2021/11/21 のログ
ご案内:「常世学園附属総合病院」に黛 薫さんが現れました。
黛 薫 >  
からん、と音を立てて匙がテーブルに落ちた。

「んん……」

食事中の違反学生、黛薫。ぎこちない手付きで
匙を持ち直し、今度は落とさないように慎重に
お粥を口に運んでいる。

指の動きは赤子のように拙く、腕の力は中身の
入った茶碗を持ち上げるのにも苦労するくらい。
歩行もままならず、電動の車椅子に乗っている。

「……魔術でカラダ動かすって簡単じゃねーのな」

他人事のように呟き、緩慢なペースで食事を続ける。
消化機能も相当弱っているため、現状では固形物を
口に出来ないとのこと。

ご案内:「常世学園附属総合病院」にフィールさんが現れました。
フィール > こんこん、と。窓を叩く音がする。
見てみれば、フィールの姿がそこにあるだろう。

黛 薫 >  
「ん」

窓を叩く音に気付くと電動の車椅子を操作して
鍵を開けにいく。つい昨晩までなら数秒足らずで
出来ていた行為に2分近い時間を要した。

「よ、フィール。そっちの方は問題ナシ?
 フィーナもけっこー無茶してたっぽぃし、
 大事無けりゃイィんだけぉ」

発話、発音もやや曖昧になっているものの、
声音はむしろ晴れやかな部類に入る。

フィール > 「こっちは問題ないですよ。フィーナも法術で治癒も出来るみたいですし。何なら自分で杖を作るために出掛けてるらしいです」
慣れた様子で窓から侵入して。
不法侵入ではあるが、学生証が無いので表立って受付に行くわけにもいかない。

「これ、フィーナから預かってる。よかったら使って、だって」
取り出したのは、様々な魔道具が入った袋。魔力の籠もった宝石からスクロール、スクロールを書くための道具であったり、様々な物が入っている。

「フィーナ曰く、『迷惑料』だってさ。薫がその身体になったの、気にしてるみたい」

黛 薫 >  
「迷惑料て……寧ろあーし、感謝する側じゃなぃ?」

不思議そうに首を傾げる姿に垣間見える価値観の
歪み。黛薫にとって『魔術の適正』は運動機能の
大半を差し出しても惜しくないモノであり……
仮に今以上の代償を求められたとしても躊躇わず
差し出したであろうことが伺える。

『繋がり』を求める彼女の姿を間近で見ていた
貴女は、きっと誰よりもよくそれを知っている。

「あーしも別に今後一生寝たきりになるワケでも
 ねーんだし、気にしなくてイィと思ぅのにな。
 身体操作の魔術がキチンと使えるよーになりゃ
 以前と同じ……と、まではいかねーだろーけぉ
 日常生活くらぃなら困らなくなるだろーに」

フィール > 「かなり無茶な手段を取った訳ですし…フィーナなりに負い目を感じてるってことですよ」
二人を見たからこそ、薫が感謝しているのも知っているし、フィーナが負い目を感じているのも知っている。

「それに、道具があれば色々出来るようになりますし。受け取っておいていいと思いますよ?」

事実、薫には凄まじいまでの下地がある。その身体を犠牲にしてまでもかき集めた知識は、薫の魔術に貢献するだろう。

薫の魔術適正は、魂が削れたせいでお世辞にも良いとは言えない。
それでも、彼女の知識があれば。人並みの魔術…ともすれば人並みには扱えない複雑な術式の行使も可能になるかもしれない。

魔力の出力と、魔術の難易度は別物であり…前者は才能、後者は知識が物を言う。

「それに、これはフィーナからの言伝ではあるんですが…『魔術を手足のように使えるようになれば、全身の不随も気にならなくなる』、だそうです。
薫には私にない下地があります。そう出来るのも、あんまり時間は掛からないんじゃないですかね?」

黛 薫 >  
「んー……ま、そーよな。出来るコトは多い方が
 イィもんな。つーか現状だと、あーしが自力で 
 出来るコトの方が少なぃワケだし」

受け取った袋を慎重に膝の上に置き、不慣れな
手付きで中を検める。スクロールなどの魔力を
込めるだけで使えるタイプの魔導具はしばらく
生命線になりそうだ。

「フィーナの領域に辿り着くには相当な時間が
 かかりそーよな。差し当たっては手だけでも
 キチンと動かせるよーにすんのが目標かな。
 具体的に言ぅとメモ取れるよーになりたぃ。

 カラダが動かせなぃと不便が多くなるけぉ、
 その分『コレが出来たら便利なのに』って
 気付きも増ぇんのな。そこから順に魔術で
 解決する方法見つけてけば、イィ具合に
 ステップアップ出来そーな気ぃすんだわ」

展望を語りつつ、膝の上に置いた魔導具の袋を
持ち上げ……ようとして失敗する。現状の黛薫が
持てる重量は中身の入った茶碗が限界である。

身体強化の魔術を試してみても良かったのだが、
うっかり魔力制御を誤って袋の中身の魔導具が
暴発したら困るので諦めた。ひとつずつ中身を
取り出してテーブルに置き、改めてしまい直す。

フィール > 「慣れない内は、私も手伝いますから。病院内だと…あんまり手伝えないかもしれませんが」
薫が魔道具を取り出し、仕舞うのを手伝う。

「…むしろ、手を思うように動かせるようになれば、他の部位も楽に動かせると思うんですよね」
慣れてしまえば、そう思うのは難しいかもしれない。

しかし、一番複雑な動きをするのは手なのだ。5本の指を繊細に動かすのは難しい。
ロボットでもマニュピレーターの省略の為に指の数を減らしたりするぐらいなのだ。

「でも…将来に展望が持てるのなら、良かったです」

黛 薫 >  
「暮らす場所にも、日常的に助けてくれる人にも
 ちゃんと心当たりあるし、早めに退院したぃって
 いちお伝ぇてんだけぉ……その、信用が、な……」

遠い目をしている。

違反学生であり、かつ何度も無茶をして病院に
担ぎ込まれた過去がある黛薫は基本的に医師にも
風紀委員にも信用されていない。

今回の件も『またお前か』と呆れられた上に
こっぴどく叱られた。然もありなん。

「操作の精密性で1番難しぃのは手なんだけぉ、
 実はまた別の理由で難しぃ動作もあんのよな。
 具体的に言ぅと立ちっぱなしが大変なんだわ。

 フツーに立って歩けるときはそんなに意識せず
 出来てたんだけぉ、体が弱くなると支えるのに
 けっこー力がいるっぽくて。継続的に魔力を
 持ってかれるから、長ぃ時間立ってらんなくて」

フィール > 「……成程。薫ならさもありなん、って言ったところですね…」
同じく、遠い目をしている。

薫のそういう無理をする所は、自分も経験があるからだ。

「………魔力の問題なら。『私と同じ方法』を試すのはどうでしょう?」
ぽろ、と。ここで出してはいけないものを、掌から出す。

魔力結晶麻薬。

魔力の貯蓄量は破格であれど、その成分が問題となっている代物。
本来は悪どい理由で作られた、人を拐かす為のモノ。

今となっては、魔力転換の苦手なフィールの生命線でもある。

「これなら、魔力の転換をしながら…という手段を省略出来ますし、ある程度長い時間立っていられるようになると思います」

黛 薫 >  
「ちょっっ」

思わず声を上げそうになり、慌てて口を閉じる。
幸い別室には聞こえなかったようだが、現場を
押さえられたらそのままお縄になりかねない。

「とりゃえず一旦しまおーな。流石にバレたら
 あーしもフィールもタダじゃ済まねーから。
 えっと、いちお聞ぃとくけぉ。その魔力結晶って
 ヤクとして服用しなくても魔力は取り出せるよな?」

結晶に視線が吸い寄せられてしまい、意識して
逸らす。落第街を出て以来、黛薫は麻薬の服用を
中断している。今は離脱症状も弱まりつつあるが、
不意に精神が弱ると誘惑に負けてしまいそうになる。

フィール > 「えぇ。その際麻薬成分が融解して元のスライムの成分に戻ります。

本来ならこのスライムに命令をもたせているんですが…今はそうする必要は無いですから」

この結晶の麻薬は相当強いもので、効能である多幸感も、副作用である依存性も、非常に高い。

「私が魔力を使っていない間は、ずっとこれに魔力を込めてるんで…それでも、一週間で大きいものが1個出来るぐらいですが。

私のものでなくても、魔法店で市販してる宝石にも魔力が込められているものもあります。それを使うのも良いかも知れませんね?」

黛 薫 >  
「……魔力が込められた宝石なら、フィーナから
 もらった袋の中に幾つか入ってたな?あーしの
 魔力の絶対量がびみょぃから、込め直す手間も
 コストもかかりそーだけぉ、必要なときの為に
 外部に貯めとくのはアリだよな」

袋の中を再確認。現状、消費の重い魔術にはまだ
手を出せていないので、外部依存でもしばらくは
持ちそうだ。

「フィールの結晶は……用途的には最適だろーけぉ、
 あーしが持っとくのは、やめとぃた方がイィかも。
 持ってっと、いつ誘惑に負けるか分かんねーもん。
 使いたぃの、ずっと、我慢してたし。……何なら
 今だってちょっとくらぃとか、思っちまってるし」

落第街の外では酒も煙草も手に入らない。
自然、モノに依存した精神的な逃げは控えざるを
得なくなっていて。容易に心が負けそうになって
しまい、意図的に結晶から視線を逸らしている。

「……自立出来なぃって、単に不便なのもあっけぉ。
 何より、車椅子って目立ち過ぎんのよな。病院の
 中でもめっちゃ『視線』集めるから……このまま
 外に出るの……しょーじき、すごく……怖ぃ」

フィール > 「外部にためておくのは万が一の時にも利用できますし、やっておいて損はないと思います」
事実、フィールはこれに大いに助けられている。自分も魔力の絶対量が少なく、いつもこれに頼っていた。

「使いたいのなら、使っても良いんですよ?これ使った人は皆幸せそうにしてましたし。」
麻薬が悪いものだとはわかっている。でも、薫は既に薬などに手を出しているのは知っているし、薫が望むなら魔力を含まないものでも喜んで作るだろう。

「…それは、そうですよね。以前やった水膜の隠蔽術式ぐらいなら、薫が使っても大丈夫そうではあるんですが…」
あの術式は、原理が複雑なだけで、魔力に関してはそこまで消費はしない。

原理さえ理解できれば、如何様にでも幻像を作り出すことが出来るという代物だ。その分、難易度は高いが。

黛 薫 >  
「今は甘やかさなぃで……マジで負けそーだから……」

そりゃ幸せそうにもなるだろう、と頭を抱える。
手を出したが最後、自分の中でフィールの存在は
『同居人』『共同研究者』『自分を好きな人』から
『クスリをくれる人』に変わりかねないのだし。

「……前向きに考ぇんなら自力でロクに動けなぃ
 現状は、見られたって衝動的に誰かを傷付ける
 力が無くなってるっつーコトだから。あーしが
 ガマンすればイィだけなのかもだけぉ」

黛薫は『人を傷付けたくない』を主眼に置くから
気にしていない/気付いていないが、魔術の適正を
得た現状、精神の不安定は別の危険を孕んでいる。

魔術の行使は精神の集中と深い相関がある。
集中を切らして魔術が霧散したり、追い詰められて
過集中によって本来以上の性能を引き出せたりなど。

黛薫は精神が不安定になると衝動的な自傷行為に
走る癖があった。魔術を使えるようになり、かつ
身体が弱って自傷を行えない不安が鬱積している
今の彼女が精神を持ち崩せばどうなるか。

『自分を傷付けるための魔術』として暴発する
危険性は、否定できるものではない。

フィール > 「…分かりました」
そう言って、自分の中に結晶を戻す。

「もっと前向きに考えましょうよ。今の薫には、手段があるんですから。
衝動的に傷つけたりするんじゃなくて、身を隠すように癖付けたら、それだけでも全然変わると思うんですけどね」

薫は誰かを傷つける事を最も恐れている。
だから、傷つける手段ではなく――――身を守る手段を講じてみる。
以前、自分がやったように。
「それに、薫が我慢する、ってことは。薫が傷ついてるってことでしょう?

私は嫌ですよ、そんなの。
だから、根本の原因である、『視線』をどうにかする方法を考えましょう。
薫が私の隠蔽術式を覚えれば―――万が一のスクロールも自分で作れますし、嫌な視線を感じたら自分で身を隠せるようになります。

やってみる価値は、私はあると思いますけどね」

黛 薫 >  
「あぁうん……そーなんだよな。今のあーしには
 取れる手段があって。考え方?染み付いた癖?
 みたぃなのって、意外と変わんなぃもんだな」

バツの悪そうな表情。視線への嫌悪も、誰かを
傷付ける行為への恐怖も、自力では解決出来ない
問題への諦観も、簡単には拭えない。

「差し当たり、フィールが作ってくれた隠蔽の
 術式は習得したぃよな。出来るコトが増ぇても
 一度にたくさん手ぇ伸ばせるワケじゃねーから
 優先順位とかは決めなきゃなんねーけぉ……」

身体操作が最優先なのは揺るがないとして、
操作だけで足りない部分を補うための身体強化、
隠蔽の術式はその次くらいになるだろうか。

「そいえば、あーしの適正に関する研究はコレで
 一区切りになるワケだろ。フィールはこれから
 進めたぃ研究とか、あーしにやってほしぃコト
 あったりすんの?」

フィール > 「…それに関しては、私も人のこと言えませんね」
自分もスライムであった頃の常識、落第街の常識が抜けきっていない。
だからこそこんな所で麻薬なんて出したりしたし。

「取り敢えずは人並みの生活が出来るようになる所から、ですかね。
少しずつ、出来ることを増やして。それから、先のことを考えましょう」
薫には、下地がある。自分とは違って、ちゃんとした魔術の知識がある。
きっと、自分よりも魔術の習得は早いだろう。

「そうですね……正直言えば、ここまででどれだけ自分が薄っぺらだったか気付かされましたから…取り敢えず、魔術の勉強と並行して…人間社会の勉強もしたいな、とは思ってます」
事実、フィーナが関わってから研究に関してフィールはいいとこなしだった。
むしろフィーナ一人でやってのけてしまった感もある。
勿論それは、フィールと薫の進めた下地があってこそなのだが…やはり、本物の才能を目にすると、嫉妬してしまう。

ここで、薫はこんな感情を抱いていたんだなぁ、と。共感する。

黛 薫 >  
「ん……そだな。目先のコトからコツコツと、だ。
 出来るコトが増ぇたから、気が逸ってたのかも。
 ゆっくりで……イィんだもんな」

思えば、ずっと『渇望』に追い立てられるままに
走ってきた。足を止めたのは道が見えなくなった
苦しみと、心が砕けた痛みの中だけだった。

今は、そうでなくても良いのだ。
休むため、振り返るために立ち止まっても良い。

「社会勉強なー……社会って思ったより優しく
 ねーのよな。っつーか、最初から社会の中で
 生きて、弾き出されなぃコト前提で出来てる?
 みたぃな感じ。落伍者や最初から社会の外で
 生きてたヒトは戻りにくぃのよな。

 社会を知る1番の近道は学校に通うコトだけぉ、
 フィールが正式な学生証貰ぇるか分かんなぃし。
 バイトにしたって、学生証がなぃと社会勉強に
 適した場所の門戸が狭ぃもんな」

最低限の常識は自分が教えれば問題ないとして、
なお社会の中で生きねば分からないことは多い。
何より、まず社会の中に溶け込むのが難しいと
いう問題が立ちはだかるのだから。

フィール > 「えぇ。もう、追われることは無いんですから…急ぐ必要は無いんです」
もう、薫を蝕んでいたモノは、薫との繋がりを切られた。
もう、薫を追い詰めるものは、ない。

「まず私のことを調べられたらアウトですからね…そもそも怪異ですから。
でも、勉学については参考書等を買えば独学でも進められますし。
バイトについては…学生証が問題になりますね、どうしても」

黛 薫 >  
「んー……バイトに関してなら方法はあるけぉ。
 1つ目。身分証が要らなぃバイトに応募する。
 2つ目。2級学生として偽の学生証を手に入れる。
 まあ根本的な問題は『社会勉強』っつー目的に
 沿わなくなるコトよな。だって違反行為だし」

「どっちの手段にせよ、身元を重視しなかったり
 チェック甘ぃバイトは『正式な学生で無くても
 構わなぃ』って暗に仄めかしてるか、経営者が
 アホかのどっちかなのよな。

 前者は裏があるかもだし、後者はアホの下で
 働くんだから、社会の理不尽のお勉強になる。
 いちお前者は上手く選べばイィ仕事に就ける
 可能性もあんだけぉ……あーしはあちこちで
 問題起こしてっから紹介出来ねーのよな」

車椅子の背もたれに身体を預けながらぼやく。

「無害を証明すりゃ種族に関わらず正式な学生に
 なれる目はあんだけぉ……フィール、最近まで
 ヒトのココロが無かったかんな」

フィール > 「そも二級学生になると弱みになる、というのも。
他人の都合で振り回されるのは御免です。

それなら、前提案してもらった露店でも良いような気がするんですよ。それも、一応『社会』の一つですし」

以前提案してもらった魔法露店。
あれはあれで良い社会勉強になるとは思う。
これも無許可である以上違反行為なのは間違いないが。
仕事であるのは間違いないし、客と接する商売でもある。
人と交わる社会の勉強なら、いい環境だろう。異邦人が多いという点も鑑みれば、経験の少ないフィールでも違和感は少ないだろう。

「まぁ…当たり前のように人攫ったり人喰い殺してましたしねぇ」
フィーナを救出する時も殺したので、割と最近でも許されざる行為はしている。
バレたら一発でブタ箱行きだし、最悪死刑もあり得る。

黛 薫 >  
「そーそー、その話だけぉ。あーしこないだ
 底下通りの下見に行ってきたんだわ。
 んで露天を開きやすそーな場所とか風紀の
 目が届きにくぃトコ、当たり付けといた。
 本格的にやる目処が立ったら役立てて」

手帳を取り出し、直近のメモが記された頁を
開いて見せる。細かく分けた区画ごとの傾向、
治安の良さ、未承認店舗の多寡、風紀委員の
目の届きやすさなどが具に記載してある。

「ざっくり言ぅと風紀が建前的に取り締まってる
 入り口付近、治安が悪い地下街、未承認の店が
 多すぎて大規模な手入れがあるかもしんない
 深部を避けりゃイィって感じかな。それ以外の
 絞り込みに役立ちそうな情報も書いてあっから
 好みの場所探してみてくれや」

頁を破って手渡そうとしたが、運動機能を失った
身体では紙1枚破るのにも一苦労。結局一瞬だけ
身体強化の魔術に頼った。たったそれだけで息が
上がってしまっている。

「……そいえばさ、フィールってフィーナの姿を
 借りて活動してたんだよな。んで、フィールは
 けっこー最近まで倫理も法も無視して動いてて。
 もしかして、フィーナもあんま立場良くなぃ?」

フィール > 「へぇ、これは中々……ありがとう、助かります」
メモを貰って、確認する。
言ってくれれば、手伝ったのに。

「道具を作るのは魔術の知識が必要ですから…出来れば、薫にも監督してもらいたいですねぇ」

フィールは魔術に関する基礎的な知識が乏しい。
フィーナから受け継いだ魔術を行使したり、ちょっとした応用はできても。
1から組み上げる、ということが出来ない。

道具に関しても同様で、この辺りは勉強するなりしないといけないだろう。

「………………………………………………」

フィーナの立場の話をされて。露骨に目を逸した。

フィーナの頭を抱えた姿を幻視する。実際、頭を抱えているのだが。

黛 薫 >  
「あぁー……フィール、自分で使ぅならともかく
 万人向けの魔導具作るの向ぃてねーもんな……」

『魔力さえ込めれば動作する』のが魔導具の肝。
言い換えれば起動魔力さえ満たせば誰が使っても
最低限の動作は保証されるのが魔導具である。
だってそうでなければ『魔術』として組むことに
対する優位性がなくなってしまうのだから。

しかしフィールは術式が雑でも『出来てしまう』
という問題を抱えている。己が行使するだけなら
出力任せでゴリ押せるため、最適化の必要がない。
フィール規格で魔導具を組めば天才しか使えない
狭き門が出来上がってしまう。

つまり『魔導具=誰にでも使える術式の構築』は
フィールにとって必要の無かったスキル。

それはさておき。

露骨に目を逸らすフィールをじーーっと見つめて、
わざわざ身体操作の魔術を使ってまでほっぺたを
つんつんし始める。

「ま、後出しで言ぅのも卑怯でーすーけーぉー。
 社会につぃて知らねーと思ぃもよらないトコで
 誰かにメーワク掛けたりして後悔すんのよな。

 何ヶ月か前のフィールに言っても聞かなかった
 だろーけぉ、今のフィールならよく分かんだろ」

「最悪の場合、あーしも頭下げっからさ。
 これから同じ轍踏まなきゃイィんだ」

フィール > 「…まぁ、そういうピーキーなものでも需要はありそうではありますが…まぁ、売り物としては、ねぇ」

ぽっと出の露天商がするようなことではない。
そしてフィールは魔術に関する知識が乏しく、説明も難しい。

つまり、フィールが作ったものは、売れる見込みがない。

「うにゅぅ」
頬をつつかれながら紡がれる言葉に、ぐうの音も出ない。
事実身近で迷惑を被っている人がいて。

「頭を下げてどうにかなる案件なら、ここまで悩んでないんですよね………」
善良であるかはともかくとして、何人もの命を既に奪い、弄んでしまっているのだ。

今は変わったとは言え、過去にしてしまったことは取り消すことは出来ない。

黛 薫 >  
「んでもそーゆーピーキーなモノだってちゃんと
 明記した上で万人向けの隣に並べたら客引きに
 なるかもしんねーよな。1発限りの切り札とか
 浪漫あるじゃん。そーゆー需要」

とりわけ、この学園ではその手の扱いが難しい
品物は存外売れそうな気がした。

「頭下げるってのはそのまんまの意味じゃなくて
 比喩だかんな。フィールに反省の意があんなら
 あーしも付き合うよって話。

 フィールはあーしの傍にいるって言った。
 見捨てないし、頼ってくれてイィって言った。
 フィールがあーしの重荷を支えてくれんなら
 あーしがフィールの抱えてるモノを支えても
 別に構わねーだろ」

頰をつついていた手をそのまま貴女の背に回して
引き寄せる。悩みを溶かすように腕の中に抱いて、
少しの間でも心安らかでいられるようにと。

引き寄せた手の力は限りなく弱いけれど。
抵抗はしないだろうと踏んでいたから。

フィール > 「…言われてみれば、たしかに。ここの人達大体ピーキーですからね…」
異能が集まる場所が故に、多種多様な能力が集まっている。
突出した何かがなければ埋もれてしまうこの界隈では、有効な気がしてきた。

「……そう、ですね。私だけじゃ、わからないことが、多いから。
もし、また間違ってる事をしていたら…教えて欲しい。」

弱い力で、抱き寄せられて。負担にならないよう、身を寄せる。
ふわりと香る、薫の香りと、甘い香り。

先日お預けになった欲情は、発散されていない。発散するという考えがない。

視線に、愛情から愛欲、欲情の念が混じり始める。

黛 薫 >  
「分かんなぃコトって、調べるか教えられねーと
 分かんなぃままだもんな。んで、分かんなぃと
 疑問に思わなぃから調べるって発想に至らなぃ。
 社会ってそんなコトばっかなのよな」

過去の行いに悩む貴女を安心させたかったのも
本音だけれど、同じくらい自分が安心したかった。
だから引き寄せて、温もりを感じている。

「買ぃ物に行ったときもフィールが知らなぃコト
 いっぱいあったな。店のベッドの上で跳ねたり。
 あーしだって何でも分かってるワケじゃねーし、
 分かってても上手く出来なぃコト沢山あるし。
 でも、隣に居られりゃその場で教えられるから。
 そーゆーときは頼ってくれてイィからさ」

と、しばし貴女の温もりを堪能していたのだが。
じわじわと視線が熱を帯びるのを感じてしまって。

「……あの、フィール?いちお、ココ病院だから、
 そゆコトは、流石に……出来なぃし?てか多分
 あーしのカラダが持たなぃから、今は、その。
 何つーか……ご、ごめんなさぃ?」

とはいえ、視線に乗せられる感情の制御なんて
よほど精神制御に熟達しているか、偽装隠蔽の
手段がなければ不可能で。

貴女の熱に当てられた黛薫の身体はそうも経たず
雌の匂いを漂わせ始める。身体操作の練度的にも
体力的にも自力で処理出来ない黛薫も生殺しだが、
至近で想い人の発情の様子を感じさせられた上で
手出しが出来ない貴女も生殺しになる。

フィール > 「社会って、不親切なんですね…えぇ、その時は頼らせてもらいます」

薫の温もりを感じて。薫の身体を感じて。
ドキドキする。顔が赤くなる。燻っていたものがぶり返してくる。

「……こ、こっちこそ、ごめん…」

欲情が簡単にバレてしまって、更に顔を赤くして。ごまかすように、抱きしめる力を強くする。
薫の発情する香りも混ざって、くらくらしてくる。

抱きしめる力を強くしたのは、失敗だったかもしれない。

黛 薫 >  
「んん……あーしの異能って、こーゆートコで
 厄介だよな。なんか……プライベート?な、
 感情とか、覗き見てる、みたぃな?モノだし」

密着すればするほど甘い香りは強く感じられて。
視線に籠る熱が強くなるほど煽られるように
煮詰められるようにその香りは濃くなっていく。

密着するのがまずいなら一度距離を取った方が
安全なのだが……黛薫は魔術の適性を得てから
まだ1日しか経っていない。集中を乱されると
身体操作の魔術すら覚束なくなり、押し退けて
距離を取るという手段が取れない。

どうにか冷静さを取り戻そうと繰り返される呼吸も
明らかに熱を帯びていて、思考が鈍っているのが
はっきり自覚できてしまう。

「あの、フィール、多分コレ、どっちもヤバ、
 っ、だから、一旦その、離れ、離れようか。
 あーし今、上手に動けなぃから、フィール、
 ゆっくりでイィから、身体起こして、な?
 それで、逆の方向こう。時間おけば、多分
 あーしの方は落ち着く、はずだから」

フィール > 「確かに、そういう観点での、不便さも…ありますね」

熱い吐息を吐きながら、薫に同意する。

薫はフィールの視線に熱されて。
フィールは薫の香りに熱される。

互いが互いを発情させあってしまっている。

薫が冷静さを取り戻せていないように、フィールも冷静さを失ってしまっている。

むしろ、フィールは欲求を抑えるということを殆どしたことがない。その点に関して言えば、薫のほうがまだ冷静だろう。

薫の言葉は、聞こえているはずだ。しかし、理解を欲求が阻んでしまって。

むしろ、もっとくっつきたいと、キスをしようとしている。

黛 薫 >  
「ん゛ん゛……」

フィールの理性が仕事を放棄したのは目を見て
すぐに分かった。元々知識欲の赴くままに生きて
最近感情を獲得したばかりのフィールは我慢や
忍耐という経験自体が無いのかもしれない。

心を知ったフィールは情緒の成長と共に我慢を
知っていくのだろうか。それとも必ずしも理性と
一致しない心というものに振り回されて余計に
我慢が利かなくなっていくのだろうか。

自分が思った以上に頭が回らなくなっているのか、
それとも本能的に現実逃避を選んでしまったのか。
思考が迷子になっていると自覚して頭を抱える。

顔立ちもプロポーションも整ったフィールなら
相手には困らないだろうなとか、頭の良い人は
性欲が強いって聞くよねとか余計なことを考えて
逃げている場合ではない。ないのだ。

差し当たりの問題は近付いてくるフィールの唇。

もし口付けに応えれば確実にフィールのスイッチが
入るだろう。集中が乱れ、身体操作の魔術がロクに
使えない自分は人形も同然。一切の抵抗も出来ずに
喘ぎ散らかす羽目になるのは目に見えている。

だが拒否したところで状況は何も好転しない。
完全に出来上がってしまっているフィールを
止める術が果たしてあるのだろうか。何より
拒否したらフィールが傷付くかもしれないと
思うと踏ん切りが付かない。

ナースコールで助けを求めるという手も考えたが
一応フィールは不法侵入者である。叩き出される
だけで済めば御の字、最悪の場合連行されかねない。
当然それは助けを求めずともバレたら同じ。


黛 薫 >  
「あ゛ぁ゛ー、もぅ!」

迷っていてもどうにもならないのは変わらない。
集中が乱れ、精度の下がった身体操作の魔術刻印。
そこに必要以上の魔力を注ぎ込んで作動させる。
以前フィールが行なったモノに近い出力任せの
力技である。

脇に置かれた魔導具の袋から魔力の込められた
宝石を取り出し、ゴリ押しに必要な魔力を確保。
フィールの唇は指先で押さえ、蔑ろにしている
訳ではないと示すために額に唇を落として。

強引に方向転換させ、膝の上に座らせる。
距離を取れれば理想的だったが集中力的にも
身体への負担的にもこれが限界だ。

「は、ぁー……教ぇ、るのとは……違ぃます、けぉ。
 フィール、見つかったら……マズぃ、だろーよ。
 あーし、その先、されたら……ぜってー声出るし、
 だから……今、は。ダメ。よろし?」

絶え絶えの息も分かりやすく熱を帯びていて、
座った貴女は布越しにじんわり温かい湿り気を
感じるだろうけれど。視線さえ切ってしまえば
互いが互いの欲情を煽る無限ループは途切れる。

黛薫の側がどうにか落ち着けるだけであって、
フィールの側は変わらず生殺しなのだが。

フィール > 「んー、うー、それは、そうだけど……」
額をキスされて、無理矢理体制を変えられて、少しだけ冷静さを取り戻したようで。
膝の上で、縮こまっている。

膝の上に座らされた手前、フィールの股間がぬめっているのがわかるだろう。

薫は視線が外れ、落ち着けるかもしれない。

しかしフィールは香りに当てられたまま、焦らされる。

もじもじと、膝の上で身悶える。

黛 薫 >  
「はぁー……分かってる前提で、整理しますけぉ。
 フィールは、わざわざ窓から入ってきたワケで。
 見つかったらマズぃコトも理解してるのよな?」

呼吸を整えてから話し始める。視線が切れたとて
燻る熱は簡単には冷めない。消耗してしまったので
話し声は耳元で囁くように。

「まず、見つかったらフィールは最悪連行される。
 そーなったら、あーしと会えなくなるかもだろ。
 それはあーしも困るし、フィールも困る。

 んで、ココは病院。公共の場所な。
 基本的に公共の場で性的な話はNGなんだわ。
 理由としては適齢前の子供とかが耳にして
 正しくなぃ形で覚ぇるのを防ぐため、とか。
 色々あるけぉ、それ以上のコトは追々な。

 ……分かんなぃコトがあったら、教ぇるって。
 さっき話したばっかだから、いちお説明入れた。
 そーゆーワケで、今はダメです。ダメ」

公共の場で不適な話題に関しては、実利よりも
感情的な面が大きいと思われるが……フィールが
そういう感情を理解出来るか分からなかったので
言いくるめのために理屈で話す。

フィール > 「っ、わかってる。わかってる、うん…」
耳元で囁かれて、熱い吐息が掛かって。
体が震える。火照った身体が更に熱くなる。

「…そ、っか。間違えて、覚えるのは、良くない…ですね。」

落ち着こうと、深く息を吐きながら、答える。

でも吐いた分吸わなきゃいけなくて。甘い香りと薫の香りが鼻腔をくすぐって。
熱に浮かされる。焦らされた欲求が膨れ上がっていく。

「……駄目なのは、わかってるんだけど。自分が、ダメになりそう……」

黛 薫 >  
「そーなー……フィールは何か、自覚して以降
 そっち系の欲求強ぃよな……。どーしてだろ。
 元々知識欲に素直に生きてたから、欲求の
 充足に貪欲になってんのかな……」

それも1つの理由かもしれないが、今の黛薫では
正しい答えに辿り着くのは難しい。恋の甘さも、
愛の熱もまだ知らないから。

「でも、解消の手段はどーにか確保しとかねーと
 これから保たねーぞ。あーしが退院出来たって
 明確に体力が落ちてっから毎回手伝ぅワケにゃ
 いかねーし。

 病院で話すべきコトじゃねーけぉ。寮の家具を
 整えた日に、自分で何とかする方法が載ってる
 ページも教えたろ。適度に発散出来るよーに
 なっとぃた方が色々……楽だと思ぅ、多分。

 そーゆー欲求を発散させるコンテンツはネットに
 山ほど転がってんだけぉ……ソッチ系の欲求って
 基本強ぃモノなんだよな。今のフィールなら多分
 よく分かるだろーけぉ。だから詐欺とかウィルス、
 荒稼ぎの温床になってて……下手に手ぇ出すと
 危険なのよな。あーしは、正しぃ見分け方とか
 教ぇられるほど詳しくなぃし。

 フィールもなんかこう……自分に合うヤツ?を、
 見つけられたら御しやすくなる……かも」

黛薫、14歳。18禁コーナーに入れない年齢。
当たり前だが性教育の経験など無い。
むしろ自分が教えられる側の年齢である。

それでもどうにか落第街で植え付けられた余計な
知識を駆使して貴女の熱の落とし所を探る。

尤も、黛薫はアングラ系コンテンツを利用する側
ではなく、慰み者にされた写真や映像が流されて
いる側なのだが。

フィール > 「こう、なんでしょう。自覚したら止まらなくなったというか。ブレーキが壊れたと言うか…。
もしかしたら、本能に結びついているからかも、知れませんね」

愛欲や情欲は人の生殖本能だ。恋を知ったフィールがそこに辿り着くのは必然で。
人とスライム、二つの本能を抱えるフィールはその欲求が強く出ている。

「解消の方法、と言っても……その。あれだと解消出来ないんですよね。そういうモノは腐るほど見てきましたから。

多分、薫だから、そういう欲求が出てくるわけで。
他のもので発散出来なさそうなんですよね。他人の裸を見ても同じように欲情するかって言われたら、しませんし」

フィール、2歳。どう考えてもこんな話をする年齡ではない――――が、年齡以上に知能が備わっており、人間と違い生殖出来るようになるのが『生まれてすぐ』であり。成長速度も人間と段違いである。

しかし経験は年相応で、知らないものも多い。
薫のそういう写真や映像が出回っているのも知らない。

知ったら落第街を爆破してしまいそうな気がするが。

黛 薫 >  
「あー……そっかぁ。そーいやフィーナも……
 いぁ、この話はやめよう。フィーナの尊厳に
 関わってくる気ぃする」

真っ先に例えとして出てきたのは目の前の彼女と
同じ顔、同じ姿の知り合いで。それはあまりにも
マズいだろうと慌てて話を打ち切る。

「うーん、それだとどーしたらイィんだろーな。
 あーしが毎回相手出来たら問題ねーんだけぉ。
 まず今のあーしが1回終わるまで耐え切れるか、
 それすら怪しぃワケで……」

運動機能が喪失し、魔術に頼らねば身動きすら
取れなくなった身体。一見深刻な自体に陥って
真っ先に悩むのが同居人の性事情とは。

「……あ、ヤベ。そろそろ巡回の看護師さんが
 来る時間だ。フィール、見つからなぃよーに
 帰れる?巡回の時間はメモしてあっからさ、
 その時間以外なら会いに来て大丈夫だから」

そして此処が病院である以上、寮とは違って
好きなだけ同じ時間を過ごせる訳でもない。

当然病院でまぐわえるはずもなく、フィールは
疼きを鎮められない夜を過ごさねばならないと
無慈悲にも決まってしまったのだった。

フィール > 「んー…でも、身体は大丈夫だと思うんですよね。運動機能が喪失してるのは魂が原因なので…魔術で運動を損ねなければ、一定以上の体力の維持は可能だと思うんです。

それなら、ある程度性行為をして体力を作る、というのもありなのでは…?」
人間の身体は運動をすれば体力がつき、運動しなければ体力が落ちる。
なら、魔術で身体を動かせば、という理論だ。

後半は自分の欲求も入り混じっているが。

「あぁ、それは拙いですね。隠蔽魔術で出ていくので大丈夫です。

できるだけ、早く帰ってきて下さいね。
寂しいのは、嫌ですから」

そう言い残して、薫の膝から立ち上がり、水膜を利用した隠蔽魔術を作り上げる。

そうして、ふらふらと入ってきた窓へと向かう。
フラフラしているのは、薫にもわかるだろう。
滴り落ちるものが、蛇行していたから。

そうして、外に出て、窓を閉じて。疼く身体を抱えながら、夜の闇へと解けていった。

ご案内:「常世学園附属総合病院」から黛 薫さんが去りました。
ご案内:「常世学園附属総合病院」からフィールさんが去りました。