2021/11/06 のログ
ご案内:「常世島第2集合墓地」にノアさんが現れました。
ノア > 鈍い排気音を奏でながら、広大な敷地の端に一台の大型バイクが停まる。
シルバーのメットと黒のライダースグローブをラゲッジボックスに突っ込み、ハンドルに引っ掛けてきた花束の入ったビニールの袋を片手に無遠慮に錆びたかんぬきを開けて入り込む。
手桶と柄杓を共用倉庫から借り受け、めいいっぱいに水を貯め込んで敷地の西端へ。

「……悪ぃな親父、おふくろ。遅くなっちまった」

集合墓地の中でも、本島に眠る者たちへ向けた碑石。
常世に渡った後に墓参りも何も無いと思っていたが、数か月に一度は足を向けてしまう。
救われるでも無く、戻ってくる物でも無く。
それでも、ここを拝む事すらできなくなったなら、
自分の心など風に消えてしまいそうで。

ノア > 吹き付ける海風は季節も相まって肌を刺すような冷たさ。
そんな中で全てを本土への祈りを一手に担う墓石を洗っていく。
冷えた水が手を濡らすのも厭わず、丁寧に。
日々を無気力気味に過ごす幽鬼のような普段の姿と比べると、
幾ばくか血の通った表情を浮かべ。

「この前公園で妙な子に話しかけられてさ……」

何気ない日々、誰かと会った、そんな些細な事を呟きながら、手を動かす。
一通り綺麗になった石造りの台座に花束を据え、黙礼。

ノア > 「蓮花は、まだ見つかってない」

苦々しく吐き出すのは、相も変らぬ妹の消息不明の報。
手がかりも無いまま、もう6年になる。
あと1年も経てば失踪宣言の適応範囲内になる。
法的には死んだものとして扱える。
そんなもの――クソくらえだ。

「蓮花は俺が見つけてくっから。だから心配すんなって」

父と母に見せる、兄としての表情。
頼りない顔はできない、今までたくさんの物を犠牲にしてきた。
そして、きっとこれからも。
また来る、そう言い残してバイクに向けて踵を返す。

ヘルメットを被りハンドルを握れば、その金の目からは家族に向ける慈愛の色は消えていた。

ご案内:「常世島第2集合墓地」からノアさんが去りました。