に。潜ませる程度に
郷愁の念を抱かせる物のそれは遠くへ。風の運ぶ潮の香

強調しすぎてはいけない。それはきっと必要としてはいけない物だから
貴方の表情は過去を思い出す度、思い出と反転した景色を映していた

四角い枠に押し込んで。押し込む
暫く待てば、これはきちんと石鹸として固まってくれるのだろう

「名前、決まった?」

彼の顔を見上げる。先程までと変わらない、そんな笑みで

> 「名前、そうねェ...『梅花落』。
梅の花が落ちる、と書いて梅花落だ」

名前は決まったかと言う貴女の質問に男はそう答える。

その名は彼が遥か昔に聴いた、名もない演奏家が奏でる笛のための曲の名であった。

『調香師』 > 「『梅花落』」

反芻。その言葉の意味を落とし込む様に
そうして、余ったオイルの一滴を小指に垂らして、唇に当てる
それはいつも行う、誕生への祝福

「人の為の芳香。その誕生、その精製を私は確かに見届け記録できた
 ...ありがとう。今日もまた、良い仕事が出来たね」

彼女の笑みも、感謝の色を映すように
完成した石鹸を簡単に梱包しては彼女は会計台の方へ移動する

「これが代金だよ」

お金を受け取れば、ポイントカードも付随しておつりが返ってくる
翼のスタンプが押されたそれの空欄は残り2つ

詳細を尋ねれば、「3つ貯まれば私が『どんな事でも』...じゃ、無いかもだけど?うん、いろんなことをするね」と返ってきました

実は以前までと変わっている言葉
本当に『どんな事でも』とは言えなくなったので

> 「『いろんなこと』....ねェ....
ま、楽しみにさせてもらうぜ」

『どんなことでも』と口走ったのが気になるが、まあ気にしないでおくか。
というのが今日の彼のスタンス。
ポイントカードを落とさないように懐にしまい込む。

お目当ての石鹸が出来上がった今、彼の興味はすでに分化している。

1つは石鹸の効能。
もう1つはここに来る前に小耳に挟んだとある情報。

『近々風紀委員が違反部活を掃討すべく、落第街に大規模攻撃を仕掛ける』

ポイントカードを受け取り、退店しようとドアに手を掛け、貴女に言うとしよう。

「そういや風紀委員が違反組織をぶっ殺すって躍起になってるらしいぜ。
なんでも『蜥蜴』をぶっ潰す、とか」

そして笑いながら続けよう。

「面白くなってきた、お前もそう思わねェか?」

結局最後は彼らしく、闇を含んだ表情、歪んだ笑顔を浮かべて言いながら彼は静かに店を後にした。

『調香師』 > 指先の動きが僅かに鈍る
『風紀委員』が躍起になっている

彼個人の行動とは訳が違う
そして『彼』も、動かなければいけない状況に追い込まれると
...彼女はまだ冷静で居られた

この話がただの個人に齎された『噂』以上の事ではない
そうである。故に、この情報を『信じてはいけない』
伊達に、自分勝手なものとはいえ諜報活動に身を置いていた訳では無いのだ

「うん。また来てね」

珍しく、彼女は外とまで見送る事はなく
会計台の向こう側でのお辞儀


彼が去った後に思い浮かべたもの、落第街に棲む少女の顔だった

ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』」からさんが去りました。
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』」から『調香師』さんが去りました。